3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画題名か行

『工作 黒金星と呼ばれた男』

 1992年、北朝鮮の核開発により南北の緊張は高まっていた。軍人のパク・ソギョン(ファン・ジョンミン)は核開発の実態を探るため、黒金星(ブラック・ヴィーナス)というコードネームの工作員として、商人を装い北朝鮮に潜入する。北朝鮮の対外交渉担当・リ所長(イ・ソンミン)の信頼を得ることに成功し、金正日との面会にまでこぎつける。しかし1997年の韓国大統領選挙の動向により、思わぬ横やりが入る。監督はユン・ジョンビン。
 実話を元にしており、ソギュンの活動に大きな影響を与える大統領選が1997年。ごく最近の話だということにまず驚いた。素材となった事件が起きてから映画化までの期間が案外短いことにも驚く。
 ソギョンは祖国・韓国の未来の為に命を危険にさらし、諜報活動を続ける。韓国の商人で販路拡大を狙っているという設定で立ちまわるものの、北朝鮮の軍人には信用されず、監視の目は厳しい。かなりひやっとする瞬間も多々あり、スパイ映画としてスリリング。しかしその一方で、リ所長との間にはある種の絆が育っていく。ソギョンは韓国、リ所長は北朝鮮を祖国としており立場は違うし利害関係が必ずしも一致するわけではない。しかし、自分の祖国を愛し、その未来を案じているという共通点がある。この国を、この世の中を少しでも良くしたいという意味での愛国心が2人を結びつけるのだ。リ所長の「(ソギョンを)信じるしか方法がない」と言う言葉、ソギョンの「冒険しませんか」という誘い、どちらも相手がソギョン/リ所長でないと出てこない言葉だろう。立場上それをおおっぴらにはできないものの、お互いに共感と信頼がある。それが導く終盤での2人のやりとりには胸が熱くなった。立場が違う2人が同じ方向を見て、同じ夢を見るのだ。その夢を2人が諦めていないことがわかるあるシーンにこれまたぐっとくるのだ。
 ソギョンの任務を阻む最大の敵が、彼に任務を命じた政府であるというところが皮肉であり怖いところでもある。政府が守ろうとしているのは現政権であって、国家・国民の未来ではないのだ。国と政権とは別物で、政権を守ることが愛国心というわけではない。ソギョンもリ所長も、当時の政権から見たら反逆者なのかもしれないが、彼らは間違いなく愛国者なのだ。

