3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。

2018年04月

『声優 声の職人』

森川智之著
 1987年のデビュー以降、声優として第一線で活躍し続け、アニメの他に洋画吹替えの実績も多い著者が語る自身のお仕事歴と声優という職業。
 巻末の著者出演作一覧が圧巻のタイトル数。著作というより、聞き取りを文字起こししたような、敷居の低い読みやすさ。近年、人気声優による新書が複数リリースされているが、まさか岩波新書から出るとは・・・。内容は声優という職業に多少興味がある人にとっては特に新鮮味はないのだろうが、最近の業界傾向が垣間見える所、そして事務所社長でもある著者が考えるマネージメントの役割等に言及している所は面白い。最近の若手声優は声質、演技の方向性がわりと均一だなーという印象だったが、同業ベテランから見てもそうなんだな・・・。また洋画吹替え仕事が多い、何と言ってもトム・クルーズ声優である著者ならではのエピソードも。声優志望者がまず心がけることとして、「日本語をきちんと読み・喋れること」を挙げているのは盲点だった。普通のことすぎると思っていたけど、文章を正しく読む(文字通りの読む行為でもあり、文脈を理解する行為でもある)・全部の音をむらなく発声するのが必須だと言う。国語の勉強をちゃんとしろ!というとても基本的なアドバイスがあった。
 そして帝王森川といえばBLのお仕事だが、BL関連の章に掲載された写真に対する編集者註が他の章と比べて妙に饒舌、かつBLCDは編集者私物とわざわざ但し書きがあり、えっ岩波・・・ってなった。

声優 声の職人 (岩波新書)
森川 智之
岩波書店
2018-04-21


声優魂 (星海社新書)
大塚 明夫
講談社
2015-03-26

『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』

 学校で居残りをさせられていた高校生スペンサー(アレックス・ウルフ)、フリッジ(サーダリウス・ブレイン)、ベサニー(マディソン・アイスマン)、マーサ(モーガン・ターナー)は、ジュマンジというソフトが付いた古いTVゲーム機を見つける。さっそく遊び始めるが、TVゲームの中に吸い込まれ、各自選択したキャラクターの姿になっていた。スペンサーたちはブレインストーン博士(ドゥエイン・ジョンソン)、動物学者のフィンバー(ケビン・ハート)、地理学者のオベロン教授(ジャック・ブラック)、格闘技の達人ルビー(カレン・ギラン)となって、現実世界に戻る為ゲームクリアに挑む。監督はジェイク・カスダン。
 1995年に製作された『ジュマンジ』の続編だが、まさか今になって続編を見ることになるとは・・・。前作はそんなに面白いと思わなかったのだが、本作は「アバター」役の俳優たちの演技の達者さもあり、なかなか楽しかった。とにかく気軽にさくっと見られて、気分よく見終われる所がいい。中身はナードで言動がビビリなジョンソンや、見た目はぽっちゃりおじさんなのに言動はイケてる女子なブラックはとてもよかった。特にブラックは、彼が演じることでベサニー本来の人の良さがよりにじみ出ており、キャラクター造形が成功しているように思う。
 ゲーム世界内の設定は「ゲーム」としての厳密さがゆるく、どちらかというとディティールが「ゲームっぽい」という程度なのだが、高校生たちの不調和音チームものとして楽しかった。(言うまでもなく『ブレックファスト・クラブ』という名作があるが)アメリカ人は補習・居残りものという映画ジャンルが好きなのだろうか。最近だと『パワーレンジャー』も補習から始まっていたし。自分とは全く別ジャンルの人と出会う機会として手っ取り早い設定ではある。
 本作では自分とは別ジャンルの人と一緒に行動するだけでなく、自分自身のアバター(ゲーム上でのキャラクター)が本来の自分とは全く違う姿・能力を持つので、自分もまた他者になっているとも言える。他者を体験することで、他人の立場を想像できるようになっていくのだ。同時に、見た目や能力が変わっても本来の自分の資質は変わらないということと、見た目に引っ張られて内面も変わることがあるという部分の兼ね合いも丁度よく提示されているように思う。ブレインストーンが発揮する勇気は、元々スペンサーの中にあったものなのだろう。
 ゲームの中の体験が現実にもちゃんとフィードバックされるラストがいい。特にベサニーがある人物と会った時の双方の対応にはちょっとほろりとさせられる。そしてある人物のTシャツの趣味が一貫しているところにほっとしましたね!

