コールセンターで働くエミリー(ルーシー・チャン)はルームシェア相手を募集中。応募してきたのは高校教師のカミーユ(マキタ・サンバ)。エミリーはカミーユをセックスフレンドとしても受け入れる。32歳で大学に復学したノラ(ノエミ・メルラン)は金髪のウィッグを着けてパーティーに出るが、その姿がポルノ女優のアンバー・スウィートに似ていた為に本人だと思い込まれてしまう。監督はジャック・オディアール。オディアールと、セリーヌ・シアマとレア・ミシウスとの共同脚本なことでも話題の1作。
 先日見た『カモン カモン』に引き続きモノクロ映画(しかも都市の遠景から始まるという共通点も)なのだが、同じモノクロでも『カモン カモン』とは質感が全く異なり、こういう所が映像の面白さだなと思った。本作のモノクロはいたってクール。全体的に温度・湿度を下げる効果になっている。ノスタルジックな『カモン カモン』のモノクロに対し、見ている側を少々突き放した印象だ。
 題名にもなっているパリ13区に登場人物たちは暮らしているが、この地域は再開発地区で、高層住宅(高級マンションというより団地的な雰囲気)が立ち並んでいる。移民も多いそうで、エミリーは台湾移民一族であることが作中で言及されている。彼女のご近所さんにはアジア系移民が多い様子も垣間見えた。また、ノラは移民ではないが元々パリに暮らしていたわけではなく、復学の為にボルドーから出てきたいわば「上京」組。外部からやってきた人たちが作り上げた生活圏としてのパリが描かれている。アイコン的な「パリ」よりかえって等身大で親しみを感じる所もあった。高学歴だが職がないエミリーの苦労が身につまされる人も多そうだ。
 エミリーとカミーユは自分の欲望に率直だ。しかし率直な人同士であっても、あなたの欲望と私の欲望は違う、ということが全編通して描かれているように思った。だから孤独を感じるし、欲望の対象に対して過剰なものを望んでしまう。片思い状態のエミリーはともかく、カミーユの望む恋人像はそれ無理じゃない?自分に都合よすぎない?というもの。彼はその理想をノラに(一方的に)見出して夢中になるわけだが、ノラが彼女自身の欲望と向き合うとその理想は崩れ、2人の関係も変わってしまう。
 ノラが被害を受ける性的な揶揄・中傷はひどいものなのだが、これもまた自分の欲望を勝手に対象に投げつけるという行為だろう。それが気軽にできてしまうネット、SNSの弊害はやはり大きい。ノラが受けた被害は(彼女が「一発かました」とはいえ)結局そのまま放置されているので、もやもやしてしまう。

キリング・アンド・ダイング
トミネ,エイドリアン
国書刊行会
2017-05-25


サマーブロンド
エイドリアン トミネ
国書刊行会
2015-09-10