3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

2019年07月

『危険なヴィジョン(決定版)1』

ハーラン・エリスン編、伊藤典夫他訳
 アメリカSF界のカリスマ的作家であるハーラン・エリスンが企画編集し、SF界に革命を起こしたというアンソロジーシリーズ。3分冊の第一巻。
 全8編を収録しているが、一番パンチがきいているのがアイザック・アシモフによるまえがき。しかもまえがきその1とその2がある(笑)。アシモフといえばSFの重鎮だが、このアンソロジーが発行された時期には小説の執筆からは離れていたらしいが、まえがきからは意外な面白おじさんぽさが垣間見えている。「まえがきその2」での、年少であるエリスンへのちょっと辟易しつつも愛情がにじむ文章がユーモラス。同時に、エリスンが相当面倒くさい人らしいことも垣間見える。そして、エリスンが「まえがきその2」に付記した言い訳めいた文章、そして各収録作の前に長々とつけられた解説の饒舌さに、唸りつつ辟易した。この語りたがりめ!面白いんだけれども!
 1960年代の作品なので、さすがに今読むと新鮮さを通り越してオーソドックスになってしまった(レスター・デル・レイ『夕べの祈り』などもはや小噺みたい)作品もある。収録作の中では、切り裂きジャックをモチーフにしたロバート・ブロック『ジュリエットのおもちゃ』と、その後日談として書かれたエリスン『世界の縁にたつ都市をさまよう者』が連作として面白く古さを感じなかった。ネタの強さみたいなものがある。

危険なヴィジョン〔完全版〕1 (ハヤカワ文庫SF)
レスター・デル・レイ
早川書房
2019-06-06






愛なんてセックスの書き間違い (未来の文学)
ハーラン・エリスン
国書刊行会
2019-05-25

『あとは切手を、一枚貼るだけ』

堀江敏幸・小川洋子著
 「私」と「ぼく」とが交互に綴る、お互いに向けた手紙。ドナルド・エヴァンズの架空の切手、箱に封じ込められたジョセフ・コーネルの世界、そしてアンネ・フランクが身をひそめた小部屋。小さな世界に留まりつつも彼方まで飛距離を伸ばしていくような、様々な文学や映画、音楽がちりばめられたリレー小説。
堀江敏幸と小川洋子という、知と洗練の極みみたいな組み合わせ。どちらがどのパートを書いているのか、わかりやすく表示はされていないのだが、読めばすぐにわかる。どんな形態であれ、文章がしっかりと顔を持ち続けている。自分の文体が確立されているってやっぱりすごいことなんだなと実感した。どう読んでも堀江敏幸の文だし小川洋子の文なんだもんな・・・。
 ドナルド・エヴァンズ、ジョセフ・コーネル、ロベール・クートラスらの名前が次々出てくるだけで無性にうれしくなる。「彼らは独自の境界線の内側に潜んでいますが、孤立しているわけではありません」という彼らの作品の核心を突いた表現。他にもソローであったり宮沢賢治であったり、まど・みちおであったり、大声ではないがずっと静かに話し続けているような作家たちが登場する。著者2人の美学、ものの見方が垣間見え、フィクションとはいえこれらの文学(だけではない)を紹介していく随筆的な側面が強い。が、その一方で、強く小説を意識させる瞬間もある。瞳を自ら閉ざした人と光を失いつつある人の対話であるかのようだが、ある地点で風景がぐらりと揺らぐ。そこかしこにあった不穏さ、悲劇の気配のようなものはここに集約、伏線回収されるのかと。ペダントリィに徹するようでいて、ちゃんと「私」と「ぼく」の物語だったのだ。