ジュマンジ [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
ロビン・ウィリアムズ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2015-12-25


ザスーラ [DVD]
ジョシュ・ハッチャーソン
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2006-04-16

『女は二度決断する』

 ハンブルグでトルコ移民の夫ヌーリ(ヌーマン・アチャル)と幼い息子と暮らすカティヤ(ダイアン・クルーガー)。しかし爆発事件によりヌーリと息子が死亡してしまう。事件の捜査が進み、ネオナチのドイツ人男女が容疑者として逮捕された。カティヤは正義が行われることを信じ、弁護士のダニーロ
(デニス・モシット)と共に裁判に臨むが。監督はファティ・アキン。
 題名に「二度決断する」とあるが、あれかこれか選んで決断するというよりも、この人にはもうこの道しか残されておらず、その道に準じる決断をするという、選択肢のないものに思えた。周囲から見ればそうではなくても、当事者にとっては他の方法が考えられない。これがとても辛い。
 録画した映像の中で、あるいはカティヤの記憶の中で、家族の楽しげな姿が何度も再現される。また、事件に遭う前のヌーリと息子とカティヤとの関係が、短い時間の中でも生き生きと感じられる。更に、事件後の裁判では、ただでさえ辛い中、ヌーリの犯歴を持ちだされたり、カティヤ自身の薬物使用歴を持ちだされ証言能力を疑問視されたりと、被害者のはずなのに人格を貶められるようなことをされる。カティヤが「決断」に至るまでのパートが結構長いのだが、その長さと密度から、彼女が心の平穏を得るには「決断」するしかなかったのだという結論に至るのだ。
 裁判中のカティヤと舅姑、自分の母とその恋人、また友人とのやりとりには緊張感があり、悲しみを癒しあうという感じではない。カティヤの煙草を吸うペースが速くなり、友人の赤ん坊に対して微妙な表情を見せる所など、細かい所から彼女の憔悴と苦しみが窺える。彼女の苦しみは、この苦しみを共有できる人がいないという所にもある。親族や夫と懇意であった弁護士ももちろん悲しんでいるのだが、カティヤが抱えるものとはやはり違うのだ。周囲に支えられても一人きりであるという、孤独の深さが印象に残る。

