3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

2018年09月

『スカイスクレイパー』

 FBIの人質救出部隊のリーダーだったウィル・ソーヤー(ドウェイン・ジョンソン)は、ある事件で大怪我をし左足を失った。10年後、危機管理コンサルタントとして働くウィルは、香港に建設された高さ3500フィートの超高層ビル「ザ・パール」の本格稼働に向け、オーナーのジャオから安全管理チェックを依頼される。家族と共にザ・パールに滞在していたが、ある犯罪組織がビルに侵入していた。監督・脚本はローソン・マーシャル・サーバー。
 冒頭の立てこもり現場への突入シーンが、最近の大作映画にしては珍しいくらいに作りものっぽくてすごく気になってしまった・・・。ザ・パールの内部構造も、これ本当に自立できるの?とかなぜそこにコントロールパネル付けるの?とか突っ込みがいがありすぎる。まあ一貫して「細かいことは気にするな!」ってノリの映画だからそんなに気にはならないのだが。
 240階建てのビルが舞台で高所でのアクションが満載。高所恐怖症の人は楽しめるのだろうか。ウィルはそんなに高い所が得意という雰囲気でもない(嫌々やっている感がある)のだが、家族を救う為に止む無くビルに挑む。対して、ビルのオーナーであるジャオ(チン・ハン)のザ・パールに対する思い入れはちょっとどうかしている気がした。自分がオーナーだから当然と言えば当然なのかもしれないが、高層であることにそんなに拘る必要はないのでは・・・。ビルの維持だけで大赤字になりそうな気がするんだけど(実際コスト高くて、みたいなセリフはある)。彼がなぜ超高層ビルを建てようと思ったのかが気になってしまった。何か、すごく屈折したものがあるんじゃないかとわくわくしてしまった。
 ジョンソンは全く死にそうな雰囲気がないので、何をやっても安心感があるのだが、今回も同様。義足が大してハンデになっていない、むしろここぞというところで役に立っている!格闘戦においても寝技・絞め技の強さが強調されるだけで全然不自由な感じがしないんだよね・・・。本作の面白い所は、ウィルだけでなく妻も強いと言う所だろう。助けられるだけの存在ではなくそこそこ戦うし勝つ!強い!結構戦闘的なのだ。子供たちにしても、家族の関係がしっかりしていることが序盤できちんと表現され、信頼関係が揺らがないので安心感がある。家族映画としてもいいのだ。
 なお本作一番の功労者はダクトテープではないかと思う。『オデッセイ』(リドリー・スコット監督)なみのダクトテープ映画。ダクトテープ無双である。初めて見るパターンの使われ方に加え、いやいや冗談でしょー!ってパターンもあった。トム・クルーズでもやらなかったやつよそれは。

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『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』

 頭脳明晰なリン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は進学校に特待奨学生として転入する。友人になったグレースをテストで「手助け」したことで、グレースの恋人パットからカンニングをビジネスとして持ちかけられる。学生たちは殺到するが、生真面目な秀才バンクは良く思わなかった。リンたちはアメリカの大学に留学するための世界共通大学統一入試STICに挑む。監督はナタウット・プーンピリヤ。
 小気味のいいティーン版クライムムービーという感じ。クライマックスの大勝負には手に汗握った。正直な所、カンニングの方法については大丈夫?と思う所があったが(学校のテスト、席替えがあったら成立しないよね)時間の縛りもきつい為、ハラハラ度が高くて盛り上がる。そこそこ長尺(130分)なのだがスピード感がありテンポが良い。テンポを良くするためにかなりカットしたエピソードがあるんじゃないかなという気がした。ピアノにまつわる設定は本来はもっとあったのではないかと思う。
 リンは頭が良くて勉強好きな努力家。元々危険な計画を立てることも、実行するスリルも好きなんだと思う。それだけに、カンニングビジネスの規模が大きくなっていく様はちょっと悲しくもあった。カンニングは、彼女が好きな勉強や困難な計画を立てて実行することのワクワク感、つまり自分で学び挑戦することを否定するものだからだ。更に、教師である父親を否定することでもある。父親との仲が良好だからこそ、辛いものがある。
 リンがカンニングビジネスをやるのには、お金の問題もある。周囲が賄賂を渡せる裕福な家庭の子息という環境の中、彼女はさほど裕福でない庶民。他の生徒が寄付金、要するに賄賂を使って進学していることへの腹いせ、豊かではないのに父親も賄賂を贈っていたことへの悔しさもあって、カンニングビジネスへ踏み切ったのだろう。同級生のバンクは更に逼迫した苦学生だ。自分の能力で持っている人たちからお金を回収して何が悪い、負け犬のままでいてたまるかということなのだろうが、カンニングという商品は、自分が「持ってる」人たちに唯一勝っているアドバンテージを売り渡すことになるのではともやもやした。進学枠を自分より頭の悪い人たちに取られる、彼らの為にアドバンテージを剥奪されるようなリスクを負うのって悔しくないのかな。お金がなかったら進学すらできないということか(リン家はそこまで逼迫してないけど、バンクはそうだろう)。どんなに学んでもスタートラインが一緒になることはないんだよなぁ・・・。
 友人の誘いでビジネスを始めてしまうリンも、恋人の提案を断れず彼女を引き入れるグレースも、そしてカンニングを提案するパットも、やはりまだ子供だ。お金が介在するとそれまで通りの友人関係ではいられないし、カンニングして大学入学してもその後の人生でカンニングし続けられるわけではない。「その先」の感覚があまりないのだ。最後、リンはそれを得たように思えた。


