ジェラルディン・マコックラン著、杉田七重訳
 スコットランドのヒルダ島から無人島へ、子供9人大人3人を乗せた船が上陸した。海鳥を捕るため、毎年泊3週間無人島で生活するのがヒルダの恒例行事であり、少年たちの通過儀礼でもあった。しかしこの年、3週間を過ぎても迎えの船は訪れず、少年たちは島に置き去りにされた。不安が募る中、年長の少年クイリアムは子供たちを励まし続けるが。
 18世紀に実際にあった出来事を元に書かれた小説。十五少年漂流記か蠅の王かという内容なのだが、地に足がついているだけより過酷。海や島や天候、そして食料として燃料として(ウミツバメの蝋燭ってビジュアルがとんでもないですが…)少年らの命を支える海鳥ら等の自然描写が荒々しくも美しいのだが、人間の命を奪うものでもあると痛感させられる。極限状態の集団を舞台とした物語では、無益な権力争いやちょっとした諍いから増幅する憎悪などが描かれがちだが、更に恐ろしいのは自然環境と飢え。人間のあれこれなどちっぽけなものだ。
 クイリアムは不安に揺れる少年たちを勇気づける為、島の由来や神話を交えて彼らに様々な物語を語る。クイリアムは聡明で気丈で、頭もよい出来た少年だ。仲間と自分の正気を保とうとする彼の奮闘は涙ぐましい。想像力、物語の力が人間を支える話、というといかにも「物語」的だが、本作のきつさはそういった人間ならではの強さが結構な勢いで否定されていくという所にある。物語も想像力も信仰も、飢えと寒さの前ではものの役にも立たない。更に、少年たちが子供として全く保護されていない(時代的なものもあるだろうが)、大人たちの方が弱さを露呈していくというあたりもきつい。とにかく大人が役に立たないのだ。本作はカーネギー賞受賞作なので児童文学というくくりになるのだが、諸々やたらとハード。読者である子供を舐めていない作品とも言える。
 なお、過酷な経緯を経たある2人の再会とその後は取ってつけたもののようで、他の部分から浮いているように思った。そこだけきれいに纏められてもなぁ…。

世界のはての少年
ジェラルディン・マコックラン
東京創元社
2019-09-20


荒野へ (集英社文庫)
ジョン・クラカワー
集英社
2007-03-20