3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画題名ま行

『万引き家族』

 治(リリー・フランキー)、信代(安藤サクラ)夫婦と信代の「妹」亜紀(松岡茉優)、治と信代の「息子」祥太、そして「おばあちゃん」初枝(樹木希林)。一家の生活を支えるのは初枝の年金と治の日雇仕事の賃金、信代のクリーニング店でのアルバイト料だ。治と祥太はある夜、団地の廊下に放置されている幼い女の子を見つけ、連れ帰ってしまう。一家はその女の子をりんと名付け、一緒に暮らし始める。原案・脚本・監督・編集は是枝裕和。第17回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。
 是枝監督作品では度々家族の姿、ありふれていそうだが特に理想的ではない家族の姿が描かれる。本作もまた家族が物語の中心にあるが、その家族のありかたは非常に危うい。何となく寄り集まっているうちに家族的なものになってしまったような心もとなさがある。
 彼らが子供を育てるという責任を全うしているのかというと、そうとは言い切れないだろう。経済面はともかく、子供への教育や倫理的な問題を教えていくことは、彼らには出来ないしそういうことをしなければという意識もあまりなさそう(万引きは悪いことなのかと尋ねる祥太に対する信代の答えとか)。祥太が自分がやっている万引きと言う行為の是非について漠然とした疑問を持ち、自分たち「家族」のことを考え始めた時点で、この家族の終わりの気配が見え始める。
 とは言え、治も信代も子どもたちに愛情はあり、彼らの世話はそれなりにしている。虐待を続けていたりんの両親とはよっぽどましだ。愛情だけでは、あるいは血のつながりや経済的バックボーンだけでは家族として機能していると言えないだろう。生活に不足なく、教育も十分に受けられ、ごく模範的な家族に見えても、その中に居場所がない人もいる。家族という仕組み、また人間そのものの曖昧さや両義性を、善悪どちらかの側に偏らないように注意深く描いた作品だと思う。

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『名探偵コナン ゼロの執行人』

 サミットの会場として、東京湾に建てられた巨大施設「エッジ・オブ・オーシャン」が選ばれた。しかし数日後にサミットが迫る中、エッジ・オブ・オーシャンで大規模爆破事件が発生する。爆破当日は公安警察による安全確認調査が行われており、その中に警察庁の秘密組織・通称ゼロに所属する安室透(古谷徹)の姿もあった。コナン(高山みなみ)は爆破事件がサミット当日ではなく事前に起きたことに違和感を抱く。一方、事件現場から毛利小五郎(小山力也)の指紋が発見され、小五郎は容疑者として逮捕されてしまう。青山剛昌の大ヒット漫画のアニメ化作品だが、劇場版は22作目。監督は立川譲。
 アバンでの情報の詰め方、提示の仕方が密度が高く整理されており、その後の伏線となる要素をほぼ紹介している。作中の情報量がかなり多くて、おそらくシリーズ内でも対象年齢がかなり高めのストーリー(公安組織の解説をこんなにやる全年齢向けアニメってあります・・・?)。その傾向に合わせてなのか脚本家・監督の作家性なのかはわからないが、舞台となる場所はかなり現実の東京に近く、ちゃんとロケハンしている様子がわかる。コナンシリーズって、実在の場所が出てくることもあるけどそこまでこだわっていないというイメージだったので(まんま出てくるのはそれこそ警視庁くらいか)、日本橋の風景等新鮮だった。
 また、作画的な見せ場がキャラクターの表情・動きよりもビルやドローン、車両等、無機物の動きに集中しているように思えた。日本の実写映画ではなかなか見られない(技術的にというよりも公道での撮影があまりできないからだろう)ケレン味たっぷりのカーアクションを満喫できるのは楽しかったしお腹いっぱいになる。ケレン味どころか無茶苦茶で、安室が実はかなりヤバい人であるというキャラクター演出にもなっている。
 今回は安室をクローズアップした作品なので、彼が所属する公安が活躍するストーリーでもある。公安がかっこよく活躍する作品というのはあまりないので、そういう面でも新鮮だった。ただ、かっこよすぎるのもちょっと問題だなとも思った。終盤、ある人物に「見くびるな」と一喝されるが、その見くびりは、彼らが一般市民をどのように見ているかということに他ならない。犯人は正義の名の元に犯罪に手を染めるが、そのメンタリティは安室たちとそんなに変わらないように思える。正義、国という漠然とした大きいものに尽くすことの危うさには、もっと言及しておいてもいいんじゃないだろうか。特に本作はそもそも「名探偵」コナンシリーズ。名探偵は、大義が時に見捨てる個人の為に闘ってほしいのだ(個人的には)。