That’sカンニング! 史上最大の作戦? [DVD]
安室奈美恵
フジテレビジョン
2001-09-19


『初恋』

トゥルゲーネフ著、沼野恭子訳
 16歳の少年ウラジーミルは、別荘の隣に住む21歳の公爵令嬢ジナイーダに一目惚れする。ジナイーダはいつもとりまきの男性たちに囲まれており、ウラジーミルは翻弄され思いは強まっていった。しかしある日、彼女が恋に落ちたと気付く。
 先日読んだウィリアム・トレヴァー『ふたつの人生』収録「ツルゲーネフを読む声」(光文社古典新訳文庫のみトゥルゲーネフ表記)の中に本作(とその他のトゥルゲーネフ作品)からの引用が多々あったので、気になって読んでしまった。昔は他愛ない話という印象だったが、新訳で読むと少年の恋にのぼせ上った舞い上がり方、鋭敏さと視野の狭さがいっしょくたになっている様が瑞々しく微笑ましい。また、ジナイーダにしろ彼女のとりまきにしろ、まだ半分子供であるウラジーミルの前では、大人として振舞おうとする。本当は彼女らもいっぱいいっぱいで、必ずしも世慣れているというわけでもないのだが、せめて彼の前では大人としての思いやりを発揮しようとしていたことが、今読むとわかる。その思いやりと、ウラジーミルはそれと気づかないのだが。

初恋 (光文社古典新訳文庫)
トゥルゲーネフ
光文社
2006-09-07


猟人日記 上 (岩波文庫 赤 608-1)
ツルゲーネフ
岩波書店
1958-05-06


『インド倶楽部の謎』

有栖川有栖著
 クラブ“マハラジャ”の経営者を始めとするインド好き7人から成る定期的な会食の場に、インドからの客人が招かれた。前世から死ぬ日まで、その人の運命全てが記されているというインドに伝わる予言の文書「アガスティアの葉」の読み手を呼び、7人のうち3人の運命を教えてもらおうというのだ。しかしこのイベントに立ち会った者が相次いで殺される。アガスティアの葉の預言は本物だったのか?臨床犯罪学者・火村英生と推理小説作家・有栖川有栖は死の謎を追う。
 神戸を舞台にしたお久しぶりの国名シリーズ。いつになくトラベルミステリ的な側面も強いが、これは著者の趣味なんだろうなぁ(笑)。刑事が電車とバスを乗り継いで辺鄙な温泉を訪ねるエピソード、作中で言及されているバスのダイヤを見る限り、自家用車で行った方がいくらか便利なのでは・・・とつい気になってしまった(とは言え、兵庫県からではちょっと大変かな)。
 近年の著者の作品は、「本格ミステリビンゴ」のコマを順次埋めるような意図で書かれているような印象がある。プロ野球選手がバラエティ番組で投球によるパネル落とし(碁盤の目状のパネルに狙い通りボールを当てて落としていくあれです)にも似ている。今回はこの手段とこの手段の組み合わせでやるぞ!という課題設定、更には本格ミステリ作家としてやれることには何が残っているか、というコマ埋めのようにも思える。個々の作品のクオリティというよりも(クオリティが低いというこではないです!いつも一定水準以上は維持していると思う)本格ミステ作家であることを全うしようとし続ける姿勢に頭が下がる。今回はある意味特殊ルール下における事件、かつ探偵側にはそのルールが開示されていないというパターンではないだろうか。職人の仕事だよなー。


