3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画題名は行

『プロジェクト・グーデンベルク 贋札王』

 カリスマ性にあふれた犯罪集団のボス「画家」(チョウ・ユンファ)に、贋作づくりの腕を見込まれスカウトされたレイ(アーロン・クォック)は、偽札作りを持ち掛けられる。最新テクノロジーによる複製防止対策をクリアするために腕利きの仲間たちとミッションに挑むが。監督はフェリックス・チョン。
 偽札作りを巡る犯罪映画ではあるのだが、なんだか妙。精緻なミッションに挑むにしてはやることが派手すぎ、よけいなことをしすぎで色々と気になってしまう。何より、「画家」の行動が妙。自分にとっては全く関係ないはずなのに、レイと元恋人の関係に妙に拘る。偽札づくりが成功して富と力を手にすれば彼女を手に入れるはずだとレイを焚きつけるのだ。女性を得ることが成功のステイタス、金と力があれば目的の女性を手に入れられるという思い込み、マッチョ思想に辟易したが、それ以上にレイの人間関係にやたらと粘着するのが気持ち悪い。
 終盤でのあるどんでん返しが明らかになると、なるほどそういうことか!と腑に落ちる。が、それでも気持ち悪いことは気持ち悪いんだよな。具体的な根拠もなく1人の人間にそんなに執着し続けられるものか?一方的な思い入れがずっと維持されていくというところがそら恐ろしかった。一方的な思い入れが空回りして周囲を巻き込んでいるような話だ。それで犯罪映画としての爽快感が帳消しになっちゃうんだよな。

ヒトラーの贋札 [DVD]
カール・マルコヴィクス
東宝
2008-07-11


奪取(上) (講談社文庫)
真保 裕一
講談社
1999-05-14


『his』

 田舎でひっそりと一人暮らしをしている井川迅(宮沢氷魚)。彼の前に元恋人の日比野渚(藤原季節)が幼い娘・空を連れて突然現れる。渚は妻と離婚するため親権の協議中だった。戸惑いつつ同居を始め、周囲の人たちにも受け入れられていく。しかし渚の妻・玲奈(松本若菜)は空を東京に連れ戻してしまう。監督は今泉力哉。
 脚本・演出が非常に丁寧だと思う。迅と渚はゲイのカップルなのだが、それを例外的なものではなく普通のことであり、誰の背後にもそれぞれの普通の生活があるということがちゃんと踏まえられている。迅が暮らす町は、地方の小さい町にしては地元の人たちがかなり寛容で、実際にこういうケースがあったらもっとあれこれ干渉されたり揶揄されたりするんじゃないかと思うけど…。とはいえ、あまり苦しい面ばかりを強調したくない(そこが本筋ではない)という製作側の意図なんだろうし、セクシャリティ云々よりも若い居住者が減る一方だから居住者ゲットの方が大事なんだよ!みたいな過疎化問題もありそうだなと思ったりもした。そう思わせるくらい地に足の着いた生活感のある描写だったということだろう。セクシャリティを隠さざるを得ない環境の苦しさは、会社員時代の迅の飲み会でのエピソードで十分伝わる。表面上はセクシャリティをネタにするのはアウトだという振る舞いだが、一枚めくると「ネタ」扱いで当事者がまさにこの場にいるということ自体が想定されていない。村八分よりむしろこういうマイルドな差別というシチュエーションの方が多いのではないかと思う。
 迅と渚はゲイとして世間の偏見にさらされることを恐れるが、シングルマザーとなった玲奈に対する世間の目もまた厳しい。裁判のシーンでそれが如実に現れる。子供を育てつつ仕事に励む物理的な厳しさ、精神的な厳しさをきちんと描いており、このあたりはバランスがいい。セクシャリティに限らず、世間的に設定されている「普通」に当てはまらない人に対しての風当たりの強さ、不寛容さへの批判がある。玲奈と彼女の母親の関係性の描写を入れたのが効果的(というかこういう親子関係あるよなーという辛さがすごい)だった。母は「世間」代表なのだ。
 「世間」に糾弾される玲奈を見て、渚は彼女もまた苦しんでいることに気付く。渚は迅の元からの去り方にしろ、再会の仕方にしろ、そしておそらく玲奈との関係にしろ、甘えがにじみ出ている。おそらく相手の気持ちや立場をあまり考えない人だったんだなと窺える。そんな彼が急速に大人になっていく様が清々しい。一方で迅も、渚と空と共に生きる為に踏み出す。彼の「賭け」にはぐっときたし、それに対するある人の言葉もぐっとくる。
 子役と犬の芝居が非常に良い。あと猟師役の鈴木慶一がいい味出していたのでファンの方はぜひ。
 
