アドルフォ・ビオイ=カサーレス著、野村竜仁・高岡麻衣訳
パウリーナと僕とはずっと愛し合い魂は共にあるはずだった、あの日までは。表題作をはじめ、喜劇と悲劇がいりまじる「愛のからくり」、SF風味が漂う「大空の陰謀」、世界の終わりを思わせる「大熾天使」など10編を収録した中短編集。著者の代表作『モレルの発明』では、ミステリアスな雰囲気の中、見る側と見られる側、語る側と語られる側の立ち居地の逆転が仕組まれていたが、本作でもその傾向は見られる。特に表題作は『モレルの発明』の変奏曲という雰囲気もあった。「見る」という行為に対して非常に意識的な作家だと思う(なお、本著の表紙の挿画も、その方向性をふまえたものが選ばれていて、出版社の目配りの良さが感じられた)。終盤で説明的なオチをつける傾向があり、それがミステリ的な謎解きとしての味わいを加えていることもあるのだが、無理やり理詰めにしたな!と不自然に感じられたものも。ミステリぽい作品としては、「墓穴掘り」が過不足ない感じでよかった。ただ、著者の作品の中ではむしろ例外的なものなのかもしれない。
パウリーナの思い出に (短篇小説の快楽)
モレルの発明 (フィクションの楽しみ)
パウリーナと僕とはずっと愛し合い魂は共にあるはずだった、あの日までは。表題作をはじめ、喜劇と悲劇がいりまじる「愛のからくり」、SF風味が漂う「大空の陰謀」、世界の終わりを思わせる「大熾天使」など10編を収録した中短編集。著者の代表作『モレルの発明』では、ミステリアスな雰囲気の中、見る側と見られる側、語る側と語られる側の立ち居地の逆転が仕組まれていたが、本作でもその傾向は見られる。特に表題作は『モレルの発明』の変奏曲という雰囲気もあった。「見る」という行為に対して非常に意識的な作家だと思う(なお、本著の表紙の挿画も、その方向性をふまえたものが選ばれていて、出版社の目配りの良さが感じられた)。終盤で説明的なオチをつける傾向があり、それがミステリ的な謎解きとしての味わいを加えていることもあるのだが、無理やり理詰めにしたな!と不自然に感じられたものも。ミステリぽい作品としては、「墓穴掘り」が過不足ない感じでよかった。ただ、著者の作品の中ではむしろ例外的なものなのかもしれない。
パウリーナの思い出に (短篇小説の快楽)
モレルの発明 (フィクションの楽しみ)