3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

2013年07月

『シャニダールの花』

 女性の胸に生え、美しい花を咲かせる新種の植物が発見された。その花は新薬開発の可能性を秘めており、提供者には高額の報酬が与えられていた。その花の研究施設「シャニダール」に転任してきたセラピストの響子(黒木花)。植物学者の大瀧(綾野剛)と共に提供者のケアにはげむが、提供者が急死する事件が相次いでいた。監督は石井岳龍。
 ホラー少女漫画的な雰囲気かと思っていたら、『生きてるものはいないのか』に続くまさかの終末もの。花がだんだん人の心を狂わせ、のっとっていくように見えた。響子は花のことを知りたい、自分たちはもともと植物だったのではと考えていくが、その考え自体が花によって操作されたものだったのではないだろうかと。物語の主人公は、一応大瀧と響子ということになっているが、真の主人公は花だろう。大瀧と響は恋人同士になるが、2人の間にはセクシャルなものがあまり感じられない。この2人に限らず、人間同士の関係にはあまり色っぽさがない。むしろ人と花の関係の方がエロティックに見える。
 基本、雰囲気で推し進めていくような作品なので、設定を詰めていきたい人が見たらイライラするかもしれない。白を基調とした無機質な世界は悪くないが、雰囲気だけで2時間もたすのはちょっと難しいなとも思った。



生きてるものはいないのか [DVD]

昆虫と花―共生と共進化

『アンコール!』

 ロンドンで妻・マリオン(バネッサ・レッドグレーブ)と暮らすアーサー(テレンス・スタンプ)は偏屈な老人で息子とも不仲。マリオンを合唱団「年金ズ」の練習に送り迎えするのが日課だ。しかしマリオンのガンが再発。彼女の代わりにアーサーが合唱に参加することになるが。監督はポール・アンドリュー・ウィリアムズ。
 町がいなく感動できる「いい話」なはずなのに、どうももやっとする。話の転がし方がどうにも雑だからだと思う。アーサーが合唱に加わる経緯も、ちょっと後だしじゃんけん的な設定が混在しているし、クライマックスの作り方もそんな無茶な!という感じ。何より、アーサーが合唱に加わるのはともかく、ぽっと出の彼が独唱することを良く思わないメンバーも合唱団内にはいるんじゃないかしら・・・といらん心配してしまった。こういう経緯をもうちょっと丁寧に見せてくれればいいのに。合唱に関するエピソードは正直そんなに出来は良くないし、音楽的にもあまり面白み、新鮮味はない。ロックやポップスを唄う老人合唱団といえば『ヤング@ハート』という名作ドキュメンタリーが思い出されるが、『ヤング~』を見てしまうと本作の音楽はどうにも物足りない。
 主軸はむしろ、老夫婦の関係性だろう。アーサーは病身のマリオンを介護しているが、マリオンは感謝しつつも負い目に思っている様子は見せない。喧嘩中でも「それはそれ」という態度なのが、長年の付き合いっぽい。この域に達するまでには色々あったんだろうなあと思わせる。アーサーはなんだかんだ言ってマリオンが大好きなのだ。彼女の合唱に向ける情熱にイライラしたり、合唱団に当たり散らしたりするが、それも愛ゆえだろう。妻の寿命が縮まるようなことは本人が望んでいてもさせたくない、衰えた妻の姿を他人に見せたくないというのは何かわかる。ある意味夫婦の「あがり」の話だとも思う。
 音楽的にはさほど面白くないと前述したが、「True Colors」の使い方にはぐっときた。まさにこの曲!という使い方。ここだけ涙ぐみそうになる。



ヤング@ハート [DVD]

