3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画題名た行

『チャーリーズ・エンジェル』

 国際機密組織チャーリー・タウンゼント社は通称エンジェルと呼ばれる女性エージェントを育成し、世界中で隠密に活動している。巨大企業に勤めるプログラマーのエレーナ(ナオミ・スコット)は、自分が開発した新エネルギー源“カリスト”を、会社が兵器として軍事利用しようとしていることに気付き、エンジェルに告発し助けを求める。2人のエンジェル、潜入捜査を得意とするサビーナ(クリステン・スチュワート)と元IM6で武器と格闘に長けたジェーン(エラ・バリンスカ)は、命を狙われるエレーナを守りながら調査を進める。監督はエリザベス・バンクス。
 正直な所、決してストーリーの出来がいい映画というわけではない。カリストの性能や性質の設定がだいぶ曖昧でそもそもどういうものなのか微妙だし(軍事利用するよりも普通にエネルギーとして販売する方が格段に儲かりそうなんだよね…独占できるわけじゃん…)、あの人もこの人もやることが大雑把。また、アクションシーンの見せ方があまりうまくない所は非常に残念。アクション設計自体はいいのだが、カットのつなぎ方がいまいち効果的ではないという印象。動きが細切れになってしまうのが勿体ない。やはり一連の流れを体全体の動きがわかるように見たい。
 とは言え、エンジェルたちはかっこよくチャーミングで、彼女らの活躍を見ているだけで楽しい。華やかかつセクシーな恰好もするが、「女性だから」「女性らしさが」といった見せ方にはあまりなっていない印象になっているところがいい。どんな格好にせよ、当人が好き自分の為にやっている感じなのだ。実はあからさまにセクシーだったり男性ウケがよさそうな恰好は、あまりしていないんだよな。
 サビーナとジェーンの不器用な歩み寄りがチャーミング。お互いに仕事で組んで間もなく、お互いのことをよく知っているわけではない。でも「友達ができた」と言えるようになったところにぐっときた。またボスレー(エリザベス・バンクス)の「映画好きなのよ!」という主張もかわいい。本作、実はボスレー、つまりかつてのエンジェルたちが主役といってもいいくらいなのでは。だとしたら先代エンジェルについての言及がないのはちょっと寂しい。いろいろ事情があるのだろうが出てほしかったなー。

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『T-34 レジェンド・オブ・ウォー ダイナミック完全版』

 第二次世界大戦下、ナチス・ドイツ軍の捕虜となったソ連の士官イヴシュキン(アレクサンドル・ペトロフ)は、接収されたソ連軍の戦車T-34を操縦し、収容所内でナチス側と戦車戦演習を行えと命じられる。T-34に実弾装備はなしで実弾の砲火にさらされるという圧倒的に不利な条件だ。ナチスのイェーガー大佐(ビツェンツ・キーファー)はかつてイヴシュキンと戦った因縁の相手だった。イヴシュキンはひそかに装備を整え、仲間と共に演習中の脱走を計画する。監督はアレクセイ・シドロフ。
 2019年10月に公開され、一部の映画ファンの間でやたらと熱く燃え上がった『T-34レジェンド・オブ・ウォー』の長尺版。私は短尺版は未見なのだが、一部で熱狂的な支持を受けているので気にはなっていた。今回「ダイナミック完全版」として上映されることになったので、戦車には疎いが見に行ってみた。結果、大正解!なぜ熱狂的に支持されているのか理解した。これは燃えるし萌えるでしょう。特に前半は面白くないシーンがないくらい面白くて本当にびっくりした。こういう見せ方、こういう演出ができるのか!という新鮮さだった。アクション構成と見せ方がすごく上手い。砲弾がいちいちスローモーションで動くのはちょっとくどいが、どういう戦術、アクションが今なされているのかわかりやすく見せてくれて、親切といえば親切。こんなにすごいことが起こっていますよ、というアピールなのでわかっている方がアクションシーンは楽しめる。
 対して後半、人間ドラマが絡んでくるとちょっとかったるくなってしまう。女性捕虜とのロマンスも取ってつけたようで(とはいえこの女性も有能で頼もしいのだが!)それほど必要性は感じなかった。人間同士のエモーショナルなドラマとしては、イヴィシュキンに対するイェーガーの執着だけでおなか一杯。そもそも演習やる必要なんてないもんな!どれだけ再戦したかったんだよ!とは言え、後半の戦車戦もばっちり面白いので、大きな傷にはなっていない。何しろ前半が面白すぎるのだ。ちょっと珍しいバランスの映画だと思う。

