絲山秋子著
 群馬の実家で暮らす宇田川静生は、人と深く関わることを避けて生きてきた。夏には嬬恋のキャベツ畑に長期バイトに行き、東京から移住してきた木工職人・鹿谷さんの工房でしがらみのないお喋りを楽しんだりと、実家の神社を継ぐとも継がないともつかない日々だ。しかし名古屋から帰省した同級生の蜂須賀と再会してから、少しづつ生活が変化していく。
 地方の生活が描かれているが、地元というものの居心地の良さと同時に「世間」の強固さ、また都会に出ていく人、「出戻る」人への微妙な暗い気持ちが生々しい。文章のトーン自体は温度が低く乾いているのだが、暗い部分にねっとり感がある。個人的に都会から地方へのステキ感ある移住生活にはうっすら憧れつつも何となくうさんくさく思ってしまうのだが、このあたりの薄暗い気持ちを感知するからだろうか。去ろうと思えば去れる立場だもんね、と思ってしまう。
 宇田川は地元の強固な「世間」に適応しきれず、かといって地元を飛び出し根無し草になるほど無軌道にはなれない。一見自由な鹿谷さんの顛末には、「世間」からのセイフティゾーンに「世間」が割り込んできたような居心地の悪さがある。宇田川もそこにいたたまれなくなるのだろう。中途半端な存在でこそいたい、というのが宇田川の生き方だがそれを続けるのは結構胆力がいるのかもしれない。私は地方在住というわけではないが、宇田川の「もうどうでもいい」感には共感してしまう。情熱なく生きるのだ。

薄情 (河出文庫)
絲山秋子
河出書房新社
2018-07-05


離陸 (文春文庫)
秋子, 絲山
文藝春秋
2017-04-07