難病を抱える16歳のミラ(エリザ・スカンレン)は、不良青年モーゼス(トビー・ウォレス)に一目ぼれする。ミラの両親は素行不良で薬物にも手を出しているモーゼスとの交際に大反対だが、ミラのモーゼスへの気持ちは強まる一方。刺激的で色鮮やかな日々に夢中だったが、ミラの病状は悪化していく。監督はシャノン・マーフィ。
 色調と音楽がポップで楽しく、キラキラしている。音楽の選び方、シーンへのはめ方へのセンスで映画の格が一段上がっているように思う。短いエピソードのつなぎ合わせで、エピソード間の時間の経緯はあえて示さないという、散文的なスタイルだ。多分、ミラの症状が本当に悪くて辛い時期もあるはずなのだが、そこはあえて見せない。が、多分今このあたりのステージだよなということは見ていれば察しが付くといったように、情報の示し方と構成が上手い。若々しい作品なのだが、こういう部分のテクニックは意外とこなれていると思う。使い古されたネタでも料理の仕方次第でフレッシュになるのだ。
 一見、ミラとモーゼスのラブストーリーのようだが、この2人の間にあるのは本当に恋愛なのか微妙ではないだろうか。ミラはモーゼスにぞっこんだが、一方的すぎる。モーゼスもミラのことを可愛いとは思ったのだろうが、薬物ほしさにミラの家に押し入るくらいなのであまり信用できない。ミラにはその臆面のなさ、遠慮なく踏み込んでくるあたりが魅力だったのかもしれないが、2人の間の思いは噛み合っていない、お互いへの思いがかなり不均等なように思った。何より、モーゼスはミラよりも大分年上(両親もそこを指摘する)なので、倫理的にちょっとアウト寄りでは?フェアな力関係にならないのでは?と思ってしまった。そういった2人の間の齟齬を意図的に演出しているように思われた。2人の間に心の繋がりは生まれるが、実はそれほど「ラブストーリー」というわけではないのでは。
 リアとモーゼスよりも、リアの両親ら大人たちの姿の方が(私の年齢のせいもあるだろうが)印象に残った。リアの両親は彼女の幸せを祈るが、モーゼスとの関係にどう対処していいのか迷い続ける。母親は娘と薬に依存気味だし、父親は向かいの家の女性にときめいてしまう。両親は不仲と言うわけではなくむしろ愛し合っており結構いちゃつくのだが、なかなか立派な大人、立派な両親にはなれない。しかし娘の為に迷い続ける姿は、親ってこういう感じだろうなとしみじみさせられる。またちらりと登場するモーゼスの母親の姿も印象深かった。彼女はモーゼスのことを強く拒否するのだが、母親には母親なりのどうにもならない事情があり、モーゼスはおそらく相応のことをしたのだろうと思えるのだ。親たちの話という側面もある物語だと思う。




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2016-06-03