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 『ゴールデン・リバー』

 ゴールドラッシュに沸き立つアメリカ。腕利き殺し屋兄弟のイーライ・シスターズ(ジョン・C・ライリー)とチャーリー・シスターズ(ホアキン・フェニックス)は、政府から内密な依頼を受け、黄金の見分け方を発明したという化学者ハーマン・カーミット・ウォーム(リズ・アーメッド)を追う。連絡係のジョン・モリス(ジェイク・ギレンホール)からの手紙を頼りにウォームの後を追うが、事態は予想外の方向へ。原作はパトリック・デウィットの小説『シスターズ・ブラザーズ』、監督はジャック・オーディアール。
 原作小説よりもむしろ『シスターズ・ブラザーズ』という題名に合った内容のように思ったが、映画邦題がそうではないのは皮肉。ゴールデンリバーからはむしろ遠のいているような気がするんだような・・・。ともあれ、自分にとって原作で不発だった部分が映画では上手く補完されており、面白かった。
オディアール監督は「つかの間の夢」みたいなものを扱うストーリーに拘りを持っているのかなと思った。理想主義的な ウォームのコミューン構想にモリスが引き込まれていくのも、4人がやがてひとつの共同体のようになっていくのも、つかの間の夢だ。シスターズ兄弟の「無敵の殺し屋」という肩書自体がつかの間の夢のようなものかもしれないが。監督のほかの作品でも、この一瞬がずっと続けばいいのにというような、多幸感あふれる瞬間がしばしば見られる。が、それはつかのものでありいずれ終わるのだ。
 とはいえ、シスターズ兄弟にとっては、廻り廻ってあったはずのものを取り戻す、父親によって奪われた安心感、脅かされずに日々を過ごす場に辿りつく話でもあるから、オディアール監督、少し優しくなったのだろうか?父(的なもの)を殺し、あるいはそういうものを捨て逃げ続ける男たちの姿はしんどそうでもある。逃げ続けるということは、一か所に留まれないということだ。とはいえ、父親なんていずれ死ぬからな!と言わんばかりのいうドライさがあり、いっそユーモラスでもあった。そこ戦うところか?という問いかけのようでもある。
 シスターズ兄弟の密着していたい/離れたいというジレンマがつのる一方、モリスとウォームは密着したいがしてはいけないというジレンマに苛まれる。ウォームの「友達になりたかった」という言葉が切ない。双方あそこまでやったらもう友達決定でいいのに!また、イーライは意外と繊細でよく者を考えており、モリスとウォームとも通じ合う部分がある(当時としては「おしゃれ」だったらしい歯ブラシを使っていることで、なんとなくイーライとモリスの距離が近づくのがおかしい)。そこにチャーリーはなかなか交ざれず、殺し屋から足を洗いたいというイーライの希望も受け入れられない。だが4人の間には危ういバランスが保たれる。彼らを取り込んだのは黄金の夢ではなく、共同体という夢だったようにも思った。
 西部劇だが、この時代のテクノロジーがどのくらい進んでいたのか、生活文化の様子が垣間見られるところが面白かった。前述した歯ブラシの登場や、イーライがホテルの水洗トイレに驚いて思わずチャーリーを呼んだり、路上駐車している馬車からおそらく冷蔵庫用の氷が荷降ろしされるシーンがあったりと、細かい所がなかなか物珍しかった。

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『Girl ガール』

 ララ(ビクトール・ポルスター)はバレリーナを目指し難関バレエ校に入学する。しかし体のコントロールは難しく、クラスメイトからの嫌がらせもうけ、焦りは募っていく。監督はルーカス・ドン。第71回カンヌ国際映画祭カメラドール、最優秀俳優賞受賞作。
 ララはトランスジェンダーで、手術を受ける意思は固く、ホルモン治療も始めている。父親は彼女を娘として尊重し愛しており、主治医やカウンセラーも親身になっている。しかし、それでも彼女の苦しみを周囲が理解しているとは言い難い。いや客観的には十分理解しているように見えるし、彼らの愛情や思いやりは本物だ。ただ、ララ当人にとっては十分ではない。彼女は家族の愛情や医師らの配慮があることは重々理解しているが、それらの愛や思いやりは、彼女の「今ここ」にある苦しみを解決するものではないし、彼女の苦悩は周囲と分かち合えるものではない。だから「大丈夫」と言うしかないのだ。彼女の「大丈夫」が嘘だと気づいている父親との距離感が痛ましい。どちらのせいというわけではなく、そういうふうにならざるを得ない問題だということなのだろう。自分の体のことは自分以外には実感としてわからないだろうという、ララの諦念すら感じる。それが終盤でのある決断に繋がっていくわけだが、子供の苦しみを見続けなくてはならない(そこに介入できない)親も辛いだろうと思う。
 身体に関わる問題はデリケートなものが多く、特にララが抱えているようなものは、周囲が無遠慮に触れていいものではないだろう。ララのクラスメイトたちは一見、フラットなように見えるし、ララを「女性」として仲間に入れているように見える。しかし、学校でのララは笑顔でいても常に緊張し、何かに脅かされているように見える。トイレにいかなくてすむように激しい運動の時も水を飲まず、レッスン後は体の処理の為にトイレに一人こもる。自分の体のコントロールがそもそもきついのだ。加えて、何かの拍子にクラスメイト達のからかい、悪意が噴出する。誕生会での「見せなさいよ」という言葉の心なさ。彼女らにとっての自分の体と、ララにとっての自分の体は意味合いが全然違うし、「見せる」意味合いが全然違う。そもそも他人の体を見せろというのが問題外なんだけど・・・。このシーンがほんとうにきつくて気分悪くなってしまった(それだけ映画に訴えてくるものがあったということだが)。
 セクシャリティのことも、バレエを続けることも、ララにとっては自らの体の違和感との戦い、肉体を意思で屈服させていくことだ。バレエ講師は体を開放して、という様なアドバイスをするが、ララにとってはそれは到底できないことだというのが皮肉だ。

