3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画題名か行

『ゲット・アウト』

 アフリカ系アメリカ人の写真家クリス・ワシントン(ダニエル・カルーヤ)は白人の恋人ローズ・アーミテージ(アリソン・ウィリアムズ)の実家に招待される。過剰なくらいの歓迎ぶりに一安心するクリスだが、アーミテージ家が黒人の使用人を雇っていることに違和感を感じた。翌日、パーティが開かれるが来客は白人ばかり。その中に黒人青年を見かけたクリスは彼にカメラを向けるが、青年の態度が急変する。監督はジョーダン・ピール。
 田舎が怖い物件であり恋人の実家が怖い物件であるが、そこに人種差別を絡めて更に怖い物件に仕上げている。基本ワンアイディアではあるのだが、とてもよくできている快作。コンパクトな尺(104分)も素晴らしい。私はホラー映画は苦手なので本作も耐えられるかどうかとちょっと心配だったのだが、音やタイミングでびっくりさせる系の怖さではないので、大丈夫だった。恐いというよりも、気持ち悪い系の作品だろう。
 前述のあらすじでわざわざ主人公と恋人の人種を記載したことでも明確だが、人種差別、偏見が本作の怖さ、気持ち悪さの根底にある。小さいところから大きな(というか大き過ぎでとんでもない)ところまで、おそらく「黒人あるある」状態なんだろうなぁという、ある意味鉄板ネタの連打。クリスが過剰なほど接待されるのも彼が黒人だから無意識に気を使ってという面があるだろう(いちいちオバマ支持者だよ!というのとか)。パーティの参加者の発言、振る舞いは結構な差別でこれアウトだろう!というものばかりなのだが、当人たちはその自覚がなさそうだ。
 そんなクリスならずとも居心地の悪い状況から、どんどん不穏な雰囲気になっていく。あーやっぱりね、うんうん、と思っていると、えっそっち!というとんでもない方向にハンドルを切られてびっくりした。この題名、そういう意味か!人種差別・偏見に根差すものなのは確かなんだけど、これまたずいぶん拗らせているというか複雑化しているというか・・・。多民族国家の屈折した部分をかいま見て(というか前面に出してきてるんだけど)しまった感がある。

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『50年後のボクたちは』

 14歳のマイク(トリスタン・ゲーベル)は同級生からは変人扱いされ、母親はアルコール依存症、父親は浮気中で、悩みが尽きない。ある日、ロシアからの移民だという転校生チック(アナンド・バトビレグ・チョローンパータル)と出会う。2人は夏休みを利用し、古びた車に乗って旅に出る。原作はヴォルフガング・ヘルンドルフ『14歳、ぼくらの疾走』。監督はファティ・アキン。
 2輪車二人乗りシーンがある映画は当たり率が高いというのが持論なのだが、本作も該当した。マイクとチックではなく、マイクと母親の2人乗りなのだが。いいシーンではあるが、背景を考えるとなかなか辛いものがある。一見微笑ましいけど、酔いつぶれた母親を回収しての2人乗りなのだ。マイクの母親はアルコール依存症で治療の為施設に入らなければならないくらいなのだが、マイクは母親のことを疎んではおらず、父親よりは心が通じ合っている。マイクにとっては(困ってはいるが)ユニークで楽しい母親ではある。だからこそ、2人乗りシーンが切ない。親のことは子供にはどうしようもないのだ。マイクの父親は父親で、若い女性と浮気していることを息子に隠そうともしない。せめて見えない所で手繋げよ!
 チックはチックで結構大変な暮らしをしていた雰囲気がある(だから運転やら何やら、自分で出来るようになったんだろうし)が、彼の背景については殆ど言及されない。あくまで、マイクにとっての不可思議であり憧れでもある親友・チックとして存在する。エンドロールのアニメーションは正にマイクにとってのチックなのだろうし、映画を観ている側も、こうであれ!と願わずにはいられない。2人は無謀だが、世の中のあれこれを知らない故の勢いや強さがある。なんだかんだ言って自分たちでなんでもやろうとする、創意工夫があるところも楽しかった。
 2人の旅は、大人びたチックに連れまわされ、マイクが解放されていくように見える。しかし、チックもまた解放されていったのだろう。マイクと一緒の時は10代の少年としてバカ騒ぎできるし、突っ張らずにいられる。終盤、ある告白をするのも、ここでは素を出していいと安心できたからだろう。
 旅によって、彼らの人生で何かが解決したわけではないし、何かが好転するわけでもない。しかし、自分たちはこの先も大丈夫なんじゃないかと2人は思えたのではないか。少なくとも、今いる場所だけが世界ではなく、世界にはもっと広がりがあることが垣間見えたのだ。

