3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画題名さ行

『サマーフィーリング』

 真夏のベルリンで、30歳のサシャが突然亡くなった。パートナーのロレンス(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)とサシャの妹ゾエ(ジュディット・シュムラ)は茫然とする。それぞれの生活が続くものの、悲しみはなかなか癒えない。監督はミカエル・アース。
 同監督の『アマンダと僕』と同じく、喪の仕事を描く物語だ。舞台は夏のまぶしい光の中だが、どこか寂しい。ロレンスにとってもゾエにとっても異国であるベルリンから、ゾエの故郷であるパリ、ロレンスの故郷であるニューヨークへと1年ごとに舞台は変わる。2人を照らす夏の光も雰囲気もその都度異なる。そして、2人とサシャとの距離、ロレンスとゾエの距離も変わっていく。
 それは少し楽になっていく、日常に立ち返っていくことだが、元に戻るということではない。失われたものはやはり失われたものにほかならず、そこを埋めるものはないのだ。時間がたつにつれ、それがありありと立ち現われてくる。悲しみは薄れるのではなく、距離を取るのが上手くなるだけで依然としてそこにある。ニューヨークでゾエが泣くのは、(現状自分が幸せかどうかとは関係なく)失ったもの、変わってしまったものの動かせなさ、時間の止まらなさを再確認してしまったからではないだろうか。夏の光はいつもまぶしいのだが、どこか寂しい。
 ロレンスとゾエ(とゾエの家族)の関係の微妙さが印象に残った。仲がいい悪いではなく、そもそも面識がろくにない状態からサシャの訃報がきっかけで対面するというのは、お互いどう振る舞うのが正解なのかわからないだろう。会食の席でのロレンスの居心地が悪そうな表情が忘れられない。こういう時って何かしら言い訳を造って帰りたくなっちゃうよな・・・。
 なお、ロレンスには姉がいるのだが、姉弟の関係はかなり親密そう。『アマンダと僕』の主人公にも親密な姉がおり、どちらの作品でも親とは疎遠、というよりも親からのケアが希薄だから姉弟の絆が強固になったという設定が透けて見えた(本作では、父親が仕事で不在がちで、いなくなった母の代りに姉がロレンスの世話をしていたと明言されている)。この設定は監督(ないしは身近な人)の実体験が反映されているのかなとちょっと気になった。

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『主戦場』

 日韓の間でくすぶり続ける慰安婦問題。アメリカ人YouTuberのミキ・デザキは“ネトウヨ”から度重なる強迫を受けたことがきっかけで、彼らの主張に興味を持ち、慰安婦問題の渦中に飛び込む。取材先は右左、日米韓を問わず論争の中心人物たちだ。
 ミキ・デザキ監督は本作が長編ドキュメンタリーのデビュー作になるそうだが、組み立ての手際がよく、編集が的確かつ「突っ込み」スキルが高い。ここはボケだな!という部分の発見の仕方が上手いのだ。デザキ監督がアメリカ人で元々この問題に詳しいわけでもなかったという、いわば部外者、新参者的な立場でアプローチしていることが、この問題のいびつな部分を発見しやすくしているだろうと思う。
 監督にとって「ボケ」であるのは、右翼陣営のインタビュー対象らだ。話し方は穏やか、理知的でまともそうに見える。しかし、その歴史認識はどこかおかしい、持論の文脈も、資料の解釈の仕方も恣意的すぎるのでは?とひとつひとつ検証していく、つまりツッコミをいれていくのだ。能面のようにがっちりガードしてそつがない人がいる一方、話していく中で、この人はもうあまり喋らない方がいいのでは・・・本人も所属している陣営も得しないのでは・・・という場面も。ここに壮大なボケがあるけどなぜ世間は突っ込まないの?というのが監督のスタンスであるようにも思った。そして取材を重ねる中で、この問題をある目的にしようとしている集団がいるのではということを後半であぶりだしていく。
 慰安婦問題は歴史認識の問題としての側面と同時に、人権問題、ジェンダーの問題をはらんでいる。この人権問題、ジェンダーの問題であるという認識が右左双方であまり浸透していない。右派はあえてそこを避けようとしているし、左派でも意外と理解されていないように思う。女性の性被害の理解されなさは日韓問わず、また家父長制の弊害があることも韓国の研究者により指摘されていた(国内ではこの指摘にかなり反発があったようだ)。現在、この問題が非常にこじれているのは、これらのことにも関係しているように思う。本作の後半では慰安婦問題をある目的に利用しようとしている集団がいるという新たな側面を展開するが、その中で人権問題としての慰安婦問題のあり方から焦点がブレてしまった気がした。とはいえ、ズレた先の面白さ、怖さが予想外で、そこも本作の力なのだろう。ただ、それを部外者から指摘されるというのはかなり恥ずかしいしキツいのではないかと思うけど・・・。

