長嶋有著
 小説家を生業とする星子は40代。数年前に夫と離婚し同居している娘は受験を迎えようとしている。親友の志保とカラオケやドライブで盛り上がり、娘の学校の教師と友達になり、一方で一回り年下の男性と恋の予感がしていた。
 星子は女性であり中年であり作家であり母であり元妻であり恋人であり、という複数の属性を持っている。しかし本作を読んでいると、星子が「~の星子さん」であるという印象はない。星子はあくまで星子。他の登場人物も同様で、「~の」というくくりや属性を極力感じさせない書き方になっていると思う。もちろんそれぞれの年齢や性別、職業や家族間での続柄はあるだろう。しかしそれはその人全体を表すものにはならない。読者の前に立ち上がってくるのは星子であり志保であり、あくまで固有名詞としての人だ。そこがすごくよかった。星子は世間的には「おばさん」と呼ばれる年代なのだろうが、「おばさん」という感じもしない。星子という人が年齢を重ねて今40代、という感じのニュートラルさだ。
 相変わらず固有名詞の使い方が上手い。特定の題名や名称を出すことでその時はこういう気分だな!とはっきりわかるというのは面白いものだな。共通の体験、知識が必要とされることだから、どの固有名詞を使うかかなり匙加減のテクニックが要求されるはず。同時に、わかっている人にはわかるような描写で固有名詞までは出さない、という演出もあり、この使い分けが面白かった。GAPにエルメス合わせて怒られる映画ってあれだな!なお吉祥寺小説でもあるので、調子に乗って吉祥寺のカフェで完読した。

今も未来も変わらない (単行本)
長嶋 有
中央公論新社
2020-09-18


三の隣は五号室 (中公文庫 (な74-1))
長嶋 有
中央公論新社
2019-12-19