『モリのいる場所』

 94歳の画家・モリ(山崎努)は、毎日自宅の庭を散策し、虫や植物を眺め、夜はアトリエで絵を描く。妻・秀子(樹木希林)はモリに代わって来客に対応し、家の中を切り盛りしていく。監督・脚本は沖田修一。
 今年、大規模な回顧展も開催された画家・熊谷守一と妻・秀子の、夏の一日を描く作品。明らかに守一が主人公なのだが、作中ではあくまで「モリ」と呼ばれ、伝記映画ではなく守一をモチーフにしたフィクションとしての色合いが濃い。名作秀作というにはこぢんまりしているが、こぢんまりしているが故の居心地の良さと、予想外の風通しの良さがある作品だった。ある夏の日、という感じで見ていて気分がいい。
 時代背景は昭和、ドリフとジュリーが全盛期だった当時だ。とは言え、登場人物の言葉づかい等はそれほど時代性に拘っていない。カメラマンの助手の物言いはほぼ現代の青年のものと変わらない(当時は断る意味で「大丈夫です」という言葉は使わなかったのでは)。とは言え、それが不自然さや手落ち感ではなく、こういうニュートラルな世界観なんだなと思える。今よりもちょっと昔でどこか懐かしい雰囲気だ。モリ家の庭の鬱蒼とした繁みや、古い木造家屋のきしみじや屋内の薄暗がり(トイレ付近が暗いのが、昔の家だなぁと)は、必ずしも実体験したわけでもないのに、妙に郷愁を感じさせる。
 モリの家は人の出入りが頻繁だ。1日の出来事とは思えないくらい、来訪者が出たり入ったり居座ったりする。来てもいい雰囲気のある家なのだろう。本作はほぼ室内と庭だけで展開されるが(自宅外でのシーンは、家事を手伝っているモリの姪がスイミングスクールにいくシーンくらい)、閉塞感はない。風通しがよく、世界に広がりがある。人が出たり入ってたりして「外」を連れてくるのだ。そして、モリが言うように彼にとっての庭が「広すぎる」からだろう。
 守一が作品に描いた虫や動物、植物が作中次々に登場する。回顧展を見ておいてよかった。モリが絵画制作をするシーンは全然ないのだが、彼の見る行為が制作に繋がっていると感じられるのだ。虫たちの撮影は相当頑張っていると思う(エンドロールを見ると、虫単体の撮影は専門のカメラマンがやっているみたい)。動植物の気配が音からも感じられる作品でもあった。虫や鳥の声やざわめきによって、空間がぶわっと広がる。


