3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画題名あ行

『アイリッシュマン』

 トラックドライバーだったフランク・シーラン(ロバート・デ・ニーロ)は一帯を仕切るマフィア、ラッセル・バッファリーノ(ジョー・ペシ)と知り合ったことがきっかけで、殺し屋として頭角を現していく。全米トラック運転組合委員長ジミー・ホッファ(アル・パチーノ)の付き人となり信頼を得るが、やがてホッファは暴走を始める。監督はマーティン・スコセッシ。
 Netflix配信作品が期間限定で劇場公開されていたので見に行ったのだが、さすがに209分は長い…。長さの面では自由に中断できる配信向きといえる。とは言え、劇場で見る醍醐味はありすぎるくらいある。映像は明らかにスクリーン向きなので配信だともったいなくなっちゃう。さすがスコセッシというところか。
 老年のフランクが過去を語り始め、過去と現在が入り乱れる、途中の時間経過も不規則かつ大幅に飛んだりする。また、実話が元なので実際の第二次世界大戦後のアメリカ史と強く結びついている。全米トラック運転組合とマフィア、政界との繋がりや、ホッファが何者なのか、またキューバ危機あたりは押さえておかないとちょっとついていくのが厳しいかも…。キューバ危機はともかくホッファのことを今のアメリカの若者たちは知っているのだろうか。背景説明はほとんどないので、結構見る側の理解力を要求してくる。
 フランクはわりと軽い気持ちでマフィアの世界に足を踏み入れていくように見える。ラッセルとジミーとも「友人」という関係が前面に出ている。が、マフィアはしょせんマフィアというか、いざ利害の不一致が生じると友情もくそもなくなっていく。ある一線を踏まえたうえでの仁義なのだ。この一線を超えてしまったのがジミーの破滅の始まりだったのでは。フランクとラッセルはずっと上下関係というかパートナーシップ的なものを維持していく(ワインとぶどうパンを、中年当時と同じようにおじいちゃんになっても一緒に食べる様にはきゅんとする)。が、フランクにとってはラッセルをとるかジミーを取るかどんどん迫られていく過程でもある。後半、フランクは頻繁に困ったような涙目顔になっているのだが、強烈な「ボス」2人からの板挟み状態は確かに泣きたくもなりそう。
 フランクらの妻や娘は登場するが、物事にかかわってくるのは男のみ。フランクの娘の1人は彼の真の仕事に勘付き、距離を取る。が、あくまで見ているだけで自らは何もすることはない(絶縁はするのだが)。女不在の世界の成れの果てを見せていくとも言える。

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『アナと雪の女王2』

 雪と氷を操る力を持つエルサ(イディナ・メンゼル)と明朗快活なアナ(クリステン・ベル)姉妹は、アレンデール王国の女王と王女として、仲間に囲まれ平和に暮らしていた。ある日エルサは不思議な歌声に呼ばれていると感じる。声に導かれ、エルサとアナはエルサの力の正体、そして王国の秘められた真実を知ることになる。監督はクリス・バック&ジェニファー・リー。
 幼いエルサとアナに父親が語るアレンデール王国と不思議な森の関係は、あっこれはいわゆるアレですか…と予感させるものなので、その後の展開にそう意外性はない。ストーリーの運び方は結構雑というか乱暴なところがあり(これは1作目でも感じたのだが)精緻に伏線を敷くというよりは、登場人物のキャラクター性、情動にぐっと寄せて話を転がしていくタイプの作品なのだと思う。冒険要素を盛り込む、かつ視覚的な派手さ・盛り上がりの為にアトラクション的、ジェットコースター的な演出に頼りすぎな気はした。
 とは言え、個人的には前作よりも好きだ。私は前作の結末、エルサの処遇にあまり納得いかなかったのだが、今回はその部分が(私にとっては)是正されて、中盤の展開がどんなに雑でもあのラストシーンがあるから許そうという気になった。前作でエルサは「ありのまま」の自分(「ありのままの」がエルサの中で黒歴史扱いらしいという演出がちょっと面白かった)を受け入れ、周囲からも受容されたわけだが、本当にそうなのか?別の氷の城に入っただけではないのか?というのが今回のスタート地点だろう。エルサの自分探しはむしろ本作が本番だ。一方、アナはエルサを愛しずっと一緒にいようと決意しているが、それはお互いに縛り付けることになっていないか?という面も出てくる。前作での体験をふまえてなのだろうが、アナがやたらと姉妹が一緒にいなければと強調するので、これはこれでエルサは辛いのでは…と思ってしまう。愛では救えない、自由になれないものもあるのでは?とも。
 今回のエルサはレオタード風衣装といい、人生の選択といい、歴代のディズニープリンセスの中ではかなり異色、新しいと言えるだろう。その一方でアナが旧来のプリンセス的価値観を引き継ぎ、異性のパートナーを得ることに幸せを見出しているというコントラストが面白い。どちらがいいというわけではなく、両方OKとするのが今のディズニーの感覚なのか。
 なお今回、エルサの衣装・髪型といい、クリストフとのソロステージといい、80年代MV風味が妙に強い。特にクリストフのパートはコンテといいライティングといい曲調・音質(ここだけ明らかに曲の作りが安い!)といいパロディとして笑わそうとしているんだと思うが、誰に向けて発信しているんだ…。子供にはわからないし大人も結構いい歳の大人でないとわからないと思うんだけど…(『ボヘミアン・ラプソディ』がヒットしたからとりあえずあのネタだけはわかるだろ!みたいな読みがあったんだろうか)。

