3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画題名は行

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』

 悪のカリスマである恋人・ジョーカーと破局したハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)は、町中の悪党から狙われるようになる。いわくつきのダイヤを盗んだ少女カサンドラ(エラ・ジェイ・バスコ)を巡り、街のクラブを仕切る悪党ブラックマスクことローマン・シオニス(ユアン・マクレガー)と対立することに。クラブの歌姫ブラックキャナリーことダイナ(ジャーニー・スモレット=ベル)や殺し屋のハントレスことヘレナ(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)、そしてシオニスを追い続けてきた刑事モントーヤ(ロージー・ペレス)と結託し起死回生を図るが。監督はキャシー・ヤン。
 DCの女性主人公映画というとワンダーウーマンが評判だったが、本作はワンダーウーマンに感じたひっかかり、つまり女性主人公はセクシーで美しく男性と恋愛しないとダメなのか?という点を克服している。女性が主人公のアメコミ映画を今作るならどうやるのか、ということがすごく考えられていると感じた。ハーレイ・クインといえばジョーカーの恋人で、当人も言及するように彼の為に悪の道に入り彼に尽くすというキャラクターだった。彼女の仕事は彼の為、彼女の功績は彼の功績になる。この点は男性上司に手柄を横取りされてきたモントーヤと通じるものがある。
 しかし本作では早々にハーレイ・クインとジョーカーは破局している。最初はショック状態だった彼女だが、段々彼を思い出すこともなくなり、自分の為に行動し始める。そして新たなロマンスは生まれない。異性からの愛とか、異性に対する支えとか献身とかは投げ捨てている。更に、カサンドラに対しても母性とか「女性ならでは」の動機付けではなく行きがかり上、ひいては仲間意識や友情というスタンスで接する。また、協力関係になるダイナらとも、いわゆるファミリー的な仲間意識ではなく、たまたま目的が同じ・敵が同じだから協力するというスタンスで、ミッションが終われば意外とあっさり解散で尾を引かない。関係性の中にヒエラルキーが希薄なのだ。この困ったことがあれば助け合うが基本あっさりとしている関係性が好ましいし、実際女性同士の連帯ってこういう感じだよなという手応えがある。本当に女性たちの物語なのだ。
 対して敵のシオニスは、男性同士でつるむホモソーシャルな(多分にミソジニーを含む)関係の中におり、更にマフィアの御曹司だが一族のみそっかすという父権的ヒエラルキーから抜け出せない人物。対称的なのだ。ハーレイらの魅力は、シオニスが所属しているような格付けの世界から自由であるところ、何かに所属することを拒む所にあると思う。

ハーレイ・クイン&バーズ・オブ・プレイ (ShoPro Books)
ポール・ディニ他
小学館集英社プロダクション
2020-03-12


スーサイド・スクワッド(字幕版)
アダム・ビーチ
2016-11-23


 

『ペスト』

カミュ著、宮崎嶺雄訳
 アルジェリアのオラン市でペストが流行し始める。医師のリウーは病気の妻を転地の為に送り出し、自身は病に倒れる人たちを助ける為に奔走する。しかしペストは広がり続け、リウーをはじめ治療に携わる人たちは疲弊していく。
 新型コロナウイルス流行に伴いにわかに注目されたカミュの作品。確かに今読まないとこの先読み逃し続ける気がしたので手に取った。どちらかというと抽象・観念的な小説かと思ったら、むしろルポルタージュ的な、記録小説的なタッチで意外。他のカミュ作品と比べても大分リアリズム寄りなように思う。疫病が蔓延し始めたら人びとはどのように行動するのか、行政は、医療はどうなるのか、ちゃんと想定して書かれている。特に集団がどのように動くかという部分には、今まさにリアルタイムで体感しているものだと感じた。感染対策にちょっと疲れた人たちの気が抜けてやや浮かれちゃうところとか、なかなかリアルだ。追い詰められた状況で人の高潔さが現れる、が、むしろそれ以上に暴力性や愚かさが目立ってしまう。ペスト流行の中に自分の居場所を見つけてしまう(つまり病気の恐怖の元では皆平等だから)男の姿には危うさを感じた。