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『港町』

 想田和弘監督の「観察映画」第7弾。前作『牡蠣工場』の撮影地である岡山県の漁港町・牛窓。『牡蠣工場』の撮影の合間に出会った町の人たちの生活と町の風景を撮影した作品。
『牡蠣工場』の副産物とも言える、元々撮影の予定はなかった作品だそうだ。撮り始めてみたら予想外の撮れ高があったというか、監督の撮影者としての引きが強いというか。ここは撮ってみたら面白いかもな、という場に即時対応していく判断力と身体性(観察映画は、撮影者の身体性を予想外に感じる形式だと思う。実際問題として、タフじゃないと撮影し続けられないだろうし)がこの引きの強さを生んでいるんだろう。122分という想田監督としては比較的短い作品なのだが、密度は濃い。
 本作、ほぼ全編モノクロームで撮影されているのだが、モノクロの風景にはどこか異世界感がある。この町で長年繰り返されてきたであろうごくごく日常の風景が映し出されると同時に、それが他の国のような、全く知らない世界のもののように見えてくる(もっとも、都会、ないしは内陸側に住んでいる人にとって牛窓は「異界」と言えるのだろうが)。登場するのがお年寄りばかりで若者や子供があまりいない(子供は全く登場しない)ということもあって、なんだかあの世とこの世の境目のようだ。
 メイン登場人物とも言える「クミさん」はよく喋るが、息子についての話が始まると、異世界感が更に深まる。クミさんに限らず、登場する人たちの日常風景を追うことは、その人の生活と歴史を垣間見ることだろう。クミさんの息子についての話も彼女の生活と歴史を反映したものではあるのだが、それ以上彼女の内的世界がはみ出してくるような、異様な迫力があるのだ。普通、日常の中でのコミュニケーションでは、そういう「中身」を必要以上に見せないものにするものだろう。見た側も見せてしまった側も、なんとなく居心地悪くなりそうだから。
 そこをあえて踏み込む想田監督の心の強さに唸る。普通だったら腰が引けてしまいそうなところをあえて踏み込んでいく。被写体にもよるだろうが、この判断力はドキュメンタリー作家としての資質に大きく関わってくるんだろうなと思う。対象との距離感が初期とはだいぶ変わってきているのでは。

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『目撃者 闇の中の瞳』

 新聞記者のシャオチー(カイザー・チュアン)は交通事故に遭い、買ったばかりの中古車を修理に出すハメに。しかし修理の際、その車は9年前にシャオチーが目撃した交通事故の被害者の持ち物だったことがわかる。9年前の事件に疑問を感じたシャオチーは真相究明に乗り出すが。監督はチェン・ウェイハオ。
 サブタイトルの通り、闇の濃いミステリ・サスペンス映画。映像の美しさのせいかどこか幻想的な味わいもあり、大変面白かった。情報の密度がかなり高く、序盤でちらりと出てきたものが後半の伏線に使われる等、目が離せない。
 「目撃者」という題名(原題通り)はとても上手い。誰が誰にとっての目撃者なのか、何を目撃したのかという謎を、幾重にも畳み掛けてくる。視線が何十にも重なっており、その主体が変わるごとに事件の様相ががらりと変わっていく。映画を観ている側にとっても、果たして自分が今まで見てきたものは何だったのか、と愕然とさせられていくのだ。
 物陰からのぞき見するようなショット、車のバックミラーなどへの映り込みなど、他者の視線を感じさせる演出が随所にちりばめられている。その「他者」が何者なのかわからずに不安が煽られていく。自分が見ている景色は見たままのものではなく、全く別の風景を見ている人がいるんじゃないかという予感を常にはらんでいるのだ。
 視線の主体が交代していくにつれ、事件は地獄めぐりの様相を見せてくる。なぜこうなった、という空しい問いが響き、それを呑みこんで更なる地獄を歩んでいくある人物の笑顔が恐ろしくも哀しい。

