劉慈欣著、大森望・立原透耶・上原かおり・泊功訳
 人類に絶望した天体物理学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)が宇宙に向けて発信したメッセージは「三体」世界に届き、三体世界の巨大艦隊が地球に向かって刻一刻と近づいていた。地球世界は国連惑星防衛理事会を設立し防衛計画に取り組むが、人類のあらゆる活動は地球のあらゆる場所に散布された極微スーパーコンピューター「智子(ソフォン)」に監視され人類の計画は三体世界に筒抜けになっていた。これに対抗し「面壁計画」が発動し、人類の未来は4人の壁面者に託される。
 大ヒット中国SF三部作二作目。一作目はこんなに話題になっているけどこの程度か?と物足りなさを感じたが、二作目を読んで大ヒットも納得。SFとしてはむしろ2作目以降が本番なのでは。今回は三体世界からの攻撃がいよいよ現実のものになってくる。今回の目玉(というのも妙な言い方だが)は何といっても「壁面者」だろう。智子によって人類の行いも記録も世界に筒抜けになっている。しかし智子は人間の思考、頭の中までは把握できない。更に相互の意志共有が高度に発達した三体世界には「欺き」という概念がない。これを利用して選ばれた人間の頭の中だけで防衛計画を練るというのが「壁面計画」なのだ。頭の中だけというのはともかく、実際に防衛するためには物理的にいろいろやらなくてはならないからいくらカモフラージュしても早い段階でバレそうなものだが、強引に読者を納得させる。壁面者たちの表面上の計画、そして真の計画の壮大さと彼らが犠牲にしたものの見せ方がドラマティックだ。
 人間の知恵と力を凌駕したものに対抗するのは、人間らしさとされるものを捨てるしかないのか、それとも人間らしさを保つ道はあるのかという問いにつながっていく。前作でも活躍した史強の「そいつは…そいつはほんとうに暗い眺めだな」という言葉が彼らがおかれていると気付いた世界の在り方を端的に表していた。ただ、ヒューマニズムの超越か愛かという話になっていくので、ハードSF的な仕掛けは複雑だけど構造としては結構シンプルでわかりやすい。良い塩梅で俗っぽいのだ。なんだかんだいって三体世界の人たちが人類とそれほどかけ離れているように見えないのがいいのか悪いのか…。
 なお俗っぽいと言えば、羅輯の理想の女性があまりに紋切り型で笑ってしまった。こういう感じの女性登場人物、我々は山のように見てきたはず…イマジネーション豊かなのか乏しいのかわからないよ!書き割りか!まあ本シリーズに登場する女性で陰影深いのは葉文潔くらいか。また、羅輯と史強の活躍にはバディもの的な楽しさがあって良かった。史強が前作にも増して有能、かつ粗野だが筋が通っておりかっこいい。

三体Ⅱ 黒暗森林(上)
劉 慈欣
早川書房
2020-06-18


三体Ⅱ 黒暗森林(下)
劉 慈欣
早川書房
2020-06-18