シェーン・バウアー著、満園真木訳
 全米約150万人の受刑者のうち、約13万人を収容する民営刑務所。その実態を知ろうと、著者は実際に民営刑務所に就職し、潜入取材を開始する。あっさり採用された著者の配属先は大手の刑務所運営会社が管理する刑務所で、自給はウォルマート並みの9ドルだった。アメリカにおける刑務所の歴史を紐解きつつ、民営刑務所運営の実態を暴くノンフィクション。
 アメリカには民営刑務所があるということは聞いたことがあったが、その実態はかなりショック。刑務所は本来、受刑者の拘束・懲罰・更生の目的で作られたものだと思うのだが、著者の配属先の民営刑務所では、更生という目的はまず果たされていない。受刑者をただ収容しているだけで、本来受刑者に対して行うべき管理は行き届いていない。そもそも環境が劣悪なのだ。なぜ「入れっぱなし」状態になるのかというと、管理側の人員が圧倒的に足りていない(人数もスキルも)からだし、なぜ足りないのかというとぎりぎりまで利潤を追求しており、人件費をけちっているからだ。資本主義に組み込むべきではないものが組み込まれてしまっている怖さがあった。利潤の前には社会的な損益とか倫理とか人間の尊厳とかは二の次になっていく。終盤、本ルポを発表した著者が民営刑務所会社の株主総会に出席するのだが、告発を受けても運営会社側はびくともしないあたり、産業構造の根深さを感じる。
 こういった民営刑務所の指針は最近のものなのかと思っていたら、アメリカでは元々、囚人=労働力という側面が強かったことも解説されていく。捕虜・囚人は無料の労働力であり、大規模農業においては欠かせないものだった。民営刑務所が利潤を上げる素地は元々あったということだろう。利潤を持ち込むと非常に危うい分野だということも、歴史的にわかっていそうなものだけど…。


囚われし者たちの国──世界の刑務所に正義を訪ねて
バズ・ドライシンガー
紀伊國屋書店
2020-12-25