3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画題名あ行

『ヴェノム』

 宇宙開拓分野に進出したライフ財団のロケットが墜落した。財団は密かに事態収拾を図っていた。一方、恋人の弁護士アン(ミシェル・ウィリアムズ)のPCの中の資料を覗き見たジャーナリストのエディ・ブロック(トム・ハーディ)は、財団が非人道的な人体実験を行っているという噂は真実だと確信し、取材を進める。財団の研究者と接触し、実験所の中に潜入するが、被験者と接触した時に地球外生命体シンビオートに寄生されてしまう。エディは「ヴェノム」と名乗るシンビオートの声が聞こえるようになり、肉体にも変化が現れ始める。監督はルーベン・フライシャー。
 予告編ではおどろおどろしさや残虐さが強調されていたが、本編ではそれほど残虐な印象はない(人間はさくさく殺されるが)。むしろブラックコメディぽい可笑しさがある。脚本が大分雑だったり、テンポがいまひとつ(前半エピソードのペース配分を間違ったかなという印象。シンビオートがなかなか活躍しない)で映画としてはさほど出来は良くないのだが、ヴェノムのキャラクターが立っており、キャラクタームービーとしては成功している。エディとヴェノムの人外凸凹バディものとしてかなり楽しめた。
 エディは危険な取材も辞さない正義感と勇敢さを持つが、ジャーナリストとして人気があるという設定に対して疑問符がつくくらいやっていることの脇が甘いし頭はさほど切れなさそう(エディが頭悪そうに見えるのは明らかに脚本の問題だと思うけど・・・)。ちょっとうかつで元気のいい、ごくごく普通の人という感じだ。肉体的にもちょっとタフという程度で突出した強さはない。そんな普通の人であるエディが、ヴェノムに寄生されることで超人的な力を使えるようになる。エディとしては自分が暴れて人を傷つけるのは不本意なので、ヴェノムと喧々諤々あるわけだが、その喧々諤々と強さとのギャップが本作の楽しさの一つだろう。
 ヴェノムが何だかんだ言ってエディに対して誠実と言えば誠実、結構尽くしてくれるので段々可愛く見えてくる。エディの為に故郷を捨てて地球に留まるし身を挺して守ってくれるし・・・。あれっパートナーとして最高なんじゃないの?!と思えてくる、まさかの超ブロマンス案件だった。エディはエディで、ヴェノムの破壊活動に辟易するが、ある瞬間、あっこの人気持ちよくなってるなという表情になるのがちょっと怖い。私はエディに対して冒頭からずっと不穏な印象があったのだが、ここで極まった感ある。一見普通の常識と正義感を持った人に見えるのだが、動き(トム・ハーディの素なのか演技なのかわからないが妙に左右に揺れる歩き方)の落ち着きのなさや、恋人のキャリアを破壊するとわかっていても重要文書を見てしまう根本的な身勝手さ等、そんなに「出来た人」ではないのだ。
 ヴェノムとのやりとりがどこかユーモラスだからごまかされているけど、自分本位な正義感とそれを行使できる力の組み合わせって、結構性質が悪いんじゃないだろうか。そういう意味では、日本版ポスターのうたい文句や「ダークヒーロー」というキャラクター付けは間違っていない。ラストのやりとりは可愛いだけではない。ヴェノムはエディに寄生することで人生(いや人じゃないけど・・・)が大幅に変わるが、エディの倫理観もまた、だいぶ変化してしまったことがわかる。双方、元のままではいられなかったのだ。そういう要素がまた運命的な出会いって感じなんだが・・・。

