3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

2017年12月

『2017年ベスト本』

 映画の観賞本数が徐々に減るのと同時に、読書のスピードも下がってきた。これが加齢ということか。しかし、古典文学の面白さがちょっとづつわかってきたような気がする。そりゃあ生き残っているだけのことはあるよな!ベストには殆ど入れなかったけど(笑)、すこしずつ読み続けたい。なお以下の順位は限りなく順不同。

1.『夜の果て、東へ』ビル・ビバリー著、熊谷千寿訳
ノワール的、ビルドゥクスロマン的でありロードノベルでもある。デビュー作でこのクオリティか!という衝撃。とても好きなタイプの小説。

2.『フロスト始末(上、下)』R・D・ウイングフィールド著、芹澤惠訳
著者の死亡によりシリーズ最後の作品になってしまった。寂しい。

3.『その犬の歩むところ』ボストン・テラン著、田口俊樹訳
犬を通して描くアメリカの神話とでも言えばいいのか。一歩間違うと地獄めぐりになりそうなところ、ちゃんと希望を描くのが良い。

4.『シャム双子の秘密』エラリー・クイーン著、越前敏弥・北田恵理子訳
私、本作でクイーンが何を意図していたのかがやっとわかりましたよ!そしてなぜ名作本格ミステリなのか理解した!新訳ってやっぱり必要ねー。

5.『その雪と血を』ジョー・ネスボ著、鈴木恵訳
センチメンタルなノワール。夢なんて見るものじゃないのかもしれない。

6.『リラとわたし ナポリの物語Ⅰ』エレナ・フェッランテ著、飯田亮介訳
同性に対する憧れ、友情、そして羨望ともしかすると憎しみ。続編が楽しみ。

7.『コードネーム・ヴェリティ』エリザベス・ウェイン著、吉澤康子訳
これもまた女性同士の絆を描く作品だが、時代に翻弄される人たちのきらめきと必死さが胸を打つ。最後の「キスしてくれ、ハーディ」に泣く。

8.『羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季』ジェイムズ・リー・バンクス著、濱野大道訳
ある職業の仕事のやり方や暮らし方を記したノンフィクションであると同時に、著者個人の物語になっている点がとても面白かった。

9.『灯台へ』ヴァージニア・ウルフ著、御輿哲也訳
なるほどウルフは面白い!時間の圧縮・膨張のふり幅と、意外とこんな人現代でもいそうだという人物造形の細やかさ、女性たちへのまなざしに引き込まれた。

10.『おばあさん』ボジェナ・ニェムツォヴォー著、栗栖継訳
本作、私の母が子供頃に読んで好きだった作品をもう一度読みたいというので、題名も著者名もわからないままおぼろげな情報をたどり、ようやく入手に至ったという1冊。なので、作品の内容というよりも謎の作品の正体がやっとわかったぞー!という達成感のインパクト(笑)。こういう事情でもないと存在にすら気付かないままだった作品だけど、自然描写が美しく、意外と現代的な所もあり面白かった。



フロスト始末〈上〉 (創元推理文庫)
R・D・ウィングフィールド
東京創元社
2017-06-30


フロスト始末〈下〉 (創元推理文庫)
R・D・ウィングフィールド
東京創元社
2017-06-30


その犬の歩むところ (文春文庫)
ボストン テラン
文藝春秋
2017-06-08


シャム双子の秘密 (角川文庫)
エラリー・クイーン
KADOKAWA/角川書店
2014-10-25






コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)
エリザベス・ウェイン
東京創元社
2017-03-18


羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季
ジェイムズ リーバンクス
早川書房
2017-01-24


灯台へ (岩波文庫)
ヴァージニア ウルフ
岩波書店
2004-12-16


おばあさん (岩波文庫 赤 772-1)
ニェムツォヴァー
岩波書店
1971-09-16





『2017年ベスト映画』

 今年は世の中の出来事にしろプライベートにしろ、色々と辛くげんなりすることが多かったのだが、そんな中でもやっぱり映画は面白いし、なんだかんだでいい映画がまだまだあるなと思った1年だった。映画は時代を写す鏡だと実感した作品も多かった。