そして、私たちは愛に帰る [DVD]
バーキ・ダヴラク
ポニーキャニオン
2009-09-16


消えた声が、その名を呼ぶ [DVD]
タハール・ラヒム
Happinet(SB)(D)
2016-07-02

『タクシー運転手 約束は海を越えて』

 1980年5月の韓国。民主化を求める大規模な民衆デモが起こり、光州では軍が戒厳令をしき、報道も規制されていた。ドイツ人ジャーナリストのマルゲン・ヒンツペーター(トーマス・クレッチマン)は取材の為光州へ向かう。彼を送迎することになったタクシー運転手キム・マンソプ(ソン・ガンホ)は報酬欲しさに機転を利かせて検問を突破。何とか光州市街へ辿りつくが。監督はチャン・フン。
 近年、光州事件(と当時の時代背景)を題材にした韓国の文学、映画等が目につくようになったが、映画や小説の題材としてがっぷり取り組むことができるくらいに時間がたったということなのだろうが。何にせよ、自国の負の歴史を再検証し、かつエンターテイメント作品に落とし込める所に韓国映画のタフさ、成熟度を見た感がある。本作、本国でも結構な動員数だったそうなので、映画を見る層の厚さとリテラシーがそもそも日本と違う気がする・・・。
 戒厳令下の光州が舞台で、非常にシリアスな背景なのだが、人情ドラマとして、活劇として、まさかのカーアクション映画として面白かった。もうちょっと短くてもいいなとは思ったのだが(マンソプの動線設定に無駄が多いように思う)、サービス精神旺盛なエンターテイメントだと思う。史実(ヒンツペーターは実在の記者)を元にしているが、絶対にここはフィクションだ!という部分がクライマックスにあり、その絶対にフィクションな部分が本作の核になっているように思った。そこでやっていることは映画としてのフィクションなのだが、彼らの気持ちは当時実際にいた市井の人々の気持ちと同じことなのではないだろうか。
 マンソプは政治には興味がなく、光州のデモについても、学生ならデモなんてやらずに勉強しないと親不孝だと言う(そもそも報道規制がされており電話も遮断されていて光州の実情が外部にはわからないのだが)。「韓国は世界一住みやすい国だ」と言う彼が光州で見たものは、その「世界一住みやすい国」が市民に何を強いているのかという現実だった。どこかの変わった人達の反乱ではなく、自分と同じように普通に生きてきた人が、これはおかしいと声を上げていたのだ。一刻も早くソウルに戻りたがっていたマンソプだが、光州の出来事が彼の中で他人事ではなくなっていく。この他人事ではない感覚、映画を見ている側にとっても同じなのではないかと思うし、そこを狙って作られた作品だと思う。



光州5・18 スタンダード・エディション [DVD]
イ・ジュンギ
角川エンタテインメント
2008-12-05

『レディ・プレイヤー1』

 貧富の格差が拡大した2045年。人々はVR世界「OASIS(オアシス)」の中で理想の人生を楽しもうとしていた。オアシスの開発者ジェームズ・ハリデー(マーク・リアランス)は死去の際、オアシス内に3つの謎を隠した、解明した者に莫大な資産とオアシス運営権を譲渡するとメッセージを残した。17歳の少年ウェイド(タイ・シェリダン)も謎解きに参加し一つ目の謎を解くことに成功、一躍オアシス内の有名人になる。しかしハリデーの遺産を狙う巨大企業IOIが彼に近づいていた。原作はアーネスト・クラインの小説『ゲームウォーズ』、監督はスティーブン・スピルバーグ。
 2045年という未来設定なのに、なぜか80年代サブカルチャーのてんこ盛りで色々突っ込みたくなる。予告編からしてヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」大フィーチャー(本編でも使用されている)だし世界設定といい、デザインといい、2010年代に想像した未来ではなく、1980年代に想像した未来という感じで、これを90年代以降に生まれた世代はどう見るんだろうと不思議だった。とは言え、あの作品のあのキャラクター、あの小道具等が次々と登場するのは楽しい。日本からの出演も相当数あり、これはぐっと来てしまうであろうというショット多々。ラスボス的存在登場前、客席に「もしやこれは・・・!」的緊張感が走り、登場すると「やっぱりねー!」と場内温度が高くなった気がした。メインテーマまで使っているなんて・・・。
 ストーリーやVR世界の設定には特に目新しさはなく、ビジュアルの賑やかさ、情報量のみで楽しめてしまう。ただ、VRの世界に耽溺せず現実に帰れというのではなく、VR、つまりフィクションが豊かである為には現実世界の豊かさが必要であり、現実が豊かである為にはVR・フィクションも豊かでなくてはならない、双方が呼応し合っているのだというテーマは、フィクションとエンターテイメントの世界で一時代を築いた(まだ築き続けているとも言える)スピルバーグらしい。VRに対しても現実に対してもポジティブだ。

