バーネット著、土屋京子訳
 ニューヨークで母親と暮らす幼い少年セドリック。素直で心が優しいセドリックは周囲からも愛され、質素ながらも幸せに暮らしていた。しかしある日、英国の貴族ドリンコート伯爵の元から使いが来る。セドリックはドリンコート伯爵の三男の息子で、直系の息子たちが全員他界した今、唯一の跡取り・フォントルロイ卿になるのだというのだ。セドリックは英国に渡り、祖父の元で教育を受けることになる。
 光文社古典新訳文庫で読んだ。原書の挿絵(なんとカラー絵あり)も盛り込まれており目にも楽しい。小公子のストーリー概略程度走っていたが、ちゃんと読んだのは今回が初めて。ストーリーのフックが強くて、連続TVドラマのような盛り上げ方。セドリックは純粋で聡明、かつルックスがめちゃめちゃいい(とにかく外見に関する褒め描写が多い!正直だったら美点そこかよ!というルッキズム問題になると思う)という出来すぎな設定や、彼の行いの曇りない正しさは少々説教臭くはある。しかし、真っ正直な思いやりや信頼が、頑なな老人の心を溶かしていき、周囲の人達を幸せにしていく様はやはり小気味がいい(良すぎるのもちょっと問題だよなとは思うが)。現代の小説ならば奥行きが浅いと言われるかもしれないが、信頼されることで人の良い面や元々持っていた美点が発揮されていくということは、実際にあるだろうなと思える。セドリックの大真面目な振る舞いが周囲からは微笑ましく見えることや、ドリンコート伯爵とのやりとりなど、ユーモラスな描写も意外と多い。むしろ子供の振る舞いのユーモラスな部分の方が現代に通じるものがあるかも。

小公子 (光文社古典新訳文庫 Aハ 2-2)
バーネット
光文社
2021-03-10


小公子 (岩波少年文庫)
フランシス・ホジソン・バーネット
岩波書店
2011-11-17