バングラデシュの首都ダッカには世界中の大手アパレルブランドの縫製工場が集まっている。その縫製工場の一つで働くシム(リキタ・ナンディニ・シム)は工場の火事で友人を亡くし、同僚たちも不安を抱えながら働いている。給料は安く残業代も出ず、労働環境は厳しい。シムは状況を変えようと労働組合を結成すべく立ち上がるが、上司からは脅され、同僚や夫からも反対される。監督はルバイヤット・ホセイン。
 バングラデシュに縫製工場が多いのは人件費が非常に安いからだが、どのくらい安く、縫製している人たちがどういう労働環境でどういう生活をしているのかが本作では描かれる。ファストファッションを支えているのはシムのような人たちなのだが、製造現場を見ると手軽に安価な服を買うことに罪悪感を感じてしまう。私にとっての安価・利便性は彼女らを搾取することで成立しているわけだから。かといってそれなりの労働賃金で製造されたものだけ買えるほどの経済力は自分にはなく、貧しさってスパイラルになっているよなとがっくりくる。ほどほどに貧しい人向けのものを作る為に更に貧しい人たちを買いたたくわけだから。
 それはさておき、シムたちの立場が苦しいものなのは、「女性の」労働者であるという側面がとても大きい。彼女が「女性は結婚前も結婚後も自由はない」と口にするのも、同僚が独り身の苦しさを訴えるのも、上司と不倫をした同僚が上司そっちのけで悪女扱いされるのも、労働者としての扱いが粗雑なのも、女性がこの社会の中で置かれている立場を反映しているものだ。女性が一人前の人間であるという意識が希薄な世の中では、そりゃあ生き辛いに決まっている。シムの夫が、自分が稼いでいるんだから妻であるシムは仕事はやめればいいと言い出すのには、そういう問題じゃないんだよ!と怒鳴りたくなるし、実際シムは怒るわけだが。またそうであっても夫の機嫌を伺いながら生活しないとならないというのが、実に息苦しい。
 シムは労働組合について学ぶうち、自分たちの苦しさ・不平等さは声に出して訴えていいものであり、状況を変えるために行動できると気付いていく。彼女の奮闘はなかなか実らないが、どんどん行動的になっていく姿には勇気づけられる。一方で、持っていない者にとっては連帯することが力になる、逆に言うとそれしか武器がないという側面もある。ただ、連帯している仲間が待っているからこそ、彼女は最後に渾身の踏ん張りを見せることができたのだろう。

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