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『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』

 CM監督のトビー(アダム・ドライバー)はスペインの田舎で撮影中に、かつて自分が学生時代にこの地で撮影した映画『ドン・キホーテを殺した男』のDVDを見つける。当時の出演者を訪ねるが、ドン・キホーテ役だった靴屋の老人(ジョナサン・プライス)は自分が本物の騎士だと思い込み、ヒロイン役だったアンジェリカ(ジョアナ・リベイロ)は女優になろうと故郷を飛び出し富豪の愛人になっていた。監督はテリー・ギリアム。
 2000年にクランクインするも様々なトラブル、資金難によりとん挫を繰り返し、なんとかかんとか完成した本作。ギリアム監督にとっては30年来の構想だったというから、そりゃあ感無量だろう。とは言え、積年の思いが込められた作品にしては割と普通。ドン・キホーテの物語に取りつかれその中に取り込まれていく人たち、映画の魔のようなものを描いた作品だが、本作自体にはそれほど魔を感じない。構想が経年するうちにだんだん薄味になってしまったのか、様々なハードルを越えるうちにギリアム監督も物分かりがよくなったのか。
 靴屋の老人はまさにドン・キホーテ本人として振る舞い、トビーをサンチョ・パンサと思い込み彼を翻弄する。最初はツッコミ役だったトビーも、段々ドン・キホーテの世界に引きずり込まれ、老人の妄想を共に生きるようになる。妄想が他人を巻き込む、それこそが映画というものなのかもしれない。新たなドン・キホーテが生まれ、サンチョ役が自らサンチョとして相手の妄想に乗っかっていくのは意外。ただ、どちらにしろわりと予定調和的な妄想で少々物足りなかった。確かにすごく豪華なつくりのはずなんだけど、あんまりスケール感を感じないのが逆に不思議。

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『ティーンスピリット』

 ワイト島の農家で母と暮らすヴァイオレット(エル・ファニング)は歌手を夢見ている。オーディション番組「ティーンスピリット」の予選が地元で開催されると知った彼女は出場を願うが、保護者の同意が必要だという。母親は歌手になることには猛反対。ヴァイオレットはバーに居合わせた元オペラ歌手のヴラッド(ズラッコ・ブリッチ)に保護者の振りを頼む。ヴァイオレットに才能を見出したヴラッドは歌のコーチを申し出る。監督はマックス・ミンゲラ。
 エル・ファニングのエル・ファニングによるエル・ファニングの為のド直球アイドル映画。ともするとダサくなりそうなところ、話を引っ張りすぎないコンパクトさとテンポの良さですっきりと見せている。ファニングのややハスキーな声での歌唱パフォーマンスがなかなか良くて、クライマックスはぶち上げ感がしっかりあった。ヴァイオレットが好んで聞く曲、オーディションでの選曲から、彼女の音楽の趣味の方向性や人柄がなんとなくわかるような所も音楽映画として目配りがきいていると思う(単に今の音楽のモードがこういう感じなんですよということかもしれないけど…)。
 ストーリーは名もなき若者が夢を追い、努力と才能でスター街道を駆け上がるという、非常にオーソドックスなもの。この手のストーリーにありがちなイベントが盛り込まれているが、一つ一つがかなりあっさりとしている。母親との葛藤も、師匠のしごきも、調子に乗ってのやらかしも、将来への不安もさらっと触れる程度で重さはない。それが悪いというのではなく、本作はそういうドラマティックさを見る作品ではないんだろうなと思う。音楽を聴いた瞬間の世界の広がり方や、自分の中で自分の音楽が鳴り出す瞬間のあざやかさ、そういった雰囲気を楽しむものなのだと思う。
 ちょっと突っ込みたくなる部分は多々あるのだが(ワイト島って相当田舎だと思うのだが、そんなにスキルのあるバンドが都合よくいるの?!という点を一番突っ込みたかった)、エル・ファニングのアイドル映画としては大正解では。なお、前回のティーンスピリッツ優勝者が全くイケておらず、それでよくスター扱いされるなと思った。ステージ上の階段を降りる時の足元がぎこちなくて気になってしまう。