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『キングス・オブ・サマー』

 15歳の高校生ジョー(ニック・ロビンソン)と親友のパトリック(ガブリエル・バッソ)は親にうんざりして家出を計画。風変りな少年ビアジオ(モイセス・アリアス)と一緒に森の中に秘密の家を建て、3人で生活を始める。自分たちのお城できままな日々を送りご満悦の3人だったが、ジョーが片思いしている同級生の少女ケリー(エリン・モリアーティ)がやってきたことで、3人の関係がかき乱される。監督はジョーダン・ヴォート=ロバーツ。
 監督は本作でデビューした後にいきなり『キングコング 髑髏島の巨神』に大抜擢されている。すごいハイジャンプだな!しかし、手堅い作り方をする人なのか本作もデビュー作ながら危なげがない。また、『キングコング』でも思ったが既存の音楽の映像へのはめ込み方が上手い(これは音楽監督の人の手腕なのかもしれないけど)。新鮮味のある内容というわけではないが、切り取り方が瑞々しく、夏休み、特に夏休みの終わりにはぴったりの作品だった。
 ジョーたちの家出は、人生の中で一度きりの「ある季節」を象徴するようなものであり、きらめきに満ちているが、どこか儚い。大人の目で見るからそう見えるだけかもしれないが、終わりが来ることが分かっているものではある。ジョーはこの家出が自分たちにとってのイニシエーションだと張り切る。しかし、イニシエーションは彼が思っていたような形では訪れない。後になって思い起こしてみると、あれがイニシエーションだったとわかるようなものだ。自分が予想していたような形ではなく、予想外の方向で成長するという所が、本作の面白い所だと思うし、成長って大概そういうものかもしれない。
ジョーは父親と2人暮らしなのだが、ワンマンな父親にうんざりしている。しかしとある場面で、彼は自分が心底嫌がっていた父親そっくりの行動をしてしまう。一方、パトリックは両親の過干渉や母親の清潔・ヘルシー志向に辟易気味。しかし食べ残しの後始末(放置しておくと動物が寄って来るし)や何だかんだ言ってきちんと手洗いをしてしまう。多かれ少なかれ、親の影響は出てしまうのだ。2人とも親がうっとおしくて仕方ないのに、皮肉ではある。
 ジョーはケリーに想いを寄せており、彼女とのデートを夢想するのだが、その想像の中のケリーの振る舞いはかなりレトロなもので、昔のロマンス映画のそれのようだ。彼の女性観はまだその程度のもので、現実に即していない。そもそも彼女と付き合っていないし告白すらしていないんだから、現実の彼女の行動に腹を立てるのは筋違いだろう。ジョーが作中で最も成長した部分は、セックスの可能性がない(とは言わないまでもきわめて低い)相手にも人は優しくするし親身になる、自分も優しくすることが出来ると理解するところではないか。好意の位相は様々なのだ。

