東欧のある村はずれで、1人の少年(ペトル・コラール)が叔母と暮らしていた。しかし叔母が亡くなり、少年は1人で旅に出る。行く先々で人びとは彼を不吉な存在として扱い、迫害し追い立てる。原作はポーランドの作家イェジー・コシンスキの小説。監督はパーツラフ・マルホウル。
 第二次大戦末期、ナチスドイツが台頭する世界らしい、少年はユダヤ人らしいということはわかるが、具体的な時代や場所は明示されず、寓話的な側面が強い。モノクロの美しい映像がまた、その寓話性を強める効果になっている(映像のせいでかなり漂白されているとは言える)。ただ、映像は非常に美しいのだが描かれる物語は、反比例するように陰惨だ。映像が美しいからまあ耐えられるという側面もある。人間の負の部分が煮詰まっていた。それは少年に対する周囲の態度もそうだし、彼の周囲で起きている事柄もそうだ。
 少年は様々な人たちの元を転々とするが、どの人も少年を1人の人間としては扱わない。道具や家畜と同じような扱いで、役に立たなくなれば用済みだ。大概の人が何らかの形で少年に暴力を振るう。肉体的なもの、精神的なもの、性的なものというオンパレードで、児童虐待が相当きつい(撮影時の状況が心配になるようなシチュエーションも)。ソ連兵のように少年を助けようとする人もいるが、彼が少年に見せるのが復讐殺人、手渡すものは拳銃だ。自分を守り生き抜く手段が暴力だと子供に伝えるような世界だというのが辛い。少年は暴力の道具を手にすることで、初めて暴力を振るわれる側から振るう側にまわる。ただ、それが自衛になったのかというと何とも言えない。ラスト、少年に初めて固有名詞が与えられる。が、その名前を持っていた時の自分に、少年は最早馴染めないのでは。ラストショット、一見美しいのだがどこへ向かっていくのか不安になる。

ペインティッド・バード (東欧の想像力)
イェジー コシンスキ
松籟社
2011-08-05


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TCエンタテインメント
2020-09-09