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『テッド・バンディ』

 1969年、シアトル。バーで知り合ったテッド・バンディ(ザック・エフロン)とエリザベス・クレプファー(リリー・コリンズ)は恋に落ち、エリザベスの娘モリーと3人で暮らし始める。しかしある日、テッドは誘拐未遂事件の容疑で逮捕される。更に前年にも女性誘拐事件が起きており、その時に目撃された容疑者の似顔絵はテッドそっくりだった。監督はジョー・バリンジャー。
 30人以上の女性を惨殺した、実在の殺人鬼の話をドラマ化した作品。109分というコンパクトな尺だがみっしりと中身が詰まっており、大変面白かった。テッドがわりと臆面もなく感じが良くて「(性的に)魅力的な男性」として描かれている。映画を見る側は史実としてテッドに有罪判決が下りたことはわかっているわけだが、彼に疑いを持ちつつ愛を捨てられないエリザベスの目を通して彼を見ているので、本当に有罪なのか、実際はどうなんだと揺り動かされるのだ。あえて情報を断片的にして、見通しを悪くしている。それがエリザベスをはじめ、当時の人たちの視界だったのでは。
 裁判に対するテッドの妙な自信、自分が特権的な人物であるかのような振る舞いは不気味だ。彼は確かに弁が立つし証拠は状況証拠が主。とは言え、客観的に見たらどう考えても不利なのに、なぜ自信満々な振る舞いができるのか。また、エリザベスの愛と信頼をずっと求め続けるのも不気味だ。なぜ彼女は殺さず、永続的な関係を望むのかが謎。殺人という暴力とは違った形の暴力、精神的な影響力で彼女を縛り続けている。ではエリザベスと他の女性とは何が違ったのか。そのわからなさが不気味なのだ。
 テッドへの不信を持ちつつ彼の愛を諦められないエリザベスの心境もまた謎なのだが、初めて会った時のテッドのふるまいが、シングルマザーのエリザベスにとって完璧すぎるので、これは好きになっちゃうし離れられないわ…という納得はある。相手が尊重されていると実感できるふるまいをするのだ。そのふるまいもすべて演技かと思うとぞっとするのだが。


テッド・バンディの帰還 (創元推理文庫)
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東京創元社
2002-02-22


