3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画題名は行

『BACK STREET GIRLS ゴクドルズ』

 犬金組に所属する若きヤクザ、山本健太郎(白洲迅)、立花リョウ(花沢将人)杉原和彦(柾木玲弥)の3人は、組の為に働くことを心に誓い、組長の為に敵対組織に討ち入りをかけるが失敗。その落とし前をつける為、組長(岩城滉一)の思いつきで性転換&全身整形をほどこされ、女子アイドルユニット「ゴクドルズ」のアイリ(岡本夏美)、マリ(松田るか)、チカ(坂ノ上茜)としてデビューすることになってしまう。原作はジャスミン・ギュの人気漫画『Back Street Girls』でアニメ化もされている。監督は原桂之介。
 冒頭の「東映」マークがすごくいい感じに「東映」。正に往年のヤクザ映画のようなオープニングなのだが、一気に明後日の方向へ転がっていく。アニメ版はショートコントの連打みたいなテンポの良い笑いだったが、実写版である本作はもうちょっと尺長めの笑いの設定。フォーマット、映像化方法が違うことでそれぞれ別の面白さが出ていてどちらも息抜きに丁度良い長さと楽しさ。漫画の実写化としての一つの正解だと「思う。
 不思議なことに、実写化作品である本作の方が「ヤクザを性転換して女子アイドル化」という設定の無茶さがそんなに無茶じゃないように見えてくる。男性ヤクザ時の3人がそんなにゴツくなくそこそこイケメンなので、これはひょっとしてひょっとするアリなのでは・・・という気にならなくもない。アニメで一回見ているから設定に慣れたというのもあるんだろうけど。ゴクドルズの3人の「元ヤクザの男」としての動きがかなり様になっていたというのも大きい。歩き方や座り方の雑さがいい!この3人は間違いなくベストアクトだろう。ただ、生身の人間が演じていると、組長がすごく特殊な性癖の人に見えちゃったり、3人の弟分のパンツの件が生々しくて笑えなかったりという微妙さも出てくるのだが。また、ヤクザなのかアイドルなのか、男性なのか女性なのかという葛藤がギャグではなくシリアスに寄せられるのも、生身の人間が演じる実写だからこそだろう。マリと医者のエピソードとか、色々と複雑かつ微妙な問題孕んでるもんね・・・。
 アクションが予想外に派手で、あっ東映ぽいな!という感じがした。冒頭の「出陣」と後半の「出陣」がリンクしているあたりがにくい。チープではあるが決める所はしっかり決めてくる。クライマックスですごくかっこよく収まりそうなところ、一気にアホな方向に落とすのはコメディとしての矜持か。なお私はマリ推しなので、彼女に高価なプレゼントが増えることを切に願います。皆、ブランドコスメとか差し入れてやりなよ・・・。


『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』

 タンゴ界に革命を起こし、20世紀を代表する作曲家の1人、またバンドネオン奏者として知られるアストル・ピアソラ。残された演奏映像、そして彼の伝記を書いた亡き娘ディアナによるインタビュー音声やホームビデオの映像から彼の人生を辿るドキュメンタリー。案内役は存命している息子のダニエル・ピアソラ。監督はダニエル・ローゼンフェルド。
 生前のピアソラの映像をこんなにまとめて見たのは初めてかもしれない。演奏姿はもちろん、プライベートの姿もなかなかかっこよかった。プライベートと思われるホームビデオ的なものがかなり残っており、元妻や子供たちの姿も記録されている。演奏している時やインタビューの時はちょっとアクが強くて気難しそう。また、結構乗せられやすく、流行りものに弱かったのかなという印象もあり、いい感じの俗っぽさがある。また、家族の前ではふざけてお茶目な姿を見せている。しかし息子のダニエルが21歳の時、ピアソラは突然家を出てしまう。ホームビデオの印象からは、家族を愛していることは愛していたんじゃないかと思うけど、家族は非常にショックを受け、元妻は鬱になってしまったそうだ。ダニエルは後に父親と共演する機会もあったが、ずっとわだかまりは残ったままだった様子。
 本作がどこか痛ましいのは、このダニエルの父親に対する割り切れなさが色濃く出てしまっているからではないか。冒頭、ピアソラの回顧展をダニエルが内覧するシーンから始まるのだが、表情が微妙。娘・ピアソラとディアナとの関係は、インタビューに応じるくらいには回復していたみたいだから、取り残された気分もしたのかもしれない。ピアソラはディアナについて「男だったらバンドネオンを教えたかった」(何で娘だとダメなんだよ、というツッコミは入れたくなった。アルゼンチン音楽業界ってそんなに保守的なの?)とコメントしており、結構評価していたのだろう。それを聞いちゃうと息子としては辛いんじゃないだろうか。ピアソラとしては息子も娘も彼なりに愛していたんだろうけど、子供側としては全然足りていなかったんじゃないかという気がした。
 ピアソラ自身は、献身的な父親に支えられ、強い信頼関係があったようだ。そういった関係を自分の息子とは築けなかったというのは(多分ピアソラ本人に原因があるんだろうけど・・・)皮肉だ。父息子の関係の影が二重に見えているから、余計に微妙な気分になる。