マレー鉄道の謎 (講談社文庫)
有栖川 有栖
講談社
2005-05-13


『泣き虫しょったんの奇跡』

 おとなしく特にやりたいこともない少年だった「しょったん」こと瀬川晶司(松田龍平)は、将棋の面白さに目覚め、プロ棋士をめざし奨励会に入会。しかし26歳までに四段昇格できなければ退会という規定のプレッシャーがのしかかり、年齢制限により退会に至る。棋士の道を諦めて、就職して働き始めるが、将棋への思いは捨てられず、再びプロ棋士を目指すべく立ち上がる。原作は瀬川晶司五段の自伝的小説。監督・脚本は豊田利晃。
 豊田監督作品の中では一番安定感があり、まっすぐど真ん中のストレートを投げてくるような作品。静かだが熱い。劇伴は控えめで、駒を置く音が効果的に響く。この音が意外と高く頭に刺さるような感触があり、緊張感を煽る。対局中、瀬川が追い詰められていくにしたがって、周囲の駒を置くパチパチという音や対局相手が扇子で仰ぐ音がどんどんノイズとして彼を責め、飽和状態になっていくように感じた。音の設計が上手いと思う。また、概ね静かなのだが、ここぞというところでじわじわと盛り上げていく、照井利幸によるギター主体の音楽もよかった。
 瀬川は才能はあると作中でも断言されているのだが、勝負弱い。将棋のことはわからなくても、この人はここぞと言う所で踏ん張れないんだなということが、周囲の言葉や反応から何となく伝わるのだ。「瀬川君が負ける相手じゃないよ」と負けた後に言われるのって結構きついんじゃないかな・・・。そして、瀬川の人柄の良さも、彼の言動というよりも周囲の言動から伝わる。彼のアパートに奨励会の仲間がたむろっているシーンは、彼らがくすぶっているにも関わらず、青春ぽさと多幸感を感じた。「負けた時は一人でいたくないでしょう」というのは意外な気もしたけど、そういうものなのかな。落ち込む瀬川を新藤(永山絢斗)がドライブに連れ出す、しかしドライブ先の風景がこれまたひどくわびしくて全然元気にならなそうというエピソードが、何だか胸に染みる。
 周囲の人に恵まれているということが、まわりまわって彼をプロ棋士への道に引き戻す。瀬川が人柄の良さで掴んだ運であり縁だとも言える。瀬川が奨励会を去る冬野(妻夫木聡)に、瀬川さんは(将棋の)指し方がきれいだ、人の良さが将棋に出ているがそれでは生き残れないと言うシーンがある。冬野は瀬川の人の良さは弱点だと考えたわけだし実際にそういう面もあるのだろうが、瀬川はそういうタイプの棋士にも活路があると証明したと言えるだろう。彼の過去から現在に至るまでの人との出会いが集約していくクライマックスは、ベタだなとわかっていてもやはり泣けた。
 主演の松田は得難い存在感がある。また脇役、モブに至るまで、役者が皆いい。今回、いつになく役者の顔にカメラが集中しているように見えた。少し出てくるだけの人も、はっとするような表情を見せる。役者の顔への信頼感が感じられた。そして松たかこが飛び道具的存在になっている。監督の私情が大分入っているのではないだろうか。「おうちの人に若くてきれいな先生だと言って」というくだりには、今時(作中では’80年代だけどそれにしても・・・)それはないわーと思ったけど。


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原田芳雄
ポニーキャニオン
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『ザ・プレデター』