愛がなんだ (特装限定版) [Blu-ray]
岸井ゆきの
バンダイナムコアーツ
2019-10-25



知らない、ふたり (通常版) [DVD]
レン
ポニーキャニオン
2016-09-02


『フィッシャーマンズ・ソング』

 イギリス、コーンウォール地方の港町ポート・アイザック。友人とバカンスに来た音楽プロデューサーのダニー(ダニエル・メイズ)は地元の漁師たちのバンド「フィッシャーマンズ・フレンズ」のライブを見かける。上司から彼らと契約を取れと焚きつけられ、町に残って交渉を始めるが、漁師たちはよそ者への不信感でいっぱい。監督はクリス・フォギン。
 実在の漁師バンドの実話をドラマ化した作品。そんなに達者だったりひねりがあったりするストーリーテリングではないのだが、音楽と舞台に魅力がある。また、フィッシャーマンズ・フレンズのメンバーが皆チャーミングだった。漁師たちの歌はメロディは美しいが、男ばかりの職場で楽しみの為に歌うという側面が強いので、歌詞は結構下世話だったり色っぽかったりする。結婚式でそれを歌うの?!というエピソードには文化の差というか価値観の差というか…。実は嫌がらせ?とも思ったけど他意はなさそうなので笑ってしまう。正直、セクハラだよなと思わなくもないが、そういう文化圏の人たちでもある(ぜひ是正していただきたいけど…)。ロンドンのパブでのエピソードは、仲間と一緒に歌う為の音楽ということがよくわかるもので楽しい。あの歌、老若男女がそこそこ知っているものなんだな。
 信用されるには相手の文化圏に入っていくしかないという話でもあった。ダニーの場合、ある事情から相手の信頼を裏切ってしまう、かつ失望させてしまう。彼は漁師たちにとっての仲間の意味も、地域の価値も、約束の重さも自分の価値観で計ってしまう。それで大失敗するのだ。すれ違いにハラハラするが、相手の価値観、ルールを知ろうとするのってコミュニケーションの第一歩なんだろうなと。都会に住む者から見ると人間関係が密すぎて息苦しそうだったり、ジェンダー観が古いままだったりするが、コミュニティの親密さ、豊かさもある。何より彼らの音楽はそのコミュニティから生まれるものなのだ。

