ジョージ・エリオット著、廣野由美子訳
 銀行家バルストロードの暗い過去がミドルマーチの住民たちに知れ渡ってしまう。借金に苦しみバルストロードから援助を受けた医者リドゲイドにも、バルストロードに加担したのでは疑いの目が向けられる。リドゲイドの妻ロザモンドは経済難にも世間からの目にも耐えきれず、ロンドンから戻ったウィルに再び心惹かれる。しかしウィルは依然としてドロシアを愛していた。世間からいわれのない非難を受けるリドゲイドを心配したドロシアは、彼への援助を申し出る。
 ミドルマーチというさほど大きくない町で繰り広げられる群像劇、完結編。この作品、登場人物が金銭トラブルの只中にいるというシチュエーションがやたらと多く、金策を考えなくてはならないって本当に嫌なことだよね!と時代を越えてしみじみ哀しくなってしまった。お金さえあれば家族とも友人とも恋人とももめなくて済んだのに…という事態は実際に多いと思う。お金で解決できることって何だかんだ言って多いんだよなと。愛による苦しみよりお金(のなさ)による苦しみの方が全然大きいような…。また登場人物たちを苦しめるもう一つのものは、世間の評判というものだ。第74章の冒頭で世間での評判とそれをあれこれ言う人たちについて、非常に辛辣な記述がある。あれこれ言う人たちは良かれと思って(良かれと思い込みたくて)言っている、「つまり、そういう衝動とは、熱烈な慈悲心からよかれと思って、隣人を不幸にすることだと言ってよいだろう」。人間の世はいつまでたっても変わらないな…。そういう声に振り回されるのをやめると、ドロシアやウィルのように自分の人生を多少歩みやすくなるのだろう。当時は現代よりも「世間」(本作を読んでいると信仰も得てして「世間」的だ)が強かったろうし、なかなかそうは思えないのが辛い所なのだろうが。
 人間の器の小ささや意固地さ、ちょっとした嫉妬や見得を示す心理・行動の描写がこと細かで、なかなかに辛辣だがユーモラス。どの登場人物もあまりお近づきにはなりたくないが、心底嫌いにはなれない。ラストは大団円と言ってもいいのでは。

ミドルマーチ4 (光文社古典新訳文庫 Aエ 1-5)
ジョージ・エリオット
光文社
2021-03-10


サイラス・マーナー (光文社古典新訳文庫)
ジョージ・エリオット
光文社
2020-02-28