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『銀魂』

 宇宙から襲来した“天人”によって開国を迫られた日本。天人の台頭と廃刀令により、侍は衰退していった。侍の心を捨てずにいる坂田銀時(小栗旬)は、剣術道場の長男・志村新八(菅田将暉)、銭湯種族・夜兎族の神楽(橋本環奈)と万屋を営んでいた。原作はアニメ化もされた空知英秋の同名漫画。監督は福田雄一。
 原作はもちろん週刊少年ジャンプ連載の大ヒット漫画で、TVアニメ化も劇場用アニメ化もされた。映画としてどうやるか、というよりも『銀魂』としてどうやるか、という方向に割り切って面白さを追求していると思う。なので、原作を知らないで見に来た人にはあまり通じないだろう。映画としてはエピソード配分のバランスも悪いし、キャラクター数が多いので事前知識がないと正直厳しい。しかし、原作漫画ないしはアニメを知っている人にとっては、あーちゃんと銀魂だ!これだよこれ!と安心できるし楽しめると思う。ギャグのバカバカしさとメタ構造の緩い取り入れ方は、原作風味でもあり、福田監督の手癖でもあり、相性は良かったと思う。ムロツヨシ演じる平賀源外のパートはそれが如実だった。源外役にムロツヨシって若すぎない?と思ったけど、いてくれると安心なんだろうな(笑)
 特にアニメのフォーマットやテンポやキャラクターのセリフ回しはかなり意識しているのではないかと思う。まさか実写映画でもアバン芸が見られるとは思わなかった。雑なフェイク主題歌もいい。人気漫画の実写映画化がここの所相次いでいるが、その中では(スベっても許されると言う特殊なポジションとは言え)かなり成功しているのではないだろうか。キャラクターの再現度も意外と高い。菅田がキラキラオーラを封印して地味眼鏡になりきっているのには驚いたし、新撰組の3人のクオリティも高い。特に沖田(吉沢亮)の沖田感がすごかった。
 また、俳優の力で原作とはキャラクターの作中比重が変わって見えることもあるんだなと実感した。本作はギャグ一辺倒のカブト狩り編(というほど大した話じゃないよな・・・)とシリアス度の高い紅桜編という2つのエピソードを組み合わせている。紅桜編に登場する刀鍛冶の村田鉄矢(安田顕)は、原作でもアニメでも私にとってはそんなに印象に残らなかったのだが、今回は存在感があった。新井浩文演じる岡田似蔵も同様。2人とも熱演で、方向性は違うが上手くやれなかった人、一番になれなかった人の悲哀みたいなものがより濃くなったのではないか。あっこういうキャラクター、こういう話だったんだと再発見した気分。
 なお、福田監督は胸か尻か脚かで言ったら脚派なんじゃないかなー。脚と言えばこの人ということで来島また子役の菜々緒が美脚を披露しているし、菜々緒の足と橋本環菜の絡みというわけわからないアクションシーンもある。しかし、高杉晋助役の堂本剛が結構な脚の露出加減(高杉の衣装は着流しなので、アクションをやるとかなりはだけるんですね)だし、あっそういう角度で撮るんだ・・・的なよくわからない力の入れ方だったように思う。


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『KING OF PRISM PRIDE the HERO』

プリズムスタァ養成校エーデルローズで練習を重ねる新入生の一条シン(寺島惇太)。4年に1度の大会プリズムカップに向けて先輩たちと特訓に励むが、ライバル事務所シュワルツローズの差し金で、エーデルローズは解散の危機に追い込まれてしまう。監督は菱田正和。
 アニメの中で「貸しはがし」というフレーズ、初めて聞いたわ・・・。まさかキンプリでそんな言葉聞くと思わなかったよ!応援上映、まさかの超ロングラン昨年のアニメ界・映画界を沸かせたキンプリこと『KING OF PRISM by Pretty Rythm』の続編。前置きや説明なくいきなり始まる、かつ前作と本作の間に結構なエピソードがあったんじゃ?と思わせるシークエンスが結構あるのだが、そのあたりもさくっと割愛して始まる。お客を信頼していると言えば信頼しているということか・・・。とは言え、前作を見ていなくても、極端な話プリティリズムが何なのか知らなくても、ある程度日本のアニメに対するリテラシーを持っていれば、わけがわからないなりに楽しくなってくるあたりがすごいと思う。逆に、全くアニメに耐性がない人が見たらどんな感じなのか教えてほしい。
 前作で応援上映が大変盛り上がったことを考慮してか、本作では最初から応援上映対応なのかな?という見せ場が頻出する。劇場での上映回数も場所によっては応援上映の方が多いくらい。確かに、あーここで合いの手いれたい!コールしたい!サイリウムふりたい!って気分になってくる。よくできてるなぁ。私は通常上映で見たが、周囲が盛り上がっている方が確実に楽しめる類の作品で、鑑賞するというよりもイベントに参加する感じ。一緒にプリズムショーのスタジアムを破壊したり再生したいよねぇ!(言葉のあやではなく文字通りの意味です) 
 また、シンの成長が中心にあった前作と比較すると、本作でもその路線は引き継いでおり、基本は努力と友情、仲間との絆があるのだが、更に、ストーリー上の要素が更に増し増し、盛りに盛っている。70分強の作品とは思えない。余裕で1クールできるボリュームだ。過去からの確執と愛憎あり、企業乗っ取りやお家騒動あり、スポ根あり、ロマンスあり、更に前世からの因縁らしきもの(これ、次作も作る気満々てこと?大丈夫?)まで持ち出してくる。ストーリー上もビジュアル上も引き算という概念がない、足し算のみで作られたようなある意味凄まじい作品。アニメというジャンル内の更に細分化された数々のジャンルの要素が詰め込まれているので、アニメファンにとってはアニメのリテラシーが試されるよな・・・。個人的にはコロコロコミック的というかテレビ東京夕方枠ないしは早朝枠的な、男児玩具アニメ的要素にぐっとくる。そりゃあ龍も空に昇ろうというもの。

