75歳の桃子さん(田中裕子)は夫に先立たれ、子供たちとも疎遠になり孤独な一人暮らし。図書館で図鑑を読みふけり、46億年の生命の歴史をノートに記すうち、心の中の「寂しさ」たち(濱田岳、青木崇高い、宮藤官九郎)が姿を現し話しかけてくる。原作は若竹千佐子の同名小説、監督は沖田修一。
 これはもう傑作では?!原作小説をこういう形で映像化するとは!と唸りまくりだった。芥川賞受賞作である原作も方言による語りが解放感を与えておりすごく良かったのだが、映画は更に突き抜けた自由さがある。冒頭、恐竜たちの世界から哺乳類が生まれ原人が誕生し現在に至るという、いきなり壮大な始まり方なのだ。地球の歴史と桃子さんの個人史とは地続きなのだ。更に、桃子さんの心の中の声がそのままキャラクターとして具現化する。この「寂しさ」たちが自由奔放に動き、桃子さんの心の声のグルーヴ感を表現していく。「寂しさ」を演じるのが男性俳優(キャスティングが絶妙だった)だというのも面白い。桃子さんの精神が性別、ジェンダーからも解放されているのだともとれる。桃子さんは亡き夫・周造(東出昌大)の前では可愛い女、献身的な妻、母として振舞ってきた。それは故郷を飛び出した桃子さんが目指していた「新しい女」とは真逆の在り方だったろう。しかし1人になったことで、桃子さんは再び「新しい女」、というか性別関係なく桃子さんという一個人になっていく。彼女の生活は孤独と言えば孤独なのだが、精神の中には常に自分の声が響き、自分の中でボケ・ツッコミが展開する。ボケが始まった狂気混じりの世界と見る人もいるだろうが、むしろ自分を俯瞰する冷静な視線があるように思った。地球の歴史、桃子さんの過去と思い出、そして今現在の自分と自分の心の声たち、全部ひっくるめて桃子さんだ。夫も子供もいなくなっても、最後の最後まで自分には自分がいる。大切なのは愛よりも自由だ。そういう意味では孫の存在で生命の繋がりを演出するラストは少々蛇足だが。
 原作の語りをどのように映像で見せるか、という点でとてもユニークだったと思う。特に脳内自分リサイタルは最高だった。寂しさたちとのジャムセッションも、お供を引き連れた墓参りも、突き抜けた自由さがある。

滝を見にいく
黒田大輔
2016-10-05


おらおらでひとりいぐも (河出文庫)
若竹千佐子
河出書房新社
2020-06-26