3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

2014年03月

『家族の灯り』

 小さな港町。帳簿係のジェボ(マイケル・ロンズデール)は妻ドロティア(クラウディア・カルディナーレ)と息子の妻ソフィア(レオノール・シルベイラ)と、つつましく暮らしていた。息子のジョアンは8年前に姿を消し、ドロティアはひたすらにジョアンを待ち続けていた。ある日ジョアンが突然帰宅し、一家に動揺が走る。監督はマノエル・ド・オリヴェイラ。
 ファーストショットが非常に美しく、絵画のよう。しかし夕暮れで徐々に暗くなっていくからか、どこか不穏な気配も漂う。絵画のようなきっちりとした画がその後も続き、1ショットがすごく力強く、あるべきところにあるべきものがあるという感じ。正面から固定カメラで長回しをしているシーンが多いので、出演者は大変だったと思うが、これが演劇的な緊張感を生んでいた。元々、舞台劇の戯曲を原作としているそうなので、そういうフレームのきっちりとした撮り方にしたのかもしれない。
 映像は美しく、予告編はなにやら感動的な文芸作品のようなニュアンスで作られているが、この予告編の雰囲気を信じて見に来た人は裏切られた気分になるのではないかと心配になってしまった。確かに優れた文芸作品で感動もする、が、いわゆる「いい話」に感動するのではないのだ。えっここまで冷徹な話なの?!という部分に感動、というとちょっとニュアンスが違ってしまうのかもしれないが、心揺さぶられた。
 ジェボの行動は傍から見ていると実にもどかしい。彼は妻を思うが故に、ドロティアにあることを隠しており、ソフィアにも絶対にドロティアには言うな、弱い女だから真実を知ったら耐えられないと言う。しかしその思いやりが、更にドロティアを弱くしているのではないかという気がしてならない。実際、ドロティアは(カルディナーレが演じているからかもしれないけど)そんなに弱い女には見えないのだ。また、彼は頻繁に義務という言葉を口にする。彼は義務と信じたことを全うしようとするが、その「義務」という概念は息子には通用しないだろうし、ジェボが義務を全うすることで守ろうとしている誇りも、息子は理解しないだろう。2つの世代間の断絶を感じるとともに、理解されない義務、誇りをジェボが守ろうとする姿が辛い。オリヴェイラ監督は既に100歳を越えているが、たどり着いた境地がここかと思うと、容赦ないなと思う。


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『アナと雪の女王』

 北の小国の王女、エルサ(イディナ・メンゼル)は物を凍らせる力を持って生まれた。彼女の力の暴走を心配した国王と王妃は、エルサに城の外へ出ること、他人と接することを禁じた。妹のアナ(クリステン・ベル)は姉と遊びたがるが、アナを傷つけたくないエルサは関わりを立つ。やがて国王と王妃は亡くなり、エルサが王位を継ぐことに。しかし王位継承式典動揺したエルサは、力を制御できずに山へ逃げ、王国は冬の世界になってしまう。アナは姉を連れ帰り王国を救う為に、山男のクリストフの協力を得て、氷の城へ向かう。監督はクリス・バック&ジェニファー・リー。
 2D字幕版で鑑賞。技術的には非常にクオリティ高く、雪の表現、氷の表現(冒頭、湖から氷を切り出すシーンがあるのだが、氷の透明感や質感の最限度が凄い)はここまでできるのか!と唸った。また、肌や衣服の質感のやわらかさやふわっとした感じも素晴らしい。アニメーション技術のデモンストレーションとしては、そりゃあ自信あるわと納得。
 いわゆるディズニープリンセス路線としては、ほぼ初めてだと思うが、男女の愛がメインプロットに絡んでこないという点が新鮮だった。しかし、ディズニー映画という枠はやっぱりあるんだなという物足りなさを強く感じた。エルサが一人で王国を離れることを決意し、「Let it go」を歌い上げるシーンは感動的だ。しかし、彼女はやはりディズニー映画のプリンセスであり、愛されることが決まっている存在。愛されなくとも一人で独自の道を行く、という選択肢はないみたいだ。エルサの特殊能力をモンスター的なものとせず、「そういう人だから」というところに落ち着かせたのは教育的には正しいのだが、じゃあモンスターではいけないのか?っていうことがひっかかる。エルサはアナの愛によってモンスターになることを免れたが、愛されない異端者はモンスターなのか?愛されなくとも一人正しく生きる道はないのか?と。ただ、子供が見ることを前提に作られている以上、愛されないこともありますよとは言い難いだろうなとは思うが。
 ともあれ、エルサが望んだことは妹と共に生きたいということだったということなんだろうけど、妙に小さい所に納まっちゃって勿体無いなという感じはぬぐえない。あと、アナのキャラクターがどうも自分と相性が合わず、若干イライラした。ああいう妹がいたらうっとおしいだろうなー、何で一人にしておいてくれないのよってげんなりしそうで。


