3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

2020年02月

『37セカンズ』

 ユマ(桂山明)は出生時に37秒間呼吸ができなかった為、脳性麻痺を患い、車椅子生活をしている。幼馴染の漫画家のゴーストライターをする傍ら、自分の作品をアダルト漫画専門誌に持ち込むが、リアルな体験がないと良い作品は描けないと編集長に言われてしまう。実際にセックスを体験しようと街に出たユマは、障碍者専門の娼婦・舞(渡辺真起子)やヘルパーの俊哉(大東駿介)と出会い世界を広げていく。しかし母・恭子(神野三鈴)は激怒する。監督・脚本はHIKARI。
 最初、ユマに対する恭子の接し方が、娘が身障者で介助が必要とは言え、22歳の人間相手にちょっと子ども扱いしすぎではないか?とひっかかったのだが、彼女の過保護さがこの後どんどん示されていく。ユマは実は時間がかかるけど一人で着替えはできるし、シャワーも浴びられるということが一方で提示されるのだ。彼女はおそらく、恭子が思っているよりもしっかりしているし自分の考えを持っている。漫画を描くためにセックスをしたいと即行動に移すユマの思い切りの良さ、舵の切り方の極端さにはハラハラするし、「私のことなんか誰も見ない」という彼女の言葉には、そういうことじゃないんだよ!(性的な側面以外からも加害する人はいるし事故だってある)と母親ならずとも言いたくもなる。
 とは言え大事なのは、ユマがしたいのであればセックスなりなんなりしてみていいし、身体的な問題を理由に選択肢を狭められる、世界を狭められる筋合いはないじゃないかということだ。そのために手助けを頼んだっていい。舞や俊哉のような人はそのためにいるのだから。もちろん難しいこともあるだろうけど、最初から無理だと言われるのはちょっと違うよなと。これは障碍だけでなく全ての人に言えることだろう。あなたはこのカテゴリーに入っているからこれをやるべきではない、という決めつけはおかしいのだ。「ためにならない」ことをやっても別にいいだろう。
 ユマは自分にもう一つの人生、障碍のない人生があったのではと思わざるを得ないし、その上で「私でよかった」と言うに至る。しかしもう一人の「彼女」にとっては、自分こそが選ばれなかった側、ある人から捨てられた側だという思いがあるのではないだろうか。もう一つの人生は、彼女にとっても思いを巡らさざるを得ないものだったのではないかと。
 なお作中、エンドロールでCHAIの楽曲が使用されているが、これは圧倒的に正しい!本作が目指すところが明示されている、いい選曲だと思った。


『影裏』

 岩手県に転勤してきた今野(綾野剛)は同僚の日浅(松田龍平)と親しくなる。2人で酒を飲みかわし釣りに出かけ、青春時代のような日々を送っていたが、日浅は突然誰にも告げずに会社を辞めてしまう。数か月後に日浅はふらりと姿を現すが、2人の関係はどこか変わっていた。原作は沼田真佑の同名小説。監督は大友啓史。
 岩手県盛岡市を舞台に、岩手出身の大友監督が撮った本作。盛岡ご当地映画でもあり、風景やさんさ踊りの情景等、映像が美しい。ただ、地元愛故に若干冗長になっていないか?という気もした。ドラマ展開はかなり抑制を利かせており(原作がそうなのかもしれないが)起伏は乏しくもある。間延びしすぎそうなところを綾野の存在感でもたせているような作品。綾野の力にちょっと頼りすぎな気もする。確かに綾野剛のあんな姿やこんな姿を見たいし撮りたいでしょうが!ちょっとやりすぎ!と突っ込みたくなった。生足そんなにさらさなくても…。
 序盤、震災後だから節電しており暗いというだけでなく、異様な不穏さ(出てくるだけで不穏さをかきたてる筒井真理子の威力よ)が漂う。そこから一転、過去に遡り、今野と日浅の交流が描かれていく。これがあまりにキラキラしていてまぶしく楽しげ。つるんでいるだけで愉快、蜜月状態といってもいいくらいの親密さなので、今野が油断してしまう、期待してしまうのも無理はないし、期待のすれ違いが切なくもある。
 まぶしい時期があったからこそ、日浅が一体何者だったのかという謎が深まる。あのまぶしさは日浅がそういう振りをしていただけ、打算によるものだったのではないかと。そういう側面もなきにしもあらずだろうが、日浅は日浅なりに今野に対する友情、誠実さを持っていたのではないか。最後、ちらっと見える書類の内容にもそれが(そこかよ!というツッコミはしたくなるけど)垣間見えるのでは。ただ、全部いい思い出、みたいな落とし方にはちょっと疑問があった。棘のようなものはずっと残るのではないかな。
 全編抑制が効いているのだが、セクシャリティの描き方はちょっとひっかかる。それが特別なことではないという配慮はされているのだが、ゲイの男性は立ち居振る舞いがフェミニンなはずという先入観があるように思った。フェミニンな人もいるだろうけどそれはセクシャリティとはあんまり関係ないんじゃないかなー。もっとフラットでいいのでは。