『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』

 夏休みに部活の研修旅行でヨーロッパに行くことになったピーター・パーカー(トム・ホランド)は、旅行中に片思いしているMJ(ゼンデイヤ)に告白しようと計画していた。しかしベネチアで水の怪物が出現。謎のヒーロー、ミステリオ(ジェイク・ギレンホール)が危機を救うが、ピーターの前には元S.H.I.E.L.D長官のニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)が現れる。ミステリオことベックは別の世界からやってきて、彼の世界を破壊した存在エレメンタルズがピーターたちの世界に出現したのだと言う。監督はジョン・ワッツ。
 夏休み前哨戦にぴったりな作品。ピーターはバカンスをフューリーたちに邪魔されてがっくりするわけだけど、見ている側としてバカンス気分、かつ青春映画の良い部分を味わえる、そして当然ヒーロー映画としての爽快感もある。
 ピーターは「親愛なる隣人」としての自分の立ち位置を前作で確かめた(だから今回、地元のチャリティーイベントにも出るわけだ)。ところが今回は『アベンジャーズ エンドゲーム』後の世界であり、スパイダーマンを含むヒーローたちが人類を救ったことが世界中に知られている。当然人々はスパイダーマンにもアベンジャーズに代わる世界のヒーローとしての活躍を期待するし、フューリーもまた、ヒーローとしての覚悟をピーターに要求する。意欲の空回りをいさめられた前作とは逆の展開だ。しかし今回、ピーターは正に夏休み気分だし好きな女の子は気になるしで、ごくごく普通のティーンエイジャーとしての側面が強く出ている。ヒーローとして困っている人を助けたいという気持ちと引っ張り合いになるのだ。
 ただ本作、ピーターに対して大人になれ!立派なヒーローになれ!と強いるのではなく、しかるべき大人たちが彼をサポートし、成長を見守っている。メイおばさんはもちろん、今回はハッピーが頼もしい。彼があるシーンでとてもうれしそうな顔をする。スタークとピーターが重なって見えたんだろうなとぐっときた。スタークはピーターのことを案じていたが、実はそんなに的確に保護者、指導者になれたわけではない。むしろ今回、彼が遺したものがピーターを導いていく。そしてスタークから遺産を受け取ったのはピーターだけではないのだ。ピーターの存在が、ハッピーにとってはスタークから受け継がれたものと言えるだろう。
 ただ、前作の敵にしろ今作の敵にしろ、スタークの負の遺産ともいえる。良くも悪くもスタークが残したものとどう向き合っていくかというのが、本シリーズの裏テーマ見たいになってしまっている気がした。そういう点で、スパイダーマンシリーズの敵ってちょっと他のマーベル作品とは質が違うように思う。人により意図せず生み出されたもの、人の営みの一部としての悪という側面が強い。今回の敵には、なるほどそうきたか!と唸った。非常に現代的だし、明らかにアベンジャーシリーズの敵とは意味合いが違う。次作は更に、戦うことの意味合いが変わってきそうだ。

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ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2017-12-20






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『存在のない子供たち』

 12歳の少年ゼイン(ゼイン・アル=ラフィーア)は両親を訴える裁判を起こした。罪は「僕を生んだ罪」。ゼインは出生届が出されておらず、生年月日がわからないし社会に存在すらしていない扱いになっている。学校に通うこともなく、路上で物売りをする毎日だった。大切な妹が11歳で強制結婚させられたことがきっかけで、ゼインは家を飛び出す。監督・脚本はナディーン・ラバキー。
 試写で鑑賞。幼い子供が辛い目にあい続けている、かつそこそこ長いので見ていて結構辛かったのだが、力作。ゼインはなぜ自分を産んだのかと両親を責めるが、彼が置かれた苦境はむしろ社会のシステムの問題であって、個人がどうこう出来る規模の問題ではないだろう。ゼインの両親が子供たちに対してやっていることは、子供の人権といったものを全く無視しているし倫理的にも許されない(特に妹の運命は痛ましい)。面会に来た母親に対してゼインが取る態度は、これまでこの親子がどういう関係だったのか、親が子に何をしてきたのか端的に表している。子供が全然守られていないのだ。母親とゼインとの問題意識が全くすれ違っていることが辛い。
 ただ両親もまた、ゼインと同じく出生届のない、世の中からは「ないもの」にされている存在だ。ないものに対しては社会的な保障も、保護も与えられないというわけだ。そういう環境、仕組みの中で生きてきた両親には、他のやり方は最早わからないだろう。家出したゼインを助けてくれる、不法滞在者の女性も同様だ。「ないもの」から、「ないもの」であることにつけこんでまた搾取しようとする人達もおり、それがまた辛い。ゼインたちの境遇を家族や個人の責任にとどめず、彼らを「ないもの」にしている政治家、世間へのサイレン的な思いが込められている。貧困は国の失策なのだ。社会保障が個人を個人として存在させる、人の搾取を食い止める(少なくとも子供を売るような事態は避けられる)という側面はあるだろう。
 ゼインの、今を何とかしたいというもがきが痛ましくはあるのだが、彼は大人びているがさめきってはいない。まだこの世界を諦めていないまなざしは、物悲しげだが力強かった。なりゆきで赤ん坊と2人で生活をしなくてはならない様など、本当にはらはらしてしまうし、見ていてしんどいのだが、子供は圧倒的に「今」を生きているなと感じさせる作品でもあった。それは監督が彼らにはこの先が、光がなくてはならないと確信しているからでもあるんだろうけど。

