ウィリアム・リンゼイ・グレシャム著、矢口誠訳
 カーニヴァルの巡回ショーで働く手品師のスタン・カーライルは、占い師のジーナと関係を持ち、彼女の読心術の技を記したノートを入手する。若く美しいモリーと組んでヴォードヴィルへの進出を果たし、一攫千金の野心を燃やし続けるが。
 1946年出版の作品だが、ギレルモ・デル・トロ監督による映画化が決まったそうで、日本で翻訳出版されたのも映画化により後押しされたからだろう。翻訳されてよかった、ありがとうデル・トロ…。タロットカードをモチーフにした章構成、カーニヴァルの怪しげな雰囲気、読心術に心霊体験というオカルトめいた要素が満載なのだが、本作の趣旨はやはり犯罪小説、ノワール小説だろう。スタンはあるやり方でのし上がっていくのだが、彼が扱うのは人の心で神秘的な要素はない。むしろ下世話に徹している。可愛げがあった青年が、怪しさを道具立てに人の心操って富を得ていくうちにどんどんクズ野郎になっていく、そして今度は自分の心に翻弄されて失墜していくので、そこにあるのはあくまで人の欲だ。野心は人を奮い立たせもするが、人生も理性も良心も捻じ曲げてしまうことが往々にあることを、スタンの人生が体現しているのだ。他人の心は読めるしコントロールできるが、自分の内面やごく身近な人の内面には無頓着で、それが彼を破滅させる。愚者のカードで始まり吊るされた男で終わるという構成が見事、かつぞっとした。あれはこの人のことだったのかと。

ナイトメア・アリー 悪夢小路 (海外文庫)
ウィリアム・リンゼイ・グレシャム
扶桑社
2020-09-25


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