3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画題名あ行

『1987、ある闘いの真実』

 1987年1月。韓国は全斗煥大統領による軍事政権下にあった。パク署長(キム・ユンソク)率いる南営洞警察は、北分子を排除するべく拷問まがいの厳しい取り調べをしていた。そんな中、行き過ぎた取り調べの中でソウル大学の学生が死亡する。警察は死因隠蔽の為早急な火葬を申請するが、チェ検事(ハ・ジョンウ)は疑問を抱き、上層部の圧力を押し切り検死解剖を実行。拷問致死だったことが明らかになると、警察は担当刑事2人の処分でことを収めようとする。これに気付いた新聞記者や刑務所看守らは真実を公表するべく奔走し始める。監督はチャン・ジュナン。
 韓国民主化闘争の中の実話を映画化した群像劇。エンドロールでは当時の映像も使われている。時代の雰囲気の再現度はかなり高いのではないかと思う。女性たちのファッションや女子学生の部屋においてある小物類等の80年代感が懐かしかった。当時の韓国の政治状況を知らなくても面白く見られる。今この国がどういう状態なのか、この組織は何をやっていてこの人はどういうポジションなのかという情報の提示の仕方が整理されており、映像と登場人物のやりとりだけでちゃんと背景がわかる。非常に整理された脚本だと思う。登場人物の名前と属性を字幕で表示するのもありがたかった。
 学生の死の真相解明は、特定の誰かが戦闘に立って行われたわけではない。ストーリー上、警察V.S.検事という構図になりそうなところだしもちろんそれはストーリーの一部ではあるのだが、全てではない。チェ検事が孤軍奮闘する一方で、死んだ学生が収容されていた刑務所の看守も何とか情報を外部に伝えようとしているし、新聞記者たちはチェ検事や学生の死亡確認をした医師からのリーク元に取材を続ける。元々は関係なかった複数の人たちの行動が、偶然に助けられなんとか繋がっていくのだ。その繋がりは細く危なっかしいが、真実へと辿りつく。もしこの人が勇気を出さなかったら、あの人が脅しに屈していたら、途中で途切れてしまったものだ。その綱渡り状態がスリリングであると同時に、なんとか真実の公表を実現し現政権に切り込もうとする人たちの奮闘には胸が熱くなった。こういう経緯を経て民主化したなら、権力への不信は常にあるだろうし、それ故に監視しなければならないという意識が強くなるんだろうと理解できる。民主主義がタフなのだ。
 非常にベタな演出(終盤の逆光の使い方とか教会の鐘の音とか、これをあえてやるのか?!と突っ込みたくなるくらい)が多発する作品なのだが、この熱量にはベタを重ねるくらいでちょうどいいのかもしれない。終盤ではベタだなーとわかっていても目頭熱くなる。
 警察は「反共」をモットーに北分子を徹底的にマークするのだが、彼らがやっていることは、パク署長が話す北の状況と妙に似通っている。彼は自分がやられたことを、学生ら相手に再現しているように見えた。最早反共という趣旨からずれている。どんなイデオロギーであれ、権力者は自身の権力に拘泥し腐っていき、権力のおこぼれにあずかろうという人は後を絶たない。こういう中で、「買われない」「飼われない」でいるのは何と難しいことか。弱みに付け込んでくる強者には本当に腹が立つし悔しくてたまらなくなる。