ヴェノムバース
カレン・バン
ヴィレッジブックス
2018-10-31


スパイダーマン:ヴェノム VS. カーネイジ (ShoPro Books)
ピーター・ミリガン
小学館集英社プロダクション
2018-10-18




『アンダー・ザ・シルバーレイク』

 ロサンゼルスのシルバーレイクに住むサム(アンドリュー・ガーフィールド)は、目下仕事はしておらず家賃は5か月滞納中で、退去を迫られている。近所に住むサラ(ライリー・キーオ)に恋するが、彼女は愛犬と共に突然失踪。サラの行方を探すうち、サムは街の闇に潜む陰謀と秘密に巻き込まれていく。監督はデビッド・ロバート・ミッチェル。
 ロサンゼルスと言えばハリウッド、というわけでシルバーレイクにもハリウッドを目指す俳優やモデルの卵、アーティストたちが暮らしている。しかしサムの生活にその華やかさはない。サムも映画やゲーム好きだが、現在はうだつが上がらず時間を持て余している。華やかなものの周辺でうろうろとし、たまに恩恵を被っているという感じ。彼が何をやりたいのか、ずっとよくわからないままだった。彼のたゆたうようなぬるま湯的生活はそれはそれで楽しそうなのだが(どうやって経済的に生活が成り立っているのか謎なんだけど・・・)、本人は決して満たされていないのだろう。その満たされなさが、彼を「謎」の解明へとのめり込ませていく。人間、暇を持て余しているとろくなことを考えないな。個人的に彼の満たされなさに全然ぴんとこないので、非常に冷めた目で見てしまった。同じところをぐるぐる回っている人をずっと見ていても、あまり面白くはないかな・・・。
 お気に入りのジン(同人誌)の作家が唱えるシルバーレイクの秘密と、サラの失踪とは彼の中で結びついていくのだが、傍から見ているとどうにも怪しい。彼は何もない所に無理矢理何かを見出しているように見えるのだ。何を見ても記号・暗号に思える、誰かが常に自分を監視しているのではないかという疑惑と、サラの失踪事件、ある富豪の焼死事件がだんだん渾然一体となっていく。それはサムの頭の中だけで起こっているのではないか?とするとどこからがサムの頭の中でどこからが外なのか?とは言っても、彼の妄想には世界を呑みこむほどの力はなく、ここから先は君は無関係だから、とばかりにばっさりと切られるあたりが残酷だ。
 サムのアパートのベランダから、向かいの部屋や中庭が見える構図はヒッチコックの『裏窓』を思い起こさせる。実際、彼の部屋にはこの作品のポスターが貼ってあった。彼の中では自分を取り巻く世界は映画、自分はその主人公という演出がされているのかもしれない。劇伴が往年のハリウッドのサスペンス映画を彷彿とさせる仰々しさなのも彼の脳内演出の一環か。自分の人生を無理矢理サスペンス映画風に解釈するとこういうふうになるのかな。等身大そのままの人生は、彼にとってつまらなすぎて耐えられないのだろう。
 それにしても、「最近仕事どう?」という会話、無職で何も持たない身には実にいやなものだろうなと思う。全く答えたくないし答えようがないよな。

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ジェームズ・スチュワート
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
2013-05-10


