3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画題名は行

『パッドマン 5億人の女性を救った男』

 インドの小さな村で機械工をしているラクシュミ(アクシャイ・クマール)は愛する妻の為、安価な生理用ナプキンを手作りしようと思い立つ。インドではまだ生理用品は高価で、多くの女性はボロ布等で対処しており、感染症を起こす人も多かったのだ。研究とリサーチを重ねるラクシュミだが、生理を穢れと見なす伝統的な社会の中では彼の行動は奇行と見なされ、とうとう村を追われてしまう。それでもナプキン作りを続ける彼の前に都会育ちの女性パリーが現れ、彼に協力すると言う。監督はR・バールキ。
 実話を元にした映画だが、2001年の設定の話だということに驚いた。この時点でナプキンの普及率が12%だという。また、舞台が田舎だからということもあるだろうが、生理中の女性を穢れたものとして扱う風習が根強く、かなり退いてしまった。室内に入れないし、仕事にも学校にも行けない。ラクシュミとしては妻といつも一緒にいたいのだが、母に怒られてしまう。
 こういう環境の中でのラクシュミの行動は、周囲からはかなり奇妙に見えたろうし、積極的に生理用品に関わろうとするのは不浄・不吉と非難される。それをあんまり気にしていないように見える所が面白い。彼は無宗教というわけではないが、合理的で迷信を気にしない。また機械にしろ何にしろ、どういう仕組みになっているかよく観察し自分で再現してみるDIY精神が旺盛。こういう人だから臆せず取り組めた、同時に周囲から変人扱いされたんだなと納得できるエピソードで前半は占められている。全体の構成はやや散漫で緩急に乏しい印象を受けたが、ラクシュミの人となりはよくわかるのだ。
 ラクシュミが生理用ナプキン開発に乗り出すのは、妻が感染症を起こしては大変だという個人的な事情からで、最初はインドの女性たち全体のこととしては考えていなかっただろう。しかし妻と引き裂かれた後、他人の為になることをしたい、世の中をよくしたいという気持ちで動き続ける。彼が世界を広げていくというのが後半のストーリー。国連の会議に招かれて披露する英語のスピーチは、決して流暢ではないが感動的。
 インドの多くの女性は生理期間中は学校に行けないし仕事も出来ない。学ぶ/働く機会が失われてしまうし、継続的に学ぶ/働くことが難しくなる。ラクシュミは最初女性が置かれている環境がどういうものか、さほど考えていなかったと思う。しかしナプキン製造をすることは女性と関わり、彼女らの意見を聞くことであり、更に販売も女性がやった方が顧客の抵抗が少ないのだと知っていく。ナプキン作りが女性の快適さや自由さを広げると同時に、雇用も広げていくのだ。彼の善意と情熱が広がっていく様が気分いい。