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『神と共に:第二章 因と縁』

 1000年で48人の使者を転生させた冥界の使者カンニム(ハ・ジョンウ)、ヘウォンメク(チュ・ジフン)、ドクチュン(キム・ヒャンギ)。あと1人転生させれば自分達もまた転生できある。転生の可能性がある最後の貴人はジャホンの弟スホン(キム・ドンウク)だが、彼は一度怨霊と化しており本来なら裁判を受けるまでもなく地獄行き。閻魔大王は現世からソンジュ神(マ・ドンソク)を連れ戻せば裁判を行うと条件を出す。監督はキム・ヨンファ。
 第一章では、地獄めぐりアトラクションであると同時に、ジャホンとスホンとその母に一体何があったのかという家族のドラマが盛り込まれていた。第二章ではアトラクションぽさはぐっと後退(とはいえスホンが怪魚の餌にされる、それ必要ですか?と言いたくなる珍妙な件はあるんだけど・・・)し、使者たちの前世の因縁が前面に出てくる。サブタイトルの通り、正に因と縁が盛りに盛られている。あの人とこの人については予想していたけど、最後の最後まであんな人まで絡んでくるの?!盛り過ぎじゃない!?ともうおなかいっぱい。一方で現在のソンジュ神と彼が守護する老人、その孫とのホームドラマ的な、コミカル人情話が展開していく。第一章もそうだったけど、とにかく振れ幅が大きくて楽しいけどちょっと疲れた。
 使者たちの前世をしるソンジュ神は、「記憶を奪うなんて残酷だ」と漏らす(使者たちに前世の記憶はない)。この「残酷」というのが、誰にとってのものなのか、一体誰の為の裁判なのかちょっとミスリードさせている部分もあり、ミステリ的な面白さ、そして痛切さがあった。確かにこの状況は、ある人にとってすごく辛い。前世の様子がわかってから第一章、第二章を振り返ると切なさ倍増だ。一章二章通して、誰が誰に対して思う所があるのかということを、重層的に見せていく構成になっている。
 悪人はいない、いた場所が悪かったという(ような意味の)ある登場人物の言葉が印象に残った。使者たちも、ジャホンもスホンも、全く清廉潔白というわけではなく、登場人物のだれもが何かしら重荷を背負っているし、かなり非道なことをやってしまった者もいる。それでも根っからの悪人はいない、シチュエーションが違えば善性を発揮できるとするところに強いヒューマニズムを感じた。

