3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

2012年09月

『ブルックリン』

コルム・トビーン著、栩木伸明訳
アイルランドの田舎町に母・姉と住むアイリーシュは、地元で仕事が見つからない為、神父のあっせんでニューヨークのブルックリンに渡る。ブルックリンのアイリッシュ・コミュニティで新しい生活を始め、百貨店の店員の職も得るが、アメリカでの生活は戸惑うことばかりだった。アイルランドのエニスコーシーからアメリカのNYというローカルな物語なのだが、若い女性が新しい環境で一人で生きていく様は、現代にも通じる普遍性がある。今の日本でも、地方から上京してくる感じに似ているのではないかと思う。自分の野暮ったさがあるときから急に気になるがどうすればいいのかわからないとか、自分にはもう後ろ盾がないと突然気付く、それ故の孤独・心細さ等、描き方が非常に細やか。アイリーシュがあまりアクティブではなく、気の進まないことはつい後回しにしてしまう、自分がどう振舞えばよかったのか後になって気付いて後悔するような、若干要領の悪い人柄な所に親しみが沸く。でも、自分は彼女より大分年をとっているが彼女がやってきたような(大人になるうえでやっておくべきであろう)体験を色々すっ飛ばしてしまったなと後悔の念に襲われた。もっとしっかり生活するべきだった・・・。




『宇宙飛行士オモン・ラー』

ヴィクトル・ペレーヴィン著、尾山慎二訳
アポロ計画が成功したころのソ連。子供の頃から月に行くことを夢見、宇宙飛行士になった青年オモンは、月への飛行を命じられる。しかしその旅は戻ることのできない片道切符だった。自転車式の月面自動車(内部の壁には数日分の缶詰)、毛布で補強した宇宙服という、子供だましのような装備での宇宙旅行だが、本作の宇宙飛行士訓練、そして月面での行動は子供の想像の中の出来事のようだ。冒頭、オモンはサマーキャンプに入れられるのだが、全てそこで見た夢なのではとも思えてくる。いきなり場面転換され、ここで何か恐ろしいことが起きたのでは?と思わせる省略の思い切りのよさも夢の中の出来事っぽい。オモンらが上層部の命令に逆らうことは許されない、そもそも選択肢がないというところは当時のソ連社会を投影しているのだろうが、不条理な夢のようでもある。不条理な夢を描写すると当時の社会に似ているというのが恐ろしいのだが。




『アベンジャーズ』

 アスガルドを追放されたロキに無限のエネルギーを持つ四次元キューブが奪われ、地球は滅亡の危機に。シールドの長官ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)は破格の力を持つヒーローたち集めて“アベンジャーズ”を結成しロキと戦おうとするが、ヒーローたちのチームワークはがたがたであっさり基地を攻撃されてしまう。監督はジョス・ウェドン。
 『アイアンマン』『インクレディブル・ハルク』『キャプテン・アメリカ』『マイティ・ソー』という人気アメコミ原作映画の集大成・ヒーロー大集合とも言える本作。4作品既に見ていることを前提とした作品なので、一見さんにはハードルが高いかもしれない。一応本作1本で独立してはいるものの、本作以前の出来事やキャラクター設定はあまり説明されないので、やはり4作押さえてから見ることをお勧めする。
 主要登場人物がそこそこ多い中、どのヒーローにもきちんとエピソードと見せ場があって感心した。キャラの濃いアイアンマン=トニー・スタークばかりが目立ちそうな気がしていたが、各キャラクターをいちいち立てていこうという意欲が感じられるし、それが成功している。どのヒーローのファンでも、ちゃんと楽しめるのだ。ウェドン監督はかなりバランス感覚に優れているのではないかと思う。
 四次元キューブの奪還がストーリーの本筋ではあるのだが、各キャラクター同士の関係性がもう一つの筋となって、ストーリーを推し進めている。キャラクター映画はこうでないと!よくわかっていらっしゃる。基本自己中なスタークと生真面目で基本プロ軍人であるキャプテン・アメリカの相性が悪いだろうというのは事前に予想できたが、予想通りの反りの合わなさだった。また、ハルクの怒りと悲しみをしっかり踏まえているところも個人的にポイント高い。ピン映画の『ハルク』『インクレディブル・ハルク』共に人気がいまいちだったが、私は結構好きなんですよ(笑)!
 続編を作る気満々な伏線の敷き方だが、正直、本作以上に手堅く纏めるのは難しいんじゃないかなぁ・・・。2本目以降は何やっても同じ感じになりそうな気がする。なお、エンドロールの後にいいオマケ映像があるので最後まで席を立たれぬよう。