ペスト (新潮文庫)
カミュ
新潮社
1969-10-30


『初恋』

 将来有望志されているボクサーの葛城レオ(窪田正孝)は、試合で予想外のKO負けをした。病院へかつぎこまれた彼は、余命わずかと告げられ呆然とする。歌舞伎町をふらついていた彼は、男に追われる少女モニカ(小西桜子)を助けるが、彼女はヤクザに追われていた。レオはなりゆきでモニカと共にヤクザに追われることになる。監督は三池崇史。
 三池監督、久々の快作ではないだろうか。アバンの流れの良さと題名が出るタイミング、全般的なテンポの軽快さ、ブラックユーモアとアクションとバイオレンスのバランスがいい。血肉とおかしみの過剰さで見落としがちだが、手堅くオーソドックスな映画の作法を守っている監督なんだよなと再確認した。ショットのつなぎ方とか、ちょっと懐かしい「映画」(本作は東映映画なのだが、本当に東映ぽい)だ!と実感させるものがある。ちょっと古臭いのではと思われそうな演出をきちんとやっていくという、律儀な作品とも言える。
 ブラックユーモアや盛りの良いアクションが前面に出ているものの、本作はちゃんと「初恋」の話で、ど直球なボーイミーツガール。茶化さず大真面目にラブストーリーをやっており、その一方でゲラゲラ笑えるところがいいのだ。ラブストーリーといってもいわゆる恋というよりも、もうちょっと幅の広い意味合いの愛情がレオとモニカの間にあるように思えた。そもそも2人の関係は、たまたまそこに居合わせただけというものだ。しかしレオが彼女の為に何かをしようと決意し、モニカがレオに助けを求めようと決めた時、関係が動き出す。
 この人でないと絶対駄目だ、という情熱的な関係は、むしろやくざの頭・権藤(内野聖陽)とチャイニーズマフィアのタン・ロン(三元雅芸)の間にあったように見える。こいつは必ず俺が殺すというお互いへの執着はもはや恋。また、ジュリ(ベッキー)の暴走特急のような愛による復讐劇はもはや清々しい。ベッキーは本作中ベストアクト、彼女のフィルモグラフィーにおいてもベストアクトではというくらいの切れの良さだった。こんなに体の動く人だったのかという発見があってすごくうれしくなった。
 俳優が皆好演している。いまだに初々しさを失わない主演の窪田、小西(新人だそうだが役柄にすごくはまっており良い)はもちろんだが、その他も豪華。若手ヤクザ役の染谷将太の軽さ・コミカルさはもちろん、昔気質の渋いヤクザを演じる内野がちょっとしたところで見せるユーモラスさ(スマホの使い方教えてもらうところとか)もいい味が出ている。またヤクザの親分代行役の塩見三省はちょっと間が抜けているのにやたらと色気がある。あの手袋の外し方、漫画でしか見たことがないやつだよ!


ケータイ捜査官7 Blu-ray BOX
バンダイナムコアーツ
2020-01-28


『ハスラーズ』

 祖母と一緒に暮らし、生活の為にストリップクラブで働き始めたデスティニー(コンスタンス・ウー)は、店の稼ぎ頭ラモーナ(ジェニファー・ロペス)と親しくなる。ラモーナからストリッパーとしての稼ぎ方を学び、安定した稼ぎを得ることができるようになった折、2008年にリーマンショックが起きた。経済は冷え込み、クラブにも閑古鳥が鳴くようになる。ラモーナは経済危機を起こした張本人であるウォール街のエリートたちから、大金をだまし取る計画を立てる。監督はローリーン・スカファリア。
 タフでゴージャスなラモーナに導かれてデスティニーが自信をもって輝いていく様も、彼女らが疑似家族のようになっていく様もキラキラしている。ジェニファー・ロペスのかっこよさ、頼もしさと相まって見ていてエンパワメントされるという評判も納得。ただ、そのキラキラも高揚感もつかの間のものだ。
 ラモーナらは金融街の「悪どい」エリートたちから金をだまし取ろうとする。リーマショックの経緯を知らなくても彼女らが景気良くミッションをこなしていく様は爽快だ。彼らのゲームではなく自分たちのゲームに彼らを引きずり込み、勝つのだから。しかし彼女たちがやっていることは、「奪い取る」という点では彼らと同種のゲームだと言えるだろう。そして景気がまだ良い時ならともかく、獲物を選べなくなってきたら、情も倫理も切り捨ててより弱い者から奪い取っていかないと生き残れなくなってくる。彼女らが始めたゲームは結局そういうゲームなのだ。生き残る、勝ち組になる為にはそういうゲームに乗らざるを得ないという所がとても辛かった。それ以外の生き残り方ってないのだろうかと。
 ラモーナとデスティニーの友情と思いやりにはぐっとくる。それだけに、ラストはほろ苦い。「私たちは最強だった」という言葉がなんだかやりきれなかった。