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『Mr.LONG ミスター・ロン』

 殺し屋のロン(チャン・チェン)は東京にいる台湾マフィアを殺す仕事を受けるが失敗。北関東の田舎町で身動き取れなくなった所、少年ジュン(バイ・ルンイン)に助けられる。その母で台湾人のリリー(イレブン・ヤオ)は、薬物依存症に苦しんでいた。一方で、おせっかいな地元住民たちは、あれよあれよという間にロンの住家や商売の為の屋台を世話する。監督・脚本はSABU。
 ロンは日本語がわからないのだが、住民たちが勝手にどんどん段取つけていく様に対する「何がどうしてこうなった」という表情はとてもキュート。流れ者が悪党に苦しめられる母子を救うという所は『シェーン』(ジョージ・スティーブンス監督)フォーマットだが、流れ者当人が現地の人たちの善意に翻弄され、流れ者としてのアイデンティティが危うくなる(笑)という所が愉快。ロンが所属している組織は表向きレストラン経営しており、ロンも料理が得意。水と塩で野菜煮ただけの汁物はさすがにおいしくなさそうだったが、その後登場する諸々台湾のお惣菜風料理はおいしそうだし、包丁をふるうチャン・チェンはかっこいいし、絵として料理要素が入ることで、ぐっと魅力的な作品になっている。とにかくチャン・チェンの魅力ありきな作品。ナイフを使ったアクションも、終盤の殺陣などかなり戯画的ではあるが(そもそも殺しの道具として効率悪いのでは・・・)様になっていた。
 そんなに精緻な脚本というわけではないし、ある種の「型」を踏まえたストーリーではあるが、前述の通りチャン・チェンに魅力があるし、ラストにベタ故の気分の良さがあり楽しく見た。ただ、1シーンが長すぎ、エピソード加えすぎなきらいがあり、あと30分くらい短くできそうだなぁという気もした。製作側だけが楽しい、自己満足感が滲んじゃっている。リリーの過去を見せたいのは分かるが、そこまで細かくやらんでも・・・。住民たちの田舎歌舞伎のシーンもまるっと割愛してもよさそう。見ていてちょっと苦痛だった。

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『MASTER マスター』

 金融投資会社の会長チン・ヒョンピル(イ・ビョンホン)は様々なテクニックを駆使し多額の投資金を集め、裏金を増やし、警察や政府等有力者たちに賄賂をばらまきビジネスを拡大してきた。彼を追う知能犯罪捜査班の刑事キム・ヘミョン(カン・ドンウォン)は、チンの片腕で裏金作りに手腕を発揮してきたハッカー、パク・ジャングン(キム・ウビン)を確保、スパイとしてチンの帳簿を持ち出せと言う司法取引を持ちかける。しかし会社内に裏切り者がいると気付いたチンは大金を持って行方をくらませる。監督・脚本はチョ・ウィソク。
 詐欺の詳細にしろスパイ大作戦にしろ、描き方は割と大雑把。チンの投資詐欺はすごく巧みで大規模!すごいやり手!という設定ではあるが、見るからに胡散臭いしこれ本当に成功します・・・?って気分になる。とは言え、その大雑把さが本作の良い所だと思う。シリアスではあるが精緻にしすぎず、重くしすぎず、近年の韓国エンターテイメント映画に顕著な生々しい暴力描写も控えめ。エンターテイメントとして収まりがちょうどいい感じに調整されている。私は韓国映画で往々にして描かれる組織内の上下関係や共同体のしがらみには時に胸焼けしてしまうのだが、やり過ぎ感がないのがとてもよかった。気負わず楽しめるいい作品だと思う。暴力の嵐みたいな作品やゴリゴリ神経を削る諜報戦も面白いけど、毎回それじゃあ疲れてしまう。
 当初、こういう感じなのかなと予測していた展開はなんと前半で完了してしまう。しかし、チンが逃亡してからの後半の方、尻上がりに面白くなっていく所がえらい。もたつかずテンポがよかった。帳簿とかハッキングとか投資計画とか、わりとざっくりとした設定でよくよく考えるとそんな上手くいきます?と思うんだけど、見ている間は飽きない。主演3人の魅力も大きかった。イ・ビョンホンが胡散臭い男を嬉々として演じているように見える。またカン・ドンウォン演じるヘミョンとキム・ウビン演じるジャングンのやりとりが、距離は近づきすぎないものの徐々に双方向の掛け合いになっていく所も楽しい。あんまりねっとりとした人間関係を感じさせない所が、本作のトーンに合っていたと思う。