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『神と共に:第二章 因と縁』

 1000年で48人の使者を転生させた冥界の使者カンニム(ハ・ジョンウ)、ヘウォンメク(チュ・ジフン)、ドクチュン(キム・ヒャンギ)。あと1人転生させれば自分達もまた転生できある。転生の可能性がある最後の貴人はジャホンの弟スホン(キム・ドンウク)だが、彼は一度怨霊と化しており本来なら裁判を受けるまでもなく地獄行き。閻魔大王は現世からソンジュ神(マ・ドンソク)を連れ戻せば裁判を行うと条件を出す。監督はキム・ヨンファ。
 第一章では、地獄めぐりアトラクションであると同時に、ジャホンとスホンとその母に一体何があったのかという家族のドラマが盛り込まれていた。第二章ではアトラクションぽさはぐっと後退(とはいえスホンが怪魚の餌にされる、それ必要ですか?と言いたくなる珍妙な件はあるんだけど・・・)し、使者たちの前世の因縁が前面に出てくる。サブタイトルの通り、正に因と縁が盛りに盛られている。あの人とこの人については予想していたけど、最後の最後まであんな人まで絡んでくるの?!盛り過ぎじゃない!?ともうおなかいっぱい。一方で現在のソンジュ神と彼が守護する老人、その孫とのホームドラマ的な、コミカル人情話が展開していく。第一章もそうだったけど、とにかく振れ幅が大きくて楽しいけどちょっと疲れた。
 使者たちの前世をしるソンジュ神は、「記憶を奪うなんて残酷だ」と漏らす(使者たちに前世の記憶はない)。この「残酷」というのが、誰にとってのものなのか、一体誰の為の裁判なのかちょっとミスリードさせている部分もあり、ミステリ的な面白さ、そして痛切さがあった。確かにこの状況は、ある人にとってすごく辛い。前世の様子がわかってから第一章、第二章を振り返ると切なさ倍増だ。一章二章通して、誰が誰に対して思う所があるのかということを、重層的に見せていく構成になっている。
 悪人はいない、いた場所が悪かったという(ような意味の)ある登場人物の言葉が印象に残った。使者たちも、ジャホンもスホンも、全く清廉潔白というわけではなく、登場人物のだれもが何かしら重荷を背負っているし、かなり非道なことをやってしまった者もいる。それでも根っからの悪人はいない、シチュエーションが違えば善性を発揮できるとするところに強いヒューマニズムを感じた。