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『永遠の門 ゴッホの見た未来』

 パリで全く評価されなかった画家フィンセント・ファン・ゴッホ(ウィレム・デフォー)は、弟で画商のテオ(ルパート・フレンド)の援助を受け、南仏アルルへ向かう。パリで知り合ったゴーギャン(オスカー・アイザック)に心酔し共同生活をするもやがて破綻を迎える。精神を病みつつも画業に向かった彼の見る世界を描く。監督はジュリアン・シュナーベル。
 予告編で、フランス語と英語が入り混じていたのでどういう区別の仕方をしているのか気になっていた。主演のデフォーが英語圏の人だからということが前提条件だったのだろうが、ゴッホと「世間」とのやりとりはフランス語、近しい人とのやりとりや独白は英語という区別がされていたように思う。デフォーにとっての母語が内面に深く根差す言葉として使われており、俳優の能力的な制限が逆に演出として機能しているところが面白かった。デフォーのややぎこちない(と思われる)フランス語が、世の中とのコミュニケーションがうまくいかないゴッホの生き方を表しているように思えるのだ。
 本作、とにかく「ゴッホが見ている」世界を映しているので、ここはゴッホの幻想なの現実なの?というような曖昧な描写があるし、画面の下半分がおそらくゴッホの視界としてぼやけたままになっていたりと、不思議な所が多い。いわゆる伝記映画というわけではないのだ。ゴッホの主観の世界なので、悲しみも喜びもダイレクト。人の言葉、自分の言葉が何度もリフレインして彼の中で響き続けているような演出もある。彼の目で見た自然界は美しすぎ、きらめきすぎて体が、筆が止まらないという感じが濃厚だった。ゴッホが画材を持って野山をずんずん歩いていくシーンが度々あるのだが、前のめり感がある。気持ちが体よりも先に進んでしまう感じで、この感覚はちょっとわかる。風景が美しいと気分が高揚してきちゃうんだよな。
 マッツ・ミケルセン演じる神父との対話が印象に残った。神の意志について、ゴッホが元々神職希望(父親が神父)だという史実を踏まえており、彼が評価されないまま絵の制作に取り組み続けたことへの返答にもなっているように思う。彼の最期は近年の研究を踏まえたものになっているのかな?ゴッホの死の謎を追ったアニメーション映画『ゴッホ最期の手紙』でも同様の説を採用していた。

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『イエスタデイ』

 イギリスの小さな町で暮らすジャック(ヒメーシュ・パテル)は、アルバイトをしながらシンガーソングライターをしているが鳴かず飛ばず。幼馴染のエリー(リリー・ジェームズ)がマネージャーとしてサポートし続けてきたが、彼は音楽の道を諦めようとする。そんな折、世界中で12秒間の停電が起き、その最中にジャックは交通事故にあって意識不明に。目が覚めた時、世界からビートルズの存在はなくなっていた。ビートルズの曲を知っているのはジャックだけらしいのだ。監督はダニー・ボイル、脚本はリチャード・カーティス。
 ビートルズが消えた世界ってどんな感じ?その世界でビートルズを演奏したらどうなるの?という話かと思っていたら、変哲のないラブストーリーが展開されてだいぶ戸惑うそれ、ビートルズネタと絡める必要があったのだろうか。ビートルズ関係とラブストーリー、どちらも中途半端でぱっとしない。ラブストーリーが本筋であれば2人の心情や関係性の変化の経緯をもっと丁寧に見せてほしかった。エリーがあまりに都合のいい彼女すぎる。「正しい位置」が恋人というのもちょっと古い。設定自体に、ラブストーリーである必要性を感じられないのだ。一方ビートルズのいない世界設定については、ビートルズ以外にもなくなっているものがあるのだが、それがどういう関連性があるのか、ビートルズがいないことで個の世界はどうなっているのかなど、諸々中途半端。世界が「変わる」瞬間の演出が結構よかったので、どういう世界なのかもっと先を見せてほしかった。絡める必要のない要素同士を絡めてしまって、しかもどちらもぱっとしない出来なのが残念。ビートルズの楽曲使用許可(意外と原曲もちゃんと使っていて驚いた)取った時点で力尽きたか…。
 とは言え、確かにビートルズの曲は良いということはよくわかる。2010年代にライブで演奏して客が熱狂するかというとちょっとよくわからないが。なお、エド・シーランが本人役で出演しているのだが、たぶんすごくいい人なんだろうな…結構いじられているのに。音楽ビジネス業界の描写も結構悪意があるしなー。