タクシー運転手 約束は海を越えて [DVD]
ソン・ガンホ
TCエンタテインメント
2018-11-02




『アントマン&ワスプ』

 元泥棒でバツイチのスコット・ラング(ポール・ラッド)は、2年前にアントマンとしてアベンジャーズの闘いに参加したことがソコヴィア条約に抵触し、FBIの監視下で自宅軟禁の生活を送っていた。軟禁解除まであと3日となり、娘や元妻と喜んでいたところ、アントマンのスーツの発明者であるハンク・ピム博士(マイケル・ダグラス)と博士の娘ホープ・ヴァン・ダイン(エバンジェリン・リリー)が現れる。量子世界に行ったままの博士の妻、ジャネット・ヴァン・ダイン博士(ミシェル・ファイファー)を取り戻す為スコットの協力が必要だと言うのだ。実験に挑む彼らの前に、物体をすり抜ける謎の存在ゴーストが現れる。監督はペイドン・リード。
 『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』にアントマンが出ていなかったけどその間どうしていたの?という疑問にちゃんと答えてくれるし、今後のアベンジャーズ関連作にもアントマン絡んできそうだな!ということも察せられる。前作はマーヴェル映画の中では独立度が高くて単品でも楽しめたけど、本作はもうちょっと一連の流れにくみこまれている部分が大きい印象。そのせいか、タイトにまとまっていた前作と比べるとちょっと間延びしてテンポも悪い気がした(クライマックス近くでちょっと寝てしまった・・・)。この展開に必然性はあるのかな?この件必要なのかな?と気になりどうも座りがわるい。マーベルユニバースの弊害をちょっと感じる。自在に動き回るアントマンとワスプのアクションや、ビルを「運搬」する方法やミニカーでの移動など、一つ一つのシークエンスは楽しいのだが、全体の印象が散漫としている。
 本シリーズの最大の魅力、持ち味は、主人公であるスコット・ラング=アントマンの人としての「普通」なまともさ、優しさにあるだろう。冒頭、娘とラングが自作のアトラクションで遊ぶ姿には多幸感あふれている。こんな父親だったら楽しいだろうな(夫としてはちょっと頼りない所はあるし、子供が育ってきたらまた違うんだろうけど・・・)。元妻とそのパートナーとの関係もまずまず円満な様子もいい。スコットも元妻も、別れても娘にとってパパはパパだしママはママだという姿勢が一貫しているところが、いい両親なんだなと思える。マーベル映画に登場する父親、ないしは父親になろうとしている人の中ではもっとも成功している人なのでは。人が良くてほだされやすい故にトラブルに巻き込まれたりドジが多かったりもするが、愛すべき大人という感じ。
 対して、ピム博士の人徳のなさよ。前作でも今作でも元同僚とこじれまくり!もうちょっと対人態度考えていれば、前作と本作で起きる問題の半分くらいは生じていないのでは・・・。他人への共感とか思いやりがあんまりない人なのだということが、スコットの振る舞いと比べると際立つ。彼と相思相愛でいられ続けるジャネットの人間力の高さに脱帽しそう(ジャネットが更に強烈な性格という可能性もあるが)。
 今回もアリたちが活躍するが、リアルだけどグロテスクではなくキュートに見える、ギリギリのラインの演技で、芸が細かい!なお、例によってエンドロールは最後までどうぞ。


アベンジャーズ & アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン ブルーレイセット(期間限定) [Blu-ray]
ロバート・ダウニーJr.
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
2018-04-04


『SPL 狼たちの処刑台』

 香港の警察官リー(ルイス・クー)は、娘ウィンチーがタイのパタヤで失踪したと知らされる。タイに向かったリーは、現地の警察官チュイ8ウー・ユエ)に捜査に同行したいと頼み込む。ウィンチーは臓器密売組織に攫われ、政治家や警察も関与しているとわかってくる。監督はウィルソン・イップ。
シリーズ前作『ドラゴン・マッハ!』(シリーズ間のストーリー上の関連はなく、それぞれ独立したお話ですが)では、アクションシークエンスが頭おかしいんじゃいかというレベルの凄さで圧倒された。 それをベースに期待しすぎてしまったのか、本作は自分の中であまり盛り上がらなかった。本作もアクションシーンに見応えはある。ただ、基本的にカメラはクロースでほぼ1対1の格闘で、というわりとオーソドックスなもの。すごく痛そうではあるが、さほど新鮮味を感じなかった。古き良き時代の香港アクションを更に強化していったという印象。クラシカルと言えばいいのだろうか。
 ストーリーもリーの娘探しを中心とした割とコンパクトなもので、全体的に小粒で枠からはみ出てこない。本作にそういう印象を持ってしまうくらい、前作が異形だったということかもしれないけど・・・。リーと娘の関係を中心にしたストーリーの掘り下げと、アクションの乱れ打ちとが足を引っ張り合っている印象も受けた。ウィンチーがタイを訪れた理由は、リーからしてみたらやりきれないものがあるだろう。父親と言う存在に対して、あまりにも希望がない。リーは一貫して悲壮感をまとっているのだが(そしてルイス・クーはこういう痛々しさが良く合うのだが)、そりゃあ、ああいうラストにならざるを得ないだろうと思った。
 なお、トニー・ジャーが共演しているものの、出番が少ない!客演扱いだったにせよこれだけ?!その点でもちょっとがっかりだった。


ドラゴンxマッハ! [Blu-ray]
トニー・ジャー
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2017-06-07