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『銀の匙 Silver Spoon』

 進学中学校に通っていたものの挫折し、教師に進められるまま大蝦夷農業高校に入学した八軒勇吾(中島健人)。同級生は農家の跡取りや獣医志望ばかりなだけあって、将来の進路を見定めた彼らの姿に八軒は劣等感を隠せない。しかし、慣れない実習に四苦八苦しながらも、徐々に新しい生活に馴染んでいく。原作は荒川弘の同名小説。監督は吉田恵輔。
 吉田監督、『麦子さんと』で随分手堅く作るようになったなーと思っていたら、また上手くなっている!しかもちゃんとメジャー感があるし正しく青春映画!漫画の映画化としても相当よく出来ているので、原作ファンも安心して見られると思う。主演の中島はちゃんと「ぱっとしない」感じを滲ませていたし(本当はキラッキラしてるんだろうけど・・・)、御影役の広瀬アリスはちゃんとばんえい競馬のそりを乗りこなしているくらいだし、若手俳優が健闘している。モブの生徒達の顔つきが本当に普通の高校生っぽくて、芸能人オーラを出していないところもよかった。御影の父親役の竹内力や、叔父役の哀川翔が場違いに見えたくらい。
 漫画原作映画としての成功の要因は、キャラクターの再現度というよりも、原作作品の主旨がどこにあるのか理解し、それを再構築できているかどうかというところにあると思う。本作はこの部分が非常によく考えられていると思う。「silver spoon(銀の匙)」という言葉を使うタイミングが、そこだよ!という感じで、映画タイトルの出し方にもぐっときた。今までの諸々があるからこそ出てくる言葉なんだと。
 また、実習や農作業の一つ一つがよりくっきりと見えてくる、その場の雰囲気や物の質量感が伝わりやすいのは実写の強みだろう。実際の農地でロケをしているからだろうが、学校の敷地面積がどのくらいの感じで、畑がどうなっていて厩舎がどうなっていて、というのは、やはり実写の方が伝わりやすい(厩舎などの施設に入る前に足を消毒するシーンをいちいち入れていて、結構教育的でもある)。そして調理・食事シーン(主にベーコン)が実においしそう!ここは実写の圧勝と言ってもいいと思う(笑)。
 原作は、荒川弘作品の美点でもあり難点でもあるのだが、正しすぎであるところ、基本クレバーな人(本当にダメな人とか悪い人は本作には出てこないし)の話であるところが鼻につかなくもないのだが、映画は吉田監督の持ち味なのか、去っていく人たち、表舞台に立てなかった人たちにもうちょっと陰影が濃く、より淡々とした印象になっていた。しかしそれでも人生は続く、という余韻もいい。
 なお、御影は実在したら結構同性に嫌われそうなタイプなんだなということに初めて気がついた。これも実写の強みか(笑)


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『地下迷宮の魔術師 ロンドン警視庁特殊犯罪課3』

ベン・アーロノヴィッチ著、金子司訳
警官のピーターは、地下鉄の構内で若い男性の死体が発見された事件にかりだされる。凶器は魔法で作られた陶器のかけららしい。被害者は裕福なアメリカ人青年と判明するが、彼はなぜ深夜に地下鉄構内にいたのか?ピーターは事件を追ううちに、ロンドンで古くより行われていたある「産業」のことを知る。妖魔、幽霊、妖精など魔法関係の事件を扱う「特殊犯罪課」を舞台としたシリーズ3作目。ロンドンという町の肖像画のような側面もあるシリーズだが、本作は特に市内のエリア別土地柄や歴史のようなものが色濃く表れている。課のメンバーも1人増え、ピーターの魔法の腕前もちょっとづつ上がっている。上司のナイティンゲールが前作と比べて妙にかわいいので、おじさま愛好家女子にもお勧め。