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2017-09-29


『エンジェル、見えない恋人』

 姿の見えない少年エンジェルは、ある日、森の中の大きな屋敷に住む盲目の少女マドレーヌと出会う。盲目故に、マドレーヌはエンジェルが透明であることに気付かず、普通の人間として接する。やがて心を通わせ合う2人だが、マドレーヌは姿を消す。やがて月日がたち、大人になったマドレーヌ(フルール・ジフリエ)が屋敷に戻ってきた。しかしマドレーヌは手術によって視力を取り戻しており、透明なエンジェルには気付かない。監督・脚本はハリー・クレフェン。
 エンジェルの母親(エリナ・レーヴェンソン)がある出来事で傷心しているらしく、更に子供を身ごもっているという所から物語が始まるのだが、映し出される出来事の背景の説明は殆どない。とは言え、エンジェルの母親は手品師のアシスタントをしていたが手品師が失踪、おそらくその手品師がエンジェルの父親だろうとなんとなくわかる。母親はどうやら病院に収容されており全く外出は出来ないらしいこと、他の人にはエンジェルの存在は秘密にされていることもわかってくる。しかしそういう状況なので、母親が精神を病んでおり、子供がいるという妄想を抱いているようにも思えてしまう。彼女の妄想が、全くの他人であるマドレーヌに伝染(マドレーヌの場合は子供ではなく友人/恋人なわけだが)しているようにも見える。多分作っている側としてはロマンティックなおとぎ話のつもりなのだろうが、どこか不穏に感じられた。
 不穏さのもう一つの原因は、フライヤーやポスターのイメージよりも格段にエロティックなことだろう。ほとんどシーンがエンジェルの主観によるものだが、母に対してもマドレーヌのクロースショットが多い。母やマドレーヌにとって、目に見えないエンジェルの姿を感じるには触れられる、体温が感じられる距離に近付くほかないので間近になるのだろうが、肌のきめの映し方や吐息の捉え方がどこか官能的。最近見た映画の中で、突出して乳首ショットが頻出するのには笑ってしまった。透明な赤ん坊であるエンジェルが母乳を吸うと乳首だけが動いているように見えるという、それ結構手間かかるんじゃないかと思うけどわざわざやる必要あります?!というフェティッシュを感じさせるショットも。裸のマドレーヌとエンジェルが抱き合うシーンでも同じようなショットがあった。何なんだろうこの拘りは・・・。
 エンジェル視点のショットが殆どなので、彼の欲望がそのまま可視化されているとも言える。特にマドレーヌが上半身裸で眠っているシーンや入浴しているシーンは、無防備な姿を覗き見しているようで(というかエンジェルはその存在を彼女に明かしていないので実質覗きなんだけど)危うい。真実を知ったマドレーヌがショックを受けるのは、エンジェルが透明だからというよりもこういった行為をされていた(可能性がある)ということに対してでは。

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『イコライザー2』

 日中はタクシー運転手として働いているロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン)は元CIAのエージェント。悪人を19秒で抹殺していく「イコライザー」としての裏の顔を持つ。ある日、CIA時代の元上官で親友のスーザン・プラマー(メリッサ・レオ)が何者かに殺される。マッコールは独自に捜査を始め、スーザンが追っていた任務の真相に迫るが、自身も何者かに襲われる。監督はアントワン・フークア。
 前作との直接的なつながりはないので、いきなり本作を見ても問題ないと思う。コンパクトにまとまっていた前作よりもマッコールが関わる事件のエリアは広がり、彼の行動範囲も広がる。前作でのクライマックスはクローズドな空間だったが、今回はオープンな空間で「外気」の存在感も強烈。彼の過去に関わる人物が複数登場し、マッコールと他者の関わりが増えることで、マッコール個人の世界も外に向かって開かれているように思う。その為、前作のような匿名性の高いヒーローとしての側面は薄れる。
 マッコールは自分に悪人を罰すること、正しいことをすることを課しているのだが、その正しさは彼の主観によるものだ。そういう意味では自分たちの都合で他人を殺す敵と同じ、というと言い過ぎだが何が違うのかという気もしてくる。マッコールは常に弱い者、不運なものの味方であり、無敵の仕置き人で、他の登場人物よりも上位で世界を俯瞰できる神のような存在(何しろ万能すぎる)なので、匿名性が高いキャラクターである方が納得がいく(彼の行動の倫理的根拠にもやもやしない)と思う。本作では一人の人間としてのマッコールという方向にキャラクターの見せ方の舵を切っているので、そこに違和感を感じる人もいるかもしれないが、これはこれで悪くはない。マッコールの正義は自分の中で完結しすぎている為に少々クレイジーに見えるのだが、彼の頑なさや正しいことをしなければならないという強迫観念めいて見えるものの根っこにあるものが垣間見える。
 マッコールの妻に関する記憶が語られるが、彼女についてだけではなく、死者を思い返すシーンがどれも良い(洋服にまつわるエピソードが2回あるがどちらもぐっときた)。マッコールの人生において彼女らがどのような存在だったのかよくわかる。また、マッコールが運転するタクシーの乗客たちの描写がどれも印象に残った。彼/彼女らのその後の人生はどんなだろうと気になる。特に「乗車した場所に戻って」と告げる男性のその後が知りたくなった。

