イギリス西南部の海辺の町ライム・レジスで老いた母と暮らすメアリー・アニング(ケイト・ウィンスレット)。彼女は古生学者として貴重な化石の発掘実績があったが、今は土産用のアンモナイトを売ってつましい生活をしている。ある日、ロンドンの裕福な化石収集家の妻シャーロット(シアーシャ・ローナン)を預かることになる。自分とは全く逆なシャーロットとの生活にメアリーは苛立つが、同時に強く彼女に惹かれる。監督・脚本はフランシス・リー。
 メアリーとシャーロットは見た目も年齢も生まれ育った環境も所属する階級も、全く違う。2人が分かち合えるものは何もないように見える。全く違うからこそ惹かれあうのか、はたまた寂しさや理解・ケアへの飢えが2人を結び付けたのか。ともあれなぜ惹かれあったのか、という部分は恋愛においてはあまり重要ではないのだろう。2人が呼応しあうような情動の高ぶりと押しとどめられなさが強烈だった。この人たちは色々なものに飢えていた、それを見ないように我慢して生きてきたのではないかと思わせる。2人の過去について詳しい言及はないものの、メアリーは町のある女性と訳ありだったらしいこと、シャーロットの夫は妻にあまり関心がなく(これは一目瞭然なのだが)彼女の傷の深さにも無頓着であることは垣間見られる。2人とも、深く情愛で繋がる関係を持てずに(あるいは失った)来た人たちなのだ。
 女性同士の関係、かつシャーロットは既婚者なので、2人が人生を共に歩める道は当時の社会の中ではとても狭いだろう。シャーロットが海辺にとどまるワンシーズンのみの関係になりそうなことが見えており、そこで終わっていたらむしろきれいな話だったかもしれない。しかし、性別、年齢や間柄に関係なく、人と人とが関わると、特に愛情をもって関わるときに往々にして生じる齟齬があるという部分こそ、本作の肝のだろう。共にいたい、相手を支えたいという愛情と、相手を自分とは異なる存在として尊重することの両立がいかに難しいか。女性同士という共通項はあるがバックグラウンドは全く違うという設定で、恋愛もまた個と個のぶつかり合いだという側面がより際立っていたように思う。
 メアリーとシャーロットは愛し合っていると言えるだろう。しかしメアリーにとっての大切なもの、自身と分かちがたいものは何なのか、シャーロットは理解していなかった。「サプライズ」シーンはシャーロット側から見たら可愛らしいのかもしれないが、メアリー側から見ると決定的な亀裂が目の当たりになり、やるせなくいたたまれない。この人は自分の何を見ていたのか、という失望が強烈なのだ。ただ本作、それでもなお、というワンシーンを最後に置いており、全くの失望では終わらないのではと予感させる。

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