
脚本・監督は真利子哲也。本作が長編デビュー作となる。本作は東京藝術大学大学院の終了作品として製作された。制作費は200万、撮影期間2週間という厳しい条件下で製作されているが、メジャー作品と張り合える力があると思う。海外の映画祭でも話題になったそうだが、それも納得。
田村や彼を取り巻く若者たちの貧しさ、逃げ場のなさが、息苦しいしヒリヒリする。内面の葛藤とか苦悩ではなく、生活に直結するような苦しみ、先のなさ(見えなさどころではない)が前面に出てくるのが、今の映画だなぁという印象を受けた。特に田村の家庭環境の示し方が、彼の人柄を示すことにもなっていて、こいつ悪い奴じゃないのにこんな・・・というやりきれなさを感じた。祖母に苛立ちつつも見捨てることはできない優しさがかえって痛々しい。ちょっとした希望すらすぐに立ち消え、その状況から抜け出すこともできないというどん詰まり感がある。
また、服部の徹底した卑小さにもイタい気持ちにさせられる。「本気出してない」エクスキューズにしろ、元カノに対する勘違い気味の執着にしろ、頭をかかえたくなるような生々しい情けなさだ。彼の造形は、田村よりも言動・ルックス共にデフォルメされていた。キャラクターとしては田村の方が実体感が強いのはしょうがないか。
田村は徐々に、服部の漫画の世界に同一化していく。多分、現実と世界と漫画の世界の並立、そして融合していく構成にしたかったのだろうが、映画前半が際立っていて、当初の意図が霞んでしまったように思う。田村が漫画世界と同一化していく順序だても、ペース配分間違ったかなという気がした。終盤無理やり畳む、「エピソード消化してますよ」な感じになってしまっている。
何にせよ力作。監督の次回作が見たい。ただ、本作を超える密度のものができるかというと少々不安でもある。これに全部賭けた感が強すぎる。若さが魅力な作品ではあるのだが・・・。