歌え!フィッシャーマン (レンタル専用版) [DVD]
クヌート・エリーク・イエンセン
タキコーポレーション
2003-09-26


シェルシーカーズ〈上〉
ロザムンド ピルチャー
朔北社
2014-12




『フォードvsフェラーリ』

 ル・マンでの勝利を目指すフォード社から依頼を受けたカーデザイナーのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)は、イギリス人レーサーのケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)をドライバーに抜擢する。クセの強い2人はフォード社と軋轢を起こしつつ困難を乗り越え、1966年のル・マン24時間耐久レースを迎える。監督はジェームズ・マンゴールド。
 150分以上とそこそこの長さなのだが、体感時間はそんなに長く感じない。構成に無駄な部分がなく、むしろスピード感がある。レースシーンも、それこそスピードを体感できるような臨場感溢れるもので気分が上がる。わざわざ本物の車を使って撮影したそうで豪華。エンジン音もいいので、音響設備の良い劇場で見ることをお勧めする。しかし何より心に響くのは、シェルビーとマイルズという、2人のはぐれものの絆だ。
 レーサーとして功績を残したが健康上の理由で引退せざるを得なかったシェルビーにとって、マイルズは仕事のパートナーであると同時にもう一人の自分でもある。自分の思いが強くなかなか企業のルールになじめないマイルズへの共感もあるし、自分に出来なかったことをマイルズに託している面もある。フォード側は企業故に確実な成果や広告効果を求める。しかしそれは自己の経験とインスピレーションで動き、自分のやり方を貫きたいシェルビーやマイルズにはそぐわない。世渡り下手なマイルズを守るためにあの手この手でフォードをいなし(結構悪辣なこともやっている…)、「俺のドライバーに近づくな」とまで言い放つシェルビーの奮闘には泣けてくる。これは愛だよなぁと。マイルズへの同胞愛でありレースそのものに対する愛だ。そして最後、シェルビーの思いにマイルズがある行為で応える様にはまた泣ける。その行為は、マイルズにとって命のように大切なものを明け渡すことに他ならないのだ。
 題名からはフォードとフェラーリという2大企業の対決のように見えるが、実際は2人の男が企業の理論と戦うという側面の方が大きく、それゆえほろ苦い。2人の理念はむしろフェラーリ側に近い、つまり企業ではなくレーサーのものだというのが皮肉だ。ル・マンのある局面でフォードの副社長がする提案は、だからお前はフェラーリに馬鹿にされるんだよ!と突っ込みたくなるもの。車のことをよく知ってはいるが、レースのことはわかっていないんだなと。

栄光のル・マン [Blu-ray]
スティーヴ・マックィーン
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2011-05-27

 

『ブレッドウィナー』

 アフガニスタンのカブールに住む11歳の少女パヴァーナ。ある日父親がタリバンに捕まり、母と姉、幼い弟が残され、女性の外出が禁じられている為に買い物にも行けなくなってしまう。パヴァーナは髪を切り男の子の恰好をし、家族を養い父に会う決意をする。監督はノラ・トゥミー。
 『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』『ブレンダンとケルズの秘密』など独自の映像美が強いインパクトを残したアニメーションスタジオ、カトゥーン・サルーンの新作。パヴァーナが語る「お話」は切り絵的な質感。紙人形芝居のような味わいで面白い。立体感や紙の凸凹感まで再現されておりディティールが実に細かい。
 パヴァーナは物語で自分を励まし、家族に起きたある出来事もその一部として受け入れていこうとする。しかし、彼女が生きる社会(2001年のアメリカ同時多発テロ事件後)の中では、女性に生まれた時点で男性に付属した生き方しか残されていない。前述のとおり女性が一人で外出することは禁じられているし、それまで許されていた大学に行くことも禁じられ、文章の読み書きも睨まれる。パヴァーナの父親は教師、母親は作家で、娘たちにも読み書きや歴史、物語ることを教えていた。彼女らにとってタリバンが仕切る世の中は自分たちの価値観、生き方を否定するものなのだ。やむなく外出した女性たちが暴行を受ける様が非常に痛々しく辛い。その中で生きていて、果たして自身の「物語」が介入する余地があるのだろうかと、つい悲観的になってしまう。母や姉の必死の反抗も、この先何かもたらすのだろうかと。個々の人たちはあまりにも無力だ。そういう時に心を支えるのが物語=自分の言葉と言えるのだろうが…。

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた [DVD]
デヴィッド・ロウル
TCエンタテインメント
2017-04-05