『さらば愛しきアウトロー』

 1980年代初頭のアメリカ。誰ひとり傷つけず、拳銃をちらりと見せるだけで仕事を成功させる銀行強盗、フォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)。何度も脱獄してきた彼も今や74歳になっていた。彼の反抗はアメリカ中で報道されるようになり、刑事ジョン・ハント(ケイシー・アフレック)がタッカーの痕跡を追っていた。監督・脚本はデヴィッド・ロウリー。
 「ほぼ真実の物語」にはじまり、ちょっと人を食った字幕の文句(「そして彼はそうした」という直訳とか)がしゃれている。80年代が舞台だが、車や衣装、小道具など美術面だけではなく映像の質感そのものも80年代のアメリカ映画っぽい、ざらっとしたものに加工されているという凝り方。色みの黄色っぽさなど、あーあの頃っていく感じがすごくする。当時の映画をリアルタイムで見ていたわけではないのにそう思うのが不思議なんだけど。
 タッカーは人好きのする、すごくチャーミングな人物だ。何しろ演じているのはレッドフォードなので、顔はしわしわなんだけどいまだハンサムで色気がある。銀行強盗中の振る舞いにもしゃれっ気がありお茶目で憎めない。ジュエル(シシー・スペイセイク)へのナンパの仕方も、いやーこれいいナンパだな!と思わずにやにやしてしまう。ちゃんと年配者同士のロマンスを出会いの段階からやっている映画って意外と目にしない。2人の距離感が縮まっていく過程に、それまでの2人の人生を踏まえたものという感じが出ていてとてもよかった。
 ただ、タッカーはチャーミングだが人としてどうにもダメな面があることも、彼の関係者の言葉で示される。人への愛はあるが自分のやり方の愛でしかない。相手に対する責任をもつことができない。夫、父親としてはまずダメだろう。その人間性の変わらなさにおかしさと悲しさがあり、ほろ苦い。タッカーはドキドキしていないと、動き続けずにはいられない人なのだ。
 レッドフォードの俳優引退作ということだが、引退作としてはばっちりだったのではないだろうか。彼と相対するスペイセクもまたチャーミング。加齢による聡明さ、魅力が感じられる女性像だった。また、タッカーを追う刑事ハント役のアフレックが、抑えた演技でなかなか良い。普段はちょっと屈折した役を演じることが多いが、本作ではそうでもない。真面目な警官で家族思いだが、どうかするとドキドキさせるもの、追跡のスリルが先に立ってしまう、実はハントと似通った部分があるというアンビバレンツが面白い。

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『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』

 2年前から鬱病で仕事をやめ、引きこもりがちなベルトラン(マチュー・アマルリック)。ある日、公営プールで男子シンクロナイズドスイミングのメンバー募集を目にする。なぜか引きつけられ参加することにしたベルトランだが、チームのメンバーも彼同様になんらかの問題を抱える中年男性たちだった。監督はジル・ルルーシュ。
 男子シンクロチームが舞台ではあるが、スポーツ映画としての側面はあまり強くない。練習もあまり本格的に見えないし、シンクロしている姿が本格的に見られるのはクライマックスくらいなのだ。エピソードが散漫で、緩い群像劇と言った感じ。むしろ中年男性・女性のミドルクライシスの方が物語の中心にある。鬱のベルトランはもちろん、仕事では成功しているのに家族と心が離れていくロラン(ギョーム・カネ)や、起業マニアなのにどの事業も上手くいかないマルキュス(ブノワ・ポールヴールド)、いまだに芽は出ないが夢を諦めきれないシモン(ジャン=ユーグ・アングラード)、いつも周囲から浮いているティエリー(フィリップ・カトリーヌ)。皆それぞれ問題があり、更にコーチで元女子シンクロ選手だったデルフィーヌ(ヴィルジニー・エフィラ)もアルコール依存症だ。
 彼らは社会的に決して強くないし、いわゆる負け犬と言われる存在だ。彼らが一歩前に進んでいく姿を本作は描いているが、彼らを前に進めるのはシンクロへ打ち込むことそのものではなく、チームの仲間と自分の問題、仲間が抱える問題について対話していく行為であるように思えた。もちろんシンクロに取り組むことで自信がつくとかやる気が出てくるという面はあるのだが、むしろお互いに話し合うことで自分の中での問題の筋道がついていく、そういう場があり仲間がいると思えることが支えになるという要素の方が、彼らの前進にとっては大きかったのではないだろうか。鍛えて強くなるのではなく、弱いままでもちょっとだけ良くなるという方向性だ。
主人公であるベルトランのスタンスが象徴的で、彼は最初から自分が鬱であることを受け入れておりあまり隠さない。その上で物事に挑戦しようとし、最後までいわゆる「強い人」にはならないし目指さない。彼の妻も、ベルトランの弱さを受け入れており、軋轢は生じるがそれ込みで彼を大事に思っている。夫婦の関係がすごくよかった。弱い人が弱いままで生きるという方向性に現代性を感じた。