影裏 (文春文庫)
沼田 真佑
文藝春秋
2019-09-03



『囀る鳥ははばたかない The clouds gather』

 被虐趣味を持ち様々な男と関係を持ってきた真誠会若頭の矢代(新垣樽助)の配下に、雑用係として百目鬼(羽田野渉)がやってくる。矢代は百目鬼をなんとなく気にいり、からかいつつ傍に置くものの、距離を保つ。百目鬼は愚直に矢代に従いながら、自己矛盾を抱える彼に惹かれていく。原作はヨネダコウの同名漫画。監督は牧田佳織。
 超人気かつ名作BL漫画のアニメ化。私は原作は読んでいるものの、アニメ化された本作について事前情報をあまり入れていなかったので(ネタバレというわけではないので書いてしまうが)、最後の最後であっこれ続くんだ!と気付いた(原作連作中だからそりゃそうだろうという話なのだが)。まあ次作も見ますけれども…。
 原作と原作ファンを尊重した丁寧な映像化だと思うのだが、それが映像化として面白くなっているのかというと、ちょっと微妙な所だと思う。もちろん原作のストーリーが面白いからそれに沿って作って作っている以上一定水準の面白さはあるのだが、絵が動くという、アニメーションならではの面白みみたいなものはあまり感じない。原作の絵の通りですね、このシーンはあのコマですねという感想になってしまう。そもそも原作は物理的な動き=運動の多い作品ではないから、アニメーション化に向いているかというと、ちょっと微妙なのでは。コマ内が割と静止画寄りというか、コマとコマとの間にあまりダイナミックな動きの演出はないように思う。それが整理された読みやすさに繋がっているのだが。原作の魅力であるモノローグも、映像化した時にはもっと削っていいのではとも思った。そのモノローグが表現するものを映像として見せてほしいんだよな。
 とは言え、映像化されて本作が持つメロドラマ要素が際立ってきたところは面白い。メロウ寄りな音楽の効果もあるのだろうが、言葉を音声化することで強調されるものがあるんだなと再認識した。百目鬼は矢代のことをきれいだと言うのだが、BL漫画だとこれは常套句なので読者側はわりと流してしまいがちなように思う。しかし映像と音声で表現されると、男性に対してこの表現を使うことってあまりないなと(使って全然良いと思うけど)現実に引き戻される。と同時に、百目鬼にとってこの「きれいだ」という表現は非常に特別なもの、彼にとって矢代は何か代えがたいものなんだなと伝わってくるのだ。