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『きみと、波にのれたら』

 子供の頃からサーフィンが好きで、海洋大学への進学を機に海辺の町に引っ越してきたひな子(川栄李奈)。火事騒動がきっかけで消防士の港(片寄涼太)と知り合い恋に落ちる。お互いかけがえのない存在になっていくが、ある日海でおぼれた人を助けようとし、港は亡くなった。ショックが大きくサーフィンはおろか、海を見ることもできなくなったひな子。しかしある日、2人の思い出の曲を口ずさむと、水の中に港が現れる監督は湯浅政明、脚本は吉田玲子。
 堂々と真面目に恋人同士がいちゃいちゃする、真正面からじゃれあうアニメーションて日本では意外となかった気がする。本作、前半は2人のいちゃいちゃ、好きで好きでしょうがない!愛おしい!という感情の昂揚・交換をど直球で描いていて、ひねりのなさが逆に新鮮だった。こういうことを近年の日本アニメが避けてきたということなのだろう。四季を通して2人の距離感が変化していく様を瑞々しく描く。このパートをしっかりやっているから、港を失ったひな子の辛さ、取り乱し方に説得力が出るのだ。
 ひな子は水の中で港と再会でき、また一緒にいられるととても喜ぶ。落ち込んでいた所から一気に浮上するのだが、彼女の姿はとても危うく見える。他の人たちに港の姿は見えない。ひな子が悲しみのあまり自分の世界に閉じこもり、港の幻想を追い続けているとも言える。どんどん死の側に引き寄せられていくのだ。映画のトーンはポップでファンタジックだが、実はホラー的な要素がかなり強いと思う。全くジャンルは違うが黒沢清監督『岸辺の旅』を思い出した。港との繋がりが非常に強かったひな子には、生の側に引きとめてくれる存在がいない。彼女のことを心配する友人や港の後輩、妹の声も、彼女に届かないのだ。彼女が生の側に留まるには、自分自身で道を見つけ「波にのる」しかない。
 彼女が再び「波にのる」までを描く、ひな子の喪の仕事とも言えるのだが、ある地点で、もう彼女は大丈夫だなと思えるシーンがある。それまで水の中の港を見続けていたひな子が、ある時点で彼を見なくなる、波の方向、前方を見つめるのだ。こういう登場人物の心の軌道をさりげなくちゃんと描写しているところが、本作の良さだと思う。これは脚本の力なのか、絵コンテの力なのか。
 乗り物に乗って移動するシーンがどれも良かった。移動している主体の視点で動いていく風景が鮮やか。自動車にしろ自転車にしろサーフボードにしろ、それぞれ(その乗り物自体の造形も込で)魅力があった。なお、最も少女漫画感を感じたのはひな子の住む部屋のデザイン。広い!おしゃれ!大学生にこんないい部屋住めないんじゃないか・・・。しかし他の部分はロケハンばっちりでリアルなのに、ひな子の部屋のみ雰囲気優先で作っている所に拘りを感じた。そうかこういう方向の作品なんだなとここで納得した感がある。

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『神と共に 第一章:罪と罰』

 死を迎えた消防士ジャホン(チャ・テヒョン)の前に3人の冥界からの使者が現れる。その3人、カンニム(ハ・ジョンウ)、ヘウォンメク(チュ・ジフン)、ドクチュン(キム・ヒャンギ)は地獄の裁判の弁護と護送役。死んだ人間は7つの地獄で裁判を受け、全て無罪判決を受けた者は転生できる。そして大勢を転生させると使者たちもまた転生を許されるのだという。善行を認められた「貴人」扱いだったジャホンは転生確定だと思われたが。監督はキム・ヨンファ。
 ウェブコミックの実写映画化だそうで、地獄めぐりの旅の様子や3人の使者のキャラクター造形など確かに漫画っぽい。韓国版ブリーチか?という感じ(イケメンがロングコートはためかせてるし・・・)。全体の構成も連載漫画のダイジェストっぽかった。 少年漫画っぽいのだが、人情話の側面がかなり強い、かつてらいがない所が韓国映画ならではか。親子、兄弟の情の描写はベタかつ濃厚。各地獄の大王さまたちも人情に弱過ぎて、そんなんで無罪有罪決まっちゃうの?!とびっくりする。これだったら結構な人数が無罪になって転生しているに違いない。
 とはいえこの人情部分も悪くなかった。絵にかいたような「いい人」であるジャホンが抱える罪悪感や、その弟の屈折、母の愛など、ベタはベタなのだが意外とくどくはない。本作、あの時実際に何があったのか、この人は実のところ何をしたのかというミステリが、ジャホンと母弟、弟の先輩後輩、そして本作ではまだ明かされない使者たちの生前の出来事という形で重層的に配置されているのだ。人情話はこのミステリ要素を成立させるための道具立てという印象だったので、そんなにくどく感じられなかったのかもしれない。
 本作の最大の魅力は3人の使者のキャラクターだろう。私にとっては彼らのやりとりを楽しむ作品という側面の方が強かったので、そりゃあ人情話はサブ扱いになっちゃうな・・・。リーダーであるカンニムが基本冷静なのについ情に流されてしまう様や、それがちょっと気に食わない、しかしリーダー大好き!感がにじみ出るヘウォンメク。ヘウォンメク、死者の前だと空気を読まないサイコパス感があるのに、カンニムに対してはちゃんと空気読むあたりが可愛い。そして少女の姿だがそれが単純に「年少の女性」のことで、性的なニュアンス、日本映画にありがちな少女幻想的なものをはらまないドクチュンの造形がよかった。こういう「少女」なら安心して見ていられる。第二部では彼らがなぜ死んで使者になったのかという部分が明かされるようなので楽しみ。私は基本的にサービスの盛りのいい映画はうるさくて苦手なのだが、本作はある程度記号化されているせいか、あまり鼻につかなかった。

