配信で鑑賞。田舎から上京し、工場の仕事と運転代行業を掛け持ちしていたスミン(イ・ヨンフン)は、身なりのいい男ジェミン(イ・ハン)に誘われる。後日、工場でスミンはジェミンと出くわす。ジェミンは経営者一族の跡取りで、リストラされる予定だったスミンの代わりに別の社員を解雇したのだ。スミンは激怒して工場を辞め、ゲイバーで働き始める。ジェミンはバーにも客として現れる。監督・脚本はイソン・ヒル。2006年の作品。
 今から十数年前の作品なのだが、同性同士の恋愛をセックス込みでがっつり描いた韓国映画は、当時はまだ珍しかったのでは(現在も韓国映画ではあまり見ない気がするが、私は韓国映画あまり見ていないからな…)。当時の同性愛に対する世間の許容度が垣間見え、息苦しい。ゲイ同士のコミュニティはあるがあくまで閉じられたもので、対外的に自身のセクシャリティをオープンにしているわけではない。ジェミンの両親は息子が同性愛者だと知っているが、「結婚はしてもらう」と言い渡す。黙認されてはいるが世間体が強固に横たわっており、その前では同性愛はないものとされているのだ。ジェミンが生きてきた世界では、同性愛者であることは社会からドロップアウトすることで、セクシャリティをオープンにすることと引き換えに社会的な地位や家業に由来する富は(少なくともジェミンの場合は)奪われる。現代ではもう少しオープンになってはいるのだろうが、両親の反応などはあまり変わっていなさそうな気がする(変わっていてほしいけど)。
 ただ、スミンとジェミンの間を阻むのは世間の目というよりも、社会的な格差の部分が大きいように思った。スミンには両親がおらず施設出身で、バックアップしてくれる環境がない。その困難さは、生まれながらにして経済力や一族の後ろ盾を「持っている」ジェミンにはぴんとこないのだ。自分のリストラ回避の為に他の社員を解雇したジェミンの行動にスミンが激怒するのは、札束で顔をひっぱたくような行為だからだろう。スミンがジェミンに惹かれつつ頑なに拒むのは、2人の関係には最初から金が介在しており、対等ではない、パートナーにはなれないからだ。2人の距離が近づいても何かの折に「金」が顔を出すのが辛い。なお、終盤の展開はさすがに盛りすぎな気がしたが、ここまでやらないと(お互い何もかもなくさないと)一個人同士として向き合えないということか。

後悔なんてしない(字幕版)
キム・ジョンファ
2020-08-12


怒り
妻夫木聡
2017-04-05