レジーナ劇場のアストル・ピアソラ 1970
アストル・ピアソラ五重奏団
BMGメディアジャパン
1998-10-14


ピアソラ:ブエノスアイレスの四季
新イタリア合奏団
マイスター・ミュージック
2017-08-25


『バルバラ セーヌの黒いバラ』

 シャンソン界の伝説的歌手バルバラを演じることになった女優ブリジット(ジャンヌ・バリバールは、彼女になりきろうと歌声や動作などを完璧に真似して取り込もうとしていた。監督のイヴ・サンド(マチュー・アマルリック)はバルバラに関する資料を集め、彼女を知る人たちへの取材を重ねていく。そして撮影がスタートした。監督・脚本(フィリップ・ディ・フォルコと共作)はマチュー・アマルリック。
 実在したシャンソン歌手バルバラの当時の映像も使いつつ、バルバラの伝記映画の「中」と「外」(撮影現場)を見せていく。いわゆるストレートな伝記映画ではない。有名なシャンソンが多数使われており、バリバールによる歌声も見事な音楽映画としての楽しさがある。そして何より、映画(を作る事・出演すること)の映画として素晴らしかった。作中映画の中のシーンと撮影現場のスタッフや俳優たちのシーンはかっちり切り分けられているわけではなく、シームレスに移動していく。これはバルバラを演じるブリジットなのか、バルバラ本人の過去の姿なのか、見せ方は曖昧なのだ。このシームレスな移動を自由闊達にこなしていくように見える、バリバールの演技が素晴らしかった。今年一番の女優映画を見た気がする。私は元々バリバールが好きで彼女のアルバム(音楽活動もしている人なので)も持っているくらいなんだけど、本作の彼女は最高。ブリジットの衣装もバルバラの衣装も素敵だった。
 映画内映画という入れ子構造の作品だが、監督のアマルリックが俳優としても出演しているという点で、また入れ子感、メタ映画感が強まる。結構複雑かつ奇妙な構成をこなしている作品なので、アマルリックは監督してかなり腕を上げたなと再認識した。俳優としても、ブリジットを見つめるイヴの表情が毎度素晴らしい。今そこに撮るべきものがある、美しいものを見ているのだという憧れが滲む。イヴがブリジットを見るまなざしであり、監督アマルリックが女優バリバールを見るまなざしが重層的に表れていると言えるだろう。バリバールは歌手活動を行っているので、ここでもまた重層的になっている(バルバラも映画に出演したことがある)。
 ブリジットとバルバラは映画撮影が進むうちにどんどん入り混じっていくように見える。が、当然のことながら2人は別の存在だ。序盤、ブリジットは「散歩をしたいから」と迎えの車から降りる。後の作中映画の中で、バルバラは「(ツアー先で)観光も散歩もしたくない」と言う。感じ方が逆なのだ。バルバラは母親と不仲だったようだが、ブリジットと母親役の女優が、撮影が終わると仲良さそうに話し合っているシーンもあり、シームレスではあるのだが、「内」「外」は意識させる部分が随所にある。