『COLD WAR あの歌、2つの心』

 冷戦下、ソ連占領地帯のポーランド。歌手を目指し歌劇団に入団したズーラ(ヨアンナ・クーリク)とピアニストのヴィクトル(トマシュ・コット)は激しい恋に落ちる、しかしヴィクトルは政府に目をつけられるようになり、パリへの亡命を決意。ズーラに同行を願うが、待ち合わせ場所に彼女は現れなかった。やがて歌劇団の公演先で再会した2人は、お互いの気持ちに変わりがないことを確認するが。監督・脚本はパヴェラ・パヴリコフスキ。
 試写で鑑賞。モノクロの映像がクールで美しい。また、ズーラが歌手なだけあって音楽映画としてもいいのだが(監督がジャズ好きらしく、ジャズの選曲がいい)、彼女が歌うポーランドの歌曲「2つの心」が何度も違うアレンジで繰り返される。アレンジの違いが、ズーラとヴィクトルの関係の変化と重なっていくようでもあった。一番最初のシンプル、素朴なバージョンにはもう戻れないというような寂しさがまとわりつく。
 ズーラはヴィクトルの亡命についていかなかった理由を、「(自分が)まだ未熟で全てあなた(ヴィクトル)に劣っているから」だと言う。ヴィクトルにはこの理由はぴんとこなかったみたいだが、彼女の人となりをよく表わした言葉だと思う。相手に自分の全てをゆだねるのが嫌というか、イニシアチブを一方的には取られたくないのだろう。同じ熱量で向き合う関係、2人で同じ方向を見ることを強く求めているのだと思う。対等でありたいのだ。だからヴィクトルが音楽プロデューサー目線で君にはこの曲がいい、この歌詞がいいと指導するとカチンとくる。彼女が彼に求めているのはそういうことではないのだが、よかれと思ってやっているヴィクトルにはそこがわからないので、2人はすれ違い続ける。すれ違いつつ強く深く愛し合うという奇妙な関係を10数年間にわたって描くという、なかなかしんどいロマンス映画だ。しかし思いが深すぎてまともな関係(と世間的にみなされるような関係)に落とし込めない2人の在り方は胸に響く。
 作中時間は10数年にわたる大河ドラマなのだが、映画自体は90分程度と短い。経過する年数の省略の仕方が思い切っており、省略された部分が多々あることで2人が経た時間、そして彼らの背後に流れる歴史としての時間の経過がより際立っていたように思う。コンパクトな編集が良かった。