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『運命は踊る』

 テルアビブに暮らすミハエル(リオル・アシュケナージ)とダフナ(サラ・アドラー)夫婦の元に、息子ヨナタン(ヨナタン・シライ)が戦死したと言う知らせが入る。ショックでダフネは寝込み、ミハエルは軍の煮え切らない対応に苛立つ。しかし戦死は誤報だったと判明。激怒したミハエルは息子をすぐに呼び戻せと軍に要求する。一方、ヨナタンは前哨基地の検問所で、何も起こらない単調な日々を送っていたが。監督はサミュエル・マオス。
 原題はFoxtrot。作中で言及されるように「同じ場所に戻ってくる」ダンスのステップだ。人間は生きている限り踊り続けるしかないしステップを踏み続けてもどこにも行けないという、大分皮肉な題名。人生で何が起きるかはわからず、起きたことには抗いようがない。翻弄されるだけだ。
 とは言え、これは言うまでもないことなので、「運命のいたずら」をこんなに持って回った見せ方をする必要はあったのかは疑問。ミハエルたちが陥ってしまう事態は決して自分のせいではなく、かといって何か・誰かのせいとも断言できないあやふやかつ理不尽なもの。でも、人生で起きる殆どのことってそういうものでは?という気がしてくる。
 理不尽な戦死の知らせとその撤回、何もなさすぎから一転してシュールに見えるヨナタンの日常のパートは、スタイル先行というか作為が鼻につくと言うか、正直ちょっと飽きてしまった。ただ、後半のミハエルとダフネのパートは印象に残った。何かが起きた後、既に取り返しがつかなくなった後でないと、その時の感情、幸福に気付かないことが往々にしてある。気付く為に支払うものが大きすぎる!とは言え、過去を振り返ることでミハエルとダフネがもう一度向き合えたようにも思う。娘は「2人は一緒にいる方が似合う」と言う。そう上手くはいかないだろうけど、何かの糸口は見える気がするのだ。


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『失われた時を求めて 6 第三篇 ゲルマントのほうⅡ』

マルセル・プルースト著、高遠弘美訳
 ヴィルパリジ夫人のサロンに招かれた「私」は社交界の人々がドレフュス事件や芸術、文学の話に花を咲かせるのを目の当たりにする。そして憧れのゲルマント公爵夫人と言葉を交わす機会を得る。一方、祖母の容態は次第に悪化し、「私」も母も懸命に介護するが、最後の時は近づいていた。
 光文社古典新訳文庫版もついに6冊目!超大作の本著だが、一気に読もうと思わなければ、結構読めるものだ。もちろん新しい訳は読みやすい、分かりやすいので読書が進むという面もある。今回は当時のパリの社交界の様子、サロンの雰囲気の描写がとても面白い。当時ドレフュス事件が話題になっており、本著の中でもサロンの客それぞれの立場・見解が披露される。上流階級におけるユダヤ人差別が結構あからさまで、現代の感覚で読むとちょっと退く所も。でも人間、人を貶める話題で盛り上がりがちだというのは100年経っても変わらないんだな・・・。またサロン主催者同士の張り合いや、「逆におしゃれ」を狙った逆張りのやりすぎで結局何をしたいのかよくわからなかったり、決して品が良いとは言えない面もある。様々な知識や美学が飛び交うが、野次馬根性や妬みや欲も飛び交っており、現代だったら人が集うサロンというよりもSNSでのやりとりに近い雰囲気。マウントの取り合いがなかなかイタイタしい。俗っぽさの描写のさじ加減が「私」はサロンに集う人たちに興奮するが、こんなものかという失望もあったように思えた。
 一方、祖母の衰えや容態が悪化していく様の描写は非常に生生しく、痛ましい。だんだん記憶が飛んだり混乱したりするようになり、「私」が誰だかもわからなくなってくる様子は胸に刺さる。あれはきついんだよなぁ・・・。著者にとっても渾身のパートなのではないかと思う。「私」にとって非常に大きい存在だった祖母が失われ、「私」の中で一つの時代が終わるパートなのだ。老いて意識が混濁していく当人の苦しみと、残される家族の苦しみとが克明に描かれている。祖母がいよいよ、という時にタイミングの悪い見舞客が来てうんざりする件など、ちょっと笑ってしまうのだがリアルだ。

