フランシス・M・ネヴィンズ著、飯城勇三訳
フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーという従弟同士の作家ユニット、エラリイ・クイーン。1929年に『ローマ帽子の謎』を出版して以来、題名に国名を冠した探偵小説シリーズをヒットさせ、更にラジオ、映画、TVへ進出。またミステリ専門誌「EQMM」の創刊、アンソロジー編纂と活躍の場を広げた。クイーンのデビューから晩年までの変遷を追う評伝。
ロジックに重きを置くダネイと、人物造形や光景のリアリティに重きを置くリー。決して常に仲がいいわけではない、むしろ激しい衝突が絶えなかった2人だが、ぶつかり合う部分があったからこそ成立した名作の数々。その過程が垣間見られる。国名シリーズばかりが有名だが、実は非常に多作、かつ凡作駄作も意外と多いことも再確認できた。短編を中編へ転用、みたいなリサイクル活動が目立つのも多作すぎたからか。クイーン名義で後に活躍する(あるいは一発屋)作家たちが執筆している(シオドア・スタージョンが『盤面の敵』を書いたのは知っていたが、こういうゴーストライター的な仕事も特に伏せられていない時代だったのかな。その辺の感覚も面白い)のをはじめ、アンソロジーの執筆陣にあの人やこの人がおりミステリファンには嬉しい。
といっても、本作において2人の声を直接的に拾っている部分は案外少ない。本著のすごさはクイーンの仕事をほぼ全部、小説だけでなくアンソロジーや雑誌、特にラジオとテレビの仕事を網羅しているところだろう。音源や脚本が残っていないものも広範囲にカバーしており、かつ当時のキャスト情報や当時の視聴者の反応まで言及がある。エラリー役の俳優はなぜか私生活までエラリーなりきり傾向が出てしまうエピソードなどちょっとおかしい。映像化作品の評価は正直あまり高くないそうだが、見て見たかったな…。なお巻末には人名・事項索引と作品名索引、クイーン書誌も完備されており資料としての価値は高い。一応時系列順の構成なのだが話題があっちに行ったりこっちに行ったりして、少々散漫な印象はあった。でも密度は高くボリューム満点で正に圧巻。