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ルーシー・リーの陶磁器たち

『顔のない魔術師 ロンドン警視庁特殊犯罪課2』

ベン・アーロノヴィッチ著、金子司訳
ソーホーでジャズ・ミュージシャンが演奏後に急死する事件が相次いだ。遺体から魔術の痕跡と同時に、ジャズの名曲「ボディ・アンド・ソウル」の音を聞き取った警官ピーターは、捜査を開始する。事件の背後には黒魔術師の姿が。そしてピーターは被害者の恋人と深い仲になっていく。魔法に関わる事件を扱う警察の極秘組織、特殊犯罪課(といっても2人だけだけど)を舞台にしたシリーズ2作目。ピーターが結構ハンサムであるという設定がようやく活かされてきた(前作では読んでても結構忘れてたもんなー(笑))気がするが、モテるのも考えものだな・・・。各章がジャズの曲名になっているので、ジャズに詳しい人ならより楽しめるかも。ピーターの煮え切らなさと優しさは、若いな!って感じで上司のナイティンゲールがいい顔しないのもわからなくもないが、良くも悪くもピーターの至らなさと柔軟性が魅力なシリーズでもあると思う。語りが饒舌すぎて読みにくい時もあるんだけど、それも若者の勇み足だと思えばまあ許せるかな(笑)。


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ジャズ・クラブ~ボディ・アンド・ソウル

『それでも夜は明ける』

 1841年、ニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた「自由黒人」でヴァイオリン奏者のソロモン・ノーサップ(キウェテル・イジョフォー)は家族と共に平和に暮らしていたが、突然拉致され、奴隷としてニューオリンズへ売られてしまう。奴隷としての過酷な生活にソロモンは打ちのめされるが、家族と会う希望は持ち続けていた。監督はスティーブ・マックイーン。原作はソロモン・ノーサップの手記だそうだ。第86回アカデミー作品賞受賞作。
 奴隷制が廃止される前の話だが、アメリカの北部と南部は別の国のようで、ソロモンならずともショックを受けるだろう。ソロモンは元々特権的な立ち位置(白人の友人もいるような、奴隷ではない黒人)にいたから余計にショックだったことは自然とわかる。冒頭から時代背景や何が起こっているのかということについて余計な説明はないのだが、ソロモンや周囲の反応から、彼らが置かれた状況やどういう背景があるのかは察せられる。『SHAME』でも情報を出しすぎず、それでいてみる側が状況を自然と分かるので、上手い監督だなと思ったが、本作でもその手腕は確か。
 ソロモンを打ちのめしていくのは、肉体的な過酷さはもちろんだ、精神も「奴隷」となっていくことだろう。白人にとって黒人は「人」ではなく物であり、尊厳を持った人間として振舞えば不相応であると罰される。独立した個人として振舞うことは死に近づくことと同じで、同質な「奴隷」として生き延びるしかない。
 ソロモンが出会う白人たちは、エップス(マイケル・ファスベンダー)のような偏執的な人もいるが、多くはごく普通の人たちだ。比較的穏やかな「主人」である牧師のフォード(ベネディクト・カンバーバッチ)は奴隷たちを前に説法し、無闇な暴力は振るわない。が、それはあくまで奴隷に対しての優しさであって、対等な人間に対するものではない。
 なぜごく普通の善人たちが相手の人間性を無視した振る舞いをするかといえば、彼らが住む世界では「そういうこと」になっているからだろう。なんだかおかしいなと思っても、「そうなっている」ことに対抗する勇気はない。フォードはソロモンを守れないし、エップスは黒人少女に惹かれる自分を認められず更に暴力に走る。おそらく、黒人を差別することが恥ずべきことだ、という世界にいれば、彼らはそれに従う。自分を取り囲む世界が当然のものと疑問を持たないことが、一番怖いのかもしれない。ソロモンが拷問され吊るされているシーンがあるのだが、周囲の情景は穏やかで美しく、皆何も起こっていないかのように自分の仕事をしている。暴力行為を目の当たりにするよりも怖かった。