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『エイス・グレード 世界で一番クールな私へ』

 中学校卒業を1週間後に控えたケイラ(エルシー・フィッシャー)は無口で不器用な自分を変えようと、SNSやYouTubeに励むがなかなか上手くいかない。父親の心配はうざいし、高校生活への不安でいっぱいだ。とうとう高校体験入学日を迎えるが。監督・脚本はボー・バーナム。
 ケイラがなぜ学年の人気者の男子女子に近づきたがるのかちょっとぴんとこなかったのだが、彼女が基本的に素直で、物事をむやみに斜めに見たりしないということなのだろう。かっこよくて人気ある人には素直にあこがれる。そのあたりはわかりやすいのだ。どうせ自分なんて、とひがんで相手を心の中で貶めるようなことがない。最後に怒るのも、相手がシンプルに「失礼」だからだ。いたってまともな子なのだ。世をすねずに自分を変える努力をできるのってすごいことではないかと思う。あくまでレールの上で勝負しなければならないというのが、ちょっと息苦しいしそこから降りてしまってもいいのになとは思うが。
 私はもうケイラの父親の年齢に近いが、この年齢になってみると彼のまともさがよくわかる。ケイラに向き合い続けるのは正直なところかなり面倒くさいと思う。そこをあきらめずアプローチし続け(ここはケイラと似ている)、邪険にされても怒ったりしない。ケイラがすごく傷ついて帰ってきたときに迷わず後を追っていくが、これはなかなかできないと思う。父親が往々にして逃げてしまいがちな場面だろう。
 ケイラと知り合いの高校生との車中のある出来事が起きるが、いまだにこんなかとげんなりするし、ケイラが「ごめんなさい」というのも辛い。こう言わせてしまう世の中だというのが辛いのだ。彼女は全然悪くないのに。この件に関するフォローが作中になく、ケイラが一人で何とか飲み込んでしまうというのもちょっと悲しい。

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『アダムズ・アップル』

 仮釈放されたネオナチのアダム(ウルリッヒ・トムセン)は更生プログラムの為に田舎の教会で暮らすことになる。彼を迎えに来た牧師のイヴァン(マッツ・ミケルセン)はアダムに今後の目標を尋ねるが、アダムはまともに取り合う気はなく「教会の庭のリンゴの木になったリンゴでアップルケーキを作る」と適当に答える。しかしイヴァンは大真面目で、教会に住み着いている前科者のカリドとグナーを巻き込み、リンゴの木を天災から守る為のミッションを開始する。監督・脚本はアナス・トマス・イェンセン。
 ストーリーの構成要素だけ見ると感動的なヒューマンドラマにもなりうる、というかそういう要素も確かにあるのにこの奇妙さ、不穏さは何なんだ!聖書のヨブ記がモチーフの一つになっているそうだが、確かに一つの寓話、神話のような雰囲気はある。が、それにしても展開がおかしい。
 アダムはネオナチ思想に染まっているクソ野郎として登場するのだが、イヴァンを筆頭に教会に集う人たちの灰汁が強すぎて、アダムが一番常識人で共感性もある人物に見えてくるというまさかの逆転現象。特にイヴァンは「いい人」ではあるのだが、かなりクレイジーだ。本人の中で自分に起こった出来事や言動の矛盾がリセットされてしまうので周囲から見ると奇妙だし、話が通じない。この話が通じずコミュニケーション不全になっていく過程がじわじわと怖い。基本コメディなのだが、あの人にとっての世界と自分にとっての世界と、見え方とらえ方が全然違う、どこですり合わせればいいのかわからないという現象を目の当たりにする気持ちの悪さ、そら恐ろしさみたいなものがある。
 人間は基本的に主観で生きているものだと思うが、本作に登場する人たちはそれが強すぎる。自分の頭の中の世界で生きており、その世界の度合いが強固な人の地場に周囲が引きずられていくような感じだった。その当事者が宗教者というのが皮肉というかなんというか…。