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『マイティ・ソー バトルロイヤル』

 アスガルドの危機を知り、故郷に帰ったソー(クリス・ヘムズワース)の前に、死の女神であり存在を隠されていた実の姉であるヘラ(ケイト・ブランシェット)が現れる。ヘラはソーの武器であるムジョルニアをあっさりと破壊し、ロキ(トム・ヒドルストン)と共に宇宙の果てへ飛ばしてしまう。辿りついたのは様々な世界のジャンクが漂流する星。ソーは星の支配者グランドマスター(ジェフ・ゴールドプラム)に捕えられ、戦士としてバトルロイヤルショーに出場させられる。そこで対戦したのはソーと同じくアベンジャーズの一員であるハルク(マーク・ラファロ)だった。監督はタイカ・ワイティティ。
 原題はサブタイトルが「ラグナロク」で、実際神々の黄昏の物語でもありアスガルド崩壊の危機が訪れているのだが、本編にラグナロク感が皆無なので、バトルロイヤルで良かったと思う。ちょいダサ目で能天気感漂う所も内容に即した邦題だ。アスガルドの危機っぷりは洒落にならないレベルで、死人もばんばん出ているのに、同時並行で描かれるソーたちのすったもんだは正にコント。アベンジャーズ関係のマーベル映画の中では最もユルい、コメディ色の強い作品だと思う。本作のすごいところは、そのユルいコメディパートと世界崩壊のシリアスパートが違和感なく組み合わさっている所だろう。ワイティティ監督、なかなかの剛腕である。
 ソーの能天気さには拍車がかかり、語彙もちょっと増えて今回はいつになく行動的。ロキは完全にスネ夫キャラ。ソーのシリーズ新作というよりも、ソーの二次創作同人誌のようなノリだった。だって、皆の心の中のロキちゃんは割と本作みたいなロキちゃんじゃなかったですか・・・?当然2人の掛け合いは増量され大変楽しい。なんだかんだでお互い好きなんじゃん!ということが再確認できる。また、ソーとハルク=バナー博士という珍しい組み合わせも楽しかった。ハルク(こちらも語彙が増えている!)とは幼稚園児レベルのコミュニケーションが成立しているが、バナー博士とは人柄的に全く共通項が見えてこないし、バナーはバナーで筋肉バカ系イケメンであるソーに対する苦手意識は強そう。そのあたりもギャグにしつつ、珍道中感が出ていて楽しい。また、ハルクがバナーを、バナーがハルクをどう思っているのかについて垣間見えるあたりも貴重。
 本作、今まで王子としてふらふらしていたソーが、ついに本気で王になろうとする成長物語でもある。王とは、王国とは何なのかという大きな問題を突き付けられるのだ。ソーの物語としては大きな分岐点と言える。そういう大事な展開をほぼコントでやろうというあたり、大変度胸がある作品だとは思う。

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2011-10-21



『ミステリ原稿』

オースティン・ライト著、吉野美恵子訳
 夫、子供と暮らすスーザンの元に、20年前に別れた前夫から小説の原稿が送られてくる。小説家志望だった前夫エドワードはとうとう長編『夜の獣たち』を書きあげ、彼女に読んでほしいと言うのだ。スーザンは原稿を読み始めるが、その小説は1人の男トニーが暴力の最中へ投げ出される物語だった。『ノクターナル・アニマルズ』(トム・フォード監督)として映画化され、文庫版は映画と同題名とのこと。
 原稿の読者であるスーザン視点のパートと、作中小説である『夜の獣たち』のパートが交互に配置される。スーザンは『夜の獣たち』をよみながら小説の主人公トニーの視線に自分を重ね、かつ、トニーに前夫であるエドワードを重ねていく。更にスーザンの視線はトニーだけでなく、彼の妻子や彼らに絡んでくる男たちにも重ねられていく。彼らの中の暴力性はスーザンの中にもあり、そして小説を生んだエドワードの中にも潜んでおり、それが呼応していくかのようだ。読書という行為がどのようなものか、上手く描かれた作品だと思う。必ずしも小説の主人公に共感、主人公目線で読むわけではなく、小説内の様々な部分に感情や記憶を呼び起こされていくと同時に違和感を覚えもする感じ。スーザンはエドワードの原稿を読むことによって、彼が自分を揺さぶろうとしている、自分に影響を及ぼそうとしていると感じ、それに反発もするのだが、それが読書という行為(そしておそらく小説を書くという行為)だよなと。
 『夜の獣たち』には、理性的かつ非暴力的故に妻子を奪われたトニーが、徐々に暴力側に引き込まれていく様が描かれている。非暴力的であることが「男らしくない」と非難されるのって(おそらくアメリカでは顕著なのだろうが)辛いな・・・。暴力へのストッパーは社会的に絶対必要とされているのに、ストッパーがかかっていることを非難されもするとは。暴力が否定される一方で暴力を強要されるような二律背反がある。




