1930年代、ハリウッド。脚本家のマンクことハーマン・J・マンキウィッツ(ゲイリー・オールドマン)はオーソン・ウェルズ(トム・バーク)から依頼された新作『市民ケーン』の脚本を執筆中だった。アルコール依存症に苦しみ、無茶な納期や注文、製作会社からの妨害に振り回されつつ脚本の完成を目指す。監督はデビッド・フィンチャー。
 1941年に公開された『市民ケーン』はオーソン・ウェルズ監督主演の代表作だが、その脚本を手掛けたのがハーマン・J・マンキウィッツ(現在ではウェルズとマンキウィッツの共作扱い)。マンキウィッツが脚本を書いていく様と当時のハリウッドの様子やアメリカ社会の動き、そしてケーンのモデルとなったメディア王ウィリアム・R・ハーストの影を描いていく伝記ドラマ。フィンチャーにとっては久しぶりの伝記ものだが、モノクロ画面に現在と過去を行き来しやがて全体像が浮かび上がるという『市民ケーン』を踏襲したスタイル。『市民ケーン』という作品への敬意が感じられる。と同時に、『市民ケーン』を踏襲しているということは、実在の人物・エピソードを元にしていてもあくまで本作はフィクションだという立て付けも踏襲しているということだ。マンクの勇気と諦めなさ、周囲からの圧力に屈しないタフなユーモアを史実として感動するのには、ちょっと留保が必要だろう。フィンチャーも当然そのつもりで本作を作っているわけだ。本作、こういった構造に加え、観客が『市民ケーン』をしっかり鑑賞していること、製作当時のエピソードや実在の関係者、時代背景についてかなり知識があることを前提に作られているので、鑑賞ハードルはかなり高いと思う。正直、私が見るべき作品ではなかったな…。
 マンキウィッツが書くのはフィクションだ。彼は自分が事実を元にフィクションを書いているという自認は当然あり、それによるリスクも責任を問われることも覚悟している。一方で、ハーストらは選挙を有利に運ぶために「やらせ」のニュース映画を作る。正にフェイクニュースなわけだが(メディアによる情報操作はこのころからあったということに加え、メディア戦で勝つのは資金がある方というのが辛い…)、マンキウィッツはこれに激怒する。フィクションで現実と戦うというのは、こういうことではないのだ。フィクションは嘘でだますこととは違うという、フィクションを扱う者としての矜持が見えた。

市民ケーン Blu-ray
レイ・コリンズ
IVC,Ltd.(VC)(D)
2019-11-29


『市民ケーン』、すべて真実 (リュミエール叢書)
ロバート・L. キャリンジャー
筑摩書房
1995-06-01