27歳のクリス(イェデ・スナゴー)は家族を失って以来、年老いた叔父(ペーダ・ハンセン・テューセン)の農場で暮らしている。足の不自由な叔父の介助をし、牛の世話と耕作に明け暮れ、週に1回スーパーマーケットへ買い出しに行くという、代わり映えのない日々が続いていた。しかしクリスは獣医になるという夢を思い出し、教会で出会った青年とデートするようになる。叔父さんも彼女の背中をそっと押すが。監督・脚本はフラレ・ビーダセン。
 デンマーク、ユトランド半島の農村を舞台にした静かなドラマ。クリスと叔父さんの生活はほぼ2人で完結している。たまに旧知の獣医が来てもお喋りがはずむわけでもない。クリスも叔父さんも言葉少ない性質だが、2人の間では通じ合っている。と同時に、2人ともお互いに言葉に出来ない気持ちがあり、それ故相手に伝わらないことも多々あるだろうと垣間見えてくる。クリスの農場と叔父さんに対する思いもその一つだ。彼女は獣医になりたくて大学進学まで計画していたものの、家族が死んだために断念し、叔父と同居するようになった。酪農という仕事にも叔父に対しても愛着があり、今の暮らしが不幸せというわけではない。とは言え全て納得ずくかというと、そういうわけでもないだろう。序盤、機械の修理をする叔父を見るクリスの表情の複雑さは、ちょっと鬼気迫るものがあって打ちのめされてしまった。静かなドラマだが、全く穏やかでも心温まるわけでもない。自分の人生、家族の人生に対する思いが矛盾をはらみ単純ではないこと、一筋縄ではいかないことが立ち現れていく。
 エレンは時に叔父や農場から離れたくなるが、いざ距離を置くイベントが起こるととたんにしり込みする。叔父への愛と心配だけではなく、彼女がこれまで体験してきたこと故に人一倍恐怖を感じるのだろうという事情も垣間見えるのだが、それにしても極端に思えた。デートに叔父を連れて行ってしまうエピソードはユーモラスな所ではあるのだろうが、エレンの傷の深さが垣間見えて正直笑えない。叔父さんも彼女の背中を押すようでいて、明言はしないという所が少々狡い気もする。ラストの皮肉さ、人生のままならなさが本作をより渋いものにしていた。

ぼくのおじさん [DVD]
戸田恵梨香
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
2017-05-10


ゴッズ・オウン・カントリー [Blu-ray]
ジェマ・ジョーンズ
ファインフィルムズ
2019-06-04