ケイト・ウィルヘルム著、酒匂真理子訳
様々な事業を展開する裕福な一族に生まれ、生物学者を目指すデイヴィッドは、地球上のあらゆる生物が滅びに向かっていることを知る。一族は資産と人員を終結させ研究所を作り、クローン技術によって人類を存続させようとするが、クローンたちは従来の人類とは異なる性質を見せ始める。
地球上の生命が弱体していく世界を3世代にわたって描くSF長編。滅びゆく世界、人類の知恵・生命のもろさが情感豊かに物悲しく描かれている。が、パンデミックの中で読むには少々不向きだったか…。前半は人類の英知の敗北といっていいような展開なのでちょっと辛いんだよね…。
デイヴィッドたちはクローンを作るが、彼らには「個」という概念が薄く、兄弟姉妹で強い共感能力を持ち1つの生命体のようにふるまう。デイヴィッドら旧人類とは別の文化・別の生命として生き始める。しかしクローンたちもまた滅亡の道を歩み始める。彼らには独創性や創造力、抽象的なものを考える力がないので予想外の危機に対応できないのだ(このあたりのクローンの概念はさすがに一時代前のものだと思う)。突破口となるのは、それまで問題因子とされていた「個」。創造性と孤独がセットになっていることが人間の特性、それぞれ全く似ていないことに価値があるという人類の描き方はヒューマニズムに根差していると言えるだろうが、希望がありつつもやはり滅びの気配が漂う。美しいが儚い。