さすらいの女神(ディーバ)たち [DVD]
マチュー・アマルリック
紀伊國屋書店
2012-05-26


黒いワシ~バルバラ・ベスト
バルバラ
ユニバーサル ミュージック
2017-10-25


『ヘレディタリー 継承』

 2人の子供を持つアニー・グラハム(トニ・コレット)は老齢の母エレンを亡くした。母に対して複雑な感情を持ちその死を悲しむことが出来ないアニーだが、葬儀はつつがなく終わった。しかしグラハム家に奇妙な出来事が起こり始める。徐々に家族の関係は悪化していくが。監督はアリ・アスター。
 前評でとにかく怖いと聞いていたのだが、ホラーが苦手な私でも大丈夫な程度ではあった。ただ、これはホラーとしての怖さが予想ほどではなかったということであって、別の怖さがしっかりとある。怖さというよりも嫌さという方が近いかもしれない。ミヒャエル・ハネケ監督の諸作に近いものを感じた。ハネケ監督作と『普通の人々』(ロバート・レッドフォード監督)をドッキングしてホラーのフォーマットに押し込んだみたいな、実に嫌、かつ完成度の高い作品だと思う。
 アニーは子供たちを愛してはいるが、その愛を何かが邪魔しがちだ。長男ピーター(アレックス・ウルフ)に対しては自分の母に男児の出産を強要されたという恨みがあり、関係はぎこちない。パニックになった時に「産みたくなかった」と漏らしてしまい、更に関係は悪化する。またチャーリーにはもう少しストレートに愛情を示しているが、彼女を「母(エレン)に差し出した」ことに罪悪感がある。エレンはアニーに対して支配的で、孫の養育にやたらと拘っていた。アニーは自分やピーターへの干渉を避ける為、チャーリーの養育にはエレンを関わらせたのだ。
 アニーと家族との関係の邪魔をしているのがエレンであり、アニーはその存在を愛しつつも恐れている。同時に、アニーは自分が母=エレンのようになったらどうしようという恐怖に苛まれている。エレンの一族には精神を病んだ人が複数おり、エレンもまた晩年は双極性障害を患っていたのだ。自分も自分の親のようになったら、自分が苦しめられたように自分の子供を苦しめるようになったらどうしようという恐怖は、さほど珍しくなくその辺の家庭にあるものではないかと思う。
 一方、ピーターにとっては自分は母親に愛されていないのではないか、憎まれているのではないかという思いが拭えずにいる。過去のとある事件が双方にとってトラウマになっている(そりゃあトラウマになるな!というものなのだが)のだ。子供にとって自分の親に愛されないというのは相当な恐怖ではないかと思う。父親スティーブ(ガブリエル・バーン)は2人の間をとりなそうとするが、あまり上手くいかない。これもまた、さほど珍しくなくその辺の家庭にありそうな状況なのだ(なお明示はされないのだが、ピーターはスティーブの実子ではなくアニーと別の男性の間の子なのかな?という気もする
)。
 オカルト的な、人知の範疇外の怖さは後半に募ってくるが、前半の普通と言えば普通の家庭内の不調和、家族と言えど圧倒的な他人であるという状況の不穏さがただならぬ気迫で迫ってくる。超常的なものが相手だと、人間じゃないならまあ仕方ないな!という諦めがつくのだが、同じ地平にいるのに薄気味悪いというのが何とも言えず嫌なのだ。
 アニーはドールハウス作家なのだが、ドールハウスの拡大がそのままグラハム家の情景にスライドしていく冒頭からして怖い。グラハム一家は何者かにとってコントロールされる駒、おもちゃに過ぎないように見える。アニーはドールハウスで自分史を再現しようとしており、その再現度はちょっとやりすぎなくらいなのだが、箱庭療法的にやらずにはいられないのだろう。

ハッピーエンド [Blu-ray]
イザベル・ユペール
KADOKAWA / 角川書店
2018-08-03


普通の人々 [DVD]
ドナルド・サザーランド
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2010-11-26


