ケイシー・マクイストン著、林啓恵訳
 アメリカ初の女性大統領の長男アレックスは、英国のフィリップ王子の結婚式に家族と共に参列するが憂鬱だった。退屈なイベントに加え、フィリップの弟ヘンリーとは反りが合わず苦手なのだ。晩餐会でもヘンリーの冷ややかな態度に苛立ち大トラブルを起こしてしまう。世評をなだめ名誉挽回するため、アレックスとヘンリーは「親友」として世界中に仲の良さをアピールすることになるが。
 大統領の息子と英国王子という超セレブ!ロイヤル!なカップルが嘘から出た実的に成立するロマンス。シチュエーションとしては結構王道だと思われるが、男性同士の恋愛という設定、かつ本作が全米ベストセラーになったという所が現代ならではか。アメリカでの出版は2019年、著者が着想したのが2016年ということで、トランプ政権下で書かれたロマンス(トランプっぽい政治家も登場する)と考えると、世界よこうであれ!という願いが込められたファンタジーでもある。現実では女性大統領はまだ誕生していないが副大統領は誕生した。日本での出版はとてもいいタイミングだったのでは。ロマンスが進展する一方、アメリカ大統領選の内情のえげつなさや州ごとの傾向についても言及されている所が面白かった。アレックスの故郷は保守大国テキサス。もし彼のホームがニューヨークやカリフォルニアだったら大分違うテイストになっただろう。
 自覚がなかった自分のセクシャリティへの戸惑いや、大統領の息子(しかも母親は大統領選を控えており、初の女性大統領の2期目挑戦として絶対に負けられない)という立場と自身の恋との間での葛藤など、アレックスの心情はこまやかに描かれているが、ヘンリーのそれは若干大味。主人公はアレックスだからという設定上の事情もあるだろうが、王室の一員としての帰属意識と葛藤は特殊すぎてフィクションとしては通り一遍になりがちなのかな。
 それにしても、アメリカ人は英国王室をもちろんセレブ好きすぎないか?という気はした。私がセレブに全く興味がないからぴんとこないのかもしれないけど、「セレブなまもの」ジャンルがあるのか?とちょっと慄きましたよ…人権的に問題ありそうな気がしちゃうんだけど…。