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『ワイルドライフ』

 1960年代、モンタナ州の田舎町に住む14歳のジョー(エド・オクセンボールド)。父ジェリー(ジェイク・ギレンホール)は働いていたゴルフ場をクビになってしまった。母ジャネット(キャリー・マリガン)はスイミングプールで働き始め、ジョーも写真館でアルバイトするように。就職活動もしないまま、ジェリーはジャネットの反対を聞かず山火事を消化する出稼ぎに行ってしまう。ジャネットは不安と孤独にさいなまれていく。監督はポール・ダノ。
 試写で鑑賞。俳優ポール・ダノの初監督作で、脚本・制作はゾーイ・カザンと共同だそうだ。ダノは監督としてもセンスいい!奇をてらわない地味な作品だが、抑制のきいた情感があってとてもよかった。
 それにしてもしんどい話だ。ジェリーもジャネットも基本的に良い人、良い親ではあるのだが、自分達の心・環境が揺れている時もそれを維持していられるほどには強くない。14歳の子供にとって、親の弱い面を目の当たりにするのはかなり辛いし、どうしたらいいのかわからないだろう。彼にとっては愛する両親、自分を愛してくれる両親なのに、どんどんそれに当てはまらない面が見えてくる。ジョーは概ね途方に暮れたような顔をしているのだが(オクセンボールドの表情の作り方が素晴らしい)、それも無理ない。
 いわゆる「男性らしさ」に絡め取られている故の妙なプライドをこじらせ家族から離れてしまうジョー、生活の不安から裕福な男性にすがってしまうジャネット。2人とも、その気持ちわからなくはないけれどもうちょっと一人で踏ん張れないだろうか・・・という気持ちになってしまった。一人で踏ん張るのは確かに辛い。が、子供の前で見せてはならないものがあるだろう。ジョーがもうすこし年長だったら親も「親」としてではない顔を併せ持つ一個人だと受け入れられるかもしれないが、まだそれには早い。ジャネットが浮気相手の家にジョーを同行させる(そして息子の前でいちゃつく)のにはちょ、ちょっと待って・・・と。そりゃあジョーも接し方分からないだろう。ジェリーはそういう面は見せないが、その代わりに親・夫としての責任から逃避してしまう。どっちもどっちだ。
 自分を保てない人と生活する辛さをしみじみと感じさせる作品だった。家族仲の円満、不和は経済的な問題から生じることが多々あると実感させるのもかなりきつい。経済的不安は精神状態悪化させるんだよな・・・。

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マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ (ヴィレッジブックス)
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『新聞記者』

 東都新聞の記者、吉岡(シム・ウンギョン)は、社に匿名で送られてきたFAXを目にする。それは医療系大学新設計画に関する極秘文書だった。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原(松坂桃李)は、現政権に不都合なニュースをコントロールする職務に疑問を持っていた。外務省時代の元上司・神埼(高橋和也)と久しぶりに会い喜ぶものの、数日後、神埼は自殺する。彼を自殺に追い込んだものは何だったのか、神埼は自分が所属する組織の暗部に気づいていく。原案は望月衣塑子の同名著作。監督は藤井道人。
 メディアは権力を監視する為にあると言う矜持を持ち続け、「自分を一番信じ疑え」という父が残した言葉に従い続ける吉岡の一本気が胸を打つ。彼女は日本人の父親と韓国系の母親を持ちアメリカで育ったという、日本では「異物」として扱われる存在。だからこそ、この国のいびつさ、危うさを客観的に見ることが出来る。
 一方、杉原は与えられた任務に疑問をもつことがない内閣情報調査室において、ごくごく普通の感覚、倫理観や正義感を持ち続ける。その普通さが彼を組織からはみ出た存在にしていき、彼を苦しめるのだ。組織の特殊性、組織の論理に染まらずにいられるかという部分は、どんな人にも心当たりがある、なかなか耳の痛い部分ではないだろか。ただ、昨今の世の中を見ていると、本作における内閣情報調査室が掲げる論理に、世間の論理が近づいてきているような気がして怖い。内閣情報調査室の論理は国や国民を守る為のものではなく、現政権の利益を守る為のものにしか見えないのだが、自分達を圧迫していくものの為に奉仕してしまう現象、何と名づければいいのか・・・。汚職にまみれた政権でも安定している方がいいのか、安定の為には非合法・非倫理的な手段をとってもいいのかといったら、いいわけないと思うんだけど。作中、「この国には本物の民主主義は不要だ」とまで言われてるんだけど・・・。でも、近年の日本社会を見ると民主主義の根付いてなさに茫然とすることが多いのは確かだ。
 本作に対し社会批判、政権批判をよくやった!という声が多いようだが、どちらかというと社会派と言うよりも王道のサスペンスとしての側面の方が強いように思った。むしろ、この程度で社会批判、政権批判をうたったことになるのかという拍子抜け感の方が強い。時事ネタを取り入れていくのはエンターテイメントとしては定番で、本来ならテレビドラマ等でもっとタイムリーにネタにしてもよかったことだと思う(本当に『相棒』の2時間SPとかでやりそうな話なんだよね)。それすらためらわれる空気があるなら、それこそ民主主義死んだということになるのでは。