1.『パターソン』
どうということない毎日の連続に見えても、1日1日はそれぞれ違い、違った美しさをその都度見せる。ジム・ジャームッシュ監督による人生賛歌、そして表現者としての意思表明と言ってもいいのでは

2.『わたしは、ダニエル・ブレイク』
ケン・ローチが怒ってる!わたし(たち)も、ダニエル・ブレイクなのだ。正に今見るべき作品。フードバンクのシーンが本当に辛くてなぁ・・・

3.『ムーンライト』
1人の少年の人生の変遷。ある人物の振る舞いが、他人への思いやり、優しさとはこういうものかと胸に迫ってきた。なかなかこういうふうには出来ないよ。

4.『ラビング 愛という名のふたり』
本作もまた思いやり、そして愛のあり方と人間の尊厳を守る為の闘いの物語。やはり、なかなかこういうふうには出来ない境地。染みる。

5.『立ち去った女』
とにかくモノクロのビジュアルがかっこいい。228分という長尺が苦に感じられない強度。フィリピン映画界すごいことになってるんだな。

6.『沈黙 サイレンス』
信仰とは何か問う大変な力作。マーティン・スコセッシ監督作品の中では一番心揺さぶられた(私はスコセッシ監督作基本的に苦手なんで・・・)。俳優が皆熱演でキャスティングの妙もあり。浅野忠信が良かった。

7.『スパイダーマン ホームカミング』
今年No.1の青春映画、そして「今」学園ものをやるとこうなるという良い一例だったと思う。「皆の隣人」としての新たなスパイダーマンの今後の活躍に期待。

8.『20センチュリー・ウーマン』
世代の違う3人の女性、それぞれの生きる姿がいとおしい。時代の間を感じさせる。

9.『夜は短し歩けよ乙女』
アニメーションという表現方法のチャーミングさを目いっぱい詰め込んだ快作。

10.『ありがとう、トニ・エルドマン』
まさか爆笑するようなシーンがある作品だと思わなかったので、ほんとびっくりしましたよ・・・

パターソン [Blu-ray]
アダム・ドライバー
バップ
2018-03-07


わたしは、ダニエル・ブレイク [DVD]
デイヴ・ジョーンズ
バップ
2017-09-06


ムーンライト スタンダード・エディション [Blu-ray]
トレヴァンテ・ローズ
TCエンタテインメント
2017-09-15


ラビング 愛という名前のふたり [DVD]
ジョエル・エドガートン
ギャガ
2017-09-15


沈黙-サイレンス- [Blu-ray]
アンドリュー・ガーフィールド
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2017-08-02




20 センチュリー・ウーマン [DVD]
アネット・ベニング
バップ
2017-12-06




ありがとう、トニ・エルドマン [DVD]
ペーター・ジモニシェック
Happinet
2018-01-06


『機龍警察 狼眼殺手』

月村了衛著
 新たな通信事業として、経産省と中国のフォン・コーポレーションが進める日中合同プロジェクト「クイアコン」に大きな疑惑が生じていた。特捜部は捜査一課、二課と合同で捜査に着手するが、クイアコン関係者が次々と殺されていく。予想をはるかに上回る事態に、沖津特捜部長は大きな決断を下す。
 異色の部署である特捜部は一課、二課からは白眼視され、警察内部の縄張り争いだけでなく検察や国税局との折衝も迫られる。向かうところ敵だらけという状況なのだが、本作では真の「敵」の巨大さ、チートさが徐々に姿を見せ始める。もう大変だよ!警察組織だけでなく各省庁「組織」というものの嫌な部分を見続けるようなシリーズになってきたなぁ。厚顔無恥な奴ばかりが出世し、いい思いをする世界なんておかしいだろう!という末端の叫びが響く。今回、特捜部以外の人たちも結構動くし機龍は活躍しないので、今までになく「警官」としての矜持が見られる。
 世界が変わってしまった感じ、「上の人」がこんなに厚顔無恥だとは思わなかったよ!という感じ、現実社会と呼応していて実にげんなりとします。しかし特捜部のこの先の闘い(小説としての落としどころも)が非常に厳しそう・・・。