『THE GREY 凍える太陽』

 石油掘削所で働く男たちを乗せた飛行機が、アラスカの雪原に墜落した、生存者はベテランのオットマン(リーアム・ニーソン)を筆頭とする7人。荒野で救援も期待できず、一同は南へ向かい歩き始めるが、極寒の嵐に加え、狼の群れが彼らを襲ってくる。監督はジョー・カーナハン。
 レディスデーに見たのだが、夏休みシーズンだからか結構中高生男子が意外に多い。中年男性も結構目立つ。要するに圧倒的に男性の支持を受けている映画っぽい。さすが男らがわらわらキャッキャする映画を撮り続けているカーナハン監督。しかし前作『特攻野郎Aチーム』とはうってかわって本作は渋い!監督の隠れた名作『NARC』に比較的近い(ジャンルは全然違うけど)気がした。序盤、ポエムが延々と続くので大丈夫か?と不安になったが、その後の展開はむしろストイック。
 宣伝では「サバイバル」と銘打っているし、実際にサバイブしようとする話ではある。が、本作の芯の部分は、サバイバル映画とはちょっと異なる気がした。主人公であるオットマンは、とある事情から既に人生への希望をなくした、生きる屍のような男だ。そんな彼が、極限状態の中で生き延びようとする、それ以上に自分にとっての正しい「終わり方」を掴もうと格闘していく。ニーソンがタフさと弱さの両方を備えた男を好演している。彼がついに勝負に出るシーンは鳥肌ものだ。彼の殺伐とした心情と荒涼とした風景がマッチしている。
 生き延びる様よりも、死に様を見せていく作品で、各登場人物の死に方は情け容赦ない。死に際にその人の根っこの部分が出てしまうのだ。協力して生き延びる、生き延びる為に個々の能力が発揮されるという展開があまりないのは、この手の映画としては珍しい。また、序盤の飛行機墜落シーンはかなり怖かった。飛行機の墜落シーンて結構映画に出てくるが、今まで見た中で一番生々しくて嫌な汗が出た。意識の途切れ方など、実際にこんな感じじゃないかなという臨場感がある。
 オットマンらの強敵となるのが狼なのだが、猟銃なしで狼と戦う映画というのは珍しいのではないだろうか。人間にとってあまりに不利な条件下だし、本作の狼の描写がどのくらい現実味があるのかわからないのだが、圧倒的に統率がとれていてかつ生を志向している(死のことは考えない)であろうという部分で、オットマン達とは対称的な存在だ。




『るろうに剣心』

 「人切り抜刀斎」として幕末に恐れられた剣客・緋村剣心(佐藤健)は、明治の世になってからは「不殺(ころさず)」の誓いをたてあてのない旅に出ていた。ある日神谷薫(武井咲)を助け、彼女が師範代をつとめる道場に居候することになるが、町では抜刀斎を名乗る犯人による辻斬り事件が起きていた。原作は和月伸宏の同名漫画。監督は大河ドラマ「竜馬伝」を手がけ、NHK退職後の長編映画は初となる大友啓史。
 公開前からどうなんだという原作ファン・映画ファンの不信の声も大きかったが、漫画原作の実写映画としてはまず成功といっていいのではないかと思う。原作のエピソードには基本忠実(故にドラマとしてこなれきれなずダイジェストのようで冗長、セリフ回しが実写ドラマとしては不自然という難点もあるのだが)、キャラクター再現度もそこそこ高い。特にキャラクターの体格差の感覚はよく掴んでいるなと思った。「時代劇漫画」ではなく「時代劇風漫画」が原作なんだと前もってふまえておけば、セリフが全く現代語調なのにも剣心のセリフの独特な語尾(あれ、アニメでも慣れるのに結構時間かかったんだよな・・・)も、まあ許容範囲内だ。
 ドラマとしては、前半は散漫、後半の流れに勢いがなく、各エピソードがばらけている感じでかなり弱いが、今、ちゃんばら映画を作るならこれだ!とでもいうような意気込みが感じられる殺陣は見もの。殺陣を見る為の映画と言ってもいいだろう。本作で剣心役の佐藤が見せる殺陣は、とにかく早く軽やか。予告編見た段階ではCGかなり使っているのかな?と思ったのだが、極力使わなかったらしい。佐藤の身体能力の高さを実感できた。彼がいなければ成立しない映画、という意味ではスター映画でもある。演技は必ずしも全て上手いというわけではないが、「剣心」と「抜刀斎」との使い分けなど、作品のキモとなる部分は押さえていると思う。
 なお、実写化して一番予想外だったのは、佐藤の方がヒロインの武井より可憐だということだった。まさかの展開である。
 



