3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画題名ま行

『港町』

 想田和弘監督の「観察映画」第7弾。前作『牡蠣工場』の撮影地である岡山県の漁港町・牛窓。『牡蠣工場』の撮影の合間に出会った町の人たちの生活と町の風景を撮影した作品。
『牡蠣工場』の副産物とも言える、元々撮影の予定はなかった作品だそうだ。撮り始めてみたら予想外の撮れ高があったというか、監督の撮影者としての引きが強いというか。ここは撮ってみたら面白いかもな、という場に即時対応していく判断力と身体性(観察映画は、撮影者の身体性を予想外に感じる形式だと思う。実際問題として、タフじゃないと撮影し続けられないだろうし)がこの引きの強さを生んでいるんだろう。122分という想田監督としては比較的短い作品なのだが、密度は濃い。
 本作、ほぼ全編モノクロームで撮影されているのだが、モノクロの風景にはどこか異世界感がある。この町で長年繰り返されてきたであろうごくごく日常の風景が映し出されると同時に、それが他の国のような、全く知らない世界のもののように見えてくる(もっとも、都会、ないしは内陸側に住んでいる人にとって牛窓は「異界」と言えるのだろうが)。登場するのがお年寄りばかりで若者や子供があまりいない(子供は全く登場しない)ということもあって、なんだかあの世とこの世の境目のようだ。
 メイン登場人物とも言える「クミさん」はよく喋るが、息子についての話が始まると、異世界感が更に深まる。クミさんに限らず、登場する人たちの日常風景を追うことは、その人の生活と歴史を垣間見ることだろう。クミさんの息子についての話も彼女の生活と歴史を反映したものではあるのだが、それ以上彼女の内的世界がはみ出してくるような、異様な迫力があるのだ。普通、日常の中でのコミュニケーションでは、そういう「中身」を必要以上に見せないものにするものだろう。見た側も見せてしまった側も、なんとなく居心地悪くなりそうだから。
 そこをあえて踏み込む想田監督の心の強さに唸る。普通だったら腰が引けてしまいそうなところをあえて踏み込んでいく。被写体にもよるだろうが、この判断力はドキュメンタリー作家としての資質に大きく関わってくるんだろうなと思う。対象との距離感が初期とはだいぶ変わってきているのでは。

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『目撃者 闇の中の瞳』

 新聞記者のシャオチー(カイザー・チュアン)は交通事故に遭い、買ったばかりの中古車を修理に出すハメに。しかし修理の際、その車は9年前にシャオチーが目撃した交通事故の被害者の持ち物だったことがわかる。9年前の事件に疑問を感じたシャオチーは真相究明に乗り出すが。監督はチェン・ウェイハオ。
 サブタイトルの通り、闇の濃いミステリ・サスペンス映画。映像の美しさのせいかどこか幻想的な味わいもあり、大変面白かった。情報の密度がかなり高く、序盤でちらりと出てきたものが後半の伏線に使われる等、目が離せない。
 「目撃者」という題名(原題通り)はとても上手い。誰が誰にとっての目撃者なのか、何を目撃したのかという謎を、幾重にも畳み掛けてくる。視線が何十にも重なっており、その主体が変わるごとに事件の様相ががらりと変わっていく。映画を観ている側にとっても、果たして自分が今まで見てきたものは何だったのか、と愕然とさせられていくのだ。
 物陰からのぞき見するようなショット、車のバックミラーなどへの映り込みなど、他者の視線を感じさせる演出が随所にちりばめられている。その「他者」が何者なのかわからずに不安が煽られていく。自分が見ている景色は見たままのものではなく、全く別の風景を見ている人がいるんじゃないかという予感を常にはらんでいるのだ。
 視線の主体が交代していくにつれ、事件は地獄めぐりの様相を見せてくる。なぜこうなった、という空しい問いが響き、それを呑みこんで更なる地獄を歩んでいくある人物の笑顔が恐ろしくも哀しい。