ウルフ・オブ・ウォールストリート [Blu-ray]
レオナルド・ディカプリオ
パラマウント
2019-04-24


マネー・ショート 華麗なる大逆転 [Blu-ray]
クリスチャン・ベール
パラマウント
2017-02-08


『プロジェクト・グーデンベルク 贋札王』

 カリスマ性にあふれた犯罪集団のボス「画家」(チョウ・ユンファ)に、贋作づくりの腕を見込まれスカウトされたレイ(アーロン・クォック)は、偽札作りを持ち掛けられる。最新テクノロジーによる複製防止対策をクリアするために腕利きの仲間たちとミッションに挑むが。監督はフェリックス・チョン。
 偽札作りを巡る犯罪映画ではあるのだが、なんだか妙。精緻なミッションに挑むにしてはやることが派手すぎ、よけいなことをしすぎで色々と気になってしまう。何より、「画家」の行動が妙。自分にとっては全く関係ないはずなのに、レイと元恋人の関係に妙に拘る。偽札づくりが成功して富と力を手にすれば彼女を手に入れるはずだとレイを焚きつけるのだ。女性を得ることが成功のステイタス、金と力があれば目的の女性を手に入れられるという思い込み、マッチョ思想に辟易したが、それ以上にレイの人間関係にやたらと粘着するのが気持ち悪い。
 終盤でのあるどんでん返しが明らかになると、なるほどそういうことか!と腑に落ちる。が、それでも気持ち悪いことは気持ち悪いんだよな。具体的な根拠もなく1人の人間にそんなに執着し続けられるものか?一方的な思い入れがずっと維持されていくというところがそら恐ろしかった。一方的な思い入れが空回りして周囲を巻き込んでいるような話だ。それで犯罪映画としての爽快感が帳消しになっちゃうんだよな。

ヒトラーの贋札 [DVD]
カール・マルコヴィクス
東宝
2008-07-11


奪取(上) (講談社文庫)
真保 裕一
講談社
1999-05-14


『his』

 田舎でひっそりと一人暮らしをしている井川迅(宮沢氷魚)。彼の前に元恋人の日比野渚(藤原季節)が幼い娘・空を連れて突然現れる。渚は妻と離婚するため親権の協議中だった。戸惑いつつ同居を始め、周囲の人たちにも受け入れられていく。しかし渚の妻・玲奈(松本若菜)は空を東京に連れ戻してしまう。監督は今泉力哉。
 脚本・演出が非常に丁寧だと思う。迅と渚はゲイのカップルなのだが、それを例外的なものではなく普通のことであり、誰の背後にもそれぞれの普通の生活があるということがちゃんと踏まえられている。迅が暮らす町は、地方の小さい町にしては地元の人たちがかなり寛容で、実際にこういうケースがあったらもっとあれこれ干渉されたり揶揄されたりするんじゃないかと思うけど…。とはいえ、あまり苦しい面ばかりを強調したくない(そこが本筋ではない)という製作側の意図なんだろうし、セクシャリティ云々よりも若い居住者が減る一方だから居住者ゲットの方が大事なんだよ!みたいな過疎化問題もありそうだなと思ったりもした。そう思わせるくらい地に足の着いた生活感のある描写だったということだろう。セクシャリティを隠さざるを得ない環境の苦しさは、会社員時代の迅の飲み会でのエピソードで十分伝わる。表面上はセクシャリティをネタにするのはアウトだという振る舞いだが、一枚めくると「ネタ」扱いで当事者がまさにこの場にいるということ自体が想定されていない。村八分よりむしろこういうマイルドな差別というシチュエーションの方が多いのではないかと思う。
 迅と渚はゲイとして世間の偏見にさらされることを恐れるが、シングルマザーとなった玲奈に対する世間の目もまた厳しい。裁判のシーンでそれが如実に現れる。子供を育てつつ仕事に励む物理的な厳しさ、精神的な厳しさをきちんと描いており、このあたりはバランスがいい。セクシャリティに限らず、世間的に設定されている「普通」に当てはまらない人に対しての風当たりの強さ、不寛容さへの批判がある。玲奈と彼女の母親の関係性の描写を入れたのが効果的(というかこういう親子関係あるよなーという辛さがすごい)だった。母は「世間」代表なのだ。
 「世間」に糾弾される玲奈を見て、渚は彼女もまた苦しんでいることに気付く。渚は迅の元からの去り方にしろ、再会の仕方にしろ、そしておそらく玲奈との関係にしろ、甘えがにじみ出ている。おそらく相手の気持ちや立場をあまり考えない人だったんだなと窺える。そんな彼が急速に大人になっていく様が清々しい。一方で迅も、渚と空と共に生きる為に踏み出す。彼の「賭け」にはぐっときたし、それに対するある人の言葉もぐっとくる。
 子役と犬の芝居が非常に良い。あと猟師役の鈴木慶一がいい味出していたのでファンの方はぜひ。
 