ブレンダンとケルズの秘密 【DVD】
エヴァン・マクガイア
TCエンタテインメント
2018-02-02


『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』

 緑谷出久(山下大輝)ら雄英高校ヒーロー科1年A組の生徒たちは、南方の島・那歩島でヒーロー活動の実習をしていた。そんな中、「ナイン」(井上芳雄)と名乗る男が率いるヴィランたちが襲来し、島の施設を破壊していく。原作は堀越耕平の同名漫画、監督は長崎健司。
 多くの人間が何らかの特殊能力を持ち、特に強い能力を持つ人間はプロの「ヒーロー」として社会を守っているという世界が舞台。出久たちはプロのヒーローを養成するための学校に通う学生なのだ。原作もTVアニメシリーズも斜め読み程度なのだが、十分楽しめた。エンターテイメントとしての盛りがよくて、お正月にぴったりの華やかさと楽しさ。特にクライマックスのバトルシーンは特殊作画盛り盛りなのだが、効果音や台詞は一切つけずに絵と音楽のみで魅せたのは大正解だったと思う。
 ヒーローとは何なのかという問いが一つのテーマになっているシリーズなのだろうが、本作でもヒーローに憧れる幼い少年が登場する。彼の能力はいわゆる戦うヒーロー的なものではない。しかし出久は彼のヒーローになりたいという思いを肯定する。何の為に戦うのか、どのように戦うのかは人それぞれ、様々なヒーロー像があるのだと。A組の生徒たちの能力もヒーローとしてのスタイルもまちまち(出番の少ない人もどういう能力なのかちゃんと見せているところが良かった)で、誰かを守りたい、役に立ちたいという人もいるしとにかく強くなりたいという人もいる。そしてその動機はどれも(今のところ)否定されない。その延長線上に「戦う」ことはヒーローの条件なのか?という問いが発生しそうだけど原作では言及されてるのかな?
 ところで昨今「男のクソデカ感情」というパワーワードが散見されるようになったが、本作でもクソデカ感情としか言いようのない感情の発露が見受けられた。爆豪(岡本信彦)君、そんな子だったっけ?!私TVシリーズでは色々見落としてたの?!


『パラサイト 半地下の家族』

 全員失業中のキム一家。ある日、長男ギウ(チェ・ウシク)がIT企業CEOのパク氏(イ・ソンギョン)宅で長女の家庭教師として働くことになる。更にギウの妹ギジョン(パク・ソダム)は幼い長男の美術教師としてパク家に出入りすることに。監督はポン・ジュノ。2019年第72回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。
 先行上映で見たのだが大変面白かった!早く見てよかった!しかし先行上映場所がきらびやかな日比谷のTOHOシネマだったというのは、本作の内容を見た後では悪い冗談みたいだし、カンヌというセレブのリゾート地で開催される映画祭で最高賞を受賞するというのも皮肉。つまり、カンヌに来る人とか日比谷ミッドタウンに来て本作を見て高く評価するような層(イメージ)が踏みつけにしている層があるんだけどそんなこと気付かないんですよね、ということを描いているという皮肉があるのだ。
 パク一家はギウやギジョンに対してあからさまに下に見るような態度は慎んでいるし、対応は丁寧。しかしふとしたところで差別意識が垣間見える。ラインを相手が踏み越えそうになると、思い違いをするなよと牽制してくる。自分たちとお前たちは別の世界の人間なんだぞと。特にきつかったのが「臭い」への言及。リアルさというよりも、自分たちではあまり意識しない、変えようがない要素が染みついていて「この階層」であることの印のようにされるというのが非常に辛い。決定的な言葉を言われた瞬間の、ギテク(ソン・ガンホ)の表情の微妙な変化に凄みがあった(ソン・ガンホはやはり上手い!)。すーっと何かが抜けていく感じがするのだ。差別的な言葉を向けられるというのはそういうことで、決定的に人を損なうこともあるのだと。キム一家は無能というわけではなく、それぞれそれなりの技術があり知恵がある。しかし個々の力では這い登れない格差があり、一度貧困側に落ちてしまうと挽回するのはかなり難しい様子が垣間見える。空前の就職難という現代韓国の世相だけではなく、世界的な傾向が反映されている。作中、坂道の行き来シーンが度々挿入されるが、坂の上=富裕層から坂の下=貧困層への移動が映像イメージとして焼き付く。
 ただ、キム一家が被差別側でのみあるのかというとそうではなく、差別する対象があれば、自分たちより更に弱い存在を差別してしまう。無間地獄のようなのだ。これを絶ちきるものは何も見えない(断ち切ろうと思ったら社会の枠組みの外に出るしかない)というのが本作の最もきついところだろう。パルムドール受賞を決めた人たちが、この救いのなさをどの程度実感しているのか、ちょっと気になった。

