ベルリン郊外で、バカンス中と思しき老若男女が大勢門をくぐっていく。様々な言語が飛び交い、スマホであたりを撮影したり、芝生でスナックをかじったりと楽し気だ。ここは第二次世界大戦中にホロコーストで大勢のユダヤ人が虐殺されたザクセンハウゼン収容所の跡地。監督はセルゲイ・ロズニツァ。2016年の作品。「群衆」三部作のうちの一作にあたる。
 人類の負の歴史の記念碑を社会で共有し、未来へつなげる試みとして実施されるようになったダークツーリズム。ザクセンハウゼン収容所が記念館として見学者を受け入れているのもこの一環ということになる。しかし、現地を訪れる人たちの様子を見ていると、ダークツーリズムからダークが抜け落ち、ただのツーリズム、観光になっているように思えた。単に見学する、単に写真を撮るという為だけの観光で、その歴史的背景やどういう思想に基づきこのような施設が作られたのか、それが現代にどのように繋がっているのかという流れについては、「観光」の中に含まれない。音声ガイド等を使っている人たちの姿も多く見られるのだが、この人たちがどういうスタンスでこの場に来たのかはわからない。背景を知っていたら、この場で無邪気に写真を撮るというのはためらわれそうな気がするが…。
 とは言え、悲惨な歴史の遺物だから神妙な顔をして見学しろ、ちゃんと勉強してから見学に来いというのも違うだろう。そういう人にも興味を持ってもらうためにダークツーリズムがあるのだろうし、結果興味を持てなかったとしてもそのことで云々言うのもおかしい。見れば見るほど非常にもやもやする情景なのだ。
 「群衆三部作」というだけあって、本作で映し出されるのはとにかく人。見学者の人々を延々と映し続ける。あまりに人が多くてちょっとひく(一大観光地化されすぎている)のだが、ダーク「ツーリズム」としてしまった以上、こうなることは免れない、むしろこれだけ人が来れば大成功と言えるのかもしれない。ただ、現地のガイドたちの解説の内容はちょっと気になった。本作、その場でどういう言葉が飛び交っているのか、字幕はほぼない。唯一翻訳されているのが様々なガイドによる解説だ。言語は様々なのだが、これは私が教わったり本で読んだりした内容とはちょっと違うのでは…?という部分もあった。すごく省略しているとか経年により研究が進んだとかもあるのかもしれないが、少々ガイドの「俺史観」になっていないか?面白感出そうとしすぎていないか?と気になった。映画『否定と肯定』で出てきた話と同じ流れもあったので…。

アウステルリッツ(新装版)
W・G・ゼーバルト
白水社
2020-02-29


否定と肯定 (字幕版)
ジャック・ロウデン
2018-06-20