作家のローラ(ラシダ・ジョーンズ)は夫ディーン(マーロン・ウェイアンズ)と2人の子供と暮らしている。ディーンは同僚女性との出張や残業が相次いでおり、もしや浮気?と疑い始めたローラは、プレイボーイな父フェリックス(ビル・マーレイ)に相談。フェリックスはこの事態を調査すべきと張り切り、ローラと共に素人探偵を始める。監督・脚本はソフィア・コッポラ。
 夫の浮気疑惑を相談するくらいだからローラは父親ととても仲がいいのかというと、そうでもない。浮気を繰り返してきた父に母もローラも苦しめられてきた。浮気について相談するには実体験豊かというわけだ。とは言え、彼は楽しい人ではある。フェリックスは画商でリッチ、かつ趣味が良くユーモアがある。父、夫としては失格でも遊び相手、祖父としてはかなり良いと言える。だが人生を託す相手、共に歩むパートナーにはなれない、というのがフェリックスの在り方であるように思った終盤、彼の自分本位な考え方が露わになってかなり退くのだが、当人は自分が不誠実だという自覚は全くないだろう。
 ローラは自分では認めていないだろうが、かなりの父親っ子なのだと思う。彼女の価値観はフェリックスとは違うが、趣味の良さや芸術に対する造形の深さは通じるものがある。何より、彼女は自分たちの元を去った父に愛してほしいという渇望を捨てられていないように見えた。そんな彼女が、自分は誰と人生を共に歩むのかを再確認していく。腕時計の使い方が非常にわかりやすく象徴的だった。
 一方、ディーンはフェリックスといまひとつウマが合わないらしいと示唆される。フェリックスがローラを溺愛しているからというのもある(冒頭のモノローグがなかなかの気持ち悪さだ)が、バックグラウンドの違いも大きいだろう。作中ではっきりとは言及されないが、おそらくローラの実家はそこそこ富裕層。フェリックスの身なりも実家のお茶会も、お金、しかも成り上がりではなく生まれた時からお金がある層特有の洗練と趣味の良さがある。ローラ当人はいつもボーダーシャツにジーンズというスタイルだからわかりにくいが、「良いもの」に囲まれた育成環境だったのだろう。その環境で培われたものには、なかなか追いつけない。ディーンはそこそこ稼いではいるみたいだが、やはり彼女の豊かさとは意味合いが異なるのだ。彼が終盤にローラに漏らす言葉は、そんなことを想っていたのか!というものなのだが(少なくともローラにとっては思いもよらないことだろう)、2人の背景の違いが反映されたもののように思った。


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2004-12-03