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『ローン・サバイバー』

 2005年6月、アフガニスタンの山岳地帯にタリバン兵が潜んでいるという情報を得たアメリカ海軍特殊部隊は、ラトレル(マーク・ウォールバーグ)、マーフィ(テイラー・キッチュ)、ディーツ(エミール・ハーシュ)、アクセルソン(ベン・フォスター)の4隊員を偵察活動に向かわせた。しかしある決断をしたことから200人を越えるタリバン兵に包囲され、攻撃を受けるという危機的状況に陥る。ネイビーシールズ創設以来最大の惨事と言われる「レッド・ウィング作戦」を映画化した。原作は当事者であったマーカス・ラトレルによるノンフィクション『アフガン、たった一人の生還』。監督はピーター・バーグ。
 冒頭、ネイビーシールズの過酷な訓練、しごきを見ていると、なぜ軍隊、特に任務が過酷な部署ではある種独特の連帯感が濃く見られるのかわかる気がする。隊員は当然、肉体的に鍛えているしスキルも高い(本作、ネイビーシールズがいかにスキルが高いかという説得力はある)。しかし最後の踏ん張りどころは理屈に合わない心の問題になってくるのではないか、それがないと耐えられないようなこともあるのではないかと思える。死なない、裏切らない覚悟を決めさせるのが連帯感なのではと。
 冒頭で作戦が失敗したとわかるし、実際に歴史的にも「惨事」という認識がされているようだ。しかし、本作はモノローグといい、音楽といい、やけにヒロイックさを煽る感動的なものだ。4人は勇敢なヒーローだった!と見せたいのかもしれない。が、話の内容を合わせるとどうも違和感がある。この違和感は計算されたものなのだろうか、それとも単に作戦ミスなのだろうか。
 4人は確かに勇敢だし有能な兵士だったのだろう。しかし、彼らが窮地に陥ったこと事態、作戦ミスの結果だったということではないかと思うし、ラトレルが生き残れたのは仲間の献身や勇敢さ以上に、運が良かったからに他ならないだろう。彼らは自分達のベストを尽くしたかもしれないが、それはそうせざるを得なかったということだ。それをヒーロー扱いしていいのかなという気がした。
 4人が窮地に陥るのは、偵察中に出くわした現地の民間人の処遇に関する判断がきっかけだった。彼らはアメリカ軍を代表する兵士として人道的と思われる判断をするが、それが大惨事に繋がるというのは皮肉だ。そこまで覚悟してこその兵士ということか。
 なお、ラトレルの助かり方が都合よすぎるだろ!話盛ってるよね!?と思ったら、まさかの実話だそうだ。ちゃんとモデルとなった人がエンドロールで登場する。ここに一番驚いた。


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『グランドピアノ 狙われた黒鍵』

 難曲でミスし、才能がありながらスランプに陥っていたピアニストのトムは、5年ぶりにステージに立つことになった。使われるピアノはトムの師であるパトリックが残した名器。ステージ恐怖症と戦いながらもなんとか演奏をこなすが、楽譜の中に「一音でも間違えたら殺す」というメッセージが。犯人の要求は、パトリックが書いた難曲をトムにミスなしで弾くことだった。監督はエウヘニオ・ミラ。
 題名はピアニストだし、監督自ら「難曲」を作曲しているという話もあったりするが、ピアノ映画ではないし、音楽映画ですらない(音楽そのものの印象は薄いしピアノも存在感があまりない)。じゃあどんな映画なの、ジャンルとしてはどのへんなのかというと、これはバカミス(バカバカしいミステリ)ですね!久しぶりに清清しくバカミスな映画を見た。
 何が一番バカバカしいって、犯人の計画が、計画の目的達成の可能性をむしろ低くしているのではないかということだ。劇場型犯罪にもほどがある!むしろミスタッチ増えるわ!あの状況でひきこなすトムが天才すぎだよ!そもそも、成功してもブツの回収をどうやるつもりだったんだろう・・・。
 とは言っても、本作がつまらないというわけではない。バカバカしくはあるのだが妙に勢いがよく、コマの進め方が早いので、つい最後までちゃんと見てしまう。こちらが突っ込み終わる前にどんどん畳み掛けてくる感じ。後半、トムが巻き返しを図る段になると、おー頑張れ!とうっかり応援したくなる。予告編では犯人役のジョン・キューザックが堂々と登場しているが、実際は最後の方まで登場しない。しかし事前に犯人がわかっていても特に支障ないような話だった。わかっていて、おー出た出た!と拍手喝采するような見方の方が楽しめそう。それにしても、キューザックのニコラス・ケイジ化がとどまるところを知らないので心配である。