マダム・イン・ニューヨーク [DVD]
シュリデヴィ
アミューズソフトエンタテインメント
2014-12-03


めぐり逢わせのお弁当 DVD
イルファーン・カーン
東宝
2015-03-18


『ボヘミアン・ラプソディ』

 世界的ロックバンド、クイーンの結成から、20世紀最大のチャリティコンサート「ライブ・エイド」での伝説的なパフォーマンスに至るまでを描く伝記映画。ボーカルのフレディ・マーキュリー(ラミ・マレック)、ギターのブライアン・メイ(グウィリム・リー)、ドラムのロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)、ベースのジョン・ディーコン(ジョセフ・マッゼロ)から成るクイーンは、斬新な音楽とパフォーマンスで一躍スターになるものの、其々の方向性の違いやフレディへのソロ活動の誘いで分裂状態に。しかし「ライブ・エイド」への出演を決意し、再度力を合わせる。監督はブライアン・シンガー。
 クイーンというバンドの熱心なファンがどう受け止めるのかはわからないが、見ていてとても楽しかったし気分が盛り上がった。本作最大の功労は、楽曲の強さを再発見できたというところにあるのではないだろうか。全く古びていない。一緒に歌いたくなるし足を踏み鳴らしたくなるし拳を突き上げたくなる。レコーディングシーンがどれも心浮き立つのは、新しい音楽を作る楽しさ、聴く喜びが実感出来るからだ。それが最高まで極まるのがラスト20数分のライブ・エイドのシーン。この時のクイーンのパフォーマンスが神がかっていたという話は聞いたことがあるが、映画内のパフォーマンスも見ていて涙が出そうになるくらい気分がいい。不思議なもので、多分当時の実際の映像を見てもこれほどぐっとこないのではないかと思う。「お話」のクライマックスとして見ているから余計に気分が盛り上がるという面が少なからずあるのでは。
 ライブ・エイドで既に「過去の人」ポジションだったクイーンだが、演奏が始まると観客の合唱が聞こえ始める。これに鳥肌が立った。クイーンは良く知らなくてもクイーンの曲は何かしら知っていて歌える、というところが凄いのだ。クイーンのステージの選曲がちゃんとフェス向けになっているのもぐっときた。スタッフがステージセットの裏や骨組みの上部ですごく楽しそうにしているのも素敵。いい盛り上がり方させてくれるな!
 史実とは少々異なる部分もあるそうなので、以下言及するクイーンおよびメンバーはあくまで本作中のものを指す。フレディは出っ歯であることに強いコンプレックスを持っていたそうだが、本作のフレディはちょっと歯出過ぎじゃない?!というくらいに出っ歯が強調されている。平素から、口元の動きが出っ歯を気にしている人のものになってしまっているのが何だか切なかった。出っ歯など全く問題にならない声とパフォーマンスのかっこよさなのだが、癖がなかなか抜けないのだ。彼はなりたい自分になろうと努力し続ける人だったが、途中でそれを見失ってしまう。終盤、ライブ・エイドに向きあうことで、ようやく本来の自分となりたい自分とに折り合いがつくように見えた。当時、インド系でありゲイであるという属性は相当生き辛かった(世間的にもだけど、家族との関係がすごい大変そう・・・実際作中ではライブ・エイド直前まで会ってなかったし)だろうから、そのあたりちょっとさらっと描きすぎてないかなという気はする。とは言え、本作の主役はあくまでクイーンの楽曲と考えると、このくらいでいいかなとも思う。
 フレディ中心のストーリー運びだが、予想以上にバンド映画として楽しかった。この面子で音楽を作ることがなんて面白い(が時に苦しい)のか!という高揚感が伝わるレコーディングの様子がとても良かった。全員何か可愛いんだよね・・・。
 

ライヴ・エイド★初回生産限定スペシャル・プライス★ [DVD]
USA for AFRICA
ワーナーミュージック・ジャパン
2004-11-17


『ファイティン!』

 子供の頃に韓国からアメリカへ養子に出されたマーク(マ・ドンソク)はアームレスリングチャンピオンを目指したものの八百長疑惑を掛けられ、今はクラブの用心棒に。自称スポーツエージェントのジンギ(クォン・ユル)の口車に乗せられ、祖国に戻ってアーレスリングに再び挑むことになった。実母の家を訪ねると、初めて存在を知った妹スジン(ハン・イェリ)と子供たちが住んでいた。一方、ジンギはスポーツ賭博を仕切るチャンス社長にマークのスポンサーになってほしいと頼むが、八百長への加担を迫られる。監督・脚本はキム・ヨンワン。
 どストレートでひねりのない話なのだが、王道だからこその面白さがあった。感動は大いにあるが湿っぽくならず、基本的にカラリとしているのもいい。マ・ドンソクの魅力が存分に発揮されており、彼が演じるマークの、見た目はいかついが生真面目で心優しい所、口下手で不器用な所がとてもチャーミング。老若男女、家族連れでも楽しめる作品だと思う。
 ストーリーはさくさくと進みコンパクトな構成。序盤、あっという間に韓国へ舞台が移るし、マークとジンギがどういう経緯で兄弟分になったのか、マークはどういう人生を送ってきたのか(養父母について殆ど言及されない)等は具体的には殆ど説明されない。割愛してかまわないところはざっくり割愛しており、テンポの良さが重視されているように思った。割愛されたことで物足りなさを感じることもない。ちょっとしたやりとりや表情で、彼らの関係や過去は何となく想像できる。過不足のない見せ方になっていると思う。
 マークは自分は母親に見放された、不要な存在だったのではないかという気持ちを拭えずにいる。彼がなかなか実家を訪ねられないのには、そういった躊躇があるのだ。またジンギは実父に対して複雑な思いがあるし、シングルマザーであるスジンは子供たちを愛しているものの時々逃げ出したくなると漏らす。皆、家族という形について何かしら不安を持っていたり、わだかまりを抱えていたりする。そんな人達が助け合うようになり、徐々に家族のような絆を築いていく。マークがアームレスリング選手として再起を賭けるスポ根物語であると同時に、家族を失った彼(ら)が再び家族を得る、ファミリードラマとしての側面もある。2本の軸が相互に機能して物語を進行していく、手堅いストーリーテリングだった。血縁を超えた家族的共同体というモチーフは、近年色々な国の映画で見かけられるようになったが、世界的な流れなのだろうか。
 アームレスリングというぱっと見てわかりやすい、見た目がシンプルな競技を選んだのは正解だったと思う。前述した余計な説明はしないという本作の見せ方の方針に合っている。盛り上がりも強さの度合いも、見ていればとりあえずわかるところがいい。競技説明にかける時間を省略できるのだ。