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『Mr.LONG ミスター・ロン』

 殺し屋のロン(チャン・チェン)は東京にいる台湾マフィアを殺す仕事を受けるが失敗。北関東の田舎町で身動き取れなくなった所、少年ジュン(バイ・ルンイン)に助けられる。その母で台湾人のリリー(イレブン・ヤオ)は、薬物依存症に苦しんでいた。一方で、おせっかいな地元住民たちは、あれよあれよという間にロンの住家や商売の為の屋台を世話する。監督・脚本はSABU。
 ロンは日本語がわからないのだが、住民たちが勝手にどんどん段取つけていく様に対する「何がどうしてこうなった」という表情はとてもキュート。流れ者が悪党に苦しめられる母子を救うという所は『シェーン』(ジョージ・スティーブンス監督)フォーマットだが、流れ者当人が現地の人たちの善意に翻弄され、流れ者としてのアイデンティティが危うくなる(笑)という所が愉快。ロンが所属している組織は表向きレストラン経営しており、ロンも料理が得意。水と塩で野菜煮ただけの汁物はさすがにおいしくなさそうだったが、その後登場する諸々台湾のお惣菜風料理はおいしそうだし、包丁をふるうチャン・チェンはかっこいいし、絵として料理要素が入ることで、ぐっと魅力的な作品になっている。とにかくチャン・チェンの魅力ありきな作品。ナイフを使ったアクションも、終盤の殺陣などかなり戯画的ではあるが(そもそも殺しの道具として効率悪いのでは・・・)様になっていた。
 そんなに精緻な脚本というわけではないし、ある種の「型」を踏まえたストーリーではあるが、前述の通りチャン・チェンに魅力があるし、ラストにベタ故の気分の良さがあり楽しく見た。ただ、1シーンが長すぎ、エピソード加えすぎなきらいがあり、あと30分くらい短くできそうだなぁという気もした。製作側だけが楽しい、自己満足感が滲んじゃっている。リリーの過去を見せたいのは分かるが、そこまで細かくやらんでも・・・。住民たちの田舎歌舞伎のシーンもまるっと割愛してもよさそう。見ていてちょっと苦痛だった。

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『MASTER マスター』

 金融投資会社の会長チン・ヒョンピル(イ・ビョンホン)は様々なテクニックを駆使し多額の投資金を集め、裏金を増やし、警察や政府等有力者たちに賄賂をばらまきビジネスを拡大してきた。彼を追う知能犯罪捜査班の刑事キム・ヘミョン(カン・ドンウォン)は、チンの片腕で裏金作りに手腕を発揮してきたハッカー、パク・ジャングン(キム・ウビン)を確保、スパイとしてチンの帳簿を持ち出せと言う司法取引を持ちかける。しかし会社内に裏切り者がいると気付いたチンは大金を持って行方をくらませる。監督・脚本はチョ・ウィソク。
 詐欺の詳細にしろスパイ大作戦にしろ、描き方は割と大雑把。チンの投資詐欺はすごく巧みで大規模!すごいやり手!という設定ではあるが、見るからに胡散臭いしこれ本当に成功します・・・?って気分になる。とは言え、その大雑把さが本作の良い所だと思う。シリアスではあるが精緻にしすぎず、重くしすぎず、近年の韓国エンターテイメント映画に顕著な生々しい暴力描写も控えめ。エンターテイメントとして収まりがちょうどいい感じに調整されている。私は韓国映画で往々にして描かれる組織内の上下関係や共同体のしがらみには時に胸焼けしてしまうのだが、やり過ぎ感がないのがとてもよかった。気負わず楽しめるいい作品だと思う。暴力の嵐みたいな作品やゴリゴリ神経を削る諜報戦も面白いけど、毎回それじゃあ疲れてしまう。
 当初、こういう感じなのかなと予測していた展開はなんと前半で完了してしまう。しかし、チンが逃亡してからの後半の方、尻上がりに面白くなっていく所がえらい。もたつかずテンポがよかった。帳簿とかハッキングとか投資計画とか、わりとざっくりとした設定でよくよく考えるとそんな上手くいきます?と思うんだけど、見ている間は飽きない。主演3人の魅力も大きかった。イ・ビョンホンが胡散臭い男を嬉々として演じているように見える。またカン・ドンウォン演じるヘミョンとキム・ウビン演じるジャングンのやりとりが、距離は近づきすぎないものの徐々に双方向の掛け合いになっていく所も楽しい。あんまりねっとりとした人間関係を感じさせない所が、本作のトーンに合っていたと思う。