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『海獣の子供』

 中学生の琉花(芦田愛菜)は部活でトラブルを起こし、学校にも家にも居場所がない。別居中の父親が働いている水族館を訪ねたところ、ジュゴンに育てられたという少年海(石橋陽彩)と空(浦上晟周)に出会う。海と空は世界中で起きている不思議な海洋現象に関係があるらしい。原作は五十嵐大介の同名漫画、監督は渡辺歩。
アニメーション制作はSTUDIO4℃。
 原作の画風は、決してアニメーション向きではない、かなりタッチが細かく線描が多いもの。そのタッチを再現している作画に唸った。ペンの線描がそのまま動いている感じ。舞台の大半は海なので当然水の描写が多いのだが、これまた素晴らしかった。質感とスケール感は映画ならではなので、なるべく映画館で見た方がいいと思う。特に、ビジュアル面だけでなく音の効果にはっとする所が多かった。こちらも水関係の音の良さが目立つ。波音だけでなく水中の音の聞こえ方や、雨の中に入った時の独特な音の籠り方など、目ならぬ耳をひかれる部分が多かった。
 琉花のモノローグを多用されており、これにはストーリー展開の補助線的な役割の意図があるのだろうが、正直言ってあまり効果的とは思えなかった。原作がそうなっているからそうしたというのはわからなくはないが、余分なものに聞こえてしまった。作品自体が考えるな感じろ的なスタンスなので、言葉がどうしても上滑りになる。絵の力の方が圧倒的に強い。どう言語化しても表現しきれない、違うなーという気分になってしまった。言葉以外の方法での他者との通じ方が本作のテーマのひとつだというのも一因か(個人的には、ここが自分とは反りがあわない部分なんだけど)。
 琉花の居場所のなさは、アニメーションで彼女が動いている姿を見る方がより切実感をもって感じられた。家の雰囲気とか、父親の反応がちょっと鈍い他人事感(これは声をあてた稲垣吾郎の演技もよかった)などが微妙にいたたまれない。両親の目がもっと琉花に向いていたら、そもそも彼女が「選ばれる」ことはなかったんじゃないかとも思った。
 アニメーションの技術、演出力は非常に高くビジュアルの力があるが、正直それを越えてくるエモーショナルなもの、物語の力みたいなものは弱い(これは原作を読んだ時も思った)。人体と宇宙が繋がっている感じ、世界の神秘といったスピリチュアルというかニューエイジ的な世界観はもうフィクションの中ではやりつくされた感があって、なぜ今これを?という気分がぬぐえない。もはや一周して新鮮なの?