どうしても触れたくない [DVD]
米原幸佑
ポニーキャニオン
2014-09-17



『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』

 ニューヨークで活動している写真家のロニート(レイチェル・ワイズ)は、父親の死の知らせを受けイギリスに帰郷する。彼女が育ったのは厳格なユダヤ・コミュニティで、彼女の父親はそこのラビだったのだ。ロニートは幼馴染のドヴィッドと結婚したエスティ(レイチェル・マクアダムス)と再会する。かつてロニートとエスティは愛し合っていたが、コミュニティの掟はそれを許さず引き裂かれたのだ。監督はセバスティアン・レリオ。
 ロニートが写真家という設定に、先日回顧展を見たソール・ライターのことを思い出した。ライターもユダヤコミュニティの出身で、父親は著名なタルムード学者。ライターは神学校を中退して写真家を目指すが、偶像崇拝を禁じるユダヤ教文化の中では写真はタブー視されており、家族とは絶縁状態に。唯一の理解者だった妹は精神を病み生涯を病院で終えたそうだ。強固なコミュニティはそこに疑問を持たず馴染める人によっては安心できる拠り所になるのだろうが、内部のルールに馴染めない、逸脱した人にとっては強い抑圧、足かせになってしまう。
 ロニートは写真を手段としてコミュニティから離れ別の世界を得るが、エスティの世界はコミュニティの中にこそある。教師という仕事にはやりがいを感じ、夫との生活も不幸なわけではない。ただ、本来の自分を隠し続けなくてはならないのだ。更に苦しいのは、エスティはもちろんロニートも信仰を失ったわけではなく、文化的な背景もルーツもユダヤ文化と共にある。そのコミュニティの中で生活することができなくても、そこで染みついたものが消えるわけではないのだ。信仰はあるのにその教義が自分の生来の姿を許さないというのは、自分の存在を自分の拠り所に否定されるわけで、相当苦しいのではないかと思う。
 その葛藤を越えて彼女らはある決断に至るが、選んだ道がどうであれ、自分で選んだ、選択肢があったということが重要なのだろう。かつての2人はそれがなかった。コミュニティ自体にも変化の兆しがあったのかもしれない。ロニートの父が話しきれなかった説法では「選択」という言葉が繰り返された。そしてドヴィッドがそれを受け継ぐ。そこにほのかな希望が見えるように思った。

ナチュラルウーマン [DVD]
ダニエラ・ヴェガ
アルバトロス
2018-08-03


グロリアの青春 [DVD]
パウリーナ・ガルシア
オデッサ・エンタテインメント
2014-09-03


『1974 命を懸けた伝令』

 第一次大戦下の1917年4月。フランスの西部戦線ではドイツと連合国軍のにらみ合いが続いていた。イギリス兵のスコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)は伝令としてエリンモア将軍(コリン・ファース)より指令を与えられる。ドイツ軍を追撃中のマッケンジー大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)にドイツ軍の撤退は罠だ、追撃を中止しろという命令を伝えるのだ。監督はサム・メンデス。
 全編ワンショット風(実際には編集されていて、たぶんここで繋いだんだろうなーというのはわかる)で撮影されたことで話題の作品だが、確かに映像は面白い。一部でゲームっぽいという評もあるようだが、スコフィールドらと一緒に移動しているような感覚だ。体験型映画というか、一種のイベント映画的な側面が強いように思った。ドラマ面は正直のっぺりとしており紋切り型は否めない(女性と赤ん坊とのエピソードとか特に)が、そもそもドラマを重視した作品ではないのではないか。サム・メンデス監督だから何か重厚なドラマ志向があるのではと予想しちゃうけど、そういうわけでもないんだろうな。
 ロジャー・ディーキンスによる撮影は素晴らしく、あー撮影監督のドヤ顔が見えるわ!というシーンが多々ある。特に夜のシーン、暗闇の中照明弾で周囲が照らし出されるシーンは、作り物めいて地獄のような美しさ。これは確かに、死の危険があってもふらふらと出て行ってしまうかもしれない。監督らはこれがやりたかったんだろうなという納得感はある。
 先日見た記録映画『彼らは生きていた』を思い出したし、『彼ら~』を先に見ておいてよかった。兵士の装備の重さとか、塹壕の様子や地面のぬかるみ(沼地のような場所が多々あり、ずぶずぶ沈んでいく兵士もいたとか)、状況をイメージしやすい。兵士同士の戦場だからこその助け合い(他の場所では会うこともしないという)について『彼ら~』の中で言及があったが、本作中の他隊の兵士や上官とのやりとりにはそれを感じた。


戦火の馬 [DVD]
ジェレミー・アーヴァイン
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
2013-07-03