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『マイティ・ソー バトルロイヤル』

 アスガルドの危機を知り、故郷に帰ったソー(クリス・ヘムズワース)の前に、死の女神であり存在を隠されていた実の姉であるヘラ(ケイト・ブランシェット)が現れる。ヘラはソーの武器であるムジョルニアをあっさりと破壊し、ロキ(トム・ヒドルストン)と共に宇宙の果てへ飛ばしてしまう。辿りついたのは様々な世界のジャンクが漂流する星。ソーは星の支配者グランドマスター(ジェフ・ゴールドプラム)に捕えられ、戦士としてバトルロイヤルショーに出場させられる。そこで対戦したのはソーと同じくアベンジャーズの一員であるハルク(マーク・ラファロ)だった。監督はタイカ・ワイティティ。
 原題はサブタイトルが「ラグナロク」で、実際神々の黄昏の物語でもありアスガルド崩壊の危機が訪れているのだが、本編にラグナロク感が皆無なので、バトルロイヤルで良かったと思う。ちょいダサ目で能天気感漂う所も内容に即した邦題だ。アスガルドの危機っぷりは洒落にならないレベルで、死人もばんばん出ているのに、同時並行で描かれるソーたちのすったもんだは正にコント。アベンジャーズ関係のマーベル映画の中では最もユルい、コメディ色の強い作品だと思う。本作のすごいところは、そのユルいコメディパートと世界崩壊のシリアスパートが違和感なく組み合わさっている所だろう。ワイティティ監督、なかなかの剛腕である。
 ソーの能天気さには拍車がかかり、語彙もちょっと増えて今回はいつになく行動的。ロキは完全にスネ夫キャラ。ソーのシリーズ新作というよりも、ソーの二次創作同人誌のようなノリだった。だって、皆の心の中のロキちゃんは割と本作みたいなロキちゃんじゃなかったですか・・・?当然2人の掛け合いは増量され大変楽しい。なんだかんだでお互い好きなんじゃん!ということが再確認できる。また、ソーとハルク=バナー博士という珍しい組み合わせも楽しかった。ハルク(こちらも語彙が増えている!)とは幼稚園児レベルのコミュニケーションが成立しているが、バナー博士とは人柄的に全く共通項が見えてこないし、バナーはバナーで筋肉バカ系イケメンであるソーに対する苦手意識は強そう。そのあたりもギャグにしつつ、珍道中感が出ていて楽しい。また、ハルクがバナーを、バナーがハルクをどう思っているのかについて垣間見えるあたりも貴重。
 本作、今まで王子としてふらふらしていたソーが、ついに本気で王になろうとする成長物語でもある。王とは、王国とは何なのかという大きな問題を突き付けられるのだ。ソーの物語としては大きな分岐点と言える。そういう大事な展開をほぼコントでやろうというあたり、大変度胸がある作品だとは思う。

マイティ・ソー [DVD]
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パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2011-10-21