『ポリスストーリー/REBORNE』

 2007年、香港。国際捜査官のリン(ジャッキー・チェン)は重病で入院中の娘に会えないまま、証人警護作戦に駆り出される。対象は遺伝子工学者で、犯罪組織に狙われていた。早急に作戦を開始するものの、襲撃されたリンは瀕死状態になってしまう。そして2020年、シドニー。大学生のナンシー(オーヤン・ナナ)はひどい悪夢に悩まされ、魔女と呼ばれる呪い師に助けを求めるほどだった。魔女から有名な催眠術師を紹介されたナンシーは、彼の公演会場を訪ねるが、謎の組織が彼女をつけ狙う。監督・脚本はレオ・チャン。
 ストーリー展開も設定も非常にユルく、一見SFぽいのだがSF要素が瀕死状態。遺伝子工学ってそういうことだっけ?とか、その情報どこから手に入れたの?その要塞なに?とか突っ込み所満載。基本設定がとにかく雑なのだ。悪の組織が非常に分かりやすく悪の組織っぽい恰好をしており、日曜朝の特撮タイムを連想してしまった。今時これやります?!というちょっと古びた要素だらけなのだ。2018年の作品とは思えない。
 しかし珍作ではあるかもしれないが、つまらないわけではない。ジャッキーはやっぱりスターなんだなと思える。年齢が年齢だから全盛期のようなアクションは当然できないわけだが、今のジャッキーがやるとしたらどういう「面白いアクション」が出来るのか、失われたスピードや飛距離を補う為にどうするのか、ずっと考え続けているんだろうなと思う。脇の甘い映画でも、ジャッキーの奮闘を見ていると何となく納得できてしまうのだ。
 アクションのスピードとキレは、リンの部下スー役のエリカ・シアホウが見せてくれる。軽やか、華やかでくるくる回る姿も楽しい。また、ナンシーにちょっかいをかける青年リスン(ショウ・ルオ)がコミカルさを添える。彼の的確すぎる先回りには何かすごい伏線があるのでは?!と思っていたら案外普通だったけど。
 エンドロールはちゃんとNG集。これを見ていると、珍作だと思ってみていたのに、何かいい映画を見たような気分になるのが不思議だ。

ポリス・ストーリー 3 <完全日本語吹替版> [Blu-ray]
ジャッキー・チェン
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2015-04-28


香港国際警察 NEW POLICE STORY [DVD]
ジャッキー・チェン
ジェネオン・ユニバーサル
2012-06-20




『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』

 アメリカからイギリスに帰国したニュート・スキャマンダー(エディ・レッドメイン)は、アメリカ合衆国魔法議会が幽閉していた悪しき魔法使いグリンデルバルド(ジョニー・デップ)が逃げ出したことを知る。グリンデルバルドがクリーデンス(エズラ・ミラー)に接触しようとしていると知ったイギリスの魔法議会はクリーデンスをいち早く捕獲・抹殺しようとする。ホグワーツの校長アルバス・ダンブルドア(ジュード・ロウ)はクリーデンスを助けろとニュートに命じる。ニュートはパリへ向かうが、ティナ(キャサリン・ウォーターストン)もまた闇払い師としてパリに出向いていた。監督はデビッド・イェーツ。
 ハリー・ポッターシリーズの原作者J・K・ローリング自ら脚本を手掛けているが、ハリー・ポッター初期と比べると、ストーリー作り、世界観作りの腕を格段に上げたんだなと納得。魔法同士の整合性が取れている!最初のうちは思いつきに思いつきを重ねるような印象があったが、流石にそれはもうない。私は映画シリーズや原作シリーズのファンというわけではないのだが、奥行のある世界を作れるようになったことはすごくよくわかった。時代設定をここに持ってきたというのも上手い(が、この先考えるとちょっと辛いよね・・・)。グリンデルバルドの演説が何を意味するのか、より明らかだろう。
 魔法動物たちの造形が相変わらずかわいいし、前作よりも見せ方が洗練されてきているように思った。序盤で出てくるシーホース的な生き物にしろ、サーカスの動物たちにしろ、近づきたい!触ってみたい!という気分にさせられる。私は今回2Dで見たのだが、3Dだとより触りたくなるかもしれない。
 魔法動物たちはとてもかわいく楽しいのだが、前作からのファンにとってはちょっと辛いストーリー展開かもしれない。彼にしろ彼女にしろ、選ぶ道とそこに至るまでの経緯が見ていていたたまれない。愛されたい・理解されたいと切実に欲している人は付け込まれやすい。そしてそこに付け込む奴の性質の悪さ!許せないやり方だよな。
ニュートと兄の関係がハグのシーンに如実に現れていてちょっと面白かった。ニュートの動きが、ちゃんと「ハグ(というかおそらく身体的な接触全般)が苦手な人」のものだった。動きが硬い。

ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅 [DVD]
エディ・レッドメイン
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
2018-10-03



『ボーダライン:ソルジャーズ・デイ』

 アメリカで一般人15人が死亡する自爆テロ事件が起きた。犯人はカルテルの手引きによりメキシコ経由で不法入国したと政府は睨み、CIAへ任務を課す。CIA特別捜査官マット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)は、カルテルに家族を殺された過去を持つアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)に協力を仰ぐ。麻薬王レイエスの娘イザベル(イザベラ・モナー)を誘拐して敵対組織の仕業と見せかけ、麻薬カルテル同士の争いへ発展させる計画を秘密裡に実行するが。監督はステファノ・ソッリマ。
 前作はドゥニ・ビルヌーブが監督だったが、ソッリマに交代。また前作は音楽をヨハン・ヨハンソンが手がけたが、彼が亡くなったことで弟子筋のヒドゥル・グドナドッティルが担当という、引き継ぎが相次ぐ案件だった。しかしさほど前作の雰囲気から外れていない。ストーリーテリングからはビルヌーブの奇妙かつ粘着質な手癖が薄れストレートになったが、音楽の雰囲気はびっくりするほど引き継がれている。個人的にはむしろ本作の方が好きかもしれない。三部作構想だそうなので、次作もちゃんと作られると嬉しい。
 前作は捜査官が異世界に迷い込み、アレハンドロが歩む煉獄を垣間見るような構造だったが、本作でもアレハンドロは相変わらず煉獄を歩き続けている。そして課された任務のせいで地獄度がより高まっている。行っても行ってもまだ地獄!そして帰る場所などないのだ。一方、マットもまた地獄を歩むことになる。上司から責任を丸投げされ、自分の仲間も倫理も切り捨てろと迫られる。政府の高官からCIAの責任者へ、そしてエージェントへとどんどん責任を丸投げされていく過程が悪夢のようだ。投げてくる側は気楽なもんだよな!中間管理職としてのマットの苦しみが辛い。また、麻薬王の娘として生まれたイザベルは、本人の意思とは関係なく、修羅の道を歩むことになる。そもそも選択肢がないのだ。不遜な態度だった少女が、終盤で見せる抜け殻のような表情が痛ましかった。
 本作でのデル・トロはもはや人間ではないような、一度死んで何か別の者としてこの世に戻ってきたかのような、胡乱かつ不気味な存在感を放つ。ラストにはしびれた。洋画の邦題というと映画ファンからは非難されるケースが多いが、このシリーズに関しては的を得ていると思う。全員が何らかのボーダーを越える、あるいは越えない瞬間を捉え続けているのだ。そこを越えたら元には戻れない、という緊張感がみなぎっている。


