ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ著、木下眞穂訳
 両親を相次いで亡くしたルドヴィカ。姉オデッテの夫オルランドが所有する、アンゴラの首都ルアンダにあるマンションに移り住んだルドヴィカ。ポルトガルからの解放闘争が激化する中、姉夫婦が行方不明になり、ルドヴィカは部屋の入り口をセメントで塗り固め、引きこもって暮らすようになる。
 ルドヴィカが残した文章を元に構成されたフィクション、という体の小説。ルドヴィカは文字通り引きこもり生活、それも徹底した引きこもり状態で自給自足の生活をしており、彼女の生活・心情に生じるささやかな変化が綴られる。食料も燃料も尽きてぎりぎりの状況なのにどこか長閑。一方、マンションの外の世界では、植民地からの脱却、それに続く内戦の中で人びとは疲弊し、体制側も反体制側もどちらにも与しない市民も、様々な人たちが死んだり行方不明になったりする。望む望まないに関わらず、忘れ去られてしまう・あるいは忘れられたいと望む人たちがいるのだ。ルドヴィカという1人の女性の人生と、アンゴラという国のある時代・ある局面とが呼応していく。ルドヴィカも誰にも知られず忘れられていこうとしていたが、そこを(物理的にも)打開する返す展開が鮮やか。少なくとも文章を残すということは、自分をどこかに刻んでおきたいということだろう。
 正直、アンゴラという国の歴史(とポルトガルとの関係)をあまり知らなかったので咀嚼しきれない部分もあるのだが、ある人にまつわる謎が他の人のエピソードで解明されるというような、ミステリ的な構成にもなっており、こことあそこが繋がるのか!というサプライズが多々ある。一見散漫としているが実は緻密な構成が上手い。

忘却についての一般論 (エクス・リブリス)
ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ
白水社
2020-08-28


ガルヴェイアスの犬 (新潮クレスト・ブックス)
ペイショット,ジョゼ・ルイス
新潮社
2018-07-31