失われた時を求めて6 (光文社古典新訳文庫)
マルセル プルースト
光文社
2018-07-11


『愛しのアイリーン』

 42歳実家在住、田舎のパチンコ店勤め、独身で恋愛経験なしの宍戸岩男(安田顕)は、ある日姿を消し、父親の葬式の日に帰宅した。彼はフィリピン人の妻アイリーン(ナッツ・シトイ)を連れてきたのだ。岩男を溺愛してきた母ツル(木野花)は大反対し、喪服姿でアイリーンにライフルを向ける。原作は新井英樹の同名漫画。監督・脚本は吉田恵輔。
 とにもかくにもツル役の木野花が強烈で一気に引き込まれる。もはや飛び道具で、木野を見ているだけでも面白い。主演の安田もでろっとした眼差しや重たい存在感が見ている側の神経を逆なでする。ここ数年での安田の確変振りには目が離せないのだが、本作で一つの路線を極めたなという感がある。
 原作が描かれてからそこそこ経年しているので、いい加減古びて見えるのではないかなと思ったが、描かれる問題が全く古びていないことにげんなりした。女性かつフィリピン人であるアイリーンに対する侮りと差別。女性はセックスありきの存在で、拒むと逆恨みされる様。また男性にかけられる結婚・家庭作りのプレッシャーと「いい嫁」の強要。そして金とセックス。日本の村の地獄がだだ漏れだ。村と言っても、具体的な地域というよりも、日本(だけじゃないだろうけど)社会の根底に流れる村的なメンタリティと言った方が正しいのかもしれない。そこそこ都会が舞台になったとしても、何らかのコミュニティに所属している以上、似たようなことが起きそうだなと思った。様々なものを突き抜けたラストですら、古典的な日本の村!ツルが体現するような強力すぎ、いきすぎな母性は、時代も場所も関係ないだろうし。岩男をどこまでも追ってくる、本人はそれをよかれと思っている所が、愛ゆえとわかっているからこそ怖い。
 アイリーンにちょっかいをかけるヤクザ塩崎(伊勢谷友介)の行動が印象に残った。彼はフィリピン人であった母親を金で買って食い物にした日本の男、日本の社会を恨んでいる、にもかかわらず、自分も恨んでいる相手と同じようなことをやっている。自分が恨む日本の社会、男性主体のシステムに取り込まれてしまっているのだ。そのアンビバレンツに葛藤はないのだろうか。アイリーンが突っ込みかけるが強制終了されてしまうので、その先が見てみたかった。
 それにしても、岩男の結婚したい=いつでもセックスできる相手が欲しいという渇望が強すぎて大分辟易とする。本作で岩男と関わる女性たちは、実母であるツルを除き皆セックスの対象としてしかとらえられていない。アイリーンとの間に愛らしきものが漂う瞬間はあるのだが、かき消されてしまう。アイリーンが日本語を学ぼうとするのと対象的に、岩男はアイリーンの母語も英語も学ぼうとはせず、一個人としてのアイリーンのことを知ろうとはしない。岩男の態度がもう少し違ったものだったら、愛らしきものが愛になる様を見ることが出来たのかもしれない。

愛しのアイリーン[新装版] 上
新井 英樹
太田出版
2010-12-15


ヒメアノ~ル 通常版 [DVD]
森田剛
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2016-11-02