犯罪都市 [Blu-ray]
マ・ドンソク
Happinet
2018-10-02


リアル・スティール [DVD]
ヒュー・ジャックマン
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
2013-04-17



『劇場版はいからさんが通る 後編 花の東京大ロマン』

 戦地で消息不明になった言い名づけの伊集院忍少尉(宮野真守)を探し、満州へと渡った花村紅緒(早見沙織)。現地で忍の部下だった鬼島森吾(中井和哉)と会うことが出来たが、忍の消息はわからないままだった。記憶した紅緒は、ロシアからの亡命貴族、サーシャ・ミハイロフとラリカ夫妻のことを知る。サーシャは忍にうり二つだった。ショックを受ける紅緒を、上司である編集長・青江冬星(櫻井孝宏)は支え続ける。原作は大和和紀の同名漫画。監督は城所聖明。
 前編と比べると作画に割けるリソースが大分少なくなっている印象で、現場のスケジュール感が垣間見えてしまいなかなか辛いものがある。正直、今、本作よりも作画が流暢だったり端正だったりする作品は、TVアニメであってもそこそこあるだろう。しかし、そこを差し引いてもちゃんと面白いところは流石。結構な長さの原作を濃縮しているので、駆け足もいい所で大分ダイジェスト版ぽくはなっているのだが、それでもなお基本的なドラマの面白さが失われていない。ドラマ映画である以上、お話が面白ければ作画がいまひとつでも一定の面白さは担保されるということか(脚本・コンテが基本的にちゃんとしているという面もあるだろうが)。原作漫画は本当に面白かったんだなーと改めて感心した。今見てもキャラクターの振る舞いが古びていない所がすごい。漫画記号的表現やギャグが更新されておらず当時のままなのは、仕方がないのだがちょっとスベっているなとは思ったが。
 原作を読んだ当時は特に意識しなかったが、改めて見ると紅緒は心身共に強いし迷いがない。ドジで色々やらかすという設定だが、行動力抜群だし場面によってはむしろ有能だろう。忍と出会ったことでポテンシャルが花開いたと言えるのだが、もし出会ってなくてもそれなりの活躍をしてしまいそうな気がする。そこを「出会ったからこそ」にするのが、女性にとって人生の選択肢がまだ少なかった(しかしもっと選択肢があるはずだと考える人たちが表面化してきた)大正という時代設定だったとわかる。前編を見た時も思ったが、紅緒と関わる男性たちは彼女の意思を個人として尊重しており、そこが見ていて安心できる。また、環との友情が長年にわたっている様はもうちょっとじっくり見たかった。本来はTVシリーズ4クールくらいで見てみたいんだけど・・・。
 なお、声優陣は非常に豪華、かつそれぞれがそれぞれの十八番的役柄で出演していてとても楽しい。忍のザ・宮野!感がすごかったし鬼島は定番の中井和哉すぎる。

劇場版はいからさんが通る 前編~紅緒、花の17歳~ 特装版 [Blu-ray]
早見沙織
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
2018-04-25