『勝手にふるえてろ』

 経理担当の会社員ヨシカ(松岡茉優)は、中学生の同級生イチ(北村匠海)に10年間片思いをしている。ある日、同僚の「ニ」(渡辺大知)に告白された。2人の彼氏が(1人は脳内だけど)いる!と浮き立つが、今のイチへの思いが募り、四苦八苦して同窓会を企画。念願のイチとの再会を果たすが。原作は綿矢りさ。監督・脚本は大九明子。
 本作、果たして原作はどのようなテンションの文体なのかとても気になった。映画は概ねヨシカの語り(というか妄想)なのだが、彼女がナレーションをするのではなく、脳内からあふれ出る言葉がどんどん音声化されてくる感じ。彼女が隣人や公園やバスの中で行きあわせた人と交わす会話は、彼女の脳内で繰り広げられているもの。しかし彼女の言葉が饒舌すぎて、これは果たして脳内に収まり続けているのだろうか、うっかり声に出してない?大丈夫?と気になってくる。脳内のものであれ実際に声に出した会話であれ、ヨシカの言葉であることには違いないので、段々彼女の脳内と現実がシームレスに感じられてくるのだ。えっこれ本当に言っちゃってたんだ!とびっくりしたところも。このあたりは、ヨシカが自分をコントロールできなくなってきているということだろう。どのように語るのかという演出の部分が、時に力技だが映画を見ている側へ突き抜けてくるような勢いがあり、とても面白かった。
 ヨシカは自分に自信がないようでいて妙な所のプライドが高い。ああーこういうのわかる・・・自分にもある・・・自己評価下げているようで実は据え置きにしている嫌な感じのやつね~となかなか見ていてぐさりとくる所もあった。彼女の片思いは、実在の同級生に対するものというよりも、彼女の頭の中の同級生に対するもので、ほぼ自己完結していると言ってもいい。ヨシカは再会したイチのある言葉にいたく傷つくのだが、そこにいる人を見ていなかったという意味では、彼もヨシカもどっちもどっちで、お互いにすれ違っているのだ。
 本作内の(男女間に限らず)コミュニケーションは、往々にしてすれ違いになりがち。ただ、すれ違うというのはお互い様で、すれ違ってしまったことについてそんなに相手を責めるべきではないだろう。少なくともすれ違いなんだから、あとちょっとずれていたらちゃんとぶつかったわけだし。すれ違ってもすれ違っても軌道修正しようとするニのタフさと「野蛮」さが、鬱陶しくも少々羨ましくなってくる。

勝手にふるえてろ (文春文庫)
綿矢 りさ
文藝春秋
2012-08-03



(500)日のサマー [Blu-ray]
ジョセフ・ゴードン=レヴィット
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2012-09-05