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『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』

 夏休みに部活の研修旅行でヨーロッパに行くことになったピーター・パーカー(トム・ホランド)は、旅行中に片思いしているMJ(ゼンデイヤ)に告白しようと計画していた。しかしベネチアで水の怪物が出現。謎のヒーロー、ミステリオ(ジェイク・ギレンホール)が危機を救うが、ピーターの前には元S.H.I.E.L.D長官のニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)が現れる。ミステリオことベックは別の世界からやってきて、彼の世界を破壊した存在エレメンタルズがピーターたちの世界に出現したのだと言う。監督はジョン・ワッツ。
 夏休み前哨戦にぴったりな作品。ピーターはバカンスをフューリーたちに邪魔されてがっくりするわけだけど、見ている側としてバカンス気分、かつ青春映画の良い部分を味わえる、そして当然ヒーロー映画としての爽快感もある。
 ピーターは「親愛なる隣人」としての自分の立ち位置を前作で確かめた(だから今回、地元のチャリティーイベントにも出るわけだ)。ところが今回は『アベンジャーズ エンドゲーム』後の世界であり、スパイダーマンを含むヒーローたちが人類を救ったことが世界中に知られている。当然人々はスパイダーマンにもアベンジャーズに代わる世界のヒーローとしての活躍を期待するし、フューリーもまた、ヒーローとしての覚悟をピーターに要求する。意欲の空回りをいさめられた前作とは逆の展開だ。しかし今回、ピーターは正に夏休み気分だし好きな女の子は気になるしで、ごくごく普通のティーンエイジャーとしての側面が強く出ている。ヒーローとして困っている人を助けたいという気持ちと引っ張り合いになるのだ。
 ただ本作、ピーターに対して大人になれ!立派なヒーローになれ!と強いるのではなく、しかるべき大人たちが彼をサポートし、成長を見守っている。メイおばさんはもちろん、今回はハッピーが頼もしい。彼があるシーンでとてもうれしそうな顔をする。スタークとピーターが重なって見えたんだろうなとぐっときた。スタークはピーターのことを案じていたが、実はそんなに的確に保護者、指導者になれたわけではない。むしろ今回、彼が遺したものがピーターを導いていく。そしてスタークから遺産を受け取ったのはピーターだけではないのだ。ピーターの存在が、ハッピーにとってはスタークから受け継がれたものと言えるだろう。
 ただ、前作の敵にしろ今作の敵にしろ、スタークの負の遺産ともいえる。良くも悪くもスタークが残したものとどう向き合っていくかというのが、本シリーズの裏テーマ見たいになってしまっている気がした。そういう点で、スパイダーマンシリーズの敵ってちょっと他のマーベル作品とは質が違うように思う。人により意図せず生み出されたもの、人の営みの一部としての悪という側面が強い。今回の敵には、なるほどそうきたか!と唸った。非常に現代的だし、明らかにアベンジャーシリーズの敵とは意味合いが違う。次作は更に、戦うことの意味合いが変わってきそうだ。