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『ウィークエンド』

 金曜日の夜、友人たちと別れたラッセル(トム・カレン)は一晩付き合う相手を探しにクラブに立ち寄る。なんとなく惹かれたグレン(クリス・ニュー)を連れて帰宅し、セックスし、週末を共に過ごす。お互いに距離が縮まっていくが、土曜日の夕方、グレンはあることを告げる。監督はアンドリュー・ヘイ。
 かなり地味かつ地に足の着いた作品。3日足らずの出来事なのだが、もっと長い期間の話に感じられた。2人の間に流れる時間の速度が速いのか、密度が高いのか。関係が濃密というのではなく、むしろ付き合い始めの、好きなのかどうかまだ定かではないくらいの淡さではあるのだが(まあセックスはしてるけど)、お互いの出方を探る感じ、関係が固まっていない危うさから目が離せなかった。ラブストーリーではあるのだろうが、そう言い切っていいのかどうか迷ってしまう。
 ラッセルは自分がゲイであることを周囲の人間にはオープンにしている。友人たちもそれを受け入れており、一見フラットな付き合いだ。しかしそれでも「家にいる時は自分がゲイであることを意識することはない、でも外に出ると意識せざるをえない」というようなことを言う。本当にフラットな世の中だったらセクシャリティをいちいち意識する、他人の目を気にすることはないんだろうけど(実際、異性愛者の人は日常生活の中で自分のセクシャリティを強く意識する、どう見られているか気にすることはあまりないだろう)。現状、世の中は異性愛前提で作られているしその中にいる人たちも異性愛前提で考えてしまうよなとはっとした。そしてごく親しい人との間であっても、その部分のギャップは理解しあえないし話せない領域がある。グレンがセックスした相手の「語り」を収集し続けているのは、他の人たちはどうなんだろう、周囲との折り合いはつくものなんだろうかという思いがあるからかもしれない。
 ラッセルとグレンは付き合い方に対するスタンスは異なるし、愛、恋愛についてのスタンスも異なる。自分の中のどこまで立ち入らせるかという一線の引き方はひとそれぞれで、その部分でせめぎあいが生じる。ラストシーンに胸を打たれたのだが、そのせめぎあいと受け入れがありありと見られるのだ。

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『ある船頭の話』

 山間の村と町の間を流れる川で船頭をしているトイチ(柄本明)。川上に橋が建設されることになり、村人たちは両岸の行き来が楽になると完成を心待ちにしていた。ある日、トイチは川を流れてきた意識不明の少女(川島鈴遥)を助ける。身寄りがない少女と共にトイチは暮らし始めるが。監督・脚本はオダギリジョー。
 風景がとても美しい。新潟のロケだそうだが、こんなに水が澄んだ川が流れているのかとちょっと驚いた。撮影監督はクリストファー・ドイルというのも大きい。青の色味に透明感があって鮮やかだ。また、ワダエミによる衣装も風景に映える。日本の伝統的な着物からちょっとずらしたデザインで、日本であって日本でないような、どこの国とも言えないようなファンタジーっぽい雰囲気を醸し出している。この「日本ファンタジー」的な美しさは良し悪しでもある。あまりにエキゾチック趣味、海外で好まれる日本のイメージ(日本人が見るとちょっと嘘くさい)に寄せすぎなように思った。とはいえ、海外展開を狙うのならこれで正解なのだろうが。
 ちょっと余計な要素が入りすぎな所もあったが、初脚本・監督作としては堂々とした出来で、オダギリジョーの新たな一面を見た感がある。出演俳優はとても豪華。ただ、全員顔に強さがある人なのでずっと見ていると少々うるさくて疲れる。抜け感みたいなものがないのだ。その中で永瀬正敏のニュートラルさは貴重。やはりいい俳優なんだな。
 時代に取り残されていくもの、世界の端っこで生きるものの悲しみが描かれている。時代に乗れる人は当人にとっては成功なんだろうけど、取り残されるものにとっては時に残酷にふるまう。トイチになついていた青年の変容は、本人に全く悪気がなさそうなだけに無情さが際立つ。ただ、トイチはこの世で生きることをあきらめたわけではないだろう。どこかへ向かう彼らの姿は物悲しいが、全く未来がないというわけではないように思えた。