『バーバラと心の巨人』

 海辺の町に住むバーバラ(マディソン・ウルフ)には、襲来する様々な巨人と闘う使命があるが、姉カレン(イモージェン・プーツ)もカウンセラーのモル先生(ゾーイ・サルダナ)も巨人の存在を信じない。イギリスからの転校生ソフィア(シドニー・ウェイド)と友達になるが、ソフィアは半信半疑ながらもバーバラの巨人の話を聞き、一緒に魔よけのまじないをする。そしてバーバラの前に、ついに巨人が現れる。原作はケン・ニイムラ&ジョー・ケリーのグラフィックノベル。ケリーは映画の脚本も担当している。監督はアナス・バルター。
 原作のダークさ、イタさは薄れ、児童文学的な雰囲気に寄っているように思った。ファンタジックな映像は美しいが、原作のような、バーバーラの現実とインナーワールドとのシームレスさはあまり感じない。実写だと現実とファンタジーがはっきり分けられてしまう傾向にある(観客側がぱっと見て判断してしまう)のはしょうがないかなとは思うが、『パンズ・ラビリンス』(ギレルモ・デル・トロ監督)等上手な作品もある。本作は地続き感の出し方がちょっと不器用な印象だった。
 バーバラが巨人と闘うのは、ある恐怖を避ける、恐怖を直視しなくてすむようにする行為でもある。巨人はある意味、彼女の世界を守っているとも言えるだろう。しかし巨人というファンタジーは、彼女の世界全てを守れるほどには強くはない。バーバラの周囲を侵食するほどの力にはなりえないのだ。このあたりがすごく現実的というか、地に足の着いた部分だと思う。残酷でもあるだろう。バーバラのファンタジーが救えるのは、彼女の心だけだ。
 カウンセラーのモル先生がバーバラとの距離を詰めようとすると、その都度何らかの邪魔が入って(不可抗力だったりバーバラの抵抗だったりするが)上手くいかない。またカレンも自分の仕事と家族の世話で手一杯で、妹の心配をしつつも、バーバラと深く関わる余裕がない。大人たちがバーバラの力になれないので、彼女の闘いはより孤独なように思えるが、そもそも彼女自身でしか折り合いを付けられない戦いでもあるということだろう。ただ、「その後」にはきっとカウンセラーや家族が支えになるであろう、大人たちの支援が必要なのはこの先だということが示唆される。