『ミステリ原稿』

オースティン・ライト著、吉野美恵子訳
 夫、子供と暮らすスーザンの元に、20年前に別れた前夫から小説の原稿が送られてくる。小説家志望だった前夫エドワードはとうとう長編『夜の獣たち』を書きあげ、彼女に読んでほしいと言うのだ。スーザンは原稿を読み始めるが、その小説は1人の男トニーが暴力の最中へ投げ出される物語だった。『ノクターナル・アニマルズ』(トム・フォード監督)として映画化され、文庫版は映画と同題名とのこと。
 原稿の読者であるスーザン視点のパートと、作中小説である『夜の獣たち』のパートが交互に配置される。スーザンは『夜の獣たち』をよみながら小説の主人公トニーの視線に自分を重ね、かつ、トニーに前夫であるエドワードを重ねていく。更にスーザンの視線はトニーだけでなく、彼の妻子や彼らに絡んでくる男たちにも重ねられていく。彼らの中の暴力性はスーザンの中にもあり、そして小説を生んだエドワードの中にも潜んでおり、それが呼応していくかのようだ。読書という行為がどのようなものか、上手く描かれた作品だと思う。必ずしも小説の主人公に共感、主人公目線で読むわけではなく、小説内の様々な部分に感情や記憶を呼び起こされていくと同時に違和感を覚えもする感じ。スーザンはエドワードの原稿を読むことによって、彼が自分を揺さぶろうとしている、自分に影響を及ぼそうとしていると感じ、それに反発もするのだが、それが読書という行為(そしておそらく小説を書くという行為)だよなと。
 『夜の獣たち』には、理性的かつ非暴力的故に妻子を奪われたトニーが、徐々に暴力側に引き込まれていく様が描かれている。非暴力的であることが「男らしくない」と非難されるのって(おそらくアメリカでは顕著なのだろうが)辛いな・・・。暴力へのストッパーは社会的に絶対必要とされているのに、ストッパーがかかっていることを非難されもするとは。暴力が否定される一方で暴力を強要されるような二律背反がある。




血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)
コーマック・マッカーシー
扶桑社
2007-08-28

『ミックス。』

 卓球選手だった母親のスパルタ教育により、天才卓球少女として将来を期待された富田多満子(新垣結衣)だったが、スパルタ教育の反動で、母の死後はごく普通の人生を歩んでいた。勤め先がスポンサーを務める人気卓球選手・江島晃彦(瀬戸康史)と付き合うようになり有頂天だったが、江島は卓球で男女混合ダブルスのパートナーである小笠原愛莉(永野芽郁)とも恋人同士だった。ショックのあまり会社をやめて田舎に逃げ帰った多満子は、実家の卓球クラブを継ぎ、自分もペアを組んで全日本卓球選手権の男女混合ダブルス部門への出場を目指す。なりゆきでペアを組むことになったのは、元ボクサーの萩原久(瑛太)だった。監督は石川淳一。脚本は古沢良太。
 王道ラブコメであると同時に、人生うまくいかず、負け犬と侮られていた人たちが、自分の人生を再び掴み直すべく奮闘する敗者復活劇でもある。どちらかというと、後者の方に面白みを感じた。私がそれほどラブコメを好まないというのもあるけど、ラブコメ部分が大分薄味(ムズムズもキュンキュンもしない・・・)かつ月並みなので、この程度だったらなくてもいいかな・・・という気分になった。とは言え新垣結衣は大変可愛らしい、というかラブコメ要素についてはガッキーの可愛さによりかかりすぎな部分もあるくらい。ガッキーの可愛さに加え、全方向にまんべんなく受け入れられるよう不快な要素を極力排そうと努力したと思われるので、正直インパクトはないがそれなりに楽しい。
 ただ、楽しくしようとして付加した要素や小ネタの中には、何周か遅れてるんじゃない?それ今でも面白いと思ってます?というものも。わかりやすく「豪華ゲスト」と「面白キャラ」を出そうとするのは、フジテレビ製作映画(本作はフジテレビ制作)の病なんだろうか。面白キャラは面白キャラでいいけど、多満子と萩が「道場破り」する対戦相手にしろ、中華料理店の夫婦にしろ、それ一昔前のギャグですよね、って感じが拭えない。ベタなギャグのつもりなのかもしれないが、ベタというよりも、今はもうそれはギャグとして成り立たないんですよ、という方向に見えちゃうのが辛い。
 主演の2人よりも脇を固める役者の方が印象に残った。ストーリー上も、脇のエピソードの方が、「ベタ」さが上手く機能しているように思う。特に広末涼子がこんなに面白い感じになっているとは!元ヤンのセレブ妻という設定なのだが、セレブ生活が決して幸せなわけでもなさそうな所も元ヤン感も板についている。また、プチトマト農家の夫婦のとある事情も、具体的な説明はそれほどせずに映像でだけ見せるあたり、(ベタ中のベタな設定とも言えるので)ともすると泣かせに走りそうなところを踏みとどまっていてよかった。
 なお、役者は全員よく動けているので、素人目にはちゃんと卓球の試合っぽく見える。特にプロ選手役の永野と瀬戸は相当頑張っているのではないだろうか。