愛がなんだ (特装限定版) [Blu-ray]
岸井ゆきの
バンダイナムコアーツ
2019-10-25



知らない、ふたり (通常版) [DVD]
レン
ポニーキャニオン
2016-09-02


『フィッシャーマンズ・ソング』

 イギリス、コーンウォール地方の港町ポート・アイザック。友人とバカンスに来た音楽プロデューサーのダニー(ダニエル・メイズ)は地元の漁師たちのバンド「フィッシャーマンズ・フレンズ」のライブを見かける。上司から彼らと契約を取れと焚きつけられ、町に残って交渉を始めるが、漁師たちはよそ者への不信感でいっぱい。監督はクリス・フォギン。
 実在の漁師バンドの実話をドラマ化した作品。そんなに達者だったりひねりがあったりするストーリーテリングではないのだが、音楽と舞台に魅力がある。また、フィッシャーマンズ・フレンズのメンバーが皆チャーミングだった。漁師たちの歌はメロディは美しいが、男ばかりの職場で楽しみの為に歌うという側面が強いので、歌詞は結構下世話だったり色っぽかったりする。結婚式でそれを歌うの?!というエピソードには文化の差というか価値観の差というか…。実は嫌がらせ?とも思ったけど他意はなさそうなので笑ってしまう。正直、セクハラだよなと思わなくもないが、そういう文化圏の人たちでもある(ぜひ是正していただきたいけど…)。ロンドンのパブでのエピソードは、仲間と一緒に歌う為の音楽ということがよくわかるもので楽しい。あの歌、老若男女がそこそこ知っているものなんだな。
 信用されるには相手の文化圏に入っていくしかないという話でもあった。ダニーの場合、ある事情から相手の信頼を裏切ってしまう、かつ失望させてしまう。彼は漁師たちにとっての仲間の意味も、地域の価値も、約束の重さも自分の価値観で計ってしまう。それで大失敗するのだ。すれ違いにハラハラするが、相手の価値観、ルールを知ろうとするのってコミュニケーションの第一歩なんだろうなと。都会に住む者から見ると人間関係が密すぎて息苦しそうだったり、ジェンダー観が古いままだったりするが、コミュニティの親密さ、豊かさもある。何より彼らの音楽はそのコミュニティから生まれるものなのだ。

歌え!フィッシャーマン (レンタル専用版) [DVD]
クヌート・エリーク・イエンセン
タキコーポレーション
2003-09-26


シェルシーカーズ〈上〉
ロザムンド ピルチャー
朔北社
2014-12




『フォードvsフェラーリ』

 ル・マンでの勝利を目指すフォード社から依頼を受けたカーデザイナーのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)は、イギリス人レーサーのケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)をドライバーに抜擢する。クセの強い2人はフォード社と軋轢を起こしつつ困難を乗り越え、1966年のル・マン24時間耐久レースを迎える。監督はジェームズ・マンゴールド。
 150分以上とそこそこの長さなのだが、体感時間はそんなに長く感じない。構成に無駄な部分がなく、むしろスピード感がある。レースシーンも、それこそスピードを体感できるような臨場感溢れるもので気分が上がる。わざわざ本物の車を使って撮影したそうで豪華。エンジン音もいいので、音響設備の良い劇場で見ることをお勧めする。しかし何より心に響くのは、シェルビーとマイルズという、2人のはぐれものの絆だ。
 レーサーとして功績を残したが健康上の理由で引退せざるを得なかったシェルビーにとって、マイルズは仕事のパートナーであると同時にもう一人の自分でもある。自分の思いが強くなかなか企業のルールになじめないマイルズへの共感もあるし、自分に出来なかったことをマイルズに託している面もある。フォード側は企業故に確実な成果や広告効果を求める。しかしそれは自己の経験とインスピレーションで動き、自分のやり方を貫きたいシェルビーやマイルズにはそぐわない。世渡り下手なマイルズを守るためにあの手この手でフォードをいなし(結構悪辣なこともやっている…)、「俺のドライバーに近づくな」とまで言い放つシェルビーの奮闘には泣けてくる。これは愛だよなぁと。マイルズへの同胞愛でありレースそのものに対する愛だ。そして最後、シェルビーの思いにマイルズがある行為で応える様にはまた泣ける。その行為は、マイルズにとって命のように大切なものを明け渡すことに他ならないのだ。
 題名からはフォードとフェラーリという2大企業の対決のように見えるが、実際は2人の男が企業の理論と戦うという側面の方が大きく、それゆえほろ苦い。2人の理念はむしろフェラーリ側に近い、つまり企業ではなくレーサーのものだというのが皮肉だ。ル・マンのある局面でフォードの副社長がする提案は、だからお前はフェラーリに馬鹿にされるんだよ!と突っ込みたくなるもの。車のことをよく知ってはいるが、レースのことはわかっていないんだなと。