ゲームウォーズ(上) (SB文庫)
アーネスト・クライン
SBクリエイティブ
2014-05-17


アヴァロン [Blu-ray]
マウゴジャータ・フォレムニャック
バンダイビジュアル
2008-07-25

『喪失のブルース』

シーナ・カマル著、森嶋マリ訳
 バンクーバーにある探偵事務所の助手として、人探しを専門にするノラ。かつてはアルコール依存症に苦しみ、今も一見ホームレスのような暮らしをしている。ある日、ノラは裕福な夫婦から、失踪した15歳の娘を探してほしいと依頼される。その娘は、ノラがかつて産み、養子に出した子供だった。
 探偵事務所が入居しているビルの地下にこっそり間借りし、相棒の雌犬ウィスパー以外とは親密な関係を持たないノラ。非常に鋭い観察力で嘘を見抜くが、そのため自分が嘘をつくことにも強い抵抗がある。ストーリー展開がちょっと右往左往する(一盛り多くないかな?という気がする)のだが、彼女の独自のルールに基づいた行動に引き付けられた。ノラは、娘の存在を知らされ自身の過去を掘り起こさざるをえなくなっていく。封印した過去と再び向き合うというパターンのミステリ作品は多々あるが、本作はノラが過去から逃れようとしても逃れらない様がひしひしと苦しそう。過去が襲ってくるというのはこういうことか。苦しいから調査にも積極的ではないのだが、やがて後戻りできない領域に踏み込んでいく。彼女を突き動かすのは娘への愛とは少し違うだろう(責任感ではあるだろう)。過去への怒りや憎しみを振り切る為、自分の人生を再び掴む為のものに思えた。

喪失のブルース (ハーパーBOOKS)
シーナ カマル
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2017-10-17


探偵は壊れた街で (創元推理文庫)
サラ・グラン
東京創元社
2015-04-13

『回避性愛着障害 絆が希薄な人たち』

岡田尊司著
 人間関係、親密さや信頼の度合いは人によって異なる。その根底にあるのが愛着スタイルの違いと考えられている。近年、人間関係の希薄さを指向する人が増加しているが、その典型は回避性パーソナリティと呼ばれるもので、これも愛着スタイルの一つのケース。愛着スタイルにはどのような分類があり、個人の性格・行動にどのような影響を及ぼすのか、愛着障害による問題にどのように対応するのか解説する。
 愛着スタイルは幼少時の母親との関係で形成されるというのが定説で、母子関係に適切な密着が保たれないと、成長過程で他人との深い関係を避ける傾向、新しいものへの挑戦等を避ける傾向が出てくるとのこと。愛着スタイルの差異、パートナーとの愛着スタイルとの相性により補完できるケースがあるというのは、対人上の問題が対人の中で解消されていくケースとして面白いなと思った。
 ただ、母子密着の必要を強調しすぎな気がした。その重要さは事実としてあるのだが、現代社会でそれを要求するのは酷だと思う。逆に母親のメンタルに問題出てきそうだし・・・。また、近代以前は母子の密着期間がもっと長かったという指摘については、本当にそうかな?と。確かに同じ場にいる時間は長かっただろうけど、母親は母親で家事や農作業に奔走していたんじゃないの?と。著者は近代以前に回帰しろとか母親は就業せず育児に専念すべきと言っているわけではないが、愛着障害の原因を母子関係に帰結させすぎると、母親に対する不要なプレッシャーになりそう。そもそも、人間てそんなに情愛豊かな生物なんだろうかという疑問もある。元々絆指向が希薄な人は一定数いて、これまで集団生活の中で生存出来ず淘汰されていったのが生存出来るようになったという面もあるんじゃないかなー。