『プロジェクト・グーデンベルク 贋札王』

 カリスマ性にあふれた犯罪集団のボス「画家」(チョウ・ユンファ)に、贋作づくりの腕を見込まれスカウトされたレイ(アーロン・クォック)は、偽札作りを持ち掛けられる。最新テクノロジーによる複製防止対策をクリアするために腕利きの仲間たちとミッションに挑むが。監督はフェリックス・チョン。
 偽札作りを巡る犯罪映画ではあるのだが、なんだか妙。精緻なミッションに挑むにしてはやることが派手すぎ、よけいなことをしすぎで色々と気になってしまう。何より、「画家」の行動が妙。自分にとっては全く関係ないはずなのに、レイと元恋人の関係に妙に拘る。偽札づくりが成功して富と力を手にすれば彼女を手に入れるはずだとレイを焚きつけるのだ。女性を得ることが成功のステイタス、金と力があれば目的の女性を手に入れられるという思い込み、マッチョ思想に辟易したが、それ以上にレイの人間関係にやたらと粘着するのが気持ち悪い。
 終盤でのあるどんでん返しが明らかになると、なるほどそういうことか!と腑に落ちる。が、それでも気持ち悪いことは気持ち悪いんだよな。具体的な根拠もなく1人の人間にそんなに執着し続けられるものか?一方的な思い入れがずっと維持されていくというところがそら恐ろしかった。一方的な思い入れが空回りして周囲を巻き込んでいるような話だ。それで犯罪映画としての爽快感が帳消しになっちゃうんだよな。

ヒトラーの贋札 [DVD]
カール・マルコヴィクス
東宝
2008-07-11


奪取(上) (講談社文庫)
真保 裕一
講談社
1999-05-14


『きのこのなぐさめ』

ロン・リット・ウーン著、枇谷玲子・中村冬美訳
 交換留学生としてノルウェーにやってきたマレーシア人の著者は、エイオルフと出会い恋に落ち結婚。しかしある日、エイオルフが急死してしまう。喪失感に苛まれる中、著者はふと参加したきのこ講座できのこの世界の魅力に出会い、魅了されていく。
 ちょっと風変わりとも言える随筆。題名の通り、スポットが当てられているのはきのこだ。北欧(ロシアもかな?)の小説を読んでいると頻繁に「きのこ狩り」が出てきて、子供の頃には随分と憧れたものだが、本著を読む限り、ノルウェーの人たちは頻繁にきのこ狩りをするしよくきのこを調理して食べている。気軽に参加でき奥の深いレジャーとして一つの定番になっているようだ。本著に登場するのは主に食べられるきのこ。きのこ狩りの醍醐味はやはり食べることにある。少々危険なきのこでも試しに食べてみるという好奇心を発揮したり、トガリアミカサダケの風味の絶品さ(ものすごくおいしいらしい…気になる…)に思いをはせたりと、きのこの世界が広がっていく。そして、きのこへの造詣が深まるうちに、夫を亡くした深い喪失感から回復していくのだ。きのこと喪の仕事に関連があるというより、きのこについて知る時間が、自分の感情や思い出と向き合う時間になっていくのだろう。作業として著者が置かれた状況にはまった、ちょうどよかったのかなと。喪失感がなくなることはないが、夫との記憶が収まるべきところに収まったように思えるのだ。

きのこのなぐさめ
ロン・リット・ウーン
みすず書房
2019-08-20


『青ノ果テ 花巻農芸高校地学部の夏』

伊与原新著
 宮沢賢治の故郷である花巻。壮太は怪我で高校の「鹿踊り部」の選抜メンバーを外される。そんな折、幼馴染の七夏と共に地学部の活動をすることになった。しかし七夏は突然姿を消す。地学部で一緒に活動している東京からの転校生・深澤が関係しているのではと壮太は疑うが、深澤と先輩の三井寺と共に地学部の自転車旅行に出ることに。
 自分には鹿踊りしか打ち込めるものはないのにと、怪我に落ち込み少々荒む壮太の姿は若くほろ苦い。10代って視野がまだ狭い所があって、一つのことが上手くいかないと全部だめになったような気になるものだよなと。七夏にも深澤にもそれぞれの事情があるが、彼らが抱えるものは「あったこと」として飲み込むしかできないものだ。それは10代にはまだ酷だろう。七夏のように時間が必要なのだ。花巻と言えば宮沢賢治の故郷で、作中でも頻繁に引用されるし、『銀河鉄道の夜』が下敷きにされた話でもある。『銀河鉄道の夜』もある意味覆せない「あったこと」を受け入れる話でもあるか。ミステリ的な謎解きと合わせ、『銀河鉄道の夜』が上手く機能していると思う。
 何より、花巻を中心に、小岩井牧場近辺や八幡平など、個人的になじみのある土地の風景が次々と出てきて楽しかった。どういう経路で移動しているかちゃんとわかる描写だ。しかし自転車でこの距離か!よく走るな~!