96時間 [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2018-03-16


『オーシャンズ8』

 名の知れた詐欺師ダニー・オーシャンの妹デビー・オーシャン(サンドラ・ブロック)が仮釈放された。出所したデビーは元相棒のルー(ケイト・ブランシェット)を始め7人の女性を声をかけ、5年越しで計画したヤマを実行に移す。世界的ファッションイベント「メットガラ」の会場で、カルティエ秘蔵の1億5000万ドルのダイヤモンドのネックレスを盗み出そうというのだ。監督はゲイリー・ロス。
 計画犯罪ものとしてはわりと雑というかおおらかで、脚本が緻密というわけではない(むしろ犯罪計画に穴が多くてハラハラしてしまう)のだが、愉快で楽しい。特に女性にとってはセクハラ要素や性役割に関する先入観、テンプレ的な描写がほぼないので、ストレスが少ないのでは。いわゆる女性性が強調されるのはドレス姿くらいで(メンバーの中に、自分はドレスアップは性に合わなくて嫌だという人がいても面白かったと思うけど)、あとはかなりニュートラル。女性のみのグループ、しかも仕事目的で集まったグループの話だと、逆に性別にまつわる要素って出てこないし出す必要がないものな。「女同士って人間関係が怖いんでしょ?」みたいな言説とは無縁で、目的がはっきりしているから人間関係でゴタゴタしないというあたりがいい。全員、プロとして集まっておりお互い深入りしない、友達同士というわけではないクールさもストレス軽減に役立っていた。
 ストレスの少なさは、作中、男女問わず概ねどの人物に対してもいじわるな視線や、誰かをバカにしていじる類の笑いがないあたりにも起因する。いわゆるドジっ子とかおミソキャラ的なポジションがないので、話の腰を折られない。「彼」だけには辛辣だが、これは「彼」が人をコケにして裏切ったからその仕返しということで、まあ止む無しだろう。
 すごく面白い!密度が高い!というわけではないのだが、ほどほどの面白さ、気楽さに徹した作りが逆にプロの仕事という印象。あえてのユルさであるように思った。なお、ファッションは大変楽しい。キャラクターそれぞれが、自分らしい服装でサマになっている。特に、公開前から評判だったが、ケイト・ウィンスレットが素晴らしくかっこよかった。スカジャンの着こなし方とか、ジャケットにじゃらじゃらアクセサリーつけているのとか、もう最高。あの恰好でバイクを乗りこなしているあたりがまた素敵すぎる。

オーシャンズ11 [Blu-ray]
ジョージ・クルーニー
ワーナー・ホーム・ビデオ
2010-04-21


ゴーストバスターズ [AmazonDVDコレクション]
メリッサ・マッカーシー
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2017-07-05


『オーケストラ・クラス』

 バイオリニストとして行き詰っていたシモン・ダウド(カド・メラッド)は、パリ19区の小学校に講師として赴任する。音楽に触れる機会の少ない子供たちに対する音楽教育プログラムで、バイオリン演奏を教え、最終的にはオーケストラで演奏するというものだ。子供が苦手なダウドはうんざりするが、アーノルド(アルフレッド・ルネリー)という少年に音楽の才能を見出す。監督はラシド・ハミ。
 音楽が中心にある映画ではあるのだが、いわゆる音楽映画とはちょっと違うかなと思った。作中の演奏シーンがほぼ子供たちの練習姿で「音楽未満」という感じという面もある(クライマックスはさすがに違うが)のだが、どちらかというと教育、学校教育とはどういうものかが描かれた作品に感じられた。子供たちが音楽を学んでいく過程であると同時に、ダウドが教育者として成長していく過程の物語なのだ。
 シモンはオーケストラ・クラスの子供たちの収拾のつかなさにイラつき、すぐに騒ぐ子供ややる気のない子供は受講をやめればいい、その方が演奏は上手くなると言う。それに対して担任教師は、そういう(問題行動のある子)にこそこの授業を受けさせたい、誰も排除しないと言う。音楽の専門教育の場であればダウドのいうやり方でいいのかもしれないが(そもそもやる気と才能による選別ありきの世界だから)、学校教育はそうではない。子供を取りこぼさないことが大事なのだ。
 とりこぼさない、見捨てないという姿勢を大人=教育者側が一貫して取り続けるのはなかなかしんどいが、苦境で見捨てられる(と感じる)と子供にとっては後々まで心の傷になるもんな・・・。だから、保護者も巻き込んで大人たちがクラス続行の為に奮闘した姿は、この後彼らが音楽と縁遠くなったとしても、ずっと記憶に残っていくんじゃないかと思う。
 子供たちの姿がとても生き生きとしている、というか生々しかった。結構えぐい下ネタをイキって言い合う様には、ああこういうノリ苦手だったなーと自分の子供時代を思い出し苦々しい気分に。また、人種・宗教ネタの言い合いもそこそこ出てくるのだが、お互いに一定の信頼関係があるからこそ言い合いとして成立するネタ(つまり関係性が悪い、または殆どない状態だと洒落にならない)で彼らの間ではこのレベルだったら深刻な問題にはならないらしいというニュアンスも面白かった。