『心と体と』

 ブタペスト郊外の食肉処理所で管理職として働くエンドレ(ゲーザ・モルチャーニ)。ある日、代理職員として若い女性マーリア(アレクサンドラ・ボルベーイ)が赴任してきた。対人関係が苦手で周囲から浮いている彼女を、エンドレは何かと気に掛ける。ふとしたことから、2人は自分が鹿になり森を散策しているという同じ夢を見ていたことが分かり、急接近していく。監督はエニェディ・イルディコー。2017年、第67回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作。
 本作がベルリンで金熊賞を獲ったというのは少々意外だった。あまり賞レースに絡んでこなさそうな雰囲気なのだ。こじんまりとしており、プライベートな雰囲気。夢を巡るストーリーだが、2人が起きているシーンもどこか夢のようでもある。映像がとても美しかった。食肉処理所が舞台なのでそのものずばり屠畜としての血肉の映像が出てくるのだが、あまり生々しくない。
 エンドレもマーリアも、自身の心と体の間に距離感があり、思いのままには振舞えない。マーリアのコミュニケーション下手さ、振る舞いのぎこちなさは見た通りで、他者に対する警戒心からも、周囲からなかなか理解されなずに生きてきたのだろうことが見て取れる。一方、エンドレは一見人当たりが良くそつなく見えるが、片手が不自由で動かない。マーリアとはまた違った形で、彼も心に体が沿っていない部分があるのだ。不自由さ・ぎこちなさを補完するために2人の夢があるように思えた。
 マーリアとエンドレは同じ夢をきっかけに、目が覚めている状態でも交流するようになる。しかし、夢の中では心と体は一致しているが、現実では思うようにはいかず、2人とも相手への関わり方を掴みあぐねる。それでも、自分が他人と何かを共有できると知ったマーリアの高揚感にははっとさせられた。彼女の率直すぎるアプローチは奇異の目で見られるのだが、そういう行動に出てしまう気持ちもわかるのだ。
 マーリアが心と体をコントロールしようとする様、双方を沿わせようと試行錯誤する様はユーモラスにも見え、実際、上映中にも客席から笑い声が生じていた。でも個人的には彼女の真摯さ、生真面目さが突き刺さり笑うどころではなかった。マーリアにしてみたら、笑われたらすごく傷つくだろうなと思ってしまう。エンドレは彼女を笑わないしバカにしない。本作を見る前、若い女性とかなり年上の男性という組み合わせに(悪い意味での)ひっかかりを感じるかと少々心配だったのだが、平気だった。エンドレがマーリアと対等に接していることに加え、年齢が2人の関係におけるアドバンテージになっていないからだろう。

夢違 (角川文庫)
恩田 陸
KADOKAWA/角川書店
2014-02-25


リザとキツネと恋する死者たち DVD
モーニカ・バルシャイ
オデッサ・エンタテインメント
2016-06-02



『さよなら、僕のマンハッタン』

 大学を卒業したものの進路が定まらないトーマス(カラム・ターナー)のアパートの隣室に、W・F・ジェラルドと名乗る中年男性(ジェフ・ブリッジス)が越してきた。トーマスはどこか風変りなジェラルドと親しくなり、人生のアドバイスも受けていく。ある日、トーマスは父イーサン(ピアース・ブロスナン)がフリー編集者のジョハンナ(ケイト・ベッキンセール)と浮気していると知ってしまう。トーマスはジェラルドに背中を押されてジョハンナに近づく。監督はマーク・ウェブ。
 冒頭、ガールフレンドのミミ(カーシー・クレモンズ)に海外留学すると告げられた時のトーマスの反応に、こいつしょうもないな!と思ってしまった。自分のことばっかりで、ミミがどう思っているのかは後回しなのかと。彼女との関係を曖昧なままにしていたり、父親に浮気をやめろと切り出せなかったり、ジョハンナにも父と別れろと言いきれなかったりと、彼の行動は煮え切らない。そんなのさっさと言っちゃえばいいのに!と少々呆れるが、彼にとっては扱いあぐねる問題ばかりなのだろう。彼が抱える問題をどうにかしようとすると、他人の領域に踏み込むことになる。その領域に踏み込む勇気が彼にはまだない。いかにも若造なのだ。
 そんな若造が大きく成長する、自主的変化するというわけでもなく、周囲の変化に巻き込まれていく、流されていくことにより人生が変化していく。人生ってそんなものじゃないかな、という気分がする。本作、思いがすれ違う人たちがしばしば登場するが、そこはすれ違ったまま、流されていく。でもそれによって個々の人生がダメになるかというと、そんなことないだろう。
 トーマスの青春というよりも、トーマスと父親の物語としてとてもよかった。イーサンは一見、若い美女と浮気するチャラい中年。しかし、彼は大きな勇気をもって今の生き方を選んだとわかってくる。これはブロスナンが演じているというのが一つのフェイクになっていて、いいキャスティングだった。問答無用でチャラさを感じさせるブロスナンもすごいのだが。ここぞという時に逃げてしまう人、踏みとどまれる人がいるが、トーマスは今まで逃げてしまう人だったんだろう。もちろん逃げていい時もある。どこで逃げないか、という所にその人の人となりが見えるのかもしれない。
 トーマスとジョハンナの顛末は出来すぎに見えるのだが、本作が誰によって、どのような形で語られているか考えると、そのファンタジー性(というかムシの良さ)も頷ける。現代が舞台だがスマホが殆ど出てこない所が面白かった。サイモン&ガーファンクルやルー・リード、ボブ・ディランの音楽と相まって60年代、70年代的な雰囲気を感じる。これも語り手の属性故か。なお選曲がとてもいい。マーク・ウェブ監督はどの作品でも音楽の趣味がいいな。