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『存在のない子供たち』

 12歳の少年ゼイン(ゼイン・アル=ラフィーア)は両親を訴える裁判を起こした。罪は「僕を生んだ罪」。ゼインは出生届が出されておらず、生年月日がわからないし社会に存在すらしていない扱いになっている。学校に通うこともなく、路上で物売りをする毎日だった。大切な妹が11歳で強制結婚させられたことがきっかけで、ゼインは家を飛び出す。監督・脚本はナディーン・ラバキー。
 試写で鑑賞。幼い子供が辛い目にあい続けている、かつそこそこ長いので見ていて結構辛かったのだが、力作。ゼインはなぜ自分を産んだのかと両親を責めるが、彼が置かれた苦境はむしろ社会のシステムの問題であって、個人がどうこう出来る規模の問題ではないだろう。ゼインの両親が子供たちに対してやっていることは、子供の人権といったものを全く無視しているし倫理的にも許されない(特に妹の運命は痛ましい)。面会に来た母親に対してゼインが取る態度は、これまでこの親子がどういう関係だったのか、親が子に何をしてきたのか端的に表している。子供が全然守られていないのだ。母親とゼインとの問題意識が全くすれ違っていることが辛い。
 ただ両親もまた、ゼインと同じく出生届のない、世の中からは「ないもの」にされている存在だ。ないものに対しては社会的な保障も、保護も与えられないというわけだ。そういう環境、仕組みの中で生きてきた両親には、他のやり方は最早わからないだろう。家出したゼインを助けてくれる、不法滞在者の女性も同様だ。「ないもの」から、「ないもの」であることにつけこんでまた搾取しようとする人達もおり、それがまた辛い。ゼインたちの境遇を家族や個人の責任にとどめず、彼らを「ないもの」にしている政治家、世間へのサイレン的な思いが込められている。貧困は国の失策なのだ。社会保障が個人を個人として存在させる、人の搾取を食い止める(少なくとも子供を売るような事態は避けられる)という側面はあるだろう。
 ゼインの、今を何とかしたいというもがきが痛ましくはあるのだが、彼は大人びているがさめきってはいない。まだこの世界を諦めていないまなざしは、物悲しげだが力強かった。なりゆきで赤ん坊と2人で生活をしなくてはならない様など、本当にはらはらしてしまうし、見ていてしんどいのだが、子供は圧倒的に「今」を生きているなと感じさせる作品でもあった。それは監督が彼らにはこの先が、光がなくてはならないと確信しているからでもあるんだろうけど。

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『新聞記者』

 東都新聞の記者、吉岡(シム・ウンギョン)は、社に匿名で送られてきたFAXを目にする。それは医療系大学新設計画に関する極秘文書だった。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原(松坂桃李)は、現政権に不都合なニュースをコントロールする職務に疑問を持っていた。外務省時代の元上司・神埼(高橋和也)と久しぶりに会い喜ぶものの、数日後、神埼は自殺する。彼を自殺に追い込んだものは何だったのか、神埼は自分が所属する組織の暗部に気づいていく。原案は望月衣塑子の同名著作。監督は藤井道人。
 メディアは権力を監視する為にあると言う矜持を持ち続け、「自分を一番信じ疑え」という父が残した言葉に従い続ける吉岡の一本気が胸を打つ。彼女は日本人の父親と韓国系の母親を持ちアメリカで育ったという、日本では「異物」として扱われる存在。だからこそ、この国のいびつさ、危うさを客観的に見ることが出来る。
 一方、杉原は与えられた任務に疑問をもつことがない内閣情報調査室において、ごくごく普通の感覚、倫理観や正義感を持ち続ける。その普通さが彼を組織からはみ出た存在にしていき、彼を苦しめるのだ。組織の特殊性、組織の論理に染まらずにいられるかという部分は、どんな人にも心当たりがある、なかなか耳の痛い部分ではないだろか。ただ、昨今の世の中を見ていると、本作における内閣情報調査室が掲げる論理に、世間の論理が近づいてきているような気がして怖い。内閣情報調査室の論理は国や国民を守る為のものではなく、現政権の利益を守る為のものにしか見えないのだが、自分達を圧迫していくものの為に奉仕してしまう現象、何と名づければいいのか・・・。汚職にまみれた政権でも安定している方がいいのか、安定の為には非合法・非倫理的な手段をとってもいいのかといったら、いいわけないと思うんだけど。作中、「この国には本物の民主主義は不要だ」とまで言われてるんだけど・・・。でも、近年の日本社会を見ると民主主義の根付いてなさに茫然とすることが多いのは確かだ。
 本作に対し社会批判、政権批判をよくやった!という声が多いようだが、どちらかというと社会派と言うよりも王道のサスペンスとしての側面の方が強いように思った。むしろ、この程度で社会批判、政権批判をうたったことになるのかという拍子抜け感の方が強い。時事ネタを取り入れていくのはエンターテイメントとしては定番で、本来ならテレビドラマ等でもっとタイムリーにネタにしてもよかったことだと思う(本当に『相棒』の2時間SPとかでやりそうな話なんだよね)。それすらためらわれる空気があるなら、それこそ民主主義死んだということになるのでは。