ミュージック・オブ・ハート [Blu-ray]
メリル・ストリープ
ワーナー・ホーム・ビデオ
2012-04-04


パリ20区、僕たちのクラス [DVD]
フランソワ・ベゴドー
紀伊國屋書店
2011-04-28


『インクレディブル・ファミリー』

 特殊能力を持ち、密かにスーパーヒーローとして悪と戦うバー一家。しかしある出来事をきっかけにヘレン(ホリー・ハンター/黒木瞳)がイラスティガールとして1人でヒーロー活動をすることになった。家事・育児を任されたボブ(クレイグ・T・ネルソン/三浦友和)は悪戦苦闘・疲労困憊。そんな中、謎の敵スクリーンスレイヴァーが現れる。監督はブラッド・バード。
 Mr.インクレディブルことボブは、本当にヒーロー活動が好きなんだなーと良くも悪くもしみじみ思った。今回、ヒーローとしての活躍はイラスティガールがメイン、しかもイラスティガールの方がスマートな振舞で頭も切れる様を見せているので、彼女の活躍をTVで見るだけのボブはいてもたってもいられない。嫉妬する様には心が狭い!器が小さい!となじりたくなるが、生きがいを棚上げされているって辛いよな・・・。ただ、そのあたりの葛藤はわりとさらっと流されている。その葛藤、ヘレンがずっと感じてきたことかもしれないよ?ということにはボブは気付いていないのかもしれない。
 ヘレンも本当はヒーロー稼業を愛しており、存分に活躍したいのだということは、エヴリンとのやりとりでも明らかだし、だからこそ夫・兄そっちのけの彼女との協力体制で満たされるのだろう。今回、ヘレンがすごく生き生きとしているのだ。
 本作、美術、音楽が素晴らしい。60年代あたりをイメージしたデザインなのだろうが、ミッドセンチュリー風のインテリアがしゃれている。豪邸の「あの頃イメージした未来的住宅」といった趣もちょっと笑っちゃうくらい楽しかった。またサウンドトラックの「あの頃」感のブレなさに唸った。あの当時のスパイ映画、サスペンス映画、アクション映画のサントラってこんな感じじゃなかった?!というもの。特にエンドロールで流れる各ヒーローのテーマ曲が楽しい。フロンゾのテーマなんて、あのキャラクターであの時代感だったら、そりゃあこうくるよな!という感じ。


『ウインド・リバー』

 ワイオミング州のネイティブ・アメリカンの保留地ウィンド・リバーで、ネイティブアメリカンの少女の死体が見つかった。第一発見者になった野生生物局のハンター、コリー・ランバート(ジェレミー・レナー)は、雪原の中、喀血して死んでいる少女が娘の友人ナタリー(ケルシー・アスビル)だと気付く。現場から5キロ圏内には民家は一つもなく、夜間の気温は約マイナス30度にもなるのにナタリーは薄着でしかも裸足だった。コリーは部族警察長ベン(グラハム・グリーン)と共にFBIを待つが、やってきたのは新米捜査官のジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)一人だけだった。コリーは土地に関する知識とハンターとしての能力を活かしてジェーンの捜査に協力する。監督はテイラー・シェリダン。
 荒涼とした土地とどこまでも広がる雪原そして雪山、殺伐かつ閉塞した人間関係、不可解な死体、そしてジェレミー・レナーという私の好きなものがぱんぱんに詰まっている、この夏一番楽しみにしていた作品。期待を裏切らない自分好みさと面白さだった。地味な作品ではあるが、お勧めしたい。早川書房あたりから原作小説が出版されていそうな雰囲気だが、映画オリジナル作品。ハンターとしてのスキルを活かすコリーと、まだ不慣れながら職責を全うしようとすジェーンのバディ感もよかった。
 コリーが「(自分の)感情と闘う」という言葉を口にするが、全編がこの言葉に貫かれているように感じた。コリーにしろその元妻にしろ、一見ごく落ち着いた振る舞い、ごく普通のやりとりをしている。しかし彼らの背景には取り返しのつかない出来事があり、怒りと悲しみ、また自責の念といった感情が彼らをずっと苛み続けていると徐々にわかってくる。その感情が人生を侵食し尽くさないよう、コリーは静かに戦ってきたし、これからも戦い続けるのだろう。殺人事件の捜査はその一環でもあるのだ。終盤、ある写真を見た瞬間のコリーの表情、またナタリーの父親とのやりとりが胸を刺す。ナタリーの父親もまた、自分の感情と戦い続けることになるのだろう。戦う人同士の共感のようなものが、コリーとジェーン、そしてナタリーの間にもあるように思った。
 物語のもう一つの主人公は舞台となる土地そのものとも言える。風土の力のようなものが強烈だった。自然環境が厳しいという意味でも強烈なのだが、人が住むには荒涼としすぎており、そこに対する国からのケアというものが感じられない。土地は広大なのに警察官はわずかで手が行き届かないし、FBIも(吹雪に邪魔されたとはいえ)なかなか来ない。外から来た白人たちは、この土地がそもそもどういう土地だったかなど気にもしない。忘れられた土地、忘れられた人々の世界とも言える。そういう土地だから起きた事件であるという事件の真相は、あまりにやりきれない。