グエムル-漢江の怪物- コレクターズ・エディション [DVD]
ソン・ガンホ
ハピネット・ピクチャーズ
2007-01-26





『冬時間のパリ』

 編集者のアラン(ギョーム・カネ)は電子書籍事業で時流に乗ろうと奮闘中。友人で作家のレオナール(バンサン・マケーニュ)から打診があった新刊の出版を断るが、アランの妻で女優のセレナ(ジュリエット・ビノシュ)は新作を好評する。レオナールの妻で政治家秘書のヴァレリー(ノラ・ハムザウィ)はアランの意見を支持。一方アランは部下のロール(クリスタ・テレ)と浮気をしていた。監督・脚本はオリビエ・アサイヤス。
 すったもんだしても不倫しあっていても夫婦は夫婦という、他人にはちょっとわかりにくい男女の絆を描く。お互いに思想・主義に全面的に同意していなくても愛している(そして意外と夫婦としてうまくいっている)というヴァレリーのスタンスが本作に登場する人たちを象徴しているように思った。著作をけなされたから慰めてほしいというレオナールへの返しも痛快。彼を愛してはいるが、出来の悪い作品はどう頑張っても出来が悪いし、自分は「慰め要員」ではないというわけ。
 皆、不倫・浮気に対して結構けろっとしている。とは言え夫婦生活と愛人との生活をすっぱり切り分けられるというわけでもない。アランとセレナはヴァレリーよりも湿度が高い感じで、2人の間のわだかまりも深い。ただ、浮気しているという罪悪感や嫉妬というより、パートナーとしての生き方がすれ違いがちという感じだった。
 2組の夫婦のあれやこれやの話であると同時に、実は出版業界の話でもあることは意外だった。実在の書籍のタイトルも色々出てくるのでちょっとうれしい。かなり単純化された描き方にはなっているが、ここ数年のフランスでの電子書籍の動きがちょと垣間見える。書籍の電子化の可能性の大きさを信じているロール、ビジネスとしては電子化に前向きだが紙の本の出版に愛着を持つアラン、電子化には懐疑的なレオナールと、それぞれ立場は違うが出版という斜陽業界(これはフランスでも避けようがないみたいで辛い…)に身を置く人たちの悲喜こもごもがじんわりときた。自作の評判に一喜一憂するレオナールはちょっとうざいのだが、まあ気になっちゃうよなー。

