オインカン・ブレイスウェイト著、粟飯原文子訳
 看護師のコレデに妹のアヨオラから連絡が入る。ねえコレデ、殺しちゃった。美しく快活で誰からも好かれる妹は、付き合っている男性を次々と殺してしまう。几帳面でしっかり者のコレデは、そのたびに犯行の隠蔽に奔走するのだ。昏睡状態の患者に秘密を打ち明けるのが息抜きになっていたが、警察の捜査の手が迫ってきた。更にコレデが好意を寄せている医者のタデがアヨオラに惚れてしまう。
 コンパクトさが魅力(ポケミスとしては異例の物理的薄さだ)で読みやすい。ナイジェリアの都市ラゴスを舞台にしている所が日本で読まれる翻訳ミステリとしては珍しいかもしれない。とは言え地域性はそれほど感じない。本作でおそらくローカルなものとして描かれている父系社会と父親の独裁状態は、日本でも珍しくないものだからだ。題名にはシリアルキラーとあるが、問題はなぜシリアルキラーにならなければならなかったのか、かつそんな妹であってもコレデはアヨオラを助け続けるを得ないという所にある。更に普遍性を感じるのは、コレデの「長女は辛いよ」体質。そんなに背負い込まなくてもいいし投げだしてもいいのにできない、私が何とかしなくてはと動いてしまう長女気質。そして母親は美しい妹ばかりを可愛がる。損な人生だが、そういう道をあえて選んでしまうという因果さにため息が出る。
 アヨオラは甘え上手で何でも人のせいにするのがこれまた上手い。姉妹や友人だったら周囲がとばっちりくいまくりなタイプだが、周囲はそうは見ないというところにルッキズムの強靭さを感じてため息が出る。とはいえ、美人はそういうものだろうと見られるからそう振舞わざるを得ない、というアヨオラの事情も多分あるのだろう。まあ姉妹だったら絶対腹立つけど…。

マイ・シスター、シリアルキラー (ハヤカワ・ミステリ 1963)
オインカン・ブレイスウェイト
早川書房
2021-01-07