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『ゴールド 金塊の行方』

 1980年代、傾きかけた会社を立て直そうと新たな金鉱探しに賭けた探鉱者ケニー・ウェルス(マシュー・マコノヒー)は、地質学者のマイケル・アコスタ(エドガー・ラミレス)の協力を得て、インドネシアの山奥で過去最大と見られる巨大金脈を発見する。倒産しかけていた会社の株価は急上昇し、世界中の投資家の注目を集めた。ウェルスは一躍時の人となり富と名声を手にするが。監督はスティーヴン・ギャガン。
 ウェルスの語りによる構成で、今ある状況に陥っているがなぜこうなったか、という流れを見せていく。最後の最後で「語り」の効果が効いており、えっこれってどっち?というどうとでもとれる、あやふやさを投げかけてくる。この、彼=ウェルスにしか本当のところはわからない、という造り方が彼を突き動かすモチベーションと重なり合ってくるので、こういう見せ方にしたのは正解なんだろう。
 ウェルズにとって「金」とは正に金、ゴールドであって、マネーとは限らない。もちろんウェルズはお金が欲しいし急にセレブ扱いされて有頂天になる。しかし、彼にとって一番大事なのは自分で金(ゴールド)を掘るということなのだ。経済的な問題だけで考えたら、投資会社の提案通り、事業を大手に売って収益を得る方がローリスクハイリターンと言える。しかし、ウェルスは頑として拒む。
 彼のアイデンティティは探鉱者であること、彼の夢は父親のような立派な探鉱者となって名を上げることだ。それを取り上げられたら、いくら金(マネー)があっても彼にとっては意味がない。このこだわりや「当てた」時の快感は、体験した人でないとわからないのだろう。彼がなぜかたくなに事業売却を拒むのか、投資銀行のアナリスト には理解できないままだ。
 しかし、探鉱者としての夢を追い続けたからこそ、そこに付け込まれ裏をかかれもする。熱烈に夢を見る人は、本当に「夢」しか見ないんだなと妙に納得した。ストーリー中、ここで別の選択をしていれば少なくとも穏やかな暮らしができたのでは、という分岐点がいくつかあるが、ウェルスは毎回夢に掛ける選択をし、同時に諸々を失っていく。本作はウェルスの語りによる構成だと前述したが、彼の語りとは夢を語ること、それ以外を語らないことでもあるのだ。パートナーであるラミレスもまた、夢の相棒として出来すぎな感もあり、だとするとこういう結末になるのも頷ける。
 なお本作、金の採掘場所がインドネシアなのだが、スハルト政権下のインドネシアでないとありえないような展開(いかに無茶苦茶やってたかがわかる・・・怖すぎる・・・)が多々あり、時代背景も上手く組み込まれている。また、80年代の音楽も多用されており楽しい。JoyDivisionやNewOrderが似合う映画かというと、ちょっと微妙なんだけど。

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『怪物はささやく』

 13歳のコナー(ルイス・マクドゥーバーランド)の前にイチイの木の怪物(リーアム・ニーソン)が現れる。怪物は「私が3つの物語を話す。4つ目は、お前が話せ」と告げ、真実を語れと言う。コナーは断るが、怪物は毎晩現れ、物語を聞かせる。原作はパトリック・ネスの小説。監督はJ・A・バヨナ。
 子供の世界、子供が避けられない苦しみとどのように向き合い、受け入れていくかという過程をファンタジーの形を使って描いている。作中物語を描くアニメーション部分が、滲んだ水彩絵具風の質感で美しい。その造形の由来が最後に明かされると更にぐっとくる。
 コナーの母親(フェリシティ・ジョーンズ)は重病にかかっており、入院の為にコナーは祖母(シガニー・ウィーバー)の家に預けられることになる。コナーは祖母に馴染めず、学校でもいじめにあっており身の置き所がない。離婚した父親が会いに来るものの、コナーをひきとる気はなく、親密に感じられる存在が身近にいないのだ。彼は母親との世界を守る為に必死で様々なことを我慢しているのだが、それが誰にもわからないし、自身でも説明できない。学校での振る舞いの理由を誰もわかってくれないし気にかけもしないというのが本当にしんどい。コナーの行動原理が少々わかりにくいからというのもある。そこがミステリ的な仕掛けにもなっている。いじめっ子が知ってか知らずかなかなか的を得たことを言うのだが。
 彼はそんな中である秘密を抱え、それを自身で認められずにいる。その秘密、怪物が言う所の真実を認めてしまうと、彼のこれまでの世界は崩れ落ちてしまうからだ。しかし真実を避け続けても世界はいずれ崩れる。彼が恐れていること、秘密にしていることは避けられないことで、直面せざるを得ない。怪物が語る物語は、様々な形でコナーが避けようとしているものを示す。3つの物語はどれもシニカルで矛盾に満ちている。コナーが望む世界ではないかもしれないが、彼を取り巻く世界は矛盾に満ち複雑で、きれいな納まり方はしない。コナーはその複雑さと付き合っていかなくてはならない。それを手助けするのが物語なのだ。子供だけでなく人、特に傷ついている人にこそファンタジーが、物語が必要なのかもしれない。
 コナーの両親や祖母の不完全な人間としての造形が良かった。母親は愛情に満ちておりイマジネーションが豊かで素敵な人だが、彼女もまた真実(を息子に告げること)から逃げているのだ。厳格な祖母も、娘の病の前では無力。父親はコナーを愛してはいるが彼の為に自分の生活を変えることはできない。理由はそれぞれだが、コナーを守る立場の大人たちが、必ずしもコナーの為に動けるわけではない、でもそれを責めるわけではないという所も、複雑さを感じさせる。