I KILL GIANTS (IKKI COMIX)
ケンニイムラ
小学館
2018-09-14


怪物はささやく [Blu-ray]
シガニー・ウィーバー
ギャガ
2018-01-13


『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』

 ニューヨークの富豪、グッゲンハイム家に生まれたペギー・グッゲンハイムは、伝統を重んじる社交界から逃れるため、20代でパリに単身渡、シュルレアリスムや抽象絵画と出会う。自由な芸術の世界で羽を伸ばしたペギーは、芸術家たちを支援し、画商としてギャラリーを開設。世界的な現代美術のコレクターとして、著名なパトロネスとして成長していく。彼女の肉声を含む、様々なインタビューから構成されたドキュメンタリー。
 新たに発見された本人へのインタビューと関係各所へのインタビュー、当時の映像等からペギーの人生を辿っていくという、オーソドックスな作りのドキュメンタリー。ペギーが支援していた芸術家たちがビッグネーム揃いで圧巻だ。ピカソ、ダリ、ブランクーシ、ポロック、ジャコメッティ、そして彼女と結婚もしたエルンスト。芸術家たちの映像も多数使われており、この人もこの人もこの人もか!と唸る。なぜかロバート・デ・ニーロも出演しているので注目だ。
 ペギーはグッゲンハイム一族としてはさほど裕福ではなかったそうだが、それでも世間一般からしたら富豪だ。そして、その富の使い方を間違わなかった。ペギーがパリに渡った当時、シュルレアリスムはまだ価値を認められていなかった。そこにいち早く着目し、その後も美術史の最先端で芸術界をリードし続けた。彼女の眼力と作品を扱う商才はずば抜けていたのだろう。そこに経済力がプラスされて、歴史に残るコレクターとなり、その集大成がベネチアのグッゲンハイム美術館なわけだ。芸術、特に新しい芸術には良きパトロンが必須だと痛感させてくれる作品だった。
 ちょっと驚いたのは、ペギーは元々美術に興味があったわけではないということだ。パリの芸術家たちの自由な世界と肌が合い、その中に親しむうちに素養が蓄積されていったということらしい。ペギーは10代の頃から当時の女性としては大分風変りだったそうだ。当時の上流階級の女性にとって身を立てる道と言ったら、社交界の花になり他の名家の子息と結婚するくらいしかなかっただろう。そんな習わしに対する反発から書店で働いていたというから、当時としては相当型破りだ(グッゲンハイム家レベルの名家の娘が町で働いていたら恥さらし呼ばわりされるだろう)。
 いわゆる美人ではないが非常に魅力のある人だったそうで、芸術家たちとのスキャンダルが絶えなかったし、本人も特にそれを隠そうとはしていなかった。後に自伝で寝た相手をほぼ全員実名公開してしまったそうで、大変バッシングを受けたが、本人あまり気にしていなかったというのも面白かった。他人がどう見るかより自分がどうしたいのかだ、と行動する一方、コレクターとしての自分に対する評価には敏感だった。承認欲求が強く、パトロネス、コレクターとしての活動はそれを埋める為のものだったのではと話す関係者もいた。もし彼女が現代に生きていたら、美術分野にはいかなかったのではないかとも思う。商才のある人だったそうなので、ビジネスの世界でぶいぶい言わせていたかもしれない。当時は女性、特に上流階級の女性がビジネスの場で活躍する機会はあまりなかっただろう。そう思うと、彼女のコレクションは後世にとっては大きな遺産だが、ちょっと複雑な気分にもなる。
 諸々について気にする所と気にしない所のちぐはぐさが面白い人だったのではないか。自宅で振舞われるランチがとにかく不味いというのには笑ってしまった。ケチだと言う人もいたが、食に対する興味が極端に低かったらしい(あれだけのコレクションを作ってケチということは有り得ないだろう)。

ペギー―現代美術に恋した“気まぐれ令嬢”
ジャクリーン・ボグラド ウェルド
文藝春秋
1991-01




『パーフェクトワールド 君といる奇跡』

 インテリアデザイン会社に就職した川奈つぐみ(杉咲花)は、取引先との飲み会で高校時代の先輩で初恋相手の鮎川樹(岩田剛典)と再会する。建築士として働く樹は、交通事故で脊髄損傷し、車椅子で生活するようになっていた。つぐみは樹と仕事をするうちに再び彼への想いが強まり、側で支えたいと思う様になる。樹もまっすぐなつぐみに惹かれていくが、自分は彼女の重荷にしかならないのではと悩む。監督は芝山健次。
 杉咲も岩田も悪くはないのだが、杉咲のルックスがかなり幼い(正直、オフィスカジュアルよりも高校の制服の方が様になっていた)ので、2ショットがどうかすると犯罪っぽく見えてしまう・・・。誰のせいでもないが、見ていてちょっときまり悪くて困った。子供っぽかった女の子が段々とタフさを見せていくという意外性みたいなものがでていればいいのだが、つぐみの成長は描いているものの、そこまでには至らなかったように思う。
 基本的にいい人、まともな人しか出てこないので、不快感はない。2人の障害となる人物としてつぐみの両親(特に父親)が挙げられるだろうが、父親は自分が理不尽なことを言っているという自覚はあるし、その上で娘には少しでもハードルの低い人生を送ってほしいという切実さは伝わるので、不快ということはなかったし、悪者にもしていない。樹の母親が「誰かに迷惑をかけても子供には幸せになってほしい」と吐露する言葉と対になって、親の視点として提示されているのは良かった。
 状況、心情の殆どをつぐみのセリフとモノローグで説明してくれる親切設計で、それ言わないとだめ?と思う所は多々ある。決して流暢な作りの映画というわけではないのだが、真面目に作っており、車椅子で生活することについてきちんとリサーチをしているのはよくわかる。
 車椅子で生活する人の動作、具体的にどういう困難さがあるのかという部分、また周囲からどんなことを言われがちなのか、それについて当人はどう感じるのか、ちゃんと見せようとしていると思う。また、当人の親や恋人等親しい人たちの心情や、障害によって関係がどのように変わりうるのかという所も言及しており、見せ方が一方通行にならないような配慮が見られた。母親に「実家に帰ってきた方がいいんじゃない?」「仕事は地元でもできるでしょ」と言われるのは、親心故とわかっていても結構きついんじゃないかなと思わされた。
 つぐみが最後に口にする「夢の中の先輩は~」というセリフ、樹が前に口にした自分の夢の話と対になっているが、2人が「そういうもの」として自分たちのあり方を受け入れたことがわかり、ちょっといいと思う。