『女神の見えざる手』

 大手ロビー会社コール=クラヴィッツ&Wのトップロビイスト、エリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は、銃擁護派の議員から依頼を受けるが、それを断り銃規制法案成立を目指してロビー活動を行っている小規模な会社からのスカウトに応じる。部下を引き連れ移籍したスローンは数々の奇策や時にグレーな手法を駆使し、情勢を変えていく。しかしコール=クラヴィッツ社は、スローンを引きずりおろそうと彼女の過去を洗い出していた。監督はジョン・マッデン。
 スローンが聴聞会に召喚されている所から始まり、時間をさかのぼってこれまでの経緯が語られる。ストーリー進行の段取が良くスピーディで、職人的な手さばきの良さのある作品。作中の情報量は非常に多いのだが、整理されているのでそんなに混乱することもなかった。面白いが、自分にとっては苦手な世界の話だ。どいつもこいつもギラギラしすぎている・・・主人公が一番ギラギラしているわけだが。
 『Miss Slone』というシンプルな原題が本作にはふさわしい。邦題はドラマティックだが、ちょっと作品のニュアンスと違うと思う。本作は徹頭徹尾、スローンという1人のロビイストの話だ。彼女の運命は女神の采配によるものではなく、当然彼女が女神のごとき存在なわけでもない。時に泥をかぶる事や卑劣な手段を取る事も厭わず、スローンは自分の力でとことん闘う。そこに「見えざる手」などと言っては却って失礼な気がした。
 スローンがどういう人なのかということは、あくまで「仕事」を通して描かれる。作中、スタッフの1人が、過去の体験によって銃規制派になったと思われたくないともらすのだが、スローンにどのような過去があって今の彼女になったのかということは殆ど言及されないし、彼女も過去の体験を引き合いに出すことはない。自分が何者なのか証明するのは自分の能力と行動のみ、家族との逸話や過去の悲劇により色を付ける必要はないというわけだ。とは言え、他人の過去を引き合いに出して同情票を集める画策はするのだが。そういう部分では「主義」は発揮しないんだな。
 スローンは往々にしてイリーガルなやりかたもする。仕事上の目的・課題達成の為だからというのはもちろん、目的が正しいという信念があるからだ。非常に打算的な面と理念のぶれない面とが両立されている、彼女のメンタリティが面白い。彼女はやがて、政界、経済界、そして司法の腐敗と癒着に挑むことになる。自身のキャリアだけでなく個人としてのプライド、プライベート等過大すぎるものを危険にさらすのだが、彼女にとっては目的が正しいのだから、やる。とは言え、彼女はこれまでそういった腐敗や癒着を(スタッフの「過去」と同じく)散々利用してきたんだろうしなぁ・・・。彼女の中の正しさの基準って何なんだろうなとふと思った。



マリーゴールド・ホテルで会いましょう [DVD]
ジュディ・デンチ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2014-02-05

