トム(ジェシー・アイゼンバーグ)とジェマ(イモージェン・プーツ)は新居探し中のカップル。ふと立ち寄った不動産屋から、そっくりな家屋が整然と立ち並ぶ新興住宅地「ヨンダー Yonder」を紹介される。内見を終えて帰ろうとすると、不動産屋は姿を消していた。2人は車に乗ってヨンダーを出ようとするが、いくら走っても毎回同じ家の前に出てしまう。そして町に閉じ込められた2人の元に、赤ん坊が入った段ボール箱が届く。監督はロルカン・フェネガン。
 「世にも奇妙な物語」とか奇想コレクションとか異色作家短編集みたいな不条理の世界。ただし不条理なのはトムとジェマにとってだけで、ある存在にとっては理にかなっているわけだが。アバンの映像でどういう話なのかはほぼ分かってしまうので、ミステリ的な要素はない。そのままあまり考えずに見る方が楽しめる作品だと思う。シュールな話かと思っていたら終盤で急にわかりやすくホラーめいてくるのだが、意外なストレートさも持ち味だ。
 ルネ・マグリットの絵画のような青緑の色合いと、くっきりとして見える輪郭にインパクトがある。雲の散らばり方が不自然に牧歌的なあたりはちょっと笑ってしまう。同じ形の家屋が延々と並ぶ風景は、色合いはキュートだが嘘くさくて不気味だ。また室内のしつらえも、色味はマグリット的できれいだけど、間取りやインテリアはスタイリッシュとは無縁の野暮ったさで退屈な空間だという、ギャップに妙な味わいがあった。ひと昔前の平均的な建売住宅という感じなのだが、平均的すぎて逆に変だ。
 何か決定的な違和感を感じさせるという点で、子役の演技が見事だった。人の神経を逆なでするのだ。一つ気になったのは、ジェマが務める幼稚園の生徒がほぼ全員白人のように見えたこと。アメリカの都市部としてはかなり珍しいのでは?それこそ「ヨンダー」的な統一感とも言えるのだが、そういう企みはあまりしてなさそうな緩さのある作品だった。

街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫)
シャーリイ・ジャクスン
東京創元社
2015-05-29


さあ、気ちがいになりなさい (異色作家短編集)
フレドリック・ブラウン
早川書房
2005-10-07