農園主の息子ジャックと幼なじみのマリーは、仔ロバをバルタザールを名付け、一緒に成長する。やがてバルタザールは他人の手に渡り、ジャックも村を去った。美しく成長したマリー(アンヌ・ヴィアゼムスキー)はバルタザールと再会し昔と同じように可愛がるが、マリー自身は不良少年ジェラールに運命を狂わされていく。監督・脚本はロベール・ブレッソン。1966年の作品。同年のヴェネチア国際映画史審査委員特別賞受賞作。
 私はブレッソン監督作品が好きなのだが、本作は見る度しみじみ嫌な話だと思う。マリーの転落ぶりというか、彼女の人生が「転落」として悲劇的に描かれているところにちょっと悪意に近い冷酷さを感じる。マリー自身が折々で間違った方向を選んでしまう、ないしは他の選択肢が奪われており、誰も彼女を助けないというUターン不能みたいなストーリー構造が重苦しい。神話的な悲劇とも言えるだろうが、ちょっと露悪的な悲劇の盛り方(特にバルタザールの顛末は「絵にかいたような」ものすぎる)だ。ブレッソンの演出、映像の作り方自体はストイックで余計なことをせず映画の骨組みのみ、みたいな感じなので、映画演出と悲劇の盛りとのアンバランスさが際立つ。
 マリーの不幸の一つは両親が家族を守る役に立たないことにあり、もう一つはジェラールと関わってしまったことにある。今回再見して、ジェラールという登場人物はなかなか不思議だと改めて思った。なんでそんなにモテるのかさっぱりわからないのだ。マリーは彼を拒みつつずるずる関係を持ち「愛している」というまでになるし、パン屋の女将も彼にやたらと貢いでいる。しかも男友達からも人気だ。何か悪魔的な魅力があるのかもしれないが、映画の画面を見ている限りではそれが感じられない。だからジェラール当人も彼に翻弄される人たちも大分アホみたいに見えてしまうんだけど…。

バルタザールどこへ行く ロベール・ブレッソン [Blu-ray]
ヴァルテル・グレーン
IVC,Ltd.(VC)(D)
2017-06-30


少女
アンヌ ヴィアゼムスキー
白水社
2010-10-19