東大卒で大手銀行に就職したものの、いつしか出世コースから外れ、関係会社に出向したまま定年退職を迎えた田代壮介(舘ひろし)。美容師として働いている妻・千草(黒木瞳)が多忙にしているのを横目で見つつ、自分は「終わった人」になったと落ち込み、毎日暇を持て余していた。しかし青年実業家・鈴木(今井翼)やカルチャーセンターの職員・浜田(広末涼子)らとの出会いで、壮介の人生は再び動き出すように思えたが。原作は内館牧子の小説。監督は中田秀夫。
すごく額面通りの演出とでも言えばいいのか、多分原作小説の文字に書かれたことをそのまま、かつ記号的に映像に置き換えているんじゃないかなという気がした。特に壮介の浜田に対する恋心とやる気(笑)の演出は、今時それはないよな!コメディ演出としてもスベっており、真面目すぎるのか、野暮ったいのか・・・。分かりやすいと言えば分かりやすいのだが、見ていて気恥ずかしいのは何とかしてほしい。ちゃんと真面目に映画を作っているということではあるし、手堅い作品ではあるのだが。
前半は、「定年後やったらダメなこと事例」のようで、ある意味大変教育的。数年後に定年退職を控えてている方は、教材として見てみるのもいいかもしれない。定年退職したら夫婦で旅行に行きたいなーなんて話は実際によくあるが、既に妻には妻の生活と人付き合いがあって、夫と一緒に旅行する暇もないし気分も乗らない。壮介に旅行に誘われたり車で迎えに来られたりしてうっすら迷惑そうな千草、対して「仲の良い熟年夫婦」のつもりでご満悦な壮介のすれ違いはイタい。壮介、早く気付いて!と言いたくなる。定年後に夫婦で円満に生活するには、それまでの積み重ねが必要なのだ。積み重ねが必要ということがわからないのではなく、自分が積み重ねていないことに気付かないままの人が多いんだろうけど。
千草との関係が既にすれ違っていることだけでなく、壮介は色々なことに気付かない。浜田との関係にしろ、自分の仕事能力の度合いにしろ。彼がちょっとずつ「今」の自分とその周囲のことについて気付いていく話でもある。とは言え、定年退職イコール「終わった人」って、世界が狭すぎる気がする。そんなに仕事が好きですか。他に社会との接点はないのか。そもそも社会との接点がそんなにないとダメなのか。このへんの感覚はやっぱりわからないなー。