新聞記者 (角川新書)
望月 衣塑子
KADOKAWA
2017-10-12






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2019-02-06

『さよなら、退屈なレオニー』

 カナダ、ケベックの小さな港町に住む17歳のレオニー(カレル・トレンブレイ)は、高校卒業を控えているが進路は定まらず、自分が何をしたいのかもわからない。口うるさい母も母の恋人も大嫌いで家にもいたくない。ある日レオニーはダイナーで知り合ったミュージシャンのスティーブに興味を持ち、彼にギターを習い始める。監督はセバスチャン・ピロット。
 レオニーの不機嫌さ、周囲への八つ当たりを自分でもコントロールできない感じが実にティーンエイジャーっぽい。自分が今感じ悪いなという自覚やそれに対する自己嫌悪もあるけど、だからといって機嫌のいいフリをするなんてしゃらくさくて出来るか!ということだろう。社会的な「感じの良さ」は彼女にとってはかっこ悪いし、自分ではない誰かに好まれる為の格好はしたくないという面倒くさい自意識なのだ。しかし、そこは変えなくていいよ!そのまま行けよと言いたくなった。自立した個人になっていく為の過程なんだから。
 スティーブとレオニーは距離が縮まっても一線を越えることはない。最初はレオニーの方からスティーブにちょっかいを出しているし、スティーブも段々まんざらでもない感じになっていくが、子供と大人という区別はされている。レオニーはスティーブのことを負け犬呼ばわりしてなじる(これも八つ当たりなんだけど)が、彼は彼女を責めたりしない。そこは、彼女がまだ子供だから許容されている部分なのではと思う。彼がレオニーを責めるのは、約束していたギターのレッスンを彼女が無断で休んだということで、彼女が自分の思い通りにならなかったからではないのだ。
 レオニーがまだ十分に大人とは言えない、子供であるということは、父母との関係、母の恋人との関係からも垣間見える。母や母の恋人の前では一人前ぶるが、彼女の不機嫌さは子供だから許されていることでもある(母の恋人はほんとにいけすかないので、一緒にいたら大人でも不機嫌になっちゃいそうだけど・・・)。別居中の父親を慕うレオニーだが、彼女が慕っているのは理想化された父とも言える。父と母との関係がどのようなものだったか、彼らがどういう個人なのかを受け止めるのはまだ難しい。
 冒頭と終盤、レオニーがバスに飛び乗るシーンが軽やかで素晴らしい。音楽の合わせ方も含め、これぞ映画!という感じがする。他の部分はそれほど劇的ではないので余計に際立つ。今はここにいるけど、いつでも、どこへでも行っていいんだという風通しの良さが感じられるシーンだ。仮に彼女がこの先もこの町に留まるとしても、いつでも出ていく手段があると確信できているのとそうでないのとは全然違うだろう。