True Colors

『樹海のふたり』

 フリーのTVディレクター、竹内(板倉俊之)と阿部(堤下敦)は、起死回生を図って富士山麓の樹海に自殺しに来た人達を追うドキュメンタリーの取材を始める。企画は当たり、2人は徐々に樹海にのめり込んでいくが。監督は山口秀矢。
 TV番組制作のディティール(予算とか生活のリズムとか・・・)が妙にリアリティがあるなと思ったら、実際に樹海取材したディレクターらの体験談を基にしているそうだ。冒頭から阿部のナレーションで、ドキュメンタリー番組のていで始まる。ショットも低予算のドキュメンタリーでありそうな、手持ちカメラからのものが最初は続く。当然、阿部か竹内の視点ということになる。しかし途中で急に、神の視点的なショットが挿入されるし、途中から普通のドラマ仕立てになっていく。疑似ドキュメンタリーなのかドラマなのか、なんだか中途半端でどちらかに統一してほしかった。
 また、樹海取材の一方で、竹内の家庭の事情も徐々にクローズアップされていく。彼がなぜ、自殺する人の取材にのめり込んでいったのか、知りたいと思ったのかという部分の説明にはなっているのだが、比重が重くなりすぎた気がした。こちらはこちらで面白いので、割愛するのも勿体ないのだが、映画の軸がちょっとブレたかなぁという気もした。
 主演はお笑いコンビ・インパルスの2人だが、案外役者としても悪くない。セリフ回しがそんなに上手いわけではないが、佇まいは自然だった。役者の技量ではなく、脚本の部分であまり上手くない、陳腐な言い回しがあったり、阿部のモノローグが過剰だったりするところが残念。そんなにいちいち言わなくても見ている側にはわかると思うんだけどな~。



富士 樹海

樹海の歩き方

『バーニー みんなが愛した殺人者』

 テキサス州の田舎町で、葬儀屋に勤めているバーニー(ジャック・ブラック)は、人柄の誠実さで皆から愛されていた。彼は富豪だがへそ曲がりな未亡人・マージョリー(シャーリー・マクレーン)と親しくなり、一緒に海外旅行へ同行したり銀行口座の管理を任せられるまでに。しかし、ふとしたことでバーニーはマージョリーを殺してしまう。監督はリチャード・リンクレイター。1996年に実際に起きた事件を、当時を知る住民たちの証言を交えてドラマ化した。
 バーニーが何をしたかというより、彼がどういう人かという部分が、彼の行為を通してクローズアップされていく・・・のだが、最終的には「やっぱりわからない」という所に落ち着いたように思う。作品自体が彼がやったこと、彼の中身に対してジャッジしていないし、そもそもバーニー自身も、自分がどういう人なのかわからなかったのではないだろうか。彼は常に「バーニーというキャラクター」を演じているように見える。仕事にしろ趣味の演劇やら音楽やらにしろ、パフォーマンス性の高いものだというところが印象に残る。そういう部分も、「素」が見えにくい一因かもしれない。同時に、殺人事件の多くは、本作のような当人にも説明しがたい、「なんだかわからないがそうなった」というものなのではないかとも思えた。バーニーの行為は、説明・理解はしがたいが不自然という感じではないのだ。
 バーニーは町の中では「いい人」なのだが、その町の中での評判を外の世界(司法の世界)にも持ち込もうとする住民たちの勢いには、ちょっと空恐ろしいものも感じた。マシュー・マコノヒー演じる検事は(キャラクターとしては妙な人だが)ごくまっとうなことをやろうとしているのだが、それが非難されるのだから。
 ジャック・ブラックがいっぱい歌う映画はいい映画という先入観があるのだが、本作も同様。大変楽しそうに歌いまくっている。フットワークの妙な軽さやちょこちょこ歩きもキュートだった。彼とがっぷり組み合うシャーリー・マクレーンも意地の悪さとキュートさが混在していて流石。怒りのピクピクした感じの表情がいい。マシュー・マコノヒーが奇矯で目立ちたがりの検事役なのだが、ブラック以上にノリノリ。実に楽しそう。また、エンドロールで「住民」の皆さんが活躍しているのもえっそうだったんだ!と楽しくなった。