ウィンターズ・ボーン スペシャル・プライス [Blu-ray]
ジェニファー・ローレンス
Happinet(SB)(D)
2014-04-02


『女と男の観覧車』

 1950年代のコニーアイランド。遊園地内のレストランで働くジニー(ケイト・ウィンスレット)は回転木馬操縦係の夫ハンプティ(ジュム・ベルーシ)に隠れ、海水浴場の監視員ミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)と浮気をしていた。そんな折、マフィアと駆け落ちし音信不通だった、ハンプティと前妻の間の娘キャロライナ(ジュノー・テンプル)が現れる。キャロライナは組織の情報を警察に漏らした為、マフィアに命を狙われていた。監督はウディ・アレン。
 観覧車に乗るシーンはないが、ジニーとハンプティの住家からは観覧車が良く見える。この住家、元々は遊園地内の施設だった部屋をハンプティが改装したもので、遊園地が良く見渡せるし、夕方はネオンサインが差し込み、室内の雰囲気がその都度変わっていく。この部屋の美術と室内での撮影が非常に良く、おり、室内に差し込む光の変化が登場人物の変化とリンクしていく。外の光が変わることで、一気に場がしらける、魔法が解けてしまう瞬間が残酷だった。
 こてこてのメロドラマかつ男と女のすったもんだで滑稽ではあるのだが、同時に残酷。夢を諦められずに人生の軌道修正が出来ない人ばかり出てくる。ジニーは元女優で芽が出なかったものの、未だに芝居の道を諦められない。ミッキーと一緒にどこか別の場所に行くことを熱望しているが、ミッキーにはそんな気はない。彼もまた劇作家を目指しているがどうやら言葉ばかりでフラフラと行き先定まらない。ハンプティはジニーとの夫婦関係も、キャロライナとの親子関係も上手くいくと夢見ている。キャロライナを夜学に通わせ彼女が教師になれば万事丸く収まると思い込んでいる。彼らの夢は遊園地の安い華やかさと同じで、どうにもはかなくうすっぺらい。一番ふわふわしているように見えたキャロライナが、何だかんだで地に足がついているように見えてくる。そんな大人たちの横でまともにケアされない、ジニーの連れ子の処遇がいたたまれなかった。