『カンフー・ヨガ』

 中国・西安市の博物館で研究に勤しむ考古学者のジャック(ジャッキー・チェン)の元を、インドの考古学者アスミタ(ディシャ・パタニ)が訪ねてくる。約1000年前にインドと中国の間で起きた戦乱の中、消えてしまった財宝を探す為、専門家であるジャックの協力を仰ぎたいというようだ。ジャックは親友の息子である財宝ハンターのジョーンズ(アーリフ・リー)と共に、中国からドバイ、インドへと財宝の謎を追って世界を巡る。監督はスタンリー・トン。なおエンドロールがすごく長いけど、おまけ映像とかはないです。
 インドと中国の合作でスター俳優を起用、明らかに大々的なロケや豪華なセットが使われているのに、妙にスケール感がなく、こじんまりと、かつ散漫とした印象。あれっもっと華やかかつお祭り騒ぎ的な映画なのかと思ったのに・・・。正直拍子抜けだった。絶えない
 ストーリーの規模の割に登場人物が多いが、これは何か大人の事情的なやつなのだろうか。ジャックのアシスタントたちとか、あんまり必要性を感じない。登場人物が多く、それぞれそれなりに動かさなくてはいけないのに話の展開はやたらと早い。早いというよりも、途中の過程を変な省略の仕方をしているように見える。本来のストーリー上の技法としての省略ではなく、単に編集段階でカットした感じ。本来はここにもう一展開あったんじゃないかなという部分や、不自然な衣装替え等が散見された。お金がかかっていそうな割に、こういう部分がやたらと大味。なんだか勿体ない。
 また、妙に動物推しな所も不思議。狼にしろ、ライオンにしろ、ハイエナにしろ、それ出す必要あります・・・?ストーリー上の必然性は殆ど感じない。動物のCGは結構手間暇かかると思うんだけど、その労力を他に回せなかったのか。そんなに動物が好きなのか。
 とは言え、ジャッキーが出てきて動き始めるだけで、とりあえずは「映画」として体面が保たれるんだからすごい。これがスターということなんだろうなぁ。インド映画要素もあるので当然群舞が盛り込まれているが、ジャッキーもちゃんと踊っていて、なんだかありがたいものを見た気分になる。そして最後の最後、ジャッキー映画のNG集の代わりのような「踊り」の多幸感にはジャッキーの人徳をかいま見た感ある。
 なお作中、ジャックはインディ・ジョーンズに準えられるが、インディよりもジャックの方がはるかに研究者としての自覚がしっかりしている。「財宝」の正体にしろ、学者にとっての宝は何なのかという視点なのだ。むしろアンチ・インディと言えるだろう。本作中の「ジョーンズ」は盗人だしな。

スキップ・トレース (特典DVD付2枚組) [Blu-ray]
ジャッキー・チェン
KADOKAWA / 角川書店
2018-01-26



『海岸の女たち』

トーヴェ・アルステルダール著、久山葉子訳
 フリージャーナリストのパトリック・コーンウェルから連絡が途絶え、10日あまりが過ぎた。妻のアリーナは、夫が自宅に郵送してきた手帖と写真を手がかりに、彼を探す為にニューヨークからパリへ飛ぶ。パトリックは海を渡ってくる不法移民問題を取材していたらしい。彼の足跡を追うアリーナは、大きな闇と対峙していく。
 アリーナは舞台美術監督で、記者の仕事とは縁がなかった。そんな彼女が手さぐりで闇の中を進んでいく。彼女の道もまた、パトリック同様に引き返せないものになっていくのだ。パリで垣間見るのは安い労働力として使い捨てにされる不法移民たちの境遇と、それを食い物にする「奴隷商人」たちの姿だ。日本でも近年同じような問題が表面化しているが、本作のそれは更に大規模なもの。アリーナの身にも危険が迫りスリリングな展開で読ませる。
 社会問題を描く意図はあるものの、アリーナ個人の事情から軸足がぶれず、読みやすい。彼女の過去に関する情報の挿入の仕方など、読者からしたらちょっと反則的ではあるのだが当人からしてみたら当たり前のことだから、こういう書き方になるよなと納得はできる。彼女が過去に培ってきた(そして封印していた)ものがどんどん前面に出てい来る物語とも言える。そして書き方と言えば、一か所あっと思った所があった。これは著者が意図的に仕組んでいるのだろうが、自分の中の自覚のない先入観や偏見があぶりだされる。