 特殊部隊隊員のクイン・マッケナ(ボイド・ホルブルック)はメキシコのジャングルで作戦実行中、墜落した宇宙船とその船に乗っていた異星人プレデターを目撃。仲間はプレデターに殺され、自身はプレデターの存在を隠匿しようとする政府に拘束されてしまう。プレデターが存在する証拠として、クインは彼らの道具を密かに自宅に郵送していたが、それを息子のローリーが開封、機動させてしまう。装置から発信されるシグナルを追って、プレデターが出現する。監督はシェーン・ブラック。
 このシリーズ、人気があるんだかないんだかよくわからないけど定期的にやってくるよな・・・。しかし定期的に見たくなるのは何となくわかる。大味な設定とぼーっと見ていても問題ない程度に大雑把なストーリー、ふんだんに飛び散る血肉と断面、そしてプレデターさん。プレデターのデザインは公式設定で「醜い」にのだが、醜いというよりもとにかく(2018年の視点では)ダサく、そのダサさが癖になる。一応エイリアンだしSF的な要素があってもよさそうなのに、全くSF感、主にサイエンス要素がない!平たく言うと頭が悪い!ノーブル、スタイリッシュが一切ない、いい感じのボンクラ感である。
 ただ、ボンクラで下ネタはあっても、不思議と下品さや下卑た雰囲気は感じない所が面白かった。マッケナと仲間たちのやりとりはいかにも「男子」的なのだが、あまりホモソーシャルな方向にはいかない。彼らは全員何らかのPTSDを抱えており、一見マッチョだがそうはなりきらない。他人の弱さを許容するところがあり、自分の弱さも自覚している。彼らを繋ぐのはその弱さへのお互いの思いやりなのだ。
 また、紅一点として女性科学者が加わるが、彼女に対する性的ないじりはほぼなく(ちょっとそういうことを言うとちゃんと怒られる)、対等な仲間として接しておりお互いに態度がフラット。この科学者がマッケナら以上に戦闘的でプレデターに臆さない、むしろデータ取りたい!サンプル採りたい!というクレイジーかつその道のプロなキャラクターな所が良かった。製作側がどのくらい意識しているのかわからないが、全体に漂うレトロなB級感とは反対に、こういった部分は非常に「今」の映画だと思った。

プレデター (特別編) [Blu-ray]
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20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2018-08-17


AVP&プレデター DVDコレクション(5枚組)
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20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2015-10-07


『若い女』

パリで暮らす31歳の女性ポーラ(レティシア・ドッシュ)は10年付き合った恋人に振られて家を追い出され、お金も仕事もない。恋人の飼い猫ムチャチャを道連れに安宿や友人の家を渡り歩いていた。ようやく住込みのシッターの仕事を見つけ、ショッピングモールの下着店でも働き始めるが。監督・脚本はレオノール・セライユ。第70回カンヌ国際映画祭カメラドール受賞作品。
 ポーラのじたばたする様、自分をコントロールしきれずあとからあとからボロが出る様はかっこ悪いしみっともないのだが、何だか嫌いになれない。むしろ映画の女性主人公としては新鮮で引きつけられた。お友達にはあまりなりたくないタイプだが、どうかすると応援したくなってしまう。
 この嫌いになれなさ、ポーラの行動が「この年齢の女性ならこうするべき」「この年齢の女性ならこうあってしかるべき」という社会規範をガン無視しているところに所以するのかもしれない。ポーラは31歳で、世間的には仕事もし社会性も常識も備えているはずの立派な大人と言えるだろう。でも恋人に締め出されて泣きわめくし、猫は勝手に連れて行くし、まともに働いたことがない(学生時代に講師だった恋人と出会い、実家が裕福、かつプロカメラマンとしてブレイクした彼に養ってもらっていたらしい)。採用面接での彼女の受け答えは挙動不審かつ嘘ばかりだし、シッターのアルバイト先では「もっと若い人かと思ったわ」と雇い主に言われてしまう。シッター先の子供からも大人というよりも仲間扱い。やりたくないことはやりたくない、出来ないことは出来ない、欲望には忠実でいるという彼女の生き方は、正直と言えば正直。周囲には嘘ばかりつくが、自分には正直だ。
 恋人は彼女に成長しろ、成熟しろと言うのだが、そもそも成長や成熟って何だ?というのが彼女の言い分ではないか。彼女の行動には計画性はなく行き当たりばったりで、この手の話にありそうな「成長」や「気付き」を得る気配も希薄。唯一、疎遠だった母との関係が気持ち改善されるが、それも修羅場を経てだし(31歳はなかなか親と物理的に格闘ってしないから・・・)、結果も曖昧。そのなるようにしかならない、「大人」というカテゴリーでひとつにくくれない感じが時代の気分と合ってたように思う。

