画家のネヴィル(アンソニー・ヒギンズ)は、広大な庭園のあるハーバート家に招かれる。ハーバート夫人バージニア(ジャネット・サズマン)は、外出中の夫が旅から帰ってくるまでに屋敷と庭園の絵を12枚描いてほしいと依頼。報酬は1枚8ポンドに寝食の保証、そしてセックスに応じるというものだった。ネヴィルは契約を交わし絵の製作を始めるが、絵の中には段々奇妙な異物が混じってくる。監督はピーター・グリーナウェイ。1982年製作。
ピーター・グリーナウェイレトロスペクティヴにて鑑賞。17世紀末、英国南部ウィルトシャーを舞台にしたミステリー…なのだが、ミステリーとして見ると拍子抜けするだろう。ネヴィルの描く絵には妙なものが混じりこむが、それはそこにあるものを描いているだけだ。そしてそれらが何を意味するのかはっきり明示されるわけではない。いわゆる事件が起きてその謎解きをするわけではなく、事件自体はなかなか起こらない。そして起きてもほぼ自白みたいな感じだ。ミステリ「ぽさ」に終始している。ただ本作の場合「ぽさ」で良いのだと思う。何か思わせぶりな雰囲気を楽しむ作品で、厳密なミステリを目指したわけではないと思う。
冒頭から、貴族たちの世界の狭さと下世話さがこれでもかと表される。露悪的かつ実利主義的で身も蓋もない。見栄や傲慢ももちろんあるが、一番肝心なのは財産と家の存続(これも財産保持の為だが)。一見優雅で美しい世界だが、一皮むくと全くそんなことはなく滑稽でもある。ネヴィルは貴族たちの世界に外から入ってきた闖入者なのだが、彼が見るのは貴族たちの表層の部分で、彼の絵もまた写真のように正確な表層を記録するものだ。ただ、表層=見たままを記録してしまったことで逆に何かが起きていると露呈してしまうという皮肉さ。そもそもなぜ画家を呼んだのかとつい突っ込みたくなってしまう。