『政と源』

三浦しをん著
つまみ細工の簪職人の源二郎と元銀行員の国政は幼馴染。2人の年齢を合わせて146歳になる長年の付き合いだ。弟子やその恋人がひっきりなしに出入りし賑やかに暮らす源二郎と、妻が娘夫婦の家に行き目下一人暮らしの国政は、身近な人たちのちょっとしたトラブルに関わり合っていく。
おじいちゃんブロマンスだが、さすが著者というべきかツボを押さえており危なげがない。源二郎と国政は性格も価値観も、暮らし方も対称的で一見反りが合わなさそうだ。しかしなぜか馬が合い、お互いの違いも尊重している。頻繁にお互い行き来しているわりには、内面には立ち入らない所があるのは、友情の折り目正しさというか、親友でも他人であるという距離感を弁えているからだろう。そして夫婦もまた他人である。国政と妻との人生終盤になってからの軋轢、というか軋轢があることに国政が全く気付かない所は、「あるある」感抜群なのだが、家族だからという安心感に甘えてきたつけが回ってきたと言うことなのだ。そもそもそれが甘えだと気付いていない所が厄介なんだけど・・・。全般的に源二郎の造形の方がファンタジー寄りで国政の方が実体感あるのだが、自分の身近にどちらのタイプが多いかで見え方が変わってきそう。
政と源 (集英社オレンジ文庫)
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集英社
2017-06-22


ぐるぐる♡博物館
三浦 しをん
実業之日本社
2017-06-16




『マッド・メアリー』

 第26回レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭にて鑑賞。暴行事件を起こして半年間服役していたメアリーは、刑務所を出て地元に戻ってきた。親友のシャーリーンが結婚式を控えており、メアリーがブライズメイドを務めることになったのだ。式に同伴する相手がいないメアリーは、同伴者探しに奔走するが、うまくいかない。そんな中で、シャーリーンの結婚式の撮影を依頼されたカメラマンのジェスと親しくなる。監督はダレン・ソーントン。
 思わず、「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ」と呟きそうになった。しかしメアリーには「花を買い来て」親しみあうような相手もいないのだ!周囲に置いていかれる、自分だけがちゃんとした大人になれていないのではないかというきつさが、我がことのように身に染みてしょうがない。メアリーはバカ騒ぎをしていた学生時代と変わらないままだが、シャーリーンは確実にステップアップし、条件のいい結婚相手を見つけ、社会的な「大人」になっている。身にまとうファッションからして、ああ違う世界の人になったのね、というもので、メアリーとの共通項が見えない。メアリーがバカにしていた同級生すら、結婚式に同伴するパートナーがおり、彼女らから見れば落ちこぼれなのはメアリーの方なのだ。メアリーは必ずしも彼女らのようになりたいというわけではないだろう。ただ、かつて親友だったシャーリーンが別の世界に行ってしまったことが辛いのだ。
 しかしそもそも、メアリーとシャーリーンは同じ世界を分かち合っていたのか、本当に親友だったのか。メアリーは度々シャーリーンに電話をするが、シャーリーンが出ることはないし会ったときの態度もつれない。メアリーが延々と片思いしているようにしか見えないのだ。徐々に、シャーリーンにはシャーリーンが選び取った生活があり、彼女の中ではメアリーとの関係は既に(概ねメアリーが起こした事件のせいで)過去のものになっているとわかってはくる。しかし、片思いを終わらせられないメアリーの右往左往は痛々しい。
 そんなメアリーに新しい世界を見せることになるのがジェスだが、ある出来事で心が離れてしまう。メアリーがやったある行為は、シャーリーンらに「見せつける」ためのもので、ジェスはそれに利用されたと感じるのだ。メアリーのジェスに対する気持ちに嘘はないのだろうが、それでもつい「見せつけ」てしまうくらい、シャーリーン(と地元)に対する鬱屈があるんだろうなぁ・・・。その気持ちはちょっとわかる。自分を変えない頑固さがある一方で、自分は自分、と開き直れる程には強くなれずずっと劣等感が付きまとう。それでも最後は、メアリーは譲歩したんだろうなと思う。結婚式でのレトロな髪形とドレスは彼女にとても似合っていて、こんな雰囲気にもなる人なんだ!とはっとした。本人としては、自分っぽくないと思っているのかもしれないけど。

ワールズ・エンド/酔っぱらいが世界を救う! [DVD]
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2015-04-08


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