新聞記者 (角川新書)
望月 衣塑子
KADOKAWA
2017-10-12






1987、ある闘いの真実 [DVD]
キム・ユンソク
株式会社ツイン
2019-02-06

『さよなら、退屈なレオニー』

 カナダ、ケベックの小さな港町に住む17歳のレオニー(カレル・トレンブレイ)は、高校卒業を控えているが進路は定まらず、自分が何をしたいのかもわからない。口うるさい母も母の恋人も大嫌いで家にもいたくない。ある日レオニーはダイナーで知り合ったミュージシャンのスティーブに興味を持ち、彼にギターを習い始める。監督はセバスチャン・ピロット。
 レオニーの不機嫌さ、周囲への八つ当たりを自分でもコントロールできない感じが実にティーンエイジャーっぽい。自分が今感じ悪いなという自覚やそれに対する自己嫌悪もあるけど、だからといって機嫌のいいフリをするなんてしゃらくさくて出来るか!ということだろう。社会的な「感じの良さ」は彼女にとってはかっこ悪いし、自分ではない誰かに好まれる為の格好はしたくないという面倒くさい自意識なのだ。しかし、そこは変えなくていいよ!そのまま行けよと言いたくなった。自立した個人になっていく為の過程なんだから。
 スティーブとレオニーは距離が縮まっても一線を越えることはない。最初はレオニーの方からスティーブにちょっかいを出しているし、スティーブも段々まんざらでもない感じになっていくが、子供と大人という区別はされている。レオニーはスティーブのことを負け犬呼ばわりしてなじる(これも八つ当たりなんだけど)が、彼は彼女を責めたりしない。そこは、彼女がまだ子供だから許容されている部分なのではと思う。彼がレオニーを責めるのは、約束していたギターのレッスンを彼女が無断で休んだということで、彼女が自分の思い通りにならなかったからではないのだ。
 レオニーがまだ十分に大人とは言えない、子供であるということは、父母との関係、母の恋人との関係からも垣間見える。母や母の恋人の前では一人前ぶるが、彼女の不機嫌さは子供だから許されていることでもある(母の恋人はほんとにいけすかないので、一緒にいたら大人でも不機嫌になっちゃいそうだけど・・・)。別居中の父親を慕うレオニーだが、彼女が慕っているのは理想化された父とも言える。父と母との関係がどのようなものだったか、彼らがどういう個人なのかを受け止めるのはまだ難しい。
 冒頭と終盤、レオニーがバスに飛び乗るシーンが軽やかで素晴らしい。音楽の合わせ方も含め、これぞ映画!という感じがする。他の部分はそれほど劇的ではないので余計に際立つ。今はここにいるけど、いつでも、どこへでも行っていいんだという風通しの良さが感じられるシーンだ。仮に彼女がこの先もこの町に留まるとしても、いつでも出ていく手段があると確信できているのとそうでないのとは全然違うだろう。


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NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
2019-07-03