パーソナル・ショッパー [DVD]
クリステン・スチュワート
TCエンタテインメント
2018-03-07


夏時間の庭 [DVD]
ジュリエット・ビノシュ
紀伊國屋書店
2009-11-28


『パリの恋人たち』

 ジャーナリストのアベル(ルイ・ガレル)は、3年間同棲したマリアンヌ(レティシア・カスタ)から妊娠を告げられた。父親はアベルの親友ポールだという。アベルとマリアンヌは別れ、彼女はポールと結婚。3年後、ポールの告別式で2人は再会する。更にポールの妹イヴ(リリー=ローズ・デップ)がポールへの恋心を告白してくる。監督は主演も兼ねているルイ・ガレル。
 フィリップ・ガレルの息子のルイ・ガレル監督作だが、父親よりも作風は身軽でユーモラス。男女のすったもんだを描いても悲壮感がない。もはやそれは自虐ギャグなのか?という感じで男性が右往左往する様が描かれる。ナルシズムが薄いところがいい。
 アベルはマリアンヌの言うこともイヴの言うことも基本的に真に受け、よく言えば素直、悪く言えば騙されやすい。笑っちゃうくらいの人の好さなのだが、優しいと言えば優しい。結構翻弄されているのだが、マリアンヌに対してもイヴに対してもあまり怒らない。逆に彼女に対する自分の愛を再確認しちゃったりするから、基本的に善人なんだろうな…。本作、女性たちは癖が強いが悪意ある人間は基本的にいない。ちょっとやりすぎちゃったりひねくれていたりする、困った人たちだがどこか可愛げがあった。マリアンヌの行動が許せないという人はいそうだけど、個人的にはあまり責める気になれない。自分本位だか他人任せなのかわからない行動だけど、自分でもどうにもできないことってあるんじゃないかなと。
 恋のしょうもなさ、フェアではなさとユーモラスに描くが、本作の真の主人公はマリアンヌの息子ではないかと思う。こまっしゃくれた美少年で母親の恋人であるアベルに敵意を見せるが、同時に親の愛情を切実に欲している。マリアンヌはしっかりとした母親だが、万事において子供が最優先かというとそうでもない(それを普通のこととして描いている、マリアンヌを責めない描き方はとても良いと思う)所もある。少年が自分にとっての家族の形、大人との関係を掴みなおすという側面もあったのかなと、ラストシーンを見て思った。

愛の誕生[VHS]
ルー・カステル
2000-08-24


グッバイ・ゴダール! [DVD]
ルイ・ガレル
ギャガ
2020-01-08


『ひつじのショーン UFOフィーバー!』

 イギリスの田舎の牧場に暮らすひつじのショーンの前に、宇宙人が現れる。ルーラという名前らしいその宇宙人はUFOで遠い星からやってきたが、牧場に迷い込んでしまったようだった。ショーンはルーラをUFOに送り届けようとするが。監督はリチャード・フェラン&ウィル・ベッカー。
 条件反射的にカワイイー!と思ってしまうが、よく考えるとアードマンスタジオのキャラクターはわかりやすく記号的に可愛いデザインなわけではない。むしろちょっと不細工あったり不気味だったりする。眼かっぴらいて歯茎むき出しにして、なんて表情も頻繁にみられる。わかりやすい可愛さに落とし込まないように(特に人間と犬)配慮されており、かつそれでも動き出すと可愛く見えるという絶妙なデザイン。相当テクニックがいるよなと毎回うなる。
 ストップモーションアニメとしての精度は毎度のことながらすさまじく、特殊効果も使えるし多少は使っているのだろうが、あくまでストップモーションアニメでやるという意地と執念を感じる。どこまでを実写でやるのかという線引きみたいなものがどのへんにあるのか気になった。今回も映画ネタはちょいちょい入れられており、往年の名作SF映画のあれこれはもちろん、Xファイル音楽付きというのには笑ってしまった。1フレーズであれだ!と思い出せる音楽って強いよな。
 宇宙人のルーラはまだ小さい子供なのだが、そういえばショーンも子供という設定だったなと思いだした。ショーンとルーラがいたずらに夢中で悪ノリをしていく様は、楽しいが危なっかしい。そこに「大人」として牧羊犬(牧場主は全く大人ではない!)がダメ出しするのには、少々うざったくもほっとするのだ。子供のバックアップをするのが大人なんだよなと。また本作、いわゆる悪役として登場する人物が、悪役のままにされないところにもほっとする。彼女にある救いが訪れるシーンにはぐっときてしまった。


未知との遭遇 スペシャル・エディション [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
リチャード・ドレイファス
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2015-12-25

 
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