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『地上最後の刑事』

ベン・H・ウィンタース著、上野元美訳
半年後に小惑星が衝突し、人類滅亡すると予想された地球。ある町のマクドナルドのトイレで、首吊り自殺と思しき男性の遺体が発見された。人類の未来に絶望して自殺者が多発していた折、その一貫だと思われていたが、新人刑事パレスは違和感を感じ、他殺の可能性を調べ始める。もうすぐ人類滅亡するというので人々は職務放棄し、インフラも流通も製造もがたがたになる。そんな中、地味に事件を捜査するパレスは変人扱いされている。自殺「ぽい」ならもう自殺扱いでいいじゃないか(殺人だとしてもどうせ全員死ぬし)というわけだ。そんなことをやっている暇があるなら、限られた時間の中でやり残したこと、やりたいことをやってはどうか、それが人間らしいってことじゃないかと。しかしパレスにとっては事件を正当に解決すること、警官としての職務を全うすることが人間らしく生きるということなのだ。淡々と日々をこなしていくパレスの姿にはどこかほっとさせるものがあった。こういう人たちが世界を支えているのではないかと。何を人間らしさとするか、ということが事件の背景にあったのではとも思える作品。


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『パラダイス 希望』

 13歳の少女メラニー(メラニー・レンツ)は青少年向けのダイエット・キャンプに参加する。規律正しく抑制された合宿だが、夜には大人の目を盗み、子供達は大騒ぎしていた。メラニーは父親ほどの年齢の合宿所の医師に恋をし、医師の方もまんざらでもなさそうだが。監督はウルリヒ・ザイドル。『パラダイス 愛』『パラダイス 神』『パラダイス 希望』からなるパラダイス三部作の一作。
 淡く透明感のある色合い、左右対称を多用した構図が、妙に無機質な印象を残す。舞台が田舎の寄宿舎みたいなところだから、子供たちと監督者以外の人はあまり出てこず、箱庭的、人工的な雰囲気だ。舞台や風景の雑味が排除されているので、少女と医師とのちょっときわどいやりとりも、それほど生々しくは見えない。とは言ってもやっぱり「それはまずいだろ!」と突っ込みたくなるが(笑)
 メラニーが医師に対して、恋仲になりたいと願う「希望」は、叶えられる見込みは薄いし、叶えられたとしても双方に幸せな未来は見込みにくいものだ。そういう意味では、「希望」というサブタイトルは皮肉でもある。しかし、彼女にとっては(本人は不本意でも)その希望が叶えられないことこそ、これからの人生での「希望」かもしれないという、アンビバレンツさもあった。
 ただ、三部作のうちでは比較的やりきれなさが薄い。一時の関係とはいえ、メラニーには一緒にはしゃげる友人がおり、ひとりぼっちではないこと、大人がなんとか「大人」としてふるまおうとしているからかなと思った、メラニーがとりあえずは「子供」として保護されており、無理やり大人と同じ土俵に立たされることはない。何より、『パラダイス 愛』では母親からの一方通行に見えた思いが、実はそうでもなかったということが明らかになるからかもしれない。少なくともこの母娘の関係には、まだ「希望」があるように思えるのだ。


美しい子ども (新潮クレスト・ブックス)
僕は問題ありません (モーニングKC)

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