『ドクター・スリープ』

 雪山のホテルでの惨劇を母と共に生き延び、大人になったダニー(ユアン・マクレガー)。しかし今もトラウマに苦しみ、人と関わらずひっそりと生きていた。世間では子供の失踪事件が相次いでおり、不思議な能力を持つ少女アブラ(カイリー・カラン)は邪悪な集団の存在に気付く。その集団を率いるローズ・ザ・ハット(レベッカ・ファーガソン)もまたアブラに気付き、彼女を狙う。邪悪な存在に気付いたダニーはアブラと協力し事件を追っていく。原作はスティーブン・キングの小説。監督はマイク・フラナガン。
 『シャイニング』の後日談という体の作品で、子供だったダニーは今や立派な大人。実は私は『シャイニング』を未見だったので、これを機に見て本作に挑んだ。合わせて見てちょっと驚いたのだが、原作者は同じでも映画のテイストが全然違う!本作は『シャイニング』の有名すぎるショット、美術を踏襲してはいるのだが、映画としての方向性があまりに違う。キングの原作には本作の方が忠実という話は聞いていたのだが、だとするとキューブリック監督『シャイニング』ってキング原作の本質からはかけ離れていたのでは…。キューブリック監督『シャイニング』は邪悪さというよりも狂気、主眼が置かれているのはダニーの父親が変質していく様だったが、本作では善と悪の対決が中心にあり、狂気ではないんだよなと。不思議な力「シャイニング」そのもの、「シャイニング」によって善性が発揮されるという所こそが肝になっている。個人的にはそこが単純すぎて物足りない部分(そしてキング作品の苦手な部分)でもある。キングがキューブリック監督の『シャイニング』を見て激怒したというエピソードのみ知っていたのだが、そりゃあ怒るなと腑に落ちた。ただ、映画の強度みたいなものは、『シャイニング』の方がはるかに強い。本作は面白かったが、あくまで普通のエンターテイメントとしての面白さ。『シャイニング』のような異様さはない。そこが良い点でもあるのだが、後々に残るインパクトはさほどないのだと思う。さらっと楽しめてしまうから。
 とは言え、子供時代のトラウマを背負い続けるダニーが、アブラという(非常に能力は高いが)子供の前で大人としての責任を全うしようとする、それによって子供時代からついに解放される様にはぐっときた。ユアン・マクレガーの起用はナイーブさと優しさを感じさせてすごくよかったんじゃないかと思う。

ドクター・スリープ 上 (文春文庫)
スティーヴン キング
文藝春秋
2018-01-04

ドクター・スリープ 下 (文春文庫)
スティーヴン キング
文藝春秋
2018-01-04


『ターミネーター ニューフェイト』

 メキシコシティで父と弟と暮らすダニー(ナタリア・レイエス)。彼女の前にグレース(マッケンジー・デイビス)と名乗る女性が現れる。彼女は未来からダニーを抹殺するために送り込まれたターミネーター「REV-9」’ガブリエル・ルナ)から彼女を守るため、同じく未来から来たというのだ。REV-9の猛攻に追い詰められていくが、2人の前にかつてターミネーターと戦い人類を滅亡から守ったサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)が現れる。監督はティム・ミラー。ジェームズ・キャメロンはプロデューサーを務めた。
 ターミネーターといえばアーノルド・シュワルツェネッガー演じるT800だが、今回は意外と出番が少ない。むしろこれシュワルツェネッガー出てなくても全然成立するんじゃないかな?という感じ(とはいえ出てくると画面が華やかになるのでやはりスターなんだなとは思った)。対してサラ・コナーはもちろん、女性3人が非常にかっこいい。ハミルトンの「きれいなおばあちゃん」「かわいいおばあちゃん」とは一線を画した年齢の重ね方にはぐっとくる。この路線の女優、役柄がもっと増えるといいのに…。またグレースを演じるデイビスのアクションが予想外に素晴らしい。ストーリー上もグレースの献身が熱い。まさかこのシリーズから良い百合が爆誕するとは…。
 本作、女性が活躍するが「女性」という要素に特別な意味づけはなく、ニュートラル。また女性たちの強さが今までのような「母強し」的なもの、聖母的なものとは切り離されている。これまでのシリーズとはもう違うんだよということだろうか。
 女性陣のかっこよさで楽しく見たが、ストーリーはわりと中だるみしているし、歴史改変SF要素は粗が多い。そもそも、それ根本的な問題解決になってないですよね?と突っ込みたくなる。次回作を作りたいということなのかなー。この点は本シリーズの限界を見てしまった気がする。

ターミネーター [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2018-03-16


ターミネーター2 [DVD]
アーノルド・シュワルツェネッガー(玄田哲章)
KADOKAWA / 角川書店
2019-08-29


 