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『四畳半王国見聞録』

森見登美彦著
京都に暮らす大学生たちが繰り広げる阿呆な騒動を描く、連作短編集。ちっぽけなプライドに拘泥する青年たちは滑稽だが、至らないが故の切実さも感じさせる。著者お得意の路線だが、初期の作品よりも阿呆仲間の連帯感が強まっているように思った。群像劇という形式のせいかもしれないが。四畳半が入り口と出口で、その間をずぶずぶ広がっていくようなおかしくも懐かし・・・くは思いたくない世界だ(笑)。ちょっと「頭山」を思わせる構造もあったが、それが世界の広がりというよりも狭さを感じさせる。京都と学生生活に世界が濃縮されすぎていて、(そこが著者の持ち味だろうが)少々せせこましい。


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『風立ちぬ』

 飛行機を愛する青年・二郎(庵野秀明)は、実家から東京の大学へ戻る途中、震災に合い、列車に同じ乗り合わせていた少女・菜穂子(瀧本美織)と女中の絹を助ける。やがて飛行機設計技師として就職した二郎は、休暇で訪れた山のホテルで菜穂子と再会し恋に落ちる。しかし菜穂子は結核に犯されていた。監督は宮崎駿。
 ゼロ戦設計者である堀越二郎と、同時代の作家・堀辰雄をモデルに作られたストーリーだそうだが、モデルというよりもイメージとして使ったという程度だろう。いわゆる伝記映画ではなくオリジナルの物語だ。宮崎駿がとうとう青年が主人公の、しかも多分にメロドラマを含んだ作品を作るとは、何かの覚悟を決めたのだろうか。主人公が青年のせいか、今までの作品よりも更に自身の「こうであれ」願望が投影されているように見える(「メガネをとったら美少年」な感じにはちょっと笑ってしまったが)。
 二郎は少年のころから飛行機の夢を見る。大人になってからも自分が作るべき飛行機やその軌跡、そして墜落を幻視しする。その夢を見続ける力は、呪いのようにも見える。二郎の人生監督の作品への向かい方を二郎はよく「美しい」と言う言葉を口にする。彼は美しさに憧れ追求する人として描かれる。彼は飛行機の美しさを追求する。その飛行機が戦争の道具であり、多くの若者を死地に向かわせたものであっても、彼はその「美しさ」に忠実だ。倫理も生活も「美しさ」の前には屈服してしまう。当初は「宮崎駿の自伝的作品」という触れ込みだったが、監督本人の人生とは全く違ったストーリーである。ただ、確かにある意味では自伝とも言えるのかもしれない。常に夢を追う人であるという二郎の性質は、監督本人の指向性とそれによる葛藤が投影されたもののように思えるのだ。
 もちろん二郎は自分の偽善性や、生活の大切さには自覚的だろう。だがそれでも夢、彼にとっての「美しさ」を目指してしまう。それは菜穂子も同様だ。彼女は二郎との恋という夢を追った。自分の寿命を縮めるとわかっていても二郎と暮らすことを選んだ。二郎が夢に生きる人だとわかっていたからこそ、自分もまた彼の夢となることを選んだとも思える。再会後の菜穂子には私は全く魅力を感じなかったのだが、彼女があまりにも「夢の女」だったからかもしれない。
 4分間の特報でも垣間見えたが、とにかく「動画」感のあるアニメーションだった。煙や水、雪など、今ならエフェクトをきかせそうなところをかなり動画でやっていて、画面の全部が生きている(人間と煙とが同じレベルでの存在感を持っている感じ)。絵の全体にうねりがある。ちょっと偏執的な感じもするので好みが別れそうだが、こういうのがアニメーションの面白さだよなと実感した。


