試写で鑑賞。60分戦争と呼ばれる最終戦争から数百年たち、荒廃した世界。わずかに残された人類は移動型の都市で生活するようになっていた。巨大移動都市ロンドンは、都市同士が捕食しあう弱肉強食の世界で支配を拡大させていた。ロンドンの指導者的立場にある史学ギルド長ヴァレンタイン(ヒューゴ・ウィービング)への復讐心を募らせる少女ヘスター(ヘラ・ヒルマー)は密かにロンドンに潜入するが、なりゆきでギルド見習いのトム(ロバート・シーハン)と行動を共にすることに。原作はフィリップ・リーヴの小説『移動都市』。監督はクリスチャン・リバース。『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』のピーター・ジャクソンが製作・脚本に参加。
ストーリー展開はかなり駆け足でダイジェスト版ぽいのは否めないが、原作を読んだ時のイメージにはかなり近いと思う。リバース監督はピーター・ジャクソン監督作に前々から視覚効果やストーリーアーティスト等で参加し、『キング・コング』ではアカデミー視覚効果賞を受賞した人だそうだ。この作品において何をまず見せるのか、どこに注力すべきなのかという判断が的確なのだと思う。本作では大型都市のロンドンにしろ、ごく小規模な都市(というか集落みたいなもの)にしろ、移動都市内のディティールが細かく具現化されていて、そうそうこういう所が(ストーリー上では必要なくとも)見たかった!というフェティッシュをくすぐる。スチームパンク好きにはツボな部分が多いのでは。
また、冒頭のロンドンの「狩り」の様が手に汗握らせるものでここが最大の見せ場と言ってもいい(その後、それ以上の盛り上がりに乏しいということでもあるのでちょっとどうなのかなとは思うけど・・・)。かつ、本作で描かれている世界がどのようなものなのか、どういうルールや価値観で動いているのか、イメージを掴みやすい。移動都市以外でも飛行艇の描写が結構細かく爽快感があったり、空中都市がなるほど!という造形かつ美しさだったりと、まずはビジュアルの魅力がある作品だと思う。ただ「古代の神」や某菓子(日本では馴染が薄いけど)については、サービスなんだろうけど見当違いでは。映画を見ている側がいる現代とのつながりを感じさせる要素は、本作の場合ミスマッチのように思う。未来というより異世界っぽい。テクノロジーの発展の仕方が、今現在の現実とはあまり地続きっぽくないんだよな・・・。トースターやCD、モーター部品等現実に存在するもの(の成れの果て)が登場するのに異世界ぽいというのがちょっと不思議でもある。
ストーリーやキャラクター設定は原作を少々アレンジしてあるものの、意外と改変は少ないと思う。終盤の展開が違うが、現代の気分には映画版の方が沿っているのかな。ちょっと難民問題ぽくもある。現在の英国の迷走を思いつつこのラストを見ると、なんというか味わい深いが。