栄光のル・マン [Blu-ray]
スティーヴ・マックィーン
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2011-05-27

 

『ブレッドウィナー』

 アフガニスタンのカブールに住む11歳の少女パヴァーナ。ある日父親がタリバンに捕まり、母と姉、幼い弟が残され、女性の外出が禁じられている為に買い物にも行けなくなってしまう。パヴァーナは髪を切り男の子の恰好をし、家族を養い父に会う決意をする。監督はノラ・トゥミー。
 『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』『ブレンダンとケルズの秘密』など独自の映像美が強いインパクトを残したアニメーションスタジオ、カトゥーン・サルーンの新作。パヴァーナが語る「お話」は切り絵的な質感。紙人形芝居のような味わいで面白い。立体感や紙の凸凹感まで再現されておりディティールが実に細かい。
 パヴァーナは物語で自分を励まし、家族に起きたある出来事もその一部として受け入れていこうとする。しかし、彼女が生きる社会(2001年のアメリカ同時多発テロ事件後)の中では、女性に生まれた時点で男性に付属した生き方しか残されていない。前述のとおり女性が一人で外出することは禁じられているし、それまで許されていた大学に行くことも禁じられ、文章の読み書きも睨まれる。パヴァーナの父親は教師、母親は作家で、娘たちにも読み書きや歴史、物語ることを教えていた。彼女らにとってタリバンが仕切る世の中は自分たちの価値観、生き方を否定するものなのだ。やむなく外出した女性たちが暴行を受ける様が非常に痛々しく辛い。その中で生きていて、果たして自身の「物語」が介入する余地があるのだろうかと、つい悲観的になってしまう。母や姉の必死の反抗も、この先何かもたらすのだろうかと。個々の人たちはあまりにも無力だ。そういう時に心を支えるのが物語=自分の言葉と言えるのだろうが…。

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた [DVD]
デヴィッド・ロウル
TCエンタテインメント
2017-04-05


ブレンダンとケルズの秘密 【DVD】
エヴァン・マクガイア
TCエンタテインメント
2018-02-02


『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』

 緑谷出久(山下大輝)ら雄英高校ヒーロー科1年A組の生徒たちは、南方の島・那歩島でヒーロー活動の実習をしていた。そんな中、「ナイン」(井上芳雄)と名乗る男が率いるヴィランたちが襲来し、島の施設を破壊していく。原作は堀越耕平の同名漫画、監督は長崎健司。
 多くの人間が何らかの特殊能力を持ち、特に強い能力を持つ人間はプロの「ヒーロー」として社会を守っているという世界が舞台。出久たちはプロのヒーローを養成するための学校に通う学生なのだ。原作もTVアニメシリーズも斜め読み程度なのだが、十分楽しめた。エンターテイメントとしての盛りがよくて、お正月にぴったりの華やかさと楽しさ。特にクライマックスのバトルシーンは特殊作画盛り盛りなのだが、効果音や台詞は一切つけずに絵と音楽のみで魅せたのは大正解だったと思う。
 ヒーローとは何なのかという問いが一つのテーマになっているシリーズなのだろうが、本作でもヒーローに憧れる幼い少年が登場する。彼の能力はいわゆる戦うヒーロー的なものではない。しかし出久は彼のヒーローになりたいという思いを肯定する。何の為に戦うのか、どのように戦うのかは人それぞれ、様々なヒーロー像があるのだと。A組の生徒たちの能力もヒーローとしてのスタイルもまちまち(出番の少ない人もどういう能力なのかちゃんと見せているところが良かった)で、誰かを守りたい、役に立ちたいという人もいるしとにかく強くなりたいという人もいる。そしてその動機はどれも(今のところ)否定されない。その延長線上に「戦う」ことはヒーローの条件なのか?という問いが発生しそうだけど原作では言及されてるのかな?
 ところで昨今「男のクソデカ感情」というパワーワードが散見されるようになったが、本作でもクソデカ感情としか言いようのない感情の発露が見受けられた。爆豪(岡本信彦)君、そんな子だったっけ?!私TVシリーズでは色々見落としてたの?!


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