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『25年目の弦楽四重奏』

 第一バイオリンのダニエル(マーク・イバニール)、第二バイオリンのロバート(フィリップ・シーモア・ホフマン)、ビオラのジュリエット(キャサリン・キーナー)、チェロのピーター(クリストファー・ウォーケン)から成る弦楽四重奏団は、結成して25年目を迎えようとしていた。しかしパーキーソン病が発症したピーターが引退を表明。残された3人は動揺する。それに伴い、今まで押さえてきた嫉妬やライバル心、蟠りが噴出してくる。監督・脚本はヤーロン・ジルバーマン。
 地味ながら、4人の関係性がしっかりと描かれており、人間ドラマとしてきちんと構成されているいい作品だった。物語りの鍵となるベートーベンをはじめ、使われている楽曲もいい。
 仕事における人間関係と、プライベートの人間関係は気本的に性質が違う。決して性格の相性がいいわけではないが、仕事を一緒にするうえではきちんとかみ合うという相手もいる。ダニエルとロバートは、不仲とは言わないまでも本来はさほど馬の合う同士ではないだろう。しかし、第一バイオリンと第二バイオリンとしては相性がいい。自分の娘がダニエルを冷たい人だと言うと、ロバートは「情熱は全部演奏に注がれているんだ」とフォローする。ただ、やっかいなことに、彼らの場合は仕事とプライベートが微妙に重なっている。ロバートとジュリエットは夫婦だ。そしてロバート、ダニエル、ジュリエットは大学の同級生で、ピーターは恩師という関係だ。またキャサリンの母とピーターは親友同士で、家族同然に育ったという間柄でもある。
 仕事なら割り切れるような感情のさざなみが、なまじ私生活でも家族だったり友人だったりするので気になってしまう。こういうことってあるだろうなぁと思う所が多々あった。特にロバートの、妻が自分を「第一バイオリン」としては支持してくれないことへの傷つきなど、妻じゃなければそんなに傷つかなかったろうにと思った。ジュリエットは演奏者としての立場から話しているのだろうが、ロバートはどうしても「妻」というポジションからの支持を求めてしまう。ロバートの、能力はあるのに、その能力は自分が認めて欲しい能力とは異なるというなんとももったいない、ジレンマに陥りそうな状況。しかしその後の顛末が、おいおい!と突っ込みたくなるのだが・・。
 ジュリエットはジュリエットで、相手との齟齬をちゃんと説明しようとしないし、第二バイオリンに徹して欲しいという説得にダニエルを引き合いに出したりで、なんだか中途半端ではある。ダニエルはダニエルで、情熱の使い道がよりによってそこですかー!と突っ込みたくなる。楽団の岐路をきっかけに、それぞれのダメさが噴出してくるような感じだ。
 ただ、それであっても演奏活動は続く。この続くところに、彼らが25年間積み重ねてきたものの強さがあるのだろう。


ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番
天にひびき 1巻 (ヤングキングコミックス)


『さよなら渓谷』

 緑豊かな渓谷のある町で、幼児殺害事件が起きた。容疑者として逮捕されたのは実母の立花里美。しかし里美は、隣家に住む夫婦の夫・尾崎俊介(大西信満)との不倫を臭わせ、俊介の内縁の妻・かなこ(真木よう子)も2人が不倫関係にあったと証言する。雑誌記者の渡辺(大森南朋)は俊介が15年前にある事件を起こしたことを知り、かなことの過去を探るが。原作は吉田修一の同名小説。監督は大森立嗣。
 吉田修一作品の映画化は、大体(『パレード』にしろ『悪人』にしろ)成功していると思うのだが、本作も成功、いや大成功していると思う。大森監督の作品としても、今までではベストの出来ではないだろうか。枝葉の刈り込みが上手くなっており、今までの作品では感じていた冗長さがない。時制が過去と現在を行ったり来たりするが、特に具体的に説明するわけではないがするっと飲み込むことが出来る。現在の登場人物の心情・シチュエーションと過去の心情・シチュエーションとを連続させるような時間の切り替え方が印象に残った。過去と現在とが否応なく繋がっていることを感じさせる。俊介とかなこが今の住まいにたどり着いた時と、今の状態とが繋がった時、2人の間に流れた時間が感じられ心揺さぶられた。
 答えの出ない問いがある作品だと思うが、映画も原作小説も、そこに問いを出そうとはしていない。俊介とかなこにしか分からない、あるいは当事者である2人もわかりきらないこととして、ただ2人を追う。事件を俯瞰する視点として渡辺が配置されているものの、彼が表層しか見えていないことが却って明らかになる。警察もマスコミも事件に「わかりやすさ」を求めるが、そこに真実はないのだ。
 俳優が皆熱演だった。メディアでは真木よう子ばかりにスポットが当たっているが、俊介役の大西信満が、抑え目ながらも内部の熱やどろどろが感じられる演技で非常に良かったと思う。また、井浦新と新井浩文がちょこっと出演しているのだが、この2人は無自覚なクズの演技がうますぎる!うますぎて心配になってくるレベル。