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2017-05-29

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『カフェ・ソサエティ』

 1930年代。ニューヨーク育ちの青年ボビー(ジェシー・アイゼンバーグ)は、叔父で大物エージェントであるフィル(スティーブ・カレル)を頼ってハリウッドにやってくる。フィルの雑用係として働き始めたボビーは、フィルの秘書ヴォニー(クシツエン・スチュワート)に恋をする。しかしヴォニーの恋人は意外な人物だった。監督はウッディ・アレン。
 他愛ない話、2人の人を同時に好きになっちゃったけどどうしよう、というだけの話ではあるし、いつものアレン監督作といった感じではあるのだが、割と好き。ウッディ・アレン作品は面白かろうがつまらなかろうが自分にとって気楽な作品が多い。あっさりと浮気したり殺人が起きたりして、そういうこともあるからしょうがない、みたいな突き放した距離感があるからかもしれない。
 本作では、同時に2人の人を愛してしまう人が登場し、話の流れ上どちらか一方を選ぶ。しかし、選ばなかった一方も、ずっと心の中で生き続ける。今の人生、今のパートナーを愛していないというわけでも不誠実だというわけでもなく、1人の人の中で両立してしまうもので、これはもうしょうがないのかもな・・・。そういうのは許せないという人もいるかもしれないが、私はどちらかというと共感する。「夢は夢だ」というセリフが出てくるのだが、正にその通りで、そういう夢を一生抱えていく人もいるのだと思う。選ばなかった人生への憧憬という部分では、『ラ・ラ・ランド』を思い出した。ハリウッドという舞台は、そういう儚いものとの相性がいいのか。
 相変わらず衣装が素敵なのだが、ヴォニーがプライベートで着ているヘソ出しファッションは、ちょっと当時のモードとはずれている気がする。相当攻めたおしゃれをする人という設定なのだろうか。後々登場する時には、いかにも30年代風のタイトなロングドレスを着ているので、そのあたりのニュアンスが今一つわからなかった。
 ユダヤ人ギャグみたいなフレーズが結構出てくる(ボビーはユダヤ系家庭の息子なので)のだが、これはセーフなの?アウトじゃないの?とちょっとハラハラしてしまった。ユダヤ系であるアレン自らやってるわけだからまあセーフなんだろうけど、大丈夫なのかな・・・。
 なお、女性2人の名前がヴェロニカなのは、クシシュトフ・キェシロフスキ監督の『ふたりのヴェロニカ』(1991年)へのオマージュなのかな?話の内容は全然関係ないんだけど。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』