AIKI [DVD]
加藤晴彦
バップ
2003-06-25


『パパはわるものチャンピオン』

 10年前は人気レスラーとして絶頂期にあった大村孝志(棚橋弘至)は、怪我の影響で第一線に戻れず、現在は悪役覆面レスラー・ゴキブリマスクとしてリングに上がっていた。息子の祥太(寺田心)は父親の仕事を知らず、「大きくなったら教える」と両親から伝えられていた。しかしひょんなことから、ゴキブリマスクが孝志だと知ってしまう。祥太は恥ずかしさから、クラスメイトに父親は人気レスラーだと嘘をつくが。原作は板橋雅弘・吉田尚令の絵本。監督は藤村亨平。
 私はプロレス門外漢なのだが、奇をてらわず実直に作られた作品で、ベタはベタなのだが思いのほか楽しめた。作中のプロレスラーは本職のレスラーの人たちが演じているので、プロレス場面は(素人目には)説得力がある。棚橋アイドル映画とも言えるのだが、孝志の妻・詩織役の木村佳乃を始めとする脇役の手堅さ、寺田心の子役としての鉄板演技も作品を支えている。棚橋も意外と好演。演技が上手いというわけではないが、やはり見られる職業の人、スターとして第一線で活躍してきた人はカメラの前でのハマり方が違うのだろう。様になっている。また、ゴキブリマスクの相方であるギンバエマスクこと寄田を演じた田口隆祐は、俳優業でもいけるのでは?という存在感があった。
 本作の良い所は、孝志の「わるもの」=ヒールという職業を否定しないところだろう。ヒールがいてこそのプロレスで、ヒールにはヒールの矜持がある。だからこそ、マスクを取った弘志に対して寄田は怒る。寄田は根っからのヒールで自分の仕事にプライドを持っているのだ。孝志がヒーローに転向して復活すればめでたしめでたし、というわけではないと断言している所がよかった。
 

お父さんのバックドロップ [DVD]
宇梶剛士
アミューズソフトエンタテインメント
2005-04-22



『プーと大人になった僕』

 かつてくまのぬいぐるみプー(ジム・カミングス)と共に100エーカーの森で遊んでいたクリストファー・ロビンは、やがて大人になり、親友プーや仲間たちのことを忘れてしまう。大人になったクリストファー・ロビン(ユアン・マクレガー)は妻イヴリン(ヘイリー・アトウェル)、娘マデイン(ブロンテ・カーマイケル)とロンドンで暮らし、鞄メーカーに勤めていたが、大幅なコスト削減、リストラを命じられ四苦八苦していた。そんな彼の前に、プーが姿を現す。原作はA・A・ミルンの児童文学を元にしたディズニーのキャラクター「くまのプーさん」。監督はマーク・フォスター。
 プーは子供時代のクリストファー・ロビンの親友であると同時に分身でもある。いわゆるイマジナリー・フレンドと言えるだろう。それ故に、プーが大人になったクリストファー・ロビンの前に現れた時、彼だけではなく他の人たち、妻子はともかく全然関係ない町の人たちの目にも見え、声も聞こえるという設定がどうにも気になった。プーはクリストファー・ロビンの子供時代そのものでもある。だからそれ以外の人に見える必要はないし、見えたらプーの持つ意味合いが変わってしまう。プーが登場してクリストファー・ロビンの前に現れるのは、彼の内面での問題があるからだろう。本作、ファンタジーがどこまで具現化しあふれ出るのかというラインの設定が曖昧だ。クリストファー・ロビンの内面にあるファンタジーが、現実を侵食していくように見えてくるのだ。そう見ると、ラストも相当不穏な気がしてしまう。プーはあくまで、クリストファー・ロビンと1対1の関係においてのみ存在するものだろう。彼が大人の自分=クリストファー・ロビンを助ける為に出現するのはとても良い(しファンタジーにはそういう力があると思う)と思うけど。
 私が愛しているのはA・A・ミルンとE・H・シェパードによる「くまのプーさん」であって、ディズニーのプーさんではないので(なので、冒頭の原作絵を活かしたアニメーションは良かった)、本作に対してもつい批判的になってしまう。本作のクリストファー・ロビンは、ミルンが「プーさん」を与えた息子クリストファー・ロビン=クリストファー・ミルン・ロビンではない。実在のクリストファー・ミルンと『くまのプーさん』の関係、ミルン親子のその後を知ってしまうと、本作見ても複雑な気持ちにしかならないのだ。