血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)
コーマック・マッカーシー
扶桑社
2007-08-28

『ミックス。』

 卓球選手だった母親のスパルタ教育により、天才卓球少女として将来を期待された富田多満子(新垣結衣)だったが、スパルタ教育の反動で、母の死後はごく普通の人生を歩んでいた。勤め先がスポンサーを務める人気卓球選手・江島晃彦(瀬戸康史)と付き合うようになり有頂天だったが、江島は卓球で男女混合ダブルスのパートナーである小笠原愛莉(永野芽郁)とも恋人同士だった。ショックのあまり会社をやめて田舎に逃げ帰った多満子は、実家の卓球クラブを継ぎ、自分もペアを組んで全日本卓球選手権の男女混合ダブルス部門への出場を目指す。なりゆきでペアを組むことになったのは、元ボクサーの萩原久(瑛太)だった。監督は石川淳一。脚本は古沢良太。
 王道ラブコメであると同時に、人生うまくいかず、負け犬と侮られていた人たちが、自分の人生を再び掴み直すべく奮闘する敗者復活劇でもある。どちらかというと、後者の方に面白みを感じた。私がそれほどラブコメを好まないというのもあるけど、ラブコメ部分が大分薄味(ムズムズもキュンキュンもしない・・・)かつ月並みなので、この程度だったらなくてもいいかな・・・という気分になった。とは言え新垣結衣は大変可愛らしい、というかラブコメ要素についてはガッキーの可愛さによりかかりすぎな部分もあるくらい。ガッキーの可愛さに加え、全方向にまんべんなく受け入れられるよう不快な要素を極力排そうと努力したと思われるので、正直インパクトはないがそれなりに楽しい。
 ただ、楽しくしようとして付加した要素や小ネタの中には、何周か遅れてるんじゃない?それ今でも面白いと思ってます?というものも。わかりやすく「豪華ゲスト」と「面白キャラ」を出そうとするのは、フジテレビ製作映画(本作はフジテレビ制作)の病なんだろうか。面白キャラは面白キャラでいいけど、多満子と萩が「道場破り」する対戦相手にしろ、中華料理店の夫婦にしろ、それ一昔前のギャグですよね、って感じが拭えない。ベタなギャグのつもりなのかもしれないが、ベタというよりも、今はもうそれはギャグとして成り立たないんですよ、という方向に見えちゃうのが辛い。
 主演の2人よりも脇を固める役者の方が印象に残った。ストーリー上も、脇のエピソードの方が、「ベタ」さが上手く機能しているように思う。特に広末涼子がこんなに面白い感じになっているとは!元ヤンのセレブ妻という設定なのだが、セレブ生活が決して幸せなわけでもなさそうな所も元ヤン感も板についている。また、プチトマト農家の夫婦のとある事情も、具体的な説明はそれほどせずに映像でだけ見せるあたり、(ベタ中のベタな設定とも言えるので)ともすると泣かせに走りそうなところを踏みとどまっていてよかった。
 なお、役者は全員よく動けているので、素人目にはちゃんと卓球の試合っぽく見える。特にプロ選手役の永野と瀬戸は相当頑張っているのではないだろうか。





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