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『スノー・ロワイヤル』

 スキーリゾート地キーホーに住む除雪作業員のネルズ・コックスマン(リーアム・ニーソン)は、模範市民賞を受賞するほど真面目な男。しかし一人息子が麻薬王バイキング(トム・ベイトマン)に殺され、復讐に乗り出す。監督はハンス・ペテル・モランド。
 モランド監督による『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』のセルフリメイク作品(元作品にかなり忠実だとのこと)だそうだが、なぜこれをわざわざリメイクした・・・。面白いが、珍妙な味わいがある。率直に言って変!基本的にふざけてはいないのだが、真顔でギャグを繰り出すようなところがある。
 息子を殺されて怒りに燃える男が主人公だし、近年は「悪い奴絶対殺すマン」として定着しているニーソンが主演なので、今回もリーアム無双なのかなと思っていたら、今回はそこまで無敵ではない。人を殴れば自分の拳はすりむけ、相手に引きずりまわされたりもする程度の生身感があるし、体力にも限界がある。そもそも戦闘のプロではないから色々危なっかしい。死体の処理もかなり大雑把で、手法も「クライムノベルで知った」というくらいの素人だ(大雑把な処理でも大丈夫なくらいの極寒地帯が舞台なので、そこも面白い)。不器用でどたばたした復讐劇として、当事者は大まじめなのに時々笑ってしまう。陰惨なのにどこか長閑でユーモアがある。登場人物が死ぬたびにちゃんと「死亡」字幕が表示され、更にその人の宗教的な背景がわかるマークも付けてくれる、拘るのそこ?という新設設計も味わい深い。
 ネルズにしろバイキングにしろ下っ端のギャングたちにしろ、登場人物が全員キャラ立ちしていて、悪党でも憎々しいと同時にどこか可愛らしさがある。親に似ず理性的でかしこいバイキングの息子や、バイキングの右腕的な部下の常識人ぶりがアクセントになっている。この部下については、後半であっそうか!という設定が明らかになり、それを知っちゃうとその後の行動もまあまあしょうがないよね・・・と納得。
 本作、何より除雪車その他の「働く自動車」映画としてとても楽しいので、クライマックスを楽しみにしてほしい。除雪車、運転したくなります。

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『12か月の未来図』

 名門高校の国語教師フランソワ(ドゥニ・ポダリデス)はパリ郊外の教育困難中学に送り込まれる。エリート校の生徒ばかりを相手にしてきたフランソワにとって、様々なルーツを持ち学力もまちまちな生徒たちを相手にするのは一苦労。特にトラブルメーカーである少年セドゥには手を焼く。しかし教師としての意欲を取り戻し、生徒たちと格闘していく。監督はオリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル。
 フランソワが教育困難中学へ派遣されたきっかけは、彼のちょっとうぬぼれた性格、意外と女好きな脇の甘さが招いたものだ。この脇の甘さと自惚れがこの後もちらほら見受けられるので、こいつ懲りてないなと思ってしまう。ちょっといいかっこしいなのだ。ただ、最初は成り行きで始めた中学校赴任だが、エリート校で教えるのとはまた違ったやりがいにフランソワは目覚めていく。冒頭、エリート校の生徒たちにフランソワが答案用紙を返却するが、点数とコメントを大分辛辣に公表しながらなので、下手すると(下手しなくても)モラハラだ。点数と生徒の人格を結びつけた発言をしてしまっているのだ。最初から勉強することが身についている、学習意欲が水準以上にある進学校の生徒相手ならこれも有効なのかもしれないが、学習困難校の生徒におなじことをやったら相手を傷つけやる気を削ぐだけだろう(そもそもどういう生徒が相手でもああいった言い方をしてはいけないと思うが)。フランソワはより基本的、根源的な「学ぶ」ことと向き合わざるを得なくなる。学ぶとはどういうことか、学ぶことの面白さはどんなものか生徒に伝えていかなければならないのだ。またセドゥのように学校で学ぶこと自体が辛い生徒がいるということにも初めて気づいていく。アーティストである妹からの示唆により気づくのだが、妹もまたフランソワやその父親のように学校の勉強がごく自然にこなせる人の間で居心地が悪かったんだろうことが垣間見える。出来る人には出来ない人の気持ちってわからないんだよなと。
 フランソワは一定水準以上の勉強を教えることには長けているのだろうが、中学校で要求されるのはそれとはまたちょっと違うことだ。何を持って「いい教師」と言うのかは、生徒の層や学校の性質によって変わってくる。教師の大変さが端々で垣間見られた。フランソワはセドゥの退学を阻止しようとするが、それはまだ中学校のやり方に慣れていないからで、僕たちが悪者で君が英雄かと揶揄したくなる数学教師の言い分もわかる。学校全体のことを考えると彼のようなやり方にせざるを得ないのかもなということも。とはいえ、場所が変わって要求されることが変わっても、それに適応しつつ教師の本分を全うしようとするフランソワは、やはり「いい教師」と言えるのでは。好かれる教師といい教師とはちょっと違うんだよな。生徒の顔と名前と名前の正確な発音(何しろ多民族多文化なので)を必死で覚えようとするあたり、基本的に真面目だ。

パリ20区、僕たちのクラス [DVD]
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2011-04-28






Etre et avoir ぼくの好きな先生 [DVD]
ジョルジュ・ロペス
バップ
2004-04-07
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