犬の力 上 (角川文庫)
ドン・ウィンズロウ
角川書店(角川グループパブリッシング)
2009-08-25



『パッドマン 5億人の女性を救った男』

 インドの小さな村で機械工をしているラクシュミ(アクシャイ・クマール)は愛する妻の為、安価な生理用ナプキンを手作りしようと思い立つ。インドではまだ生理用品は高価で、多くの女性はボロ布等で対処しており、感染症を起こす人も多かったのだ。研究とリサーチを重ねるラクシュミだが、生理を穢れと見なす伝統的な社会の中では彼の行動は奇行と見なされ、とうとう村を追われてしまう。それでもナプキン作りを続ける彼の前に都会育ちの女性パリーが現れ、彼に協力すると言う。監督はR・バールキ。
 実話を元にした映画だが、2001年の設定の話だということに驚いた。この時点でナプキンの普及率が12%だという。また、舞台が田舎だからということもあるだろうが、生理中の女性を穢れたものとして扱う風習が根強く、かなり退いてしまった。室内に入れないし、仕事にも学校にも行けない。ラクシュミとしては妻といつも一緒にいたいのだが、母に怒られてしまう。
 こういう環境の中でのラクシュミの行動は、周囲からはかなり奇妙に見えたろうし、積極的に生理用品に関わろうとするのは不浄・不吉と非難される。それをあんまり気にしていないように見える所が面白い。彼は無宗教というわけではないが、合理的で迷信を気にしない。また機械にしろ何にしろ、どういう仕組みになっているかよく観察し自分で再現してみるDIY精神が旺盛。こういう人だから臆せず取り組めた、同時に周囲から変人扱いされたんだなと納得できるエピソードで前半は占められている。全体の構成はやや散漫で緩急に乏しい印象を受けたが、ラクシュミの人となりはよくわかるのだ。
 ラクシュミが生理用ナプキン開発に乗り出すのは、妻が感染症を起こしては大変だという個人的な事情からで、最初はインドの女性たち全体のこととしては考えていなかっただろう。しかし妻と引き裂かれた後、他人の為になることをしたい、世の中をよくしたいという気持ちで動き続ける。彼が世界を広げていくというのが後半のストーリー。国連の会議に招かれて披露する英語のスピーチは、決して流暢ではないが感動的。
 インドの多くの女性は生理期間中は学校に行けないし仕事も出来ない。学ぶ/働く機会が失われてしまうし、継続的に学ぶ/働くことが難しくなる。ラクシュミは最初女性が置かれている環境がどういうものか、さほど考えていなかったと思う。しかしナプキン製造をすることは女性と関わり、彼女らの意見を聞くことであり、更に販売も女性がやった方が顧客の抵抗が少ないのだと知っていく。ナプキン作りが女性の快適さや自由さを広げると同時に、雇用も広げていくのだ。彼の善意と情熱が広がっていく様が気分いい。

マダム・イン・ニューヨーク [DVD]
シュリデヴィ
アミューズソフトエンタテインメント
2014-12-03


めぐり逢わせのお弁当 DVD
イルファーン・カーン
東宝
2015-03-18


『ボヘミアン・ラプソディ』

 世界的ロックバンド、クイーンの結成から、20世紀最大のチャリティコンサート「ライブ・エイド」での伝説的なパフォーマンスに至るまでを描く伝記映画。ボーカルのフレディ・マーキュリー(ラミ・マレック)、ギターのブライアン・メイ(グウィリム・リー)、ドラムのロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)、ベースのジョン・ディーコン(ジョセフ・マッゼロ)から成るクイーンは、斬新な音楽とパフォーマンスで一躍スターになるものの、其々の方向性の違いやフレディへのソロ活動の誘いで分裂状態に。しかし「ライブ・エイド」への出演を決意し、再度力を合わせる。監督はブライアン・シンガー。
 クイーンというバンドの熱心なファンがどう受け止めるのかはわからないが、見ていてとても楽しかったし気分が盛り上がった。本作最大の功労は、楽曲の強さを再発見できたというところにあるのではないだろうか。全く古びていない。一緒に歌いたくなるし足を踏み鳴らしたくなるし拳を突き上げたくなる。レコーディングシーンがどれも心浮き立つのは、新しい音楽を作る楽しさ、聴く喜びが実感出来るからだ。それが最高まで極まるのがラスト20数分のライブ・エイドのシーン。この時のクイーンのパフォーマンスが神がかっていたという話は聞いたことがあるが、映画内のパフォーマンスも見ていて涙が出そうになるくらい気分がいい。不思議なもので、多分当時の実際の映像を見てもこれほどぐっとこないのではないかと思う。「お話」のクライマックスとして見ているから余計に気分が盛り上がるという面が少なからずあるのでは。
 ライブ・エイドで既に「過去の人」ポジションだったクイーンだが、演奏が始まると観客の合唱が聞こえ始める。これに鳥肌が立った。クイーンは良く知らなくてもクイーンの曲は何かしら知っていて歌える、というところが凄いのだ。クイーンのステージの選曲がちゃんとフェス向けになっているのもぐっときた。スタッフがステージセットの裏や骨組みの上部ですごく楽しそうにしているのも素敵。いい盛り上がり方させてくれるな!
 史実とは少々異なる部分もあるそうなので、以下言及するクイーンおよびメンバーはあくまで本作中のものを指す。フレディは出っ歯であることに強いコンプレックスを持っていたそうだが、本作のフレディはちょっと歯出過ぎじゃない?!というくらいに出っ歯が強調されている。平素から、口元の動きが出っ歯を気にしている人のものになってしまっているのが何だか切なかった。出っ歯など全く問題にならない声とパフォーマンスのかっこよさなのだが、癖がなかなか抜けないのだ。彼はなりたい自分になろうと努力し続ける人だったが、途中でそれを見失ってしまう。終盤、ライブ・エイドに向きあうことで、ようやく本来の自分となりたい自分とに折り合いがつくように見えた。当時、インド系でありゲイであるという属性は相当生き辛かった(世間的にもだけど、家族との関係がすごい大変そう・・・実際作中ではライブ・エイド直前まで会ってなかったし)だろうから、そのあたりちょっとさらっと描きすぎてないかなという気はする。とは言え、本作の主役はあくまでクイーンの楽曲と考えると、このくらいでいいかなとも思う。
 フレディ中心のストーリー運びだが、予想以上にバンド映画として楽しかった。この面子で音楽を作ることがなんて面白い(が時に苦しい)のか!という高揚感が伝わるレコーディングの様子がとても良かった。全員何か可愛いんだよね・・・。
 