キングス・オブ・サマー [Blu-ray]
ニック・ロビンソン
TCエンタテインメント
2018-11-30

『指名手配』

ロバート・クレイス著、高橋恭美子訳
 私立探偵のエルヴィス・コールは、シングルマザーのデヴォン・コナーから息子タイソンの身辺調査をしてほしいと依頼される。タイソンが高級腕時計やスーツを身につけるようになり、妙に金回りがいいのだという。調査を始めたコールは、タイソンが仲間と共に裕福な家に空き巣に入っているらしいことを突き止める。警察より先にタイソンを確保し自首させようとするが、コール以外の何者かもタイソンらを追っており、しかもコールより一足先を行き、タイソンの仲間を殺害していた。
 コール&パイクシリーズ、だそうだが実は読むのは初めて。スコット&警察犬マギーシリーズとのクロスオーバー『約束』で2人の存在を知った。洒脱で減らず口が止まらない探偵コールと、無口でタフで特殊能力にチート感あるパイクのコンビネーションは、本作ではさほど目立たないのだが、最後の最後の方で長年培ったであろう安心と信頼が垣間見えるよね!
 本作でコンビネーションを発揮しているのは、むしろ悪役のハーヴェイとステムズ。プロの殺し屋で有能かつ冷徹な2人組で、老若男女隔てなく容赦ない、わかりやすい「悪人」なのだが、相棒に対するお互いの信頼と尊敬が垣間見える。過去のバーでのエピソード等ぐっときてしまう。愛があるんだよな・・・。また、ちょこっとではあるが、姿をくらますタイソンと、彼の友人、というより悪友であるハッカーのカールの関係もちょっといい。ティーンエイジャーらしく自尊心や劣等感が入り混じって、お互い素直でない接し方なのだが、終盤、これまたぐっとくるシーンがある。これぞ友情。男性たちのハグが心に残る作品だった。

指名手配 (創元推理文庫)
ロバート・クレイス
東京創元社
2019-05-11





約束 (創元推理文庫)
ロバート・クレイス
東京創元社
2017-05-11

『旅のおわり、世界のはじまり』

 テレビ番組のリポーターとしてウズベキスタンを訪れた葉子(前田敦子)。伝説の怪魚を探すロケはなかなかうまくいかず、スタッフも苛立つ。ある夜、路地裏に繋がれたヤギを見かけた葉子は、そのヤギを野に放ちたいという衝動に駆られる。監督・脚本は黒沢清。
黒沢監督にしてはかなりフワっとしたゆるさのある作品。前田敦子の存在感にゆだねた部分が大きい(黒沢清流のアイドル映画と思えばいいのか)からか。それでも室内でカーテンは揺れるし、急に日が陰るし、黒沢印は健在なんだけど。
 テレビクルーは葉子以外全員男性。染谷将太演じるディレクターが現地の人に対してすごく失礼だし、クルーに対しても感じ悪いのだが、こういうディレクターいそうで笑ってしまった。海外ロケのあるバラエイティ番組を見ていると、これはかなり失礼なのではという企画がちらほらあってぞっとすることがあるので、笑いごとではないのだが・・・。現地ガイドの青年とADは葉子にに対して多少気遣いがある。ADが「歌」を聴いたのは彼女と少しだけ心の距離が近かったからか。男性のグループの中で女性が働く時のいまひとつ打ち解けられない感じ、緊張感が随所で見られる。バスに乗ったら男性乗客ばかりだった時(前田の表情が上手い!)や、夜道で男性のグループとすれ違う時の緊張感等、葉子がリラックスしていられるシーンがほぼないのだ。海外にいるからというのも一因だが、仕事仲間の間でいまひとつ意思疎通ができていないというのも大きいんだなとわかる。気を許せる場がないのだ。この気の許せなさ、リラックスできなさは見ていてちょっときつかった。
 ヤギを野に放つという葉子のアイディアは多分に短絡的ではあるのだが、何か自分だけの物語のようなもの、自分の予想をちょっとだけ越えるものが欲しいのだ。彼女が山頂で得たものは多分それだろう。あの瞬間、彼女がウズベキスタンで体験した不愉快さを含めた諸々が物語となる。それは彼女のこの先を支えるものだろう。前田敦子の歌唱は、決して達者と言うわけではないのだとてもよかった。少なくともあのシーンにとってはベストの歌唱。

散歩する侵略者 特別版 [Blu-ray]
長澤まさみ
ポニーキャニオン
2018-03-07




黒沢清、映画のアレゴリー
阿部 嘉昭
幻戯書房
2019-02-28
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