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2016-11-02



グロリアの青春 [DVD]
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『ポップ・アイ』

 バンコクで暮らす中年男タナー(タネート・ワラークンウクロ)はかつては有名建築家だったが、今では会社に居場所がなく、妻との関係も冷え切っていた。ある日、少年時代に飼っていた象ポパイ(ボン)を見かけたタナーは、思わず買い取って家に連れ帰る。しかし妻は激怒、仕事にも嫌気がさしたタナーは、ポパイを連れて田舎の故郷を目指す。監督・脚本はカーステン・タン。
 色合いがとても気持ちよく、なんだか懐かしい味わい。特に水色の色味が少々黄味がかっていて、レトロな印刷物的な風合いがある。象とおじさんという組み合わせも味わいがあって、ぱっと見てなんだか気になるルックの作品だった。ストーリー構成は少々ユルいが許せてしまう。
 異種間ブロマンスとでも言いたくなるロードムービー。エンドロールのキャスト名の一番最初に象の名前がくるのも頷ける、象のポパイの存在感が抜群だった。象の内面は人間にはわからないが、タナーへの優しさが行動に滲んでいるように見えるのだ。背中にタナーがよじ登ろうとするのを辛抱強く待ってくれる姿はユーモラスでもある。「家畜」としてすごく訓練されているということでもあるわけだけど。
 ポパイだけではなく、タナーもまた優しい。レストランでのゲイの娼婦に対する態度とか、ホームレス男性に対する声のかけ方とか、年齢の割に偏見が薄くフラットなのではないだろうか。ただ、彼の優しさは今一つ実を結ばない。結果として間の悪さに繋がってしまうというのがほろ苦かった。でも、周囲の人たちが何だかんだで優しいのは、彼の優しさに誘発されるからのように思える。「旅は道連れ、世は情け」という本作のキャッチコピーは、正に!という感じ。
 ちなみにタナーが30年前に設計して一世を風靡した高層ビルが、いよいよ取り壊されるという設定なのだが、高層ビルの寿命が30年て短くない?タイでは普通なのかな?

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20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
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『1987、ある闘いの真実』

 1987年1月。韓国は全斗煥大統領による軍事政権下にあった。パク署長(キム・ユンソク)率いる南営洞警察は、北分子を排除するべく拷問まがいの厳しい取り調べをしていた。そんな中、行き過ぎた取り調べの中でソウル大学の学生が死亡する。警察は死因隠蔽の為早急な火葬を申請するが、チェ検事(ハ・ジョンウ)は疑問を抱き、上層部の圧力を押し切り検死解剖を実行。拷問致死だったことが明らかになると、警察は担当刑事2人の処分でことを収めようとする。これに気付いた新聞記者や刑務所看守らは真実を公表するべく奔走し始める。監督はチャン・ジュナン。
 韓国民主化闘争の中の実話を映画化した群像劇。エンドロールでは当時の映像も使われている。時代の雰囲気の再現度はかなり高いのではないかと思う。女性たちのファッションや女子学生の部屋においてある小物類等の80年代感が懐かしかった。当時の韓国の政治状況を知らなくても面白く見られる。今この国がどういう状態なのか、この組織は何をやっていてこの人はどういうポジションなのかという情報の提示の仕方が整理されており、映像と登場人物のやりとりだけでちゃんと背景がわかる。非常に整理された脚本だと思う。登場人物の名前と属性を字幕で表示するのもありがたかった。
 学生の死の真相解明は、特定の誰かが戦闘に立って行われたわけではない。ストーリー上、警察V.S.検事という構図になりそうなところだしもちろんそれはストーリーの一部ではあるのだが、全てではない。チェ検事が孤軍奮闘する一方で、死んだ学生が収容されていた刑務所の看守も何とか情報を外部に伝えようとしているし、新聞記者たちはチェ検事や学生の死亡確認をした医師からのリーク元に取材を続ける。元々は関係なかった複数の人たちの行動が、偶然に助けられなんとか繋がっていくのだ。その繋がりは細く危なっかしいが、真実へと辿りつく。もしこの人が勇気を出さなかったら、あの人が脅しに屈していたら、途中で途切れてしまったものだ。その綱渡り状態がスリリングであると同時に、なんとか真実の公表を実現し現政権に切り込もうとする人たちの奮闘には胸が熱くなった。こういう経緯を経て民主化したなら、権力への不信は常にあるだろうし、それ故に監視しなければならないという意識が強くなるんだろうと理解できる。民主主義がタフなのだ。
 非常にベタな演出(終盤の逆光の使い方とか教会の鐘の音とか、これをあえてやるのか?!と突っ込みたくなるくらい)が多発する作品なのだが、この熱量にはベタを重ねるくらいでちょうどいいのかもしれない。終盤ではベタだなーとわかっていても目頭熱くなる。
 警察は「反共」をモットーに北分子を徹底的にマークするのだが、彼らがやっていることは、パク署長が話す北の状況と妙に似通っている。彼は自分がやられたことを、学生ら相手に再現しているように見えた。最早反共という趣旨からずれている。どんなイデオロギーであれ、権力者は自身の権力に拘泥し腐っていき、権力のおこぼれにあずかろうという人は後を絶たない。こういう中で、「買われない」「飼われない」でいるのは何と難しいことか。弱みに付け込んでくる強者には本当に腹が立つし悔しくてたまらなくなる。