『タロウのバカ』

 戸籍を持たず、一度も学校に通ったことがない少年タロウ(YOSHI)。いつもつるんでいる高校生のエージ(菅田将暉)とスギオ(伊賀太賀)と、半グレの吉岡(奥野瑛太)を襲い、一丁の拳銃を手に入れた。はしゃぐ3人だが、吉岡らが報復にやってくる。脚本・監督は大森立嗣。
 タロウは明らかにネグレクトされた子供だし、エージは学校から見放され(体育教師の対応がひどい。えらいパワハラである)ている。スギオは2人に比べるとまだ「普通」の家庭らしく、父親も登場するが、彼を守るほど強くはない。スギオはタロウとエージの無軌道さにおびえるものの、最終的にはふらふらと吸い寄せられてしまう。
 3人の少年たちの行動には、今よりも先のことを考えている様子が見受けられない。そこが見ていて落ち着かない、不安にさせられる一因でもあるだろう。彼らには「今」しかないのだ。彼らの言動の考えのなさ、即物性にはちょっとインパクトがあった。吉岡を襲うのはともかく、その先何をしたいのかがわからないし隠蔽する度胸も知恵もなく、結局自分たちの首を絞めるようなことになってしまう。暴力的だが、暴力がどのようなものなのか、何が暴力なのかという想像力がない(殴る、殺す、レイプみたいな発想だ)。銃一丁で無敵みたいな気分になって盛り上がるのもあからさまに子供っぽい。衝動ばかりが空回りするのだ。経済的な貧しさも苦しいが、想像力の貧しさ・知の貧しさもなかなか見ていてしんどいものだなと思った。
 タロウがピザ配達のバイクにエンジンをかけるシーンが妙に心にひっかかった。エンジンをかけてはいるが、自分がバイクに乗って走るという段階になかなかならない。ようやくバイクに乗ってエンジンをかけると、今度はかからない。結局走り出す契機を逃してしまうのだ。






ケンタとジュンとカヨちゃんの国 [DVD]
松田翔太
ポニーキャニオン
2011-01-19


『荒野の誓い』

 1892年、アメリカ、ニューメキシコ。戦争の英雄で今は看守をしているジョー・ブロッカー(クリスチャン・ベール)は、かつて戦争で宿敵だったシャイアン族の酋長イエロー・ホーク(ウェス・ステューディ)とその家族をモンタナに護送する任務を受ける。イエロー・ホークは病を患い余命いくばくもないのだ。道中、コマンチ族の襲撃によって家族を殺されたロザリー・クウェイド(ロザムンド・パイク)と出会い、彼女も旅に加わるが。監督はスコット・クーパー。
 産業革命が進み、開拓地が広がっていく時代のアメリカが舞台。時代背景と場所は西部劇といえば西部劇だが、もう旧来の意味合いでの「西部劇」は成立しないんだよなと実感した。ブロッカーは土地の奪い合いのためにアメリカ先住民と熾烈な戦いを繰り広げ、その戦争で仲間を大勢亡くした。そのため、イエロー・ホークはじめ先住民らを強く憎んでいる。家族を殺されたクウェイドも同様だ。とはいえ、仲間を殺され憎しみにかられるのはイエロー・ホーク側も同じだろう。
 そもそも、この土地にとってはブロッカーら白人の方がよそ者のはずだ。ブロッカーにとっては自分たちの開拓を邪魔し生活を脅かす存在との闘いだったろうが、先住民側にとっては自分たちを追い立て迫害する存在からの自衛のつもりだろう。旅の道中、ブロッカーはシャイアン族の人たちにもそれぞれ人としての人格や尊厳があることに気付いていく。派閥同士は敵対していても、一緒に苦境を乗り越えるとその人の尊敬すべきところや信頼できるところが見えてくるのだ。それは、群れ対群れとして憎しみ一辺倒でいるよりも、心の中に矛盾や葛藤を抱えることになりしんどいかもしれない。相手の立場を想像できるようになると、自分たちの戦いに正当性があったのかわからなくなっていく。ブロッカーの友人のようにいち早くそれに気づき、自責の念に堪えられなくなる者もいる。正当性のない戦争を勝者として生き延びてしまった者はどうすればいいのか、ブロッカーの肩にも重くのしかかってくるのだ。
 クーパー監督とベールは相性がいい。私はクーパー監督作が割と好きなのだが、映画としてそんなに尖っていたり洗練されていたりするわけではない。わりとオーソドックスだ。ただ、ストーリーのハッピー度とは関係なく、毎回どこか地獄の一丁目をさまよっているような部分がある。ここはつらい、しかし他に行くところもないというような。その地獄感とベールのともすると悲壮な雰囲気がよく合っているのだ。

