エラリイ・クイーン著、越前敏弥訳
 飛行士として戦争で活躍したデイヴィー・フォックス大尉は故郷のライツヴィルに帰ってきた。激戦で深い心の傷を負った彼は、妻リンダの首を絞めようとしてしまう。彼の行動には、かつて自分の父ベイヤードが母を毒殺した事件が影を落としていた。かつてライツヴィルと縁があったエラリイ・クイーンは、相談を受けベイヤードの無実を証明するため、再びこの町を訪れる。
 戦争の英雄が故郷に戻ってくるが戦禍により深いトラウマを負っている、家族の間にも隠された秘密があり、かつ町は長年暮らしている民ばかりで閉鎖的という、横溝正史か!と突っこみたくなるような序盤だが、クイーン作品の中でもかなり引きの強い導入の仕方ではないだろうか。この引きの強さは新訳の良さもあるのだと思う。クイーン作品は読みにくくって…という人にこそお勧めしたい。過去の捜査をそのままなぞり堂々巡りになるかのようなエラリイの行動、その中から少しずつ過去との齟齬が現れてくる。冷静に考えると最初からこれしか結論が思い浮かばないという所から、また一転させていく。
 本格ミステリの醍醐味(目くらましがあからさますぎるなーと思ったらそういう機能でしたか!かつて読者から指摘されたであろう微妙な部分に作中でわざわざ注釈いれているのはご愛敬ですが)があると同時に、戦争の傷の深さが刻まれている所に本作が書かれた時代背景を感じた。小説としては必ずしも帰還兵でなくてもいいし、終盤に登場するある人の設定など、特に必然性はない。それでも織り込んだという所に作家の意志を感じた。
 なお本作の事件の真相は大変痛ましいものだが、エラリイの「途方もなく重い責任がともないますね」という言葉に対するある人の返しは、エラリイとクイーン警視の関係にも薄く重なってくるように思う。


災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
エラリイ・クイーン
早川書房
2014-12-05