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2018-11-02




『アントマン&ワスプ』

 元泥棒でバツイチのスコット・ラング(ポール・ラッド)は、2年前にアントマンとしてアベンジャーズの闘いに参加したことがソコヴィア条約に抵触し、FBIの監視下で自宅軟禁の生活を送っていた。軟禁解除まであと3日となり、娘や元妻と喜んでいたところ、アントマンのスーツの発明者であるハンク・ピム博士(マイケル・ダグラス)と博士の娘ホープ・ヴァン・ダイン(エバンジェリン・リリー)が現れる。量子世界に行ったままの博士の妻、ジャネット・ヴァン・ダイン博士(ミシェル・ファイファー)を取り戻す為スコットの協力が必要だと言うのだ。実験に挑む彼らの前に、物体をすり抜ける謎の存在ゴーストが現れる。監督はペイドン・リード。
 『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』にアントマンが出ていなかったけどその間どうしていたの?という疑問にちゃんと答えてくれるし、今後のアベンジャーズ関連作にもアントマン絡んできそうだな!ということも察せられる。前作はマーヴェル映画の中では独立度が高くて単品でも楽しめたけど、本作はもうちょっと一連の流れにくみこまれている部分が大きい印象。そのせいか、タイトにまとまっていた前作と比べるとちょっと間延びしてテンポも悪い気がした(クライマックス近くでちょっと寝てしまった・・・)。この展開に必然性はあるのかな?この件必要なのかな?と気になりどうも座りがわるい。マーベルユニバースの弊害をちょっと感じる。自在に動き回るアントマンとワスプのアクションや、ビルを「運搬」する方法やミニカーでの移動など、一つ一つのシークエンスは楽しいのだが、全体の印象が散漫としている。
 本シリーズの最大の魅力、持ち味は、主人公であるスコット・ラング=アントマンの人としての「普通」なまともさ、優しさにあるだろう。冒頭、娘とラングが自作のアトラクションで遊ぶ姿には多幸感あふれている。こんな父親だったら楽しいだろうな(夫としてはちょっと頼りない所はあるし、子供が育ってきたらまた違うんだろうけど・・・)。元妻とそのパートナーとの関係もまずまず円満な様子もいい。スコットも元妻も、別れても娘にとってパパはパパだしママはママだという姿勢が一貫しているところが、いい両親なんだなと思える。マーベル映画に登場する父親、ないしは父親になろうとしている人の中ではもっとも成功している人なのでは。人が良くてほだされやすい故にトラブルに巻き込まれたりドジが多かったりもするが、愛すべき大人という感じ。
 対して、ピム博士の人徳のなさよ。前作でも今作でも元同僚とこじれまくり!もうちょっと対人態度考えていれば、前作と本作で起きる問題の半分くらいは生じていないのでは・・・。他人への共感とか思いやりがあんまりない人なのだということが、スコットの振る舞いと比べると際立つ。彼と相思相愛でいられ続けるジャネットの人間力の高さに脱帽しそう(ジャネットが更に強烈な性格という可能性もあるが)。
 今回もアリたちが活躍するが、リアルだけどグロテスクではなくキュートに見える、ギリギリのラインの演技で、芸が細かい!なお、例によってエンドロールは最後までどうぞ。


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