北杜夫著
精神科医・楡基一郎が一代で築いた脳病院を舞台に、楡一族の人々の悲喜こもごもな人生を、大正から昭和への時代の流れの中で綴る年代記。著者の他の作品はいくつか読んだことがあったものの、本作は長さに恐れをなして敬遠していた。ようやっと手にとって見たのだが、真面目な中に妙なおかしさがあって、ついつい笑ってしまう部分も多々。そもそも、「楡」とはまた優雅な苗字ですこと・・・と思っていたら、おいっ!第一部の前半でいきなり突っ込んでしまった。初代の基一郎は患者人気は高いが妙に楽観的で基本でたらめだ。もっともそうなことを言うのでなんとなく周囲が従ってしまうという、ある意味運と思い切りのよさだけで成功したような人だ。その基一郎の陰から、子供達は抜け出せなかったように思う。もっと普通の父親だったら子供たちも楽だったのかもしれない(長男の欧州など、むしろ現代的なメンタリティだ)。登場する人たちはどこかエキセントリックで、強迫観念に駆られたりしている。彼らの稼業は脳病院(精神病院)だが、彼ら自身、現代だったらカウンセリングを勧められるような人たちなのがおかしい。一族の没落物語としても面白いが、ある時代の流れの中で、市井(とはちょっと言い難いところもあるんだが・・・)人たちがどう生活していったかという部分も印象に残る。特に第二次世界大戦に突入し、徐々に敗戦へと向かう過程は、とにもかくにも食べ物の乏しさが強烈だった。このひもじさ描写だけで反戦小説として成立するんじゃないかというくらい。
精神科医・楡基一郎が一代で築いた脳病院を舞台に、楡一族の人々の悲喜こもごもな人生を、大正から昭和への時代の流れの中で綴る年代記。著者の他の作品はいくつか読んだことがあったものの、本作は長さに恐れをなして敬遠していた。ようやっと手にとって見たのだが、真面目な中に妙なおかしさがあって、ついつい笑ってしまう部分も多々。そもそも、「楡」とはまた優雅な苗字ですこと・・・と思っていたら、おいっ!第一部の前半でいきなり突っ込んでしまった。初代の基一郎は患者人気は高いが妙に楽観的で基本でたらめだ。もっともそうなことを言うのでなんとなく周囲が従ってしまうという、ある意味運と思い切りのよさだけで成功したような人だ。その基一郎の陰から、子供達は抜け出せなかったように思う。もっと普通の父親だったら子供たちも楽だったのかもしれない(長男の欧州など、むしろ現代的なメンタリティだ)。登場する人たちはどこかエキセントリックで、強迫観念に駆られたりしている。彼らの稼業は脳病院(精神病院)だが、彼ら自身、現代だったらカウンセリングを勧められるような人たちなのがおかしい。一族の没落物語としても面白いが、ある時代の流れの中で、市井(とはちょっと言い難いところもあるんだが・・・)人たちがどう生活していったかという部分も印象に残る。特に第二次世界大戦に突入し、徐々に敗戦へと向かう過程は、とにもかくにも食べ物の乏しさが強烈だった。このひもじさ描写だけで反戦小説として成立するんじゃないかというくらい。