クリストファー・ロビンの本屋
クリストファー・ミルン
晶文社
1983-12





グッバイ・クリストファー・ロビン 2枚組ブルーレイ&DVD [Blu-ray]
ドーナル・グリーソン
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2018-10-03


『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』

 頭脳明晰なリン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は進学校に特待奨学生として転入する。友人になったグレースをテストで「手助け」したことで、グレースの恋人パットからカンニングをビジネスとして持ちかけられる。学生たちは殺到するが、生真面目な秀才バンクは良く思わなかった。リンたちはアメリカの大学に留学するための世界共通大学統一入試STICに挑む。監督はナタウット・プーンピリヤ。
 小気味のいいティーン版クライムムービーという感じ。クライマックスの大勝負には手に汗握った。正直な所、カンニングの方法については大丈夫?と思う所があったが(学校のテスト、席替えがあったら成立しないよね)時間の縛りもきつい為、ハラハラ度が高くて盛り上がる。そこそこ長尺(130分)なのだがスピード感がありテンポが良い。テンポを良くするためにかなりカットしたエピソードがあるんじゃないかなという気がした。ピアノにまつわる設定は本来はもっとあったのではないかと思う。
 リンは頭が良くて勉強好きな努力家。元々危険な計画を立てることも、実行するスリルも好きなんだと思う。それだけに、カンニングビジネスの規模が大きくなっていく様はちょっと悲しくもあった。カンニングは、彼女が好きな勉強や困難な計画を立てて実行することのワクワク感、つまり自分で学び挑戦することを否定するものだからだ。更に、教師である父親を否定することでもある。父親との仲が良好だからこそ、辛いものがある。
 リンがカンニングビジネスをやるのには、お金の問題もある。周囲が賄賂を渡せる裕福な家庭の子息という環境の中、彼女はさほど裕福でない庶民。他の生徒が寄付金、要するに賄賂を使って進学していることへの腹いせ、豊かではないのに父親も賄賂を贈っていたことへの悔しさもあって、カンニングビジネスへ踏み切ったのだろう。同級生のバンクは更に逼迫した苦学生だ。自分の能力で持っている人たちからお金を回収して何が悪い、負け犬のままでいてたまるかということなのだろうが、カンニングという商品は、自分が「持ってる」人たちに唯一勝っているアドバンテージを売り渡すことになるのではともやもやした。進学枠を自分より頭の悪い人たちに取られる、彼らの為にアドバンテージを剥奪されるようなリスクを負うのって悔しくないのかな。お金がなかったら進学すらできないということか(リン家はそこまで逼迫してないけど、バンクはそうだろう)。どんなに学んでもスタートラインが一緒になることはないんだよなぁ・・・。
 友人の誘いでビジネスを始めてしまうリンも、恋人の提案を断れず彼女を引き入れるグレースも、そしてカンニングを提案するパットも、やはりまだ子供だ。お金が介在するとそれまで通りの友人関係ではいられないし、カンニングして大学入学してもその後の人生でカンニングし続けられるわけではない。「その先」の感覚があまりないのだ。最後、リンはそれを得たように思えた。


That’sカンニング! 史上最大の作戦? [DVD]
安室奈美恵
フジテレビジョン
2001-09-19


ギャラリー
最新コメント
アーカイブ
記事検索
  • ライブドアブログ