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『アド・アストラ』

 ベテラン宇宙飛行士のロイ・マグブライド(ブラッド・ピット)は軍上層部から極秘指令を受ける。地球外生命体の探求に人生を捧げ、その探索途中に太陽系の彼方で行方不明になった父(トミー・リー・ジョーンズ)が生きている、しかも太陽系を滅ぼしかねない「リマ計画」にかかわっている可能性があるというのだ。ロイは父へのメッセージを伝える為、宇宙へ旅立つ。監督はジェームズ・グレイ。
 前半は「ちょっと先の未来」の感じがすごくよく出ている。今より頻繁に宇宙に行けるし、月や火星に人類は進出している。しかし月面にコロニーを作れるほどではないし、スペースシャトルに乗るには宇宙服必須だし搭乗人数も限られている。月面カーチェイスの泥臭さもよかった。このくらいなら遠からずできるようになるかも、という手応えを感じさせる。
 一方後半はロイの内省が色濃くなる。ロイは父親に対して複雑な感情を抱いている。確執があるというよりも、父親は家族を愛していたのか、父親の心がどこにあるのか彼にとっては謎のまま年数が経ってしまったのだ。父親は自分と母親を捨てたのではないか、そしてまたロイ自身も父親と同じように身近な人を大切にできない人間になってしまったのではないかという恐れが、彼を苛んでいく。父という謎と、自分に対する恐れと向き合う過程が、太陽系の果てへの旅と重なっていく。ロイがどんどん不安定になっていく様は不穏だ。地球から離れるほど、内面へ内面へと向かっていく、それはどちらも不安だし危険を伴うものだという構成が面白い。
 ただ、ロイの父が遠くまで行けた、宇宙飛行士としてヒーローになれたのは、愛=自分の精神を揺さぶるものを地球に置いてきたからだとも言える。ロイが度々受けるメンタルテストは心の揺らぎをチェックするものだ。感情が大きすぎてはいけない、しかしその状態を保ち続けると親密な関係の人間は疎外感を感じ耐えられない。遠く遠くまで行くには、人間性を手放さなければならないのかもしれない。ブラッド・ピットは最近、どこか幽霊のような、あの世とこの世の境にいるような役をよく演じているように思う。本作も幽霊がこの世に復帰してくる話のようだった。

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『永遠に僕のもの』

1971年、ブエノスアイレス。少年カルリートス(ロレンソ・フェロ)は自分の天職が窃盗であることに気付く。入学した学校で出会ったラモン(チノ・ダリン)に魅了され親しくなるが、彼の父親はプロの泥棒だった。窃盗団に加わったカルリートスはラモンと共に勢いづいていき、ある時殺人を犯す。彼とラモンの行動はエスカレートし、連続殺人へと発展していく。監督はルイス・オルテガ、製作はペドロ・アルモドバル。
1971年のアルゼンチンで12人以上を殺害した、連続殺人事件の犯人をモデルにした作品。アルモドバルがプロデュースした割にはフェティッシュさ、セクシャルさは薄い。カルリートスのラモンに対する思いはひと目惚れのようなもので執着もあるし、ラモンもカルリートスに対してなんらかの思いはありそう。とはいえ2人の間にあからさまな同性愛描写はない(異性愛描写もわりと淡泊なのでそういう作風なのかもしれないが)。
 色濃い業のようなものを感じさせるのは、むしろカルリートスの窃盗癖の方だ。欲しいものは欲しいし、何で盗ったらいけないのかわからないから盗る、更に何で殺してはいけないのかわからないから殺すというスタンスが一貫している。ラモンは明確に金銭の為に盗みをやるのだが、カルリートスは盗みの為に盗みをやる。彼にとって金銭は副次的なものだ。2人の盗みに対するスタンスが違う、生きていく上での価値の置き場所が違うのだから、関係が破綻していくのも無理はないだろう。カルリートスにとってはラモンもまた「欲しいもの」で、だったら何をしても手に入れなくては気が済まないし、なぜそれをしてはいけないのかという発想はないということなのだろう。カルリートスにとっては何にせよ自分が基準で、世間の倫理や他人の感情は関係ない。邦題はかなり的確なのではないかと思う。
 色彩センスと音楽の趣味がすごくいい作品だった。色の組み合わせはビビッドで鮮やか。また、時々真顔でギャグをかますような妙なユーモラスさがある。実家に警察がすし詰めになっているシーンとか、すごく真面目なシーンなのに何か笑ってしまう。

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