寮美千子著
作家である著者は、奈良少年刑務所で「社会性涵養プログラム」を担当することになる。内容は詩と絵本の教室の講師。2007年から10年間、受刑者たちと向き合った記録。
著者が奈良少年刑務所と関わるようになったきっかけは、明治時代の名建築である刑務所の建物に惹かれて、あの中に入ってみたいという一心のことだったというのが面白い。元々対受刑者への教育プログラム等に興味があったわけではなく、全くの門外漢だったというのだ。刑務官らと共に手探りで進められていく授業は、絵本を全員で朗読したり、文章に合わせて体を動かす芝居仕立てにしたりというもの。そして、徐々に自分で詩を作れる、つまり自分の気持ちを言葉で表せるようにしていく。社会性涵養プログラムを受ける受刑者たちは、自分がしたことへの反省や更生以前の状態にいるということにちょっとショックを受けた。感情の言語化、コミュニケーションがうまくできないことで犯罪への道を進んでしまったりもする。彼らの多くは他人からちゃんと向き合ってもらっていない、自分の言葉を聞いてもらっていない。ちゃんと向き合い、言葉が出てくるのを待つということが非常に重要で、そうしていると彼ら自身の言葉が出てくる瞬間がある。著者は、変わらなかった子はいないという。お互いに言葉を聞きあうという体験を重ねることで優しさが引き出されていくというのだ。著者のオプティミズムがすぎるようにも思うのだが、言葉(を発すること、それをじっと聞くこと)の力というのは確かにあるのだろうとも思える。