リチャード・パワーズ著、黒原敏行訳
カリン・シュルーターは弟マークが交通事故に遭って意識不明だという連絡を受け、故郷に戻った。マークはようやく意識を取り戻すものの、カリンを姉とは認識できなくなっていた。カリンにすごく似ているけど違う、偽者だと言うのだ。彼はカプラグ症候群という、親しい人物のみその人物当人だと認識できないという珍しい症例を発症していたのだ。カリンは高名な脳医学者に助けを求める。パワーズは作品ごとに中心に来るモチーフを決めてくるという印象があるが、今回のモチーフは脳。マークはカリンをニセモノの姉と見なすようになり、徐々に政府が自分を監視しているという妄想に駆られるようになる。しかし、人間の認識と自己をつかさどるのが脳ならば、それを妄想と決め付けることができるのか?マークはカリンは脳医学者から見ると間違った認識を持っているのだが、それは間違いだと彼に納得させるのは至難の業だ。マークに姉と認めてもらえないカリンの無力感がひしひしと伝わってくる。また、脳医学者もマークに対処できず自分の業績に自信が持てなくなっていく。マークを含め、登場する人達は何らかの失望感を抱いており、その心もとなさが作品の全編に渡って、低音で響いているように感じた。マークと関わったことで、形は違うがカリンたちの世界も変容していく。それはいびつかもしれないし、逆に自然な形に戻るのかもしれないが、それぞれの世界のもろさ・たよりなさが物悲しかった。足元がゆらぐような、はかなさを感じさせる小説。
カリン・シュルーターは弟マークが交通事故に遭って意識不明だという連絡を受け、故郷に戻った。マークはようやく意識を取り戻すものの、カリンを姉とは認識できなくなっていた。カリンにすごく似ているけど違う、偽者だと言うのだ。彼はカプラグ症候群という、親しい人物のみその人物当人だと認識できないという珍しい症例を発症していたのだ。カリンは高名な脳医学者に助けを求める。パワーズは作品ごとに中心に来るモチーフを決めてくるという印象があるが、今回のモチーフは脳。マークはカリンをニセモノの姉と見なすようになり、徐々に政府が自分を監視しているという妄想に駆られるようになる。しかし、人間の認識と自己をつかさどるのが脳ならば、それを妄想と決め付けることができるのか?マークはカリンは脳医学者から見ると間違った認識を持っているのだが、それは間違いだと彼に納得させるのは至難の業だ。マークに姉と認めてもらえないカリンの無力感がひしひしと伝わってくる。また、脳医学者もマークに対処できず自分の業績に自信が持てなくなっていく。マークを含め、登場する人達は何らかの失望感を抱いており、その心もとなさが作品の全編に渡って、低音で響いているように感じた。マークと関わったことで、形は違うがカリンたちの世界も変容していく。それはいびつかもしれないし、逆に自然な形に戻るのかもしれないが、それぞれの世界のもろさ・たよりなさが物悲しかった。足元がゆらぐような、はかなさを感じさせる小説。