『1987、ある闘いの真実』

 1987年1月。韓国は全斗煥大統領による軍事政権下にあった。パク署長(キム・ユンソク)率いる南営洞警察は、北分子を排除するべく拷問まがいの厳しい取り調べをしていた。そんな中、行き過ぎた取り調べの中でソウル大学の学生が死亡する。警察は死因隠蔽の為早急な火葬を申請するが、チェ検事(ハ・ジョンウ)は疑問を抱き、上層部の圧力を押し切り検死解剖を実行。拷問致死だったことが明らかになると、警察は担当刑事2人の処分でことを収めようとする。これに気付いた新聞記者や刑務所看守らは真実を公表するべく奔走し始める。監督はチャン・ジュナン。
 韓国民主化闘争の中の実話を映画化した群像劇。エンドロールでは当時の映像も使われている。時代の雰囲気の再現度はかなり高いのではないかと思う。女性たちのファッションや女子学生の部屋においてある小物類等の80年代感が懐かしかった。当時の韓国の政治状況を知らなくても面白く見られる。今この国がどういう状態なのか、この組織は何をやっていてこの人はどういうポジションなのかという情報の提示の仕方が整理されており、映像と登場人物のやりとりだけでちゃんと背景がわかる。非常に整理された脚本だと思う。登場人物の名前と属性を字幕で表示するのもありがたかった。
 学生の死の真相解明は、特定の誰かが戦闘に立って行われたわけではない。ストーリー上、警察V.S.検事という構図になりそうなところだしもちろんそれはストーリーの一部ではあるのだが、全てではない。チェ検事が孤軍奮闘する一方で、死んだ学生が収容されていた刑務所の看守も何とか情報を外部に伝えようとしているし、新聞記者たちはチェ検事や学生の死亡確認をした医師からのリーク元に取材を続ける。元々は関係なかった複数の人たちの行動が、偶然に助けられなんとか繋がっていくのだ。その繋がりは細く危なっかしいが、真実へと辿りつく。もしこの人が勇気を出さなかったら、あの人が脅しに屈していたら、途中で途切れてしまったものだ。その綱渡り状態がスリリングであると同時に、なんとか真実の公表を実現し現政権に切り込もうとする人たちの奮闘には胸が熱くなった。こういう経緯を経て民主化したなら、権力への不信は常にあるだろうし、それ故に監視しなければならないという意識が強くなるんだろうと理解できる。民主主義がタフなのだ。
 非常にベタな演出(終盤の逆光の使い方とか教会の鐘の音とか、これをあえてやるのか?!と突っ込みたくなるくらい)が多発する作品なのだが、この熱量にはベタを重ねるくらいでちょうどいいのかもしれない。終盤ではベタだなーとわかっていても目頭熱くなる。
 警察は「反共」をモットーに北分子を徹底的にマークするのだが、彼らがやっていることは、パク署長が話す北の状況と妙に似通っている。彼は自分がやられたことを、学生ら相手に再現しているように見えた。最早反共という趣旨からずれている。どんなイデオロギーであれ、権力者は自身の権力に拘泥し腐っていき、権力のおこぼれにあずかろうという人は後を絶たない。こういう中で、「買われない」「飼われない」でいるのは何と難しいことか。弱みに付け込んでくる強者には本当に腹が立つし悔しくてたまらなくなる。