海岸の女たち (創元推理文庫)
トーヴェ・アルステルダール
東京創元社
2017-04-28


リガの犬たち (創元推理文庫)
ヘニング マンケル
東京創元社
2003-04-12



『オレの獲物はビンラディン』

 コロラド州の田舎町に暮らす中年男性ゲイリー・フォークナー(ニコラス・ケイジ)は愛国心に燃え、同時多発テロの首謀者とされるオサマ・ビンラディンの居場所をアメリカ政府がいまだ特定できないことに苛立っていた。ある日ゲイリーは、人工透析中に神からの啓示を受け、自らビンラディンを捕まえようと決意する。四苦八苦の末、ようやくパキスタンに入国するが。監督はラリー・チャールズ。2010年にビンラディン誘拐を企てた容疑でパキスタン当局に拘束されたアメリカ人の実話を元にしている。エンドロールではモデルとなったご本人の映像も流れる。
 ザ・ニコラス・ケイジ劇場とでも言いたくなる、ニコラス・ケイジの顔芸、リアクション芸のオンパレード。ドラマの作り自体は割とオーソドックスなので、ケイジの演技の奇矯さがより際立つ。とは言え、ゲイリーのモデルとなったご本人様の映像を見ると、あっ本当にこういう感じの人なんだ・・・と腑に落ちる。本作のケイジの奇矯さは、モデルに寄せて役作りした結果なのだ。実話を元にした映画の最後に「ご本人登場」する形式は、時に野暮だなと思うこともあるのだが、本作に関しては本人を見られて良かった。なるほどこういう人だからこういうキャラクターになるのね、と納得できる。
 ゲイリーは熱烈な愛国者で外国人や外国製品などもってのほか!というスタンスなのだが、いざパキスタンに行くと、あんがい周囲に馴染むしホテルの従業員とも仲良くなってしまう。後々のインタビューでもパキスタンという国、そこに暮らす人たちのことは特に悪くは言わない。やっていることは無茶苦茶なのだが、依怙地一点張りというわけではなく、意外と他人に対して寛容な所もあるのだ。ガールフレンドになる高校の同窓生マーシ(ウェンディ・マクレンドン=コービー)との関係からも、彼の人としての優しさや思いやりが窺える。ぱっと見やたらとテンション高いし大声で喋るしビンラディン捕まえに行くしなので、なぜこいつと付き合おうと思った?!マーシの趣味大丈夫?!と最初は思うのだが、マーシや彼女の養女に対しては(彼なりにではあるが)実直に力になろうとするし、支配的な態度を取らない。見ているうちに、なるほどこれなら好かれるかもなと思えてくる。
 ゲイリーはビンラディンを捕まえなくてはならない、それがアメリカを、マーシたちを守ることになると強迫観念めいた信念を持っている。しかし、その一方でこの信念は妄想だとどこかでは気付いていて、解放されたいとも思っているのではないかという一幕も見られる。ただ、彼は信念から逃れられない。使命感に目覚めてしまうと、一種の麻薬みたいなものでやめられないんじゃないかな。彼の中で内燃するものが大きすぎて、「普通」の生活では処理しきれないようにも思えた。

ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習 <完全ノーカット版> [DVD]
サシャ・バロン・コーエン
20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント
2010-06-25


ドッグ・イート・ドッグ [Blu-ray]
ニコラス・ケイジ
松竹
2017-11-03

『Mr.LONG ミスター・ロン』

 殺し屋のロン(チャン・チェン)は東京にいる台湾マフィアを殺す仕事を受けるが失敗。北関東の田舎町で身動き取れなくなった所、少年ジュン(バイ・ルンイン)に助けられる。その母で台湾人のリリー(イレブン・ヤオ)は、薬物依存症に苦しんでいた。一方で、おせっかいな地元住民たちは、あれよあれよという間にロンの住家や商売の為の屋台を世話する。監督・脚本はSABU。
 ロンは日本語がわからないのだが、住民たちが勝手にどんどん段取つけていく様に対する「何がどうしてこうなった」という表情はとてもキュート。流れ者が悪党に苦しめられる母子を救うという所は『シェーン』(ジョージ・スティーブンス監督)フォーマットだが、流れ者当人が現地の人たちの善意に翻弄され、流れ者としてのアイデンティティが危うくなる(笑)という所が愉快。ロンが所属している組織は表向きレストラン経営しており、ロンも料理が得意。水と塩で野菜煮ただけの汁物はさすがにおいしくなさそうだったが、その後登場する諸々台湾のお惣菜風料理はおいしそうだし、包丁をふるうチャン・チェンはかっこいいし、絵として料理要素が入ることで、ぐっと魅力的な作品になっている。とにかくチャン・チェンの魅力ありきな作品。ナイフを使ったアクションも、終盤の殺陣などかなり戯画的ではあるが(そもそも殺しの道具として効率悪いのでは・・・)様になっていた。
 そんなに精緻な脚本というわけではないし、ある種の「型」を踏まえたストーリーではあるが、前述の通りチャン・チェンに魅力があるし、ラストにベタ故の気分の良さがあり楽しく見た。ただ、1シーンが長すぎ、エピソード加えすぎなきらいがあり、あと30分くらい短くできそうだなぁという気もした。製作側だけが楽しい、自己満足感が滲んじゃっている。リリーの過去を見せたいのは分かるが、そこまで細かくやらんでも・・・。住民たちの田舎歌舞伎のシーンもまるっと割愛してもよさそう。見ていてちょっと苦痛だった。

