14歳の少女ムシェット(ナディーヌ・ノルティエ)は酒飲みの父の暴力に耐え、病の母に代わって赤ん坊の世話をしている。貧しく孤独な生活で、家にも学校にも居場所がない。ある夜、嵐の中森で道に迷い、密猟者のアルセーヌに遭遇する。原作はジョルジュ・ベルナノスの小説「新ムシェット物語」。ロベール・ブレッソン監督、1967年の作品。
『バルタザールどこへ行く』もなかなか辛気臭い話だが本作は更に辛気臭いし更に救いがない。ムシェットの人生って何だったんだよ!とキレたくなる勢いだ。しかし辛気臭さの強度が異常に高い、というか強い。最小限に抑えた俳優の演技と余剰な演出を排したショットの組み立てで冷酷さが際立つ。安易な共感や同情を寄せ付けない。
ムシェットは悲惨な環境にいる少女だが、彼女の悲惨さは貧しさそのものよりも、子供として扱われない、保護されていないという所にある。両親も、周囲の大人たちも彼女をケアしないし、彼女の話を聞かない。信用できる大人が一切いないのだ。母親が死んだ時に彼女を気遣う大人はいるが、一方的なものであり彼女に気持ちは届かない。ムシェットはほとんどしゃべらないのだが、自分の話をまともに聞こうとする人がいないから喋らないのだ。彼女の心がこの世からどんどん離れていくのもしょうがないと思えてくる。原作者のベルノナスはカトリックの作家として知られているそうだが、本作はむしろ神の不在を感じさせるという所が面白い。悲惨さの質が宗教的なものとはちょっと違うように思ったのだが、これはブレッソンの特質なのだろうか。
ムシェットを演じたノルティエの佇まいがとても良い。ムシェットは辛抱強いがいわゆる健気が少女というわけではなく、貧しさへの怒り、他の子供たちへの妬みや苛立ちを隠さない。ノルティエは不機嫌そうな表情、むっとした表情が似合う。ムシェットの靴と靴下に貧しさが象徴されているところがなんだかやりきれなかった。
ナディーヌ・ノルティエ、ポール・エベール、マリア・カルディナール、ジャン=クロード・ギルベール、ジャン・ヴィムネ、マリーヌ・トリシェ
IVC,Ltd.(VC)(D)
2017-06-30