マーガレット・アトウッド著、斎藤英治訳
 健康な子供を産める女性が減少し少子化が進む世界。その中で子供を産む為に様々な、主に上流階級の家へ派遣される”侍女”たち。その一人オブフレッドは監視と処刑の恐怖に怯えつつも、かつての生活を思い起こし、逃亡した友人や生き別れた恋人に思いを馳せる。
 キリスト教原理主義者のクーデターにより誕生した国家ギレアデを舞台とした、オブフレッドの語りによる物語。オブフレッドとは彼女の本来の名前ではない。「フレッド」は彼女が仕える司令官の名前だ。派遣先の主人が変わるたびに侍女の名前は変わる。彼女らは男性に所有される、子供を産む為だけの存在だ。侍女に限らず、ギレアデの女性の大半は男性に所有される物、資産であり、主人に従順であること、産み育て余計な知識は身に付けないことが美徳とされる。現代を代表するディストピア文学である本作だが、何が憂鬱ってギレアデのような社会が望ましいと考える人が、現実に少なからず存在する、そしてことあるごとに現実社会がギレアデ化しようとすることだ。本作で描かれている女性のモノ化、知性や意志の否定はそこまでカリカチュアされたものでもないと思う。この世に根深く巣くっているものをわかりやすく提示された感じで、大変気が重くなる。
 作中、侍女たちの教育をする”小母”らによって女性たちの連帯がうたわれる部分があるが、ここでいう連帯は相互監視のことだ。真の連帯は密かにささやかに、彼女らの本当の名前を覚えておくというような形で行われる。本作はオブフレッドの語り、彼女の物語として記録される。自分を物語にすること、固有の記憶を記し残すことが個人をぎりぎりで守る行為、自分を所有しようとする存在に対する反抗になっている。ディストピア文学だが、文学というものの反ディストピア性を見せた作品でもあると思う。

侍女の物語
マーガレット アトウッド
早川書房
2014-11-28


侍女の物語 グラフィックノベル版
マーガレット・アトウッド
早川書房
2020-09-17