『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』

阿佐ヶ谷姉妹著
 高い歌唱力を活かした歌ネタを誇り、実の姉妹ではないのに何だか似ている風貌の女芸人コンビ・阿佐ヶ谷姉妹が、2人の同居生活を交代で綴るエッセイ集。
 コンビ名通り阿佐ヶ谷のアパートでの地味で穏やか、時に緊張感走る生活が描かれるが、この時代に23区内でこんなご近所づきあいあります?!という人情味。お惣菜のおすそ分けってこんなにもらえるものなんだ…。中華料理店の店主とのエピソードや整体院でのニアミスなど、自宅回りでのネタがしみじみと良い。また同生活の中でのちょっとした楽しみや失敗、食い違い等、ちょっとした部分を拾い上げていく。華々しくなくても生活は面白いんだなと思わせるのだ。
 読んでいるうちにみほさんとえりこさんの個性の違いが段々わかってくる。私、みほさんサイドの人間だわ…。2人は仲はいいが、常に一緒にいたいかというとそういうわけでもなく、一緒にいたいときもその度合いはそれぞれ違う。それを踏まえたうえでのパートナーシップと友愛だということにぐっときた。これぞシスターフッド。そして単純にエッセイとして上手い!こんなに文才のある方たちだったとは。過剰に読者を笑わせようとかサービスしようとかいう欲があまり感じられず、品があるユーモラスさ。



『見習い警官殺し(上下)』

レイフ・GW・ペーション著、久山葉子訳
 バカンスシーズンのスウェーデン、ヴェクシェー。警官見習いの若い女性・リンダの遺体が、母親のマンションで発見された。彼女は強姦され絞殺されていた。県警本部長は国家犯罪捜査局に応援を要請、エーヴェルト・ベックストレーム警部が派遣されることになった。捜査チームが早速捜査を開始するが。
 CWA賞やガラスの鍵賞を受賞した著者の『許されざる者』を読んだ後に本作を読むと、あれ?だいぶ雰囲気違うな?と思うかもしれない。『許されざる者』の主人公は超切れ者の元警察官ヨハンソン(本作にも現役警官としてちょっと登場する)だが、本作の主人公といえるベックストレームは相当問題がある。セクハラ、モラハラ、経費の使い込みは日常茶飯事。かつ、警官としてあまり有能でない!そしてその自覚がない!普通の警察小説だったら素行は悪いが能力はあるというのがセオリーなのに、ベックストレームはそもそも捜査能力が低いのだ。これが逆に新鮮だった。ほんとに頭悪いんだ…と。
 彼だけでなく、バカンスシーズン故にたまたま手が空いていた人の寄せ集め的な構成の捜査班はお世辞にも腕がいいとは言い難い。まあ普通なのだ。そんな普通の警官たちが右往左往しつつ、地道に事実を拾い上げていくところが本作の読みどころなのだろう。容疑者特定もいきなり出てきたな!って感じの唐突さ。ただ、その唐突さとそこから先の決定打の出せなさがリアル。時に誇張された登場人物の描写とはうらはらだ。文章が少々大げさで鼻につくところがあったが、警察群像小説としてはむしろ地味な展開だろう。

見習い警官殺し 上 (創元推理文庫)
レイフ・GW・ペーション
東京創元社
2020-01-22


見習い警官殺し 下 (創元推理文庫)
レイフ・GW・ペーション
東京創元社
2020-01-22




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