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2004-11-17


『ファイティン!』

 子供の頃に韓国からアメリカへ養子に出されたマーク(マ・ドンソク)はアームレスリングチャンピオンを目指したものの八百長疑惑を掛けられ、今はクラブの用心棒に。自称スポーツエージェントのジンギ(クォン・ユル)の口車に乗せられ、祖国に戻ってアーレスリングに再び挑むことになった。実母の家を訪ねると、初めて存在を知った妹スジン(ハン・イェリ)と子供たちが住んでいた。一方、ジンギはスポーツ賭博を仕切るチャンス社長にマークのスポンサーになってほしいと頼むが、八百長への加担を迫られる。監督・脚本はキム・ヨンワン。
 どストレートでひねりのない話なのだが、王道だからこその面白さがあった。感動は大いにあるが湿っぽくならず、基本的にカラリとしているのもいい。マ・ドンソクの魅力が存分に発揮されており、彼が演じるマークの、見た目はいかついが生真面目で心優しい所、口下手で不器用な所がとてもチャーミング。老若男女、家族連れでも楽しめる作品だと思う。
 ストーリーはさくさくと進みコンパクトな構成。序盤、あっという間に韓国へ舞台が移るし、マークとジンギがどういう経緯で兄弟分になったのか、マークはどういう人生を送ってきたのか(養父母について殆ど言及されない)等は具体的には殆ど説明されない。割愛してかまわないところはざっくり割愛しており、テンポの良さが重視されているように思った。割愛されたことで物足りなさを感じることもない。ちょっとしたやりとりや表情で、彼らの関係や過去は何となく想像できる。過不足のない見せ方になっていると思う。
 マークは自分は母親に見放された、不要な存在だったのではないかという気持ちを拭えずにいる。彼がなかなか実家を訪ねられないのには、そういった躊躇があるのだ。またジンギは実父に対して複雑な思いがあるし、シングルマザーであるスジンは子供たちを愛しているものの時々逃げ出したくなると漏らす。皆、家族という形について何かしら不安を持っていたり、わだかまりを抱えていたりする。そんな人達が助け合うようになり、徐々に家族のような絆を築いていく。マークがアームレスリング選手として再起を賭けるスポ根物語であると同時に、家族を失った彼(ら)が再び家族を得る、ファミリードラマとしての側面もある。2本の軸が相互に機能して物語を進行していく、手堅いストーリーテリングだった。血縁を超えた家族的共同体というモチーフは、近年色々な国の映画で見かけられるようになったが、世界的な流れなのだろうか。
 アームレスリングというぱっと見てわかりやすい、見た目がシンプルな競技を選んだのは正解だったと思う。前述した余計な説明はしないという本作の見せ方の方針に合っている。盛り上がりも強さの度合いも、見ていればとりあえずわかるところがいい。競技説明にかける時間を省略できるのだ。

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2018-10-02


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