カフェ・ソサエティ [Blu-ray]
ジェシー・アイゼンバーグ
KADOKAWA / 角川書店
2017-11-10


『オンリー・ザ・ブレイブ』

 アリゾナ州プレスコット市の森林消防団で隊長エリック・マーシュ(ジョシュ・ブローリン)は、長年の経験を活かし火災対策に奔走しているが、アメリカ農務省の“ホットショット(精鋭部隊)”には「市レベルの消防隊員」と小馬鹿にされてしまう。自分たちのチームを“ホットショット”として市に認めさせることがマーシュの悲願だ。一方、麻薬に溺れる青年ブレンダン・マクドナウ(マイルズ・テラー)は別れた恋人が自分の子を妊娠していることを知る。動揺して彼女に会いに行くものの、子供は自分と家族で育てると拒絶される。マクドナウは子供の為生活を立て直そうと、森林消防団への入隊を希望する。監督はジョセフ・コジンスキー。
 実在の森林消防隊、グラニット・マウンテン・ホットショットの活躍を映画化した作品。森林消防団がどういう仕事をしているのかという面で新鮮だった。マーシュたちのチームは元々、地方自治体の一団という位置づけだったので、農林省森林局の特殊チームであるホットショットには格下に見られてしまうというわけだ。このあたりの事情を事前に知っておくと、マーシュと消防署長や市長とのやりとりがどういう意味合いのものか、よりわかると思う(予習してから見るべきだった)。グラニット・マウンテン・ホットショットは2008年、アメリカで初めての地方自治体によるホットショットとして認可された。本作は彼らがホットショットとして認められるまでと、その後の活躍を描いている。
 本作のもう一つの主役は山火事、炎そのものだろう。もちろんCGを使っているが、実写部分も相当あるそうだ。撮影が大変美しく、禍々しいと同時に引き込まれる。マーシュは消防団として奔走しているが、炎に魅入られているという面も相当あるのではと思えてくる。また、壮大な森林風景も美しいのだが、美しいと同時にこれ全てが炎の燃料となるということでもある。美しさと禍々しさが表裏一体な世界だ。予告編のノリからは脳筋体育会系ノリのスペクタクル作品かと思っていたし、確かにそういう面も強いのだが、意外と詩情と陰影がある。いい意味で期待を裏切られた。
 一見大味なようで陰影が深いという要素は、登場人物の造形にも見られる。マーシュと妻アマンダ(ジェニファー・コネリー)は見るからに円満でお互いの仕事やライフスタイルに対する理解もあるように見える。しかし、ちょっとした言動から、実はそうでもなく段々ずれが生じているらしいこと、そしてそれぞれ過去にはかなり大変な時期もあったらしいことがわかってくる。このあたりのニュアンスのこれみよがしではない所は節度を感じた。大味な作品かと思っていたら、様々な部分で抑制が効いており好感を持った。実話が元なので、変に感情・感動を煽るような演出は避けたのかもしれない。やっぱり映画は実際に見てみないとわからないものね。

鎮火報 (双葉文庫)
日明 恩
双葉社
2010-11-10


【Amazon.co.jp限定】バーニング・オーシャン (オリジナルカード付き) [Blu-ray]
マーク・ウォールバーグ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2018-07-04




『ALONE アローン』

 砂漠地帯でのテロリスト暗殺に失敗したアメリカ兵マイク(アーミー・ハマー)は、相棒のトミー(トム・カレン)と共に多数の地雷が埋まるエリアに足を踏み入れてしまう。トミーはマイクの目の前で死亡、マイクも地雷を踏んで一歩も動けなくなってしまう。援軍が到着するまでの52時間、彼は何とか持ちこたえようとする。監督はファビオ・レジナー&ファビオ・ガリオーネ。
 ワンシチュエーションサスペンスという括りになるのだろうが、1ネタ勝負作と思って見たら意外な味わいがあった。地雷を踏んで動けないという状況そのものよりも、その状況から沸き起こるマイクの内省、マイクの過去とトラウマの方が前面に出てくる。「踏んで一歩も動けない」という状況自体が、彼のこれまでと、今の内面を象徴しているのだ。優秀な狙撃手らしいマイクが、なぜ最初にあんなに狙撃をためらったのかというのも、ジェニーに連絡しろと言われると歯切れが悪くなるのも、彼がやってしまったこの延長線上にあるのだ。過去の断片はちらちらと提示され、徐々に全体像が見えてくる。彼にとっての「踏む」「ひざまづく」という姿勢の意味合いがクライマックスに向け重なっていくのだ。
 マイクの内省という側面が強く、ファンタジーや寓話の方向に物語の見せ方がひっぱられがちではある。作中のリアリティラインの設定があやふやになりがちで、そこで賛否が割れそうな気がした。ただ、マイク個人の物語として見ると、悪くなかったなと個人的に思う。自分ひとりでどうにかせざるを得ない問題だとマイクは思い込んでおり、確かにそうなのだが、彼を待っている人が確かにいるのだ。ハマーのほぼ一人芝居といってもいい作品だが、ちゃんと間が持つ。ルックスのパーフェクトさにばかり注目されがちだけど、スキルがあるんだよな。

127時間 [Blu-ray]
ジェームズ・フランコ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2012-06-22


ジャコメッティ 最後の肖像 Blu-ray
ジェフリー・ラッシュ
ポニーキャニオン
2018-06-20


ギャラリー
最新コメント
アーカイブ
記事検索
  • ライブドアブログ