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パレード (初回限定生産) [DVD]
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『ロックンロールが降ってきた日』

秋元美乃、森内淳編
浅井健一、甲本ヒロト、チバユウスケ、仲井戸霊市、ムッシュかまやつら、15人のロックミユージシャンに、ロックに出会った頃のことをインタビューした、インタビュー集。ミュージシャンの年齢が幅広く、ロックにハマる経緯に大分違いがあるのが面白い。若者は、たくさんの音楽がある中から、どうやって自分の心にびしっとくるものにたどり着くかということになるが、昔は情報そのものがない。特に地方だと、TVとラジオくらいしか接する機会がなかったんだなと改めて感じた。そういう時代の方が、音楽に対して貪欲だったようにも思えた(若者が貪欲ではないということはないと思うが、音楽を手に入れること自体への渇望は昔の方が強かったのでは)。ロックに巡り合った時の「これだ~!」みたいな衝撃は、世代を越えていてぐっときた。ロックがなかったら全然ダメ人間みたいな人生だったと思うと言う人が結構いる。多分、仕事にしているということ以上の意味がある。特に甲本ヒロトの話は、ちょっとうるっとしちゃいましたね。



ロックンロールが降ってきた日 (P-Vine Books)

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『熱波』

 隣人の老女アウロラ(ラウラ・ソベロウ)に、「ベントゥーラという男を探して欲しい」と頼まれた中年女性ピラール(テレーザ・マドルーガ)。ピラールは介護施設に入院していたベントゥーラ(エンリケ・エスピリト・サント)を見つけ出すが、彼は夢うつつを生きていた。ベントゥーラはアウロラとの過去を語りだす。和監督はミゲル・ゴメス。
 全編モノクロだが、物語が過去に飛び、ベントゥーラとアウロラのメロドラマとしての度合いが深まると、モノクロの質感が昔の映画のようになってくる。現代のシーンの質感とは明らかに違う。より語られる「お話」として強固に感じられる。音の入れ方も過去パートはちょっと変わっており、セリフには音が入っていない。全てベントゥーラの語りとして処理される。また、周囲の音は聞こえるのに声や、特定の音だけ聞こえなかったりする。夢の中の光景のような、ある部分のみが記憶に残る感じ。この不思議なバランスが心地よかった。
 俳優が皆、いい顔をしている。老いたピラールとベントゥーラは味があってとてもいい顔つきなのだが、若い頃の2人も正に美男美女。ただ、ベントゥーラの方がちょっとにやけた感じの二枚目で、いかにも昔のメロドラマっぽいなぁと思った。いい顔といえば、出てくる動物たち、特にワニがこれまたいい顔だった。ワニは本作のポスターにも使われているくらいで、チャーミング。
 男女の物語が本筋だが、それとはズレた部分のちょっとしたエピソードが、妙に面白い。ピラールが男性から自作の絵を貰って、思わず「いらない」ともらしてしまうところとか、ベントゥーラの友人のバンドの顛末とか、どことなくユーモラスだ。
 一つのメロドラマの終焉が描かれているが、その背景に、未開の地へのあこがれや、植民地文化の終わりが重ねられている。どちらもひと時の夢、幻想なのだ。夢だからこそ美しく思い出されるのか。



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