 宇宙の平和を守るヒーローとして、黄金の惑星ソヴリンの指導者アイーシャ(エリザベス・デビッキ)からの依頼を完了した、ピーター・クイル(クリス・プラット)をはじめとするガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの面々。しかしロケット(ブラッドリー・クーパー)がソヴリンの高エネルギー源の電池を盗んだせいで、アイーシャは激怒。一行はソヴリンから執拗に追われる羽目になる。危機に陥った彼らの前に現れたのは、ピーターの父親を名乗るエゴ(カート・ラッセル)だった。監督・脚本はジェームズ・ガン。
 1作目ではガーディアンズの面々が本当に「ガーディアンズ」になるまでが描かれ、少年漫画っぽさに熱くなったが、本作ではピーターと父親の問題を軸に、家族を巡る物語が中心に描かれている。ピーターを巡る、悪しき父親と良き父親の対決の物語でもあり、ある登場人物の活躍には目頭熱くせずにはいられないだろう。父親は子供を無事に送り出さなければならない、という姿勢の健全さにもほっとする。また、ガモーラ(ゾーイ・サルダナ)と妹の確執の顛末や、ベビー・グルート(ヴィン・ディーゼル)の「育児」に試行錯誤するロケットの姿には、まだ上手くはやれないけど何とかこいつとやっていきたいんだ!という一生懸命さがあって、なんだかほのぼのする。
 ガーディアンズの面々の愛すべき所は、皆愛情の出し方、好意の伝え方が上手くはないが、伝えようという意欲は捨てていないという所じゃないかなと思う。他者とのコミュニケーションに希望を持っている人たちなのだ。口が悪いロケットですら、その点に関しては前作程皮肉っぽくはない。本作に登場する「ヒーロー」たちのかっこよさは、ある意味愚直な一生懸命さにあり(ようするに全然クールではない)、悪ノリはあってもシニカルさはない。そこが、作品の愛嬌に繋がっているように思う。
 なお、前作ではドラックス(デビッド・バウティスタ)が筋肉バカみたいな振る舞いだったが、今回は意外と良いことを言っている気がする。彼は比喩表現がわからず文字通りの率直な言い方しかできない、ある意味とっても素直なので、素直になれない他のメンバーたちの心情をずばりと(多分本人は意図していないのだろうが)言い当てているような所があった。マンティス(ポム・クレメンティエフ)へのブスいじりにはハラハラさせられたが、それでも彼女に好意を持っているということではあるからなぁ(ドラックスの種族がそういうことを他人の評価基準にしていないということかもしれないけど)。ブスだから嫌いだとは言っていないんだよね。

『午後8時の訪問者』

診察時間終了1時間後、診療所の玄関ベルが鳴った。医師ジェニー(アデル・エネル)は玄関に向かおうとした研修医を、業務時間外だからと制止する。翌日、身元不明の少女の遺体が発見され、警察が診療所の監視カメラを確認しにきた。録画された映像の中には、彼女が診療所のベルを鳴らす姿があった。責任を感じるジェニーは、少女の身元を判明させようとあちこち聞きまわる。監督はジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ。
ジェニーが診療所のドアを開けなかったのは、診療時間が過ぎていたからということもある。しかし同時に、研修医に対して自分がここのボスであるということを示したかったからでもあると、彼女自身が漏らす。もし彼女が一人で残業していたら、ドアを開けたかもしれないのだ。彼女の行動は強く責められるものではないだろうし(実際の所、業務時間終了後いつまでも診察を受け付けていたら仕事として維持できないだろう)、少女が死んだのは直接的には彼女のせいではない。しかし、ジェニーにとっては医師という職業を仕事として割り切るのかどうか、自分の迷いに突き刺さる出来事になってしまったのだと思う。彼女は大学病院(研究センターのようなものか?)への就職が決まっていたのだが、自分の人生を大きく変える決断をしてしまう。これはぱっと見衝動的なのだが、ずっと迷っていたものが噴出して踏ん切りがついたと言うことなのだと思う。
少女の死に対するジェニーの責任感、少女の名前を知る事への執念は少々行き過ぎ、警察にもたしなめられるほどだ。しかし、その責任感を失くしてしまっては自分はおしまいだ、これをちゃんとしておかないと人としてダメだ、というような焦燥感に突き動かされているようでもあり、彼女が医師という仕事に対して保持し続ける矜持のようにも思えた。匿名の誰かではなく、名前のある個人の為に自分は働いているし、誰でも名前を持った存在として扱われるべきなのだと。ジェニーは往診にも駆けずり回るが、徐々に患者の信頼を得ているように見える。彼女が、個人対個人として相対するようになったからではないか。
あの時、あの場でこうしていれば、ああしていればという後悔に突き動かされる人たちの物語でもある。自分の行動を悔いているのはジェニーだけではない。皆、魔がさすというか、ちょっとした倫理観のゆらぎ、嫉妬や欲望により、判断を誤ってしまうのだ。そしてその判断が誤っていたということは、後からでないとわからない。これがどうしようもなくやりきれない。

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