海獣の子供 (1) (IKKI COMIX)
五十嵐 大介
小学館
2007-07-30






鉄コン筋クリート [Blu-ray]
二宮 和也
アニプレックス
2014-04-23

『コレット』

 フランスの田舎町で育ったコレット(キーラ・ナイトレイ)は、14歳年上の人気作家ウィリー(ドミニク・ウェスト)と結婚し、パリで暮らし始める。コレットの文才に気づいたウィリーは自分のゴーストライターとして彼女に小説を書かせるが、これが大ヒット。最初は夫と共に喜んでいたコレットだったが、徐々に自分が書いたことを伏せ続けられることに葛藤を覚え始める。監督はウォッシュ・ウエストモアランド。
1890年代、ベル・エポック時代のパリのサロンの華やかさと、パリに出てきたばかりのコレットとの対比が印象に残った。コレットの服装は当時の風俗に疎い人が見ても、多分野暮ったいんだろうなとわかるものだ。そんな彼女がパリで暮らすうちどんどん洗練され、おしゃれになっていく。コレットのファッションがとても楽しい。ウィリーはもちろん洒落者なので、これはどれだけお金があっても足りないのでは、と思っていたら案の定家計が火の車。ウィリーがゴーストライターたちに給料を払えず、やむなくコレットに書かせたことで、彼女の才能が開花していく。
 ウィリーとコレットは一見いいチームに見える。ウィリーは経営者、プロデューサーとしては実際に有能と言えるだろう。ただ、いいチームに見えてしまう所が厄介なのだ。もし2人が対等な契約関係、純粋なビジネス上の関係だったらこれはいいチームといって差支えないのだが、コレットはウィリーの妻であり、当時の妻は夫と対等とはみなされていなかった。ウィリーはコレット曰く「うるさいけど割と自由にさせてくる」のだが、「自由にさせてくれる」という表現が出てくるってことは、本当には彼女は自由ではない、ウィリーと対等ではないということだろう。ウィリーはコレットを愛しているし彼女の才能を認め活かそうとしてはいるので、関係の不均等さが見えずらいし、当事者であるコレットもなかなか気づかない。ウィリーはコレットが女性であること、妻であることに甘えているわけだ(妻だから原稿料支払わなくていいという理屈なわけだし)。自分の持ち物の一部みたいな気持がどこかである。自分が色々教え導いてやる相手という認識から離れられないのだが、実際のコレットはどんどん先に進んでおり、ギャップが生じていく。
 コレットには同性の愛人がおり、ウィリーは最初は容認しているどころか、自分もその愛人にアプローチしていく。共犯関係というよりも、自分が彼女に影響を持ち続ける、彼女を自分の一部にしておくためのちょっかいの掛け方のように思えた。コレットがミッシー(デニース・ゴフ)との関わりの中で自立への道を歩み始めると、陰湿な嫌がらせをする。ウィリーにとってコレットは自分の作品のような存在でもあり、自分が思う枠から外れられるとすごく嫌なのでは。それはやはり、対等な関係とは言い難い。
 ミッシーの存在がコレットにとって非常に大きかったことはわかるのだが、肝心のミッシーは本作では今一つ存在感が薄くそこは残念だった。彼女(彼)はトランスジェンダーと思われるが、そのあたりの表現があいまい。もうちょっと踏み込んでも良かった気がする。

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『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』

ゴジラによって大きく破壊された世界。更にゴジラに誘発され、モスラ、ラドン、キンギギドラなど次々と太古の怪獣たちが復活し始める。未確認生物特務機関モナークは、怪獣たちの覇権争いによって人間の世界が破壊されるのを阻止しようと奔走する。監督はマイケル・ドハティ。
ゴジラガチ勢がゴジラ映画を作るとこういう感じになるのか・・・。ある意味非常に目的意識がはっきりした、ハマる人にはハマるがかなりいびつな作品だと思う。私は嫌いではないし楽しんだけど、ストーリー構成は破綻していると言っていいだろう。ベラ・ファーミガ演じるエマ・ラッセル博士の迷走ぶりを筆頭に、人間の登場人物の行動原理が矛盾している、行き当たりばったりでストーリーの都合上無理やり後付けしたもののように見えるのだ。そのストーリーについても、物語を展開させるためのものというよりも、見せたいシーンと見せたいシーンの間をつなぐ為にのみとりあえず作ったものという印象が強い。ストーリーテリングが申し訳程度で、あくまで見せたいのは絵なのだ。
どういう絵を見せたいかというと、もちろん怪獣と怪獣が大激突をしてとっくみあい、世界を蹴散らす姿だ。引きで「激突!」シーンを見せるのはもちろん、なぜか怪獣の足元に回り込みたい欲が頻発していて、監督のフェティッシュに満ちている。作り手の興味がある所とない所の落差が極端だ。人間ドラマには本当に興味がないんだなと実感できる。
ゴジラたち怪獣のビジュアルは神話の世界感あって素晴らしい(特にモスラは美しい!蛾のくせに!)。ただ、ちょっとキャラクターを載せすぎな気がした。怪獣同士で結構コミュニケーションが取れているみたいだし、キングギドラにいたっては首同士で個性が違ってちょっとコントみたいなくだりも。そういう部分は二次創作的な味わいがあり(明らかに怪獣キャラ萌え映画なので)、見る側の好みは分かれそう。私は怪獣は人間の解釈が全く及ばない、別のロジックで行動しているものとして考えているので、こういうキャラ付けは若干煩さを感じた。そこに感情移入したくないんだよな。

GODZILLA[2014] 東宝Blu-ray名作セレクション
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