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2016-03-16



『ディリリとパリの時間旅行』

 ベル・エポック期のパリ。ニューカレドニアからやってきた少女ディリリ(プリュネル・シャルル=アンブロン)は配達人の少年オレル(エンゾ・ラツィト)と共に、パリで起きている少女誘拐事件に挑む。監督・脚本はミッシェル・オスロ。
 アニメーションの魅力は動き、動き方をどのように表現するかという点にあると私は思っているが、本作は決して「動き」のアニメーションではない。ではアニメーション固有の魅力がないのかというとそんなことはなく、アニメーションならではの魅力がふんだんにある。動きで魅せる活劇としてのアニメーションとは発想の起点がちょっと違っており、そこが面白い。リアルなパリの風景を、きり絵のように単純化されたアニメーションの人物が駆け抜けるというコントラストの妙がある。キャラクターの動き自体にはそれほど面白みはないのだが、画面全体がひとつの絵としての美しい。当時のパリの風景を様々な角度から見せる、観光映画のようでもあった。ディリリとオレルは三輪車でパリを駆け抜け、とても爽快なのだが、他にも馬車、ボート、飛行船等乗り物が次々と登場する。乗り物によって目線の高さや移動ルートが違うので、風景にバリエーションがあって楽しい。衣装の色合いのビビッドさも美しかった。
 パリの風景だけではなく、学者や芸術家等、歴史上の人物たちが次々と登場する。有名な絵画作品に描かれた風景がそのまま再現されていたりもする。ムーラン・ルージュで画家ロートレックと出会う時には、舞台の上も客席でも、彼の作品に登場した人たちがその姿で現れるので嬉しくなった。ロートレック本人もディリリと一緒に三輪車に乗る姿がきゅーとなのだが、ドガに作品を褒められて喜ぶ姿もまた微笑ましかった。
 ディリリ達の敵は明確に性差別主義者たちだ、女の子も自由に学び生きる権利があるということをディリリが体現しており彼らにNOを突き付けるわけだが、いまだにこれを言わないとならない世の中だというのが何とも辛い(作品の舞台は19世紀だたそのメッセージは現代の私たちに向けられているわけだから)。一方、本作の冒頭で、ディリリは「未開の民族」として、アトラクションの一部になっている。パリ万博では実際に様々な地域の先住民を見世物として「展示」(展示の中に現地の住居を再現し生活させ、来場客に見せる)していたそうだが、これは彼らを「未開人」として見世物扱いしている、同等の人間としては扱っていないということになるだろう。先住民とフランス人の間に生まれたディリリは、宣教師によりヨーロッパの教育を受け「文明化」されたというわけになる。確かにディリリの世界は教育により広がったわけで、宣教師としては彼女を「野蛮から救い出した」という意識があるのだろう。とはいえ、彼女のバックボーンはヨーロッパ側からは無視されたままなのでは。そこにある差別には本作は言及していない点にはひっかかった。

アズールとアスマール [Blu-ray]
シリル・ムラリ
スタジオジブリ
2007-12-19





世界を変えた100人の女の子の物語
エレナ・ファヴィッリ
河出書房新社
2018-03-24
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