gifted/ギフテッド 2枚組ブルーレイ&DVD [Blu-ray]
クリス・エヴァンス
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2018-06-02


青白い炎 (岩波文庫)
ナボコフ
岩波書店
2014-06-18




『パシフィック・リム アップライジング』

 人類が操縦する巨大ロボット“イェーガー”とKAIJUとの戦いが終結してから10年。ジェイク・ペントコスト(ジョン・ボイエガ)は英雄になった父の影から逃れるように、廃棄されたイェーガーのパーツを売りさばいて日銭を稼いでいた。しかし再び世界に脅威が迫る。ジェイクはかつての同僚ネイト・ランバート(スコット・イーストウッド)やイェーガーを自作する少女ジュールス(アドリア・アルホナ)ら若いパイロットたちと共にKAIJUに挑む。監督はスティーブン・S・デナイト。前作の監督ギレルモ・デル・トロは製作に参加。
 日本で海外の映画が公開される際、日本版ポスターが得てしてダサくなるというのは映画ファンにはおなじみだろう。しかし本作はポスターの方が映画本体よりかっこいいという珍しいパターンだった。ポスターの方が、ロボットに対するフェティッシュさが色濃い。映画の方は、意外なことに前作よりもロボット、怪獣に対するフェティッシュは薄れているように思えた。ロボットや怪獣に対する愛着は感じられるのだが、視線がもうちょっと俯瞰的というか、距離を保っているように見える。自分がこうやりたい!といよりも、見る側にとってはこういう見せ方だと見やすいかな、という方向に意識がいっているように思う。
 イェーガーの闘いがほぼ日中のシーンになっているあたり、イェーガー、KAIJUのビジュアルクオリティーには結構な自信を持っていると思われるのだが(前作では夜間や水中が多く、それとなく粗隠しをしている)妙にあっさりとしているのだ。見る側にとっての間口は広くなっているが、熱量があまり伝わってこないのでコアなファンが離れそうな気がする。
 本作、熱量が下がっている(ようにコア層にとっては見える)ことに加え、ストーリーがかなり大雑把なのが厳しい。前作もストーリーの大雑把さはどっこいどっこいなのだが、妙な熱量でねじ伏せていた。今回は展開の強引さばかりに目がいってしまった。個々のキャラクターがもっと立ちそうなところも勿体ない。ィエーガーの操縦システム(2人のパイロットが同調して操縦する)って「この人にはこういう背景がある、こういう人となりをしている」という部分を見せやすい小道具だと思うんだけど、1作目ほど機能していない。イェーガーたちが戦隊シリーズばりに並んで見得を切るシーンとか、ぐっとくるんだけどなぁ。

パシフィック・リム [Blu-ray]
チャーリー・ハナム
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
2014-07-09


劇場版 パワーレンジャー [Blu-ray]
デイカー・モンゴメリー
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
2018-02-07

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