『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』

 不況で仕事がなく、高校のレスリング部コーチを副業にしている弁護士のマイク(ポール・ジアマッティ)。身寄りのない老人レオの依頼を引き受けるが、後見人報酬に目がくらんで「レオは自宅で暮らすことを望んでいます、私が世話します」と後見人を引き受けてしまう。レオは介護施設に入れて報酬だけ頂戴しようというのだ。そんな折、レオの孫カイルが母親と反りが合わずに家出してレオを訪ねてくる。渋々自宅で預かることにしたマイクだが、カイルにレスリングの才能があると知り、心境が変わっていく。監督はトム・マッカーシー。
 サブタイトルは「ダメ」を連呼しているが、マイクもカイルもそうダメな人ではない。マイクは一応家庭を維持し、手に職もある。カイルはレスリングで奨学金をもらえるかもというレベルの実力者だし、進学したいという意思もある。ただ、2人ともある局面でダメな部分が出てしまう。それぞれ抱える事情が、うんうんそれは辛いよなぁ・・・と他人事とはいえ共感でき、しんみりとした。
 特にカイルは、普段は結構いい奴だし学校でもそれなりに上手くやっていけることが窺えるだけに、ある事情で急に情緒不安定になるのは見ていて辛いというか、かわいそうでねぇ・・・。親は選べないもんなぁ。しかしカイルの母親も、薬物中毒でいわゆる母親らしい女性ではないのだが、悪い人には見えない。この人はこの人で、色々あるんだろうと思わせる。母親とレオとの親子仲も決して良くなった様子が窺われるのだ。どの人も、特に善人でも悪人でもない、ごく普通の人たちで、監督の視線のフラットさが好ましい。人生はままならないが、かといって悲観するほどでもない、という「ぼちぼちいきましょう」感がある。
 ただ、マイクの親友だけはキャラが突出している。離婚した奥さんの愛人に猛烈に嫉妬して嫌がらせをやめられなかったり、部外者なのにレスリング部にのめりこんだり、仕事の才覚はあってリッチなのに、やることなすこと子供っぽく(高校生と意気投合してるくらいだからなー)アンバランス。そんな彼でも周囲が「そういう人」として受け入れているのがいいなと思った。パーフェクトな人などいないのだ。
 マイクは最後、「転落」したとも言えるのだろうが、本人も家族も別に不幸そうではないし、自虐的でもない。彼らにとって重要なことはそこではない。その大事なことさえ踏み外さなければいいじゃないかという、ある意味楽観的なタフさを感じた。好ましい佳作。




『アニメと生命と放浪と~「アトム」「タッチ」「銀河鉄道の夜」に流れる表現の系譜~』

杉井ギサブロー著
今夏、映画『グスコーブドリの伝記』が公開された杉井ギサブロー監督が、アニメ作家としての半生を語る。アニメ業界に入った経緯、虫プロでの経験、グループタックでの活躍、そして放浪の旅と「タッチ」「銀河鉄道の夜」での再起。今まであまり言及されることがなかった放浪生活に至った経緯やその間の体験など、ちょっと浮世離れした所もあり、行動原理が結構思い切った人なんだなーと。興味深かったのは、放浪生活から戻ってから仕事のやり方が変わってきたというところ。以前は全部一人でやろうとしていたがスタッフに分担するようになった(「銀河鉄道の夜」は章立て構成だが、章ごとにコンテ切った人が違う)。また、自分の好みや方向性に合わなさそうな原作仕事でも、その枠の中でどうやるかを面白く思えるようになったと言う。杉井監督は手がける作品の傾向が結構バラバラで、どういうチョイスなんだ?と不思議に思っていたのだが、そういうことだったのかと。これはどんな仕事でも言えることだよなー。ちなみに私は杉井監督の実はこれもやっていました系のお仕事である、「ストリートファイター2」が結構好きなんだが、ファンがその原作(この場合はゲーム)のどこを愛しているかという部分を作り手が掴んでいるのがわかるんですね。そのあたりの話も出てきて面白い。




『血の収穫』

ダシール・ハメット著、田中西二郎訳
コンティネンタル探偵社支局員である「おれ」は、ある炭鉱町から依頼の手紙を受け取る。町へ出向いたが依頼者は殺され、町の有力者である依頼者の父親から犯人捜しを頼まれた。町はギャングに牛耳られ、汚職と利権争い、縄張り争いが繰り広げられていたのだ。俗に言う「名無しのオプ」シリーズを読むのは初めてなのだが、文章が簡潔でハードボイルド小説の先駆と呼ばれるのも頷ける。決して正義の味方ではなく、職務に忠実というわけでもなく、結構自分勝手だがどこか筋が通っている「おれ」のキャラクターもいい。あっちを騙しこっちを騙しという展開だがやることが結構乱暴(共食いさせるみたいな)で、一介の探偵がそんなことしていいのか!と突っ込みたくなる。現代だったらこの筋で書く作家はいなさそうだなぁ(笑)。最後の最後まで二転三転させるところにはハメットのサービス精神を感じた。





ギャラリー
最新コメント
アーカイブ
記事検索
  • ライブドアブログ