うさぎドロップ [DVD]
松山ケンイチ
Happinet(SB)(D)
2012-02-02


牯嶺街少年殺人事件 [Blu-ray]
チャン・チェン
Happinet
2017-11-02



『運命と復讐』

ローレン・グロフ著、光野多惠子訳
 劇的な出会いにより一目でお互い恋に落ち、スピード結婚したロットとマチルド。売れない俳優のロットをマチルドは支え続け、やがてロットは劇作家として大成功する。2人の恋と結婚は運命、のはずだった。
 結構な長さなのだがリーダビリティが高く、一気に読んだ。本作はいわば前半戦=運命、後半戦=復讐にわかれた構成で、裏表のような関係にある。ロットは自分とマチルドの関係は運命的なものと信じており、彼女は聖女のように純真で献身的だと言う。しかしこれはあくまでロット側の意見。ロットの思い込みの強さと天然の人の良さ、愛されることに慣れている人特有のある種の無神経さが、彼のマチルド像を作り上げている。前半、マチルドは理想的な妻として家庭をきりもりし、パーティー客をもてなし、ロットを励まし続け彼とのセックスにも没頭する。しかし、その為に彼女が払った努力や犠牲には、ロットは本当には気付かないし無頓着だ。中盤、彼が女性を賛美するつもりで典型的な女性蔑視に繋がるスピーチをする。彼はマチルドを深く愛し続けるが、そういう部分は刷新されないままなのだ。ではマチルドは実際のところどういう女性なのか、というのが後半で、誰に対する「復讐」なのかも明らかになっていく。
 夫婦は所詮他人で、相手について知っている部分などごくわずかなのかもしれないと本作は迫ってくる。そして、そういう状況であっても愛は成立していると言えるのか、いや成立しているはずだというゆらぎが特に後半では前面に出てくる。言葉で具体的に嘘をつくだけでなく、真実を話さないことも嘘になるのかもしれないが、それは不誠実とはまた別のものだ。誠実だからこそ話さないということもある。相手の強さを正確に計測した結果とも言えるのだ。耐えられない事実よりは嘘や沈黙の方がいい場合もあるのでは。
 しかし本作のような設定の場合、あれこれ画策するのは大抵女性の方な気がするのはなぜだろう。




『シャーロック・ホームズの栄冠』

ロナルド・A・ノックス、アントニイ・バークリー他著、北原尚彦訳
 コナン・ドイルが生み出した、世界一有名な探偵シャーロック・ホームズ。誕生から現在に至るまで約130年間、様々な作家による新たなホームズ物語が生み出されてきた。その中からホームズ研究者でもある訳者の選出による、名品から珍品まで収録したアンソロジー。
 大御所ではA・A・ミルンやロス・マクドナルド(まだロスマクが学生だった頃の作品なんだとか。流石に他愛ないです)、アントニー・バークリーら。そしてホームズ研究家やパスティーシュ作家らの作品を収録しておりバラエティに富んでいる。作品の傾向により5部構成になっており、色々な味わいのもが楽しめる。一口にパロディ、パスティーシュと言っても、あたかもコナン・ドイルが書いたようなトーンに合わせているものもあるし、名前や舞台をもじったパロディ、全くのギャグに寄せてきたナンセンスものなど、幅が広い。とは言え、すごく面白いかというと正直そうでもないんだよな・・・。原典を読んだ記憶がかなり薄れているというのもあるし、作品が経年に耐えきれなかったというのもあるだろう。私がそこまでコアなホームズファンではないというのが一番大きいんだろうけど。第5部「異色篇」収録作品が比較的面白く感じられたのも、そういう理由なんだろう。

シャーロック・ホームズの栄冠 (創元推理文庫)
ロナルド・A・ノックス
東京創元社
2017-11-30





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