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『アントマン&ワスプ』

 元泥棒でバツイチのスコット・ラング(ポール・ラッド)は、2年前にアントマンとしてアベンジャーズの闘いに参加したことがソコヴィア条約に抵触し、FBIの監視下で自宅軟禁の生活を送っていた。軟禁解除まであと3日となり、娘や元妻と喜んでいたところ、アントマンのスーツの発明者であるハンク・ピム博士(マイケル・ダグラス)と博士の娘ホープ・ヴァン・ダイン(エバンジェリン・リリー)が現れる。量子世界に行ったままの博士の妻、ジャネット・ヴァン・ダイン博士(ミシェル・ファイファー)を取り戻す為スコットの協力が必要だと言うのだ。実験に挑む彼らの前に、物体をすり抜ける謎の存在ゴーストが現れる。監督はペイドン・リード。
 『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』にアントマンが出ていなかったけどその間どうしていたの?という疑問にちゃんと答えてくれるし、今後のアベンジャーズ関連作にもアントマン絡んできそうだな!ということも察せられる。前作はマーヴェル映画の中では独立度が高くて単品でも楽しめたけど、本作はもうちょっと一連の流れにくみこまれている部分が大きい印象。そのせいか、タイトにまとまっていた前作と比べるとちょっと間延びしてテンポも悪い気がした(クライマックス近くでちょっと寝てしまった・・・)。この展開に必然性はあるのかな?この件必要なのかな?と気になりどうも座りがわるい。マーベルユニバースの弊害をちょっと感じる。自在に動き回るアントマンとワスプのアクションや、ビルを「運搬」する方法やミニカーでの移動など、一つ一つのシークエンスは楽しいのだが、全体の印象が散漫としている。
 本シリーズの最大の魅力、持ち味は、主人公であるスコット・ラング=アントマンの人としての「普通」なまともさ、優しさにあるだろう。冒頭、娘とラングが自作のアトラクションで遊ぶ姿には多幸感あふれている。こんな父親だったら楽しいだろうな(夫としてはちょっと頼りない所はあるし、子供が育ってきたらまた違うんだろうけど・・・)。元妻とそのパートナーとの関係もまずまず円満な様子もいい。スコットも元妻も、別れても娘にとってパパはパパだしママはママだという姿勢が一貫しているところが、いい両親なんだなと思える。マーベル映画に登場する父親、ないしは父親になろうとしている人の中ではもっとも成功している人なのでは。人が良くてほだされやすい故にトラブルに巻き込まれたりドジが多かったりもするが、愛すべき大人という感じ。
 対して、ピム博士の人徳のなさよ。前作でも今作でも元同僚とこじれまくり!もうちょっと対人態度考えていれば、前作と本作で起きる問題の半分くらいは生じていないのでは・・・。他人への共感とか思いやりがあんまりない人なのだということが、スコットの振る舞いと比べると際立つ。彼と相思相愛でいられ続けるジャネットの人間力の高さに脱帽しそう(ジャネットが更に強烈な性格という可能性もあるが)。
 今回もアリたちが活躍するが、リアルだけどグロテスクではなくキュートに見える、ギリギリのラインの演技で、芸が細かい!なお、例によってエンドロールは最後までどうぞ。


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『SPL 狼たちの処刑台』

 香港の警察官リー(ルイス・クー)は、娘ウィンチーがタイのパタヤで失踪したと知らされる。タイに向かったリーは、現地の警察官チュイ8ウー・ユエ)に捜査に同行したいと頼み込む。ウィンチーは臓器密売組織に攫われ、政治家や警察も関与しているとわかってくる。監督はウィルソン・イップ。
シリーズ前作『ドラゴン・マッハ!』(シリーズ間のストーリー上の関連はなく、それぞれ独立したお話ですが)では、アクションシークエンスが頭おかしいんじゃいかというレベルの凄さで圧倒された。 それをベースに期待しすぎてしまったのか、本作は自分の中であまり盛り上がらなかった。本作もアクションシーンに見応えはある。ただ、基本的にカメラはクロースでほぼ1対1の格闘で、というわりとオーソドックスなもの。すごく痛そうではあるが、さほど新鮮味を感じなかった。古き良き時代の香港アクションを更に強化していったという印象。クラシカルと言えばいいのだろうか。
 ストーリーもリーの娘探しを中心とした割とコンパクトなもので、全体的に小粒で枠からはみ出てこない。本作にそういう印象を持ってしまうくらい、前作が異形だったということかもしれないけど・・・。リーと娘の関係を中心にしたストーリーの掘り下げと、アクションの乱れ打ちとが足を引っ張り合っている印象も受けた。ウィンチーがタイを訪れた理由は、リーからしてみたらやりきれないものがあるだろう。父親と言う存在に対して、あまりにも希望がない。リーは一貫して悲壮感をまとっているのだが(そしてルイス・クーはこういう痛々しさが良く合うのだが)、そりゃあ、ああいうラストにならざるを得ないだろうと思った。
 なお、トニー・ジャーが共演しているものの、出番が